表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/15

食事

「………………!!?」


 俺が部屋に入ると少女は飛び起きる。

 料理の匂いに反応したのだろう。


 少女は体が奇麗になってことや服が変わっていることに驚いていた。


 そして、キョロキョロし、頭に生えた耳をピクピクと動かす。


 それから恐る恐る俺に近づいて来た。


「戦狼人族が何を食べるか分からなかったから、口に合わなかったらごめんよ」


 言葉が通しているか分からないが、そう言いながら、俺は机に肉と野菜のスープとパンを置いた。


 スープに対して、少女は警戒して匂いを嗅いでいたが、やがて口を付ける。


 するとそこからは早かった。


 本物の犬のように皿に顔を突っ込んで食事をする。


 あっという間に完食した。


 野性的な食べ方をしたせいで折角綺麗にした顔が肉と野菜とスープ塗れになってしまう。


 少女は初めて笑顔になった。


 しかし、すぐに表情が暗くなった。


 どうしたのかと思ったら、少女のお腹がグ~~っとなる。

 どうやら、まだ食べたりないようだ。


「おかわりを持ってくるよ」と言ったが、少女はキョトンとしてしまった。


 どうやら俺の言葉の意味が分からなかったようだ。


 なので、身振り手振りで説明をする。


 すると俺が言いたいことが分かったようで、また笑顔になり、尻尾をブンブンと振り始めた。


 こんな風に嬉しそうにしてくれると食事の作り甲斐があるな。


 この子の十分の一でもいいから、ボルグたちも美味しそうに食べてくれればいいのに……


 この子と違って、あいつらは肉が良かったとか、魚が良かったとか、野菜が多すぎるとか、文句ばかりだ。


 俺はさっきより大きな皿にスープのおかわりを入れた。

 それから濡れたタオルも持って、自室へ戻る。


 戻ると少女の視線が皿に釘付けになった。

 今にも飛び掛かってきそうだ。


「まだ待て」


 俺が手を前に出すと少女は少し驚き、身を退く。


 スープをテーブルに置いて、濡れたタオルで少女の顔を優しく拭く。


 顔は奇麗になった。


 しかし、少女はまた顔を皿に突っ込みそうになる。


「ま、待て!」


 俺が言うと少女は止まった。


「いいかい、よく見てくれ」


 俺はテーブルに置いてあったスプーンを使って、皿の野菜を一つ掬って食べて見せた。


「分かったかい?」と言いながら、俺は少女にスプーンを渡す。


 すると少女はぎこちない動きで俺と同じように野菜を掬って、口元へ運んだ。


 一緒に掬ったスープがテーブルに零れているし、決して奇麗な食べ方じゃないけど、さっきに比べたら、大きな進歩だ。


「戦狼人族は知能が低い」とボルグは言っていた。


 しかし、この子とのやり取りでそんな気はしない。


 テーブルと口元は汚れたけど、少女はさっきよりも人らしく食事を終えた。


「偉いぞ、よく出来たね」


 多分、言葉だけだと分からないだろうから、俺は少女の頭を撫でる。


 すると少女は頭に生えた耳を後ろに倒して、嬉しそうに尻尾を振った。


 それを見て俺は笑う。


 何だか、久しぶりに笑った気がした。


「ありがとう」


「アリガトウ?」


「えっ?」


 俺の言葉を真似て、少女が初めて言葉を発した。


「アリガトウ?」


 少女は「ありがとうってどういう意味なの?」と聞いているようだった。


「えっとね、ありがとうは……」


 俺はまた手振り素振りで言葉の意味を伝えようとする。


 少女は笑ってくれたが、意味をきちんと理解したのだろうか。


 そんなことを思っていると少女は空になった皿を指差しながら、「アリガトウ」と言った。


 正直、驚いた。

 かなりの理解力だ。


「いいかい、テーブル、スプーン、コップ、お皿」


 俺は手近なモノの名称を言う。 


「テーブル……、スプーン……、コップ……、オサラ……」


 少女は次々にモノを指差して、名称を言う。

 全て正解だった。


「良く出来たね」


 俺はまた少女の頭を撫でた。

 

 少女は何かを思い、皿を手に取る。


「オサラ、アリガトウ」


 お皿、ありがとう?

 あっ、そういうことか。


 俺は皿の側面を叩いて「お皿」と言う。

 次に皿の中を指差して、「ご飯」と言った。


 少女はそれだけで理解し、

「ゴハン、アリガトウ」

と言い直した。


 その日、夜の遅い時間まで少女は色々なモノの名称を聞くことに夢中になった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ