認めてはいかがでしょうか ☆不快強め 読み飛ばし可
☆ 不快強めの回です。申し訳ございません。読み飛ばし可、ダイジェストで確認できます。
「今の話が本当であれば、婚約破棄に際して支払った賠償金では到底足りんな」
「さようでございますね。あれはあくまでも、王太子殿下の心変わりで婚約破棄になった、という事の金額でしたから。婚約中に別の令嬢と関係を持ち、しかも婚姻後の義務も放棄するつもりだったとなれば、契約違反に不義と詐欺行為も加わって参ります。勿論、ローズ男爵令嬢にも罪はございます。婚約者がいると知りながら、身体の関係を結んだのですから。先ほどローズ男爵家に命じた謝罪金の、数倍の支払い義務が生じます」
「な、なんとそんな」
国王と宰相の会話を聞き、ローズ男爵が慌てて立ち上がった。
「待って下さい! そんな、これは娘が勝手にしでかした事で……皆さんご存じでしょうが、娘は最近まで平民として育てられていたのです。母親が亡くなり引き取りましたが、貴族らしい振る舞いや考え方ができていなかったようで……そりゃあ、私は懸命に教育をしました。しかし、育ちの悪さはどうしても……ルチアは勘当致します! 今回の事は男爵家とは関係ありません!」
「勘当どうこうは、当主であるローズ男爵にお任せ致しますが、賠償金の支払いは免れませんよ」
「そんなっ! ……ルチア! なんて事をしてくれたんだ!」
父親に怒鳴られ、ルチアが真っ青になって震え、首を横に振った。
「違い、ます、違います! わたしは何もしていません! 全部エリザベート様の嘘です! エリザベート様はわたしが憎いからこんな嘘を言って、わたしを陥れようとしているんです! レオンハルト様! レオンハルト様も言ってください! わたし達は何も悪くないって!」
「俺は……俺は悪くない……そうだ、エリザベートが……嫉妬に駆られたこの女が俺達を陥れる為に……」
「……では、こうしてはいかがですか?」
混乱する場に、王妃が一石を投じる。
「ルチア・ローズ男爵令嬢が乙女のままか、そうではないのか、医師の診断を仰ぐのです」
「え……何…?」
レオンハルトから、戸惑った声が漏れた。
「ここで、やった、やっていないと騒ぐより、診断していただくの良いでしょう」
「ふむ……確かにそうだな」
「ま、待って下さい陛下! そんな酷い事、ルチアにさせられません!」
「レオンハルト様っ、わたし嫌です!」
レオンハルトに抱きついて、ルチアは叫んだ。
「そんな辱めを受けたらもう、生きていられません!」
「ルチア! 可哀そうに! 同じ女性だというのに、王妃殿下はなんて酷い事を!」
レオンハルトは王妃を睨んだが、
「あら、もしかしてレオンハルト様、ご存じないのですか?」
横からエリザベートが尋ねる。
「王太子妃、王妃となる者は、結婚の前に純潔を保っているかどうか、お医者様の診断を受けるのですが」
「……は?」
「王家の血を守る為、間違いがあってはいけないからと、婚礼の儀式の一つとしてあるのです。王太子や国王の妃となる女性は、純潔でなければいけないと」
「そうね、わたくしも妃教育の時にそう教わって、もちろん儀式を受けたわ」
王妃がエリザベートの言葉に同意する。
「嫌だと言ったら、そのくらいの覚悟がなくてどうする、と叱られたわ。昔は王族や臣下の見守る中で初夜を行い、破瓜の証明をしなければならなかったのだから、それに比べれば何てことはないだろう、と言われて……まったく、どうして女性ばかりこう、負担が多いのかしら。こういう事を決めるのは男性だからでしょうね。まあ、そういう事だから、調べてもらいましょう。身の潔白を証明した方がいいわ」
「そんなっ。レオン様っ、わたしイヤですっ」
「…………」
「レオンハルト様っ!」
無言のレオンハルトの腕を、ルチアが掴んで揺すった。
「ねえっ、レオン様っ!」
「うるさいっ! 少し黙ってろ!」
そう叫び、ルチアの手を振り払う。
「……ああもう……なんなんだよっ、なんでこんな事に……」
ブツブツ呟き、苛立つレオンハルト。
(……火に油を注ぐつもりはないけれども)
「診断は、すぐにして頂きたいです。時間を置いて、その間に診断する医師が買収されたり、暴漢に襲われたと言われたりしたら困りますから」
「エリザベートお前という女はっ!」
(やっぱり怒らせたわね。でも、もう今更ね)
「わたくしも、人生がかかっておりますので必死なのです」
エリザベートはきっぱりと言った。
「嫌……絶対イヤ……なんでわたしがこんな目に遭わなきゃならないのよ……こんな事なら王太子妃になりたいなんて言わなかったのに……馬鹿じゃないの、この人達……」
ルチアがブツブツ文句を言うのを聞き、エリザベートは王妃を見た。
「王妃殿下、この診断は、免除される事もあると教わったような気がするのですが」
「ええ。王太子自身が、既に婚約者は純潔ではないと、そしてその純潔を捧げられたのは自分であると宣言するのであれば、わざわざ確かめる必要は無いとされているわね」
「……と、いう事です。いかがなさいますか? レオンハルト様」
「…………」
レオンハルトは、その問いに答えない。
(……まあ確かに、決め辛い事よね。認めなければ医師の診断で契約違反をしていた事がバレるし、認めても契約違反をしていた事がバレるのだもの。契約違反がバレても、ルチアと結婚できるのならいいのだろうけど、正妃は無理でしょうね。側妃でもどうか……令嬢達を脅して、わたしを陥れようとした事実があるから。……でも人として、自分のしでかした事に対する責任はとれる器はあって欲しいわね。ちゃんと愛情があったからで、ただただ、自分が楽しむ為だけにああいう事をしたわけではなく……ウッ……)
生徒会準備室で見た光景を思い出してしまい、喉元にこみあげてくるものがあった。
手で口元を押さえ、吐かないようにと堪える。
(……危ない……危うく吐きそうになったわ。やだ、気分が……)
どうにか嘔吐はしなかったが、今度は眩暈がし、立っているのが辛くなってくる。
(なに、かしら……貧血? 具合が……)
「レオン様っ! なんとか言って下さい! レオン様はわたしの事が好きじゃないのですか?! わたしの事、守るって言ったのは嘘なんですかっ?」
「うるさいっ! ルチアこそ嘘ばかりじゃないか! エリザベートに虐められたとか、嫌がらせをされたとか、全部嘘だったんだな! 今回の事だって、俺が卒業していなくなったら、エリザベートにどんな嫌がらせをされるか心配で怖い、エリザベートに命令されて逆らえないでいる人たちもそう言って怯えている、とルチアが言うから」
「レオン様だって、エリザベートは生意気でずっと目障りだったから、この機会に辺境の修道院にでも送ってやる、って言ってたじゃないですか!」
(……ああ……この人達、愚かだわ……)
言い争う声を聞いているうちに徐々に視界が狭く、白くなってきて、エリザベートは二歩、三歩とよろめき、そのまま床に座り込んでしまった。
嫌な事を思い出したから。




