国王会議
翌日。
揃って朝食を食べた後、エリザベートは一度、与えられた部屋へ戻った。
エドワードの説明によると、部屋で待機しても昨夜皆と一緒にいた広い客室に居ても良く、必要に応じて会議の場へ呼ばれるらしい。
(なんだか、ルークと顔を合わせ辛いのよね。疲れていたのに昨日は眠りが浅かったし……少し、一人で休んでいましょう)
ソファーに深く腰掛けダラリとしていると、部屋の扉が叩かれた。
「エリザベート・スピネル公爵令嬢、国王陛下がお呼びです」
(来たわね!)
「わかりました」
エリザベートは、呼びに来た侍従の後をついて部屋を出たが、
「え? ルーク!」
部屋の横に立っていたルークに驚く。
「いつからここに?」
その問いには答えず、困ったように笑うルークの姿に、大分前からいたのだろうと推測できる。
「休まなきゃ駄目じゃない。疲れていない?」
「何も疲れるようなことはしていませんから、大丈夫です」
「こうやってずっと立っているのが疲れる事でしょう? 次からは声をかけて頂戴」
「…………」
「返事は?」
「はい」
渋々答えるルークに苦笑しながら、エリザベートは迎えの侍従を見た。
「彼はわたくしの護衛ですので、同行させます」
「あ……ですが、お一人でと……」
「中までは連れて行きませんわ」
「はい、それでしたら」
「行きましょう、ルーク」
「はい」
侍従の後ろをエリザベートが、そしてそのすぐ斜め後ろをルークが歩く。
(何か話したいけれど……何を言えばいいのかしら。……何も、思いつかないわね……)
沈黙のまま歩き、大きな両開きの扉の前にたどり着く。
「少々お待ち下さい」
侍従が扉を叩き、エリザベートの到着を伝える。
「……じゃあ、行ってくるわね」
「ここでお待ちしております」
「ええ」
頭を下げるルークに少し微笑みかけ、エリザベートは部屋の中へと入った。
部屋の中の大きな長方形のテーブルには、そうそうたる顔ぶれが席についていた。
国王、その隣に王妃、宰相、重臣達の中には公爵である父もいる。そして、席には着かず立っているレオンハルトとルチア。
「アレキサンドライト王国の輝く宝石、唯一の太陽である国王陛下に、エリザベート・スピネルがご挨拶申し上げます」
中央に座る国王に向かい、深々とカーテシーをする。
「よく来てくれた、エリザベート・スピネル。そなたには、本当にすまない事をした。心から謝罪する」
「いいえ、とんでもない事でございます、陛下」
「いや、本当に……レオンハルトが、これ程愚かな事をするとは……」
その言葉にレオンハルトが顔を顰めるのがわかったが、エリザベートは見ない振りをした。
「それでは私から、お話し致します」
宰相であるアクア侯爵が立ち上がって言った。
「昨日からの聴き取りの結果、エリザベート・スピネル公爵令嬢には何の罪もないことが証明されました。ルチア・ローズ男爵令嬢に対して嫌がらせをした令嬢三名は、自分の意思で行った事だと認め、ルチア・ローズ男爵令嬢にその行いを咎められ、エリザベート・スピネル公爵令嬢の指示と証言すれば見逃すと言われ、従ったという事です」
「……さようでございますか……」
(まあ、昨日既に聞いた話ね)
「ルチア・ローズ男爵令嬢は、エリザベート嬢を陥れようとしましたが、それは、レオンハルト殿下を愛するあまり、エリザベート・スピネル公爵令嬢が再び婚約者となるのを恐れての行動だと言っております」
「再び婚約者になるですって? ……そんなの、ありえない事ですのに」
何を言っているんだと顔を顰めたエリザべートに、アクア侯爵が説明する。
「妃教育がうまく進まず、講師達からエリザベート嬢と比べられ、精神的に追い詰められてしまったとの事です」
「可哀そうに……エリザベートと比べられて、苦しかっただろう。それほど追い詰められた状態だと気付かずに、すまなかった」
「いえ……ごめんなさい、レオン様……」
(……いやいや、二人で抱き合って辛そうにしているけれど、そういう場ではないわよね。何、被害者のような顔をしているのかしら)
腹が立つので見ないようにし、エリザベートは宰相の言葉に集中する事にした。
「今回の事は、王太子妃教育での対応のまずさが原因の一端であり、また、本人が深く反省している事から、ルチア・ローズ男爵令嬢には厳重注意、そしてローズ男爵家にはエリザベート・スピネル公爵令嬢への謝罪金の支払いを命じるものとする」
「……!」
(なんですって? 厳重注意に謝罪金? そんなもので済ますというの? 今回のこの騒動を? そんなの、納得できるわけが)
「納得できませんな」
エリザベートの心を読んだかのように、スピネル公爵が不快そうに声を上げる。
「幸いにも今回は、冤罪だという事がわかったが、これがわからなかったらどうなっていたか。証人をしたて、クリスタル学園の卒業パーティーという場で嵌めようとした事を、厳重注意と謝罪金で済ませるなど、到底納得できる事ではありませんな。あのまま事が進んでいたら娘は、そしてスピネル家はどうなっていたか。あれは明らかに、スピネル家を陥れ、没落させようとした行為だ」
「謝罪も受けておりませんわ」
父親の発言が終わるのを待ち、一言付け加える。
「……確かに、スピネル公爵、それからエリザベートの言う通りだ。レオンハルト、ローズ男爵令嬢、まずは謝罪を」
「……申し訳なかった」
「申し訳ございません」
「心が伴わない口先だけの謝罪に、なんの意味があるでしょう」
国王の言葉に、渋々、というように謝罪を口にした二人に、エリザベートはピシャリと言った。
「せめて、何に対しての謝罪か言葉にして下さいます? 何に対して悪かったと思っているか、確認したいですわ」
「なんだと!」
レオンハルトは声を荒げたが、
「レオンハルト!」
王の叱責に悔しそうに言葉を切る。
「……エリザベート・スピネル……ろくに調べもせず、疑った事を、謝罪する」
「……不安にかられて、エリザベート様を、レオンハルト様から引き離そうとしました……申し訳、ございません……」
「レオンハルト様は疑ったのではなく、完全にわたくしが悪いと決めつけていらっしゃいましたよね。そしてルチア嬢、あなたはわたくしを無実の罪で破滅させようとしたのですよ。お二人とも、愛するがゆえに間違った事をしてしまったとか、そういう程度の話ではない事を自覚してくださいませ」
(……陛下に怒られるから黙ってはいるけれど……物凄く怒っているわね。自分の非を認める事もできないとはね。本当に、呆れるわ)
自分が悪いのに怒っているのだから、最低です。




