最終話
次の日、ギルドへ行くと俺は驚いた。
朝の早い時間なのに人が大勢いたのだ。
何か大型のクエストがあるのかと思ったが、
「やぁ、ウェーリー君、俺はパーティ『砂漠の狐』のリーダー、火狐人族のマクラウドだ」
狐の獣人の男性が俺に声をかけていた。
『砂漠の狐』は有名なパーティなので俺でも知っている。
なんだろうと緊張した。
「ウェーリー、ぜひうちのパーティに入らないかい? もちらん、彼女も一緒にさ」
突然、勧誘をされた。
「君のような後衛が欲しいんだ。うちは前衛ばかりの戦闘馬鹿だからさ」
「えっと……」
「おいおい、マクラウド、抜け駆けは駄目だ!」
次は狼の獣人の男性だ。
「同じ狼人族の方が良いだろ。ウェーリーさん、ぜひ、俺のパーティ『大狼』に来てくれよ!」
この人も有名だ。
確か名前はオドネルさんだっけ?
「あんたはいつも強引だな。野蛮な狼共より、俺たちの方がウェーリー君たちに合っている」
「なんだど!? ずる賢い狐野郎が!」
二人は俺を巡って喧嘩を始めてしまった。
「嫌ですね、野蛮な狼と狐は」
俺は腕を引っ張られた。
そして、何かとても柔らかいものに当たる。
「えっ、あっ、すいません!」
当たったのは、俺を引っ張った女性の胸だった。
「良いですよ。可愛い顔、食べちゃいたいです。もちらん、性的な意味ですよ」
この人のことも知っている。
「私は暗豹人族のカルロッソです。私のところはどこかの狐や狼と違って、品格と理性があるパーティです。どうですか、もし、私のパーティ『帝豹』に入って頂けたら、良いことをしてあげますよ?」
カルロッソさんは俺に顔を近づけた。
「ガルル……!」
その瞬間、タオグナが威嚇の為、喉を鳴らす。
「この女、あいつ、同じ、匂い」
多分、タオグナの言うあいつとは女王陛下のことだろうな。
「お嬢ちゃんの言う通りだ。おい、女豹、何を自分だけは常識がある、みたいに言っているだ? おめぇが一番ヤバいだろ?」
とオドネルさんが言う。
「そうだな」とマクラウドさんも同意した。
「なんですか、あなたたち、私と喧嘩をするつもりですか?」とカルロッソさん。
「上等だ」とオドネルさん。
「じゃあ、勝った奴がウェーリー君との交渉権を獲得するってことで」とマクラウドさん。
三人が臨戦態勢になった。
「はいはい、朝から騒がないでください!」
いつもの受付嬢さんが叫んだ。
「パーティ間での喧嘩はご法度ですよ。仲良く追放されたいですか?」
受付嬢さんが言うと三人は臨戦態勢を解いた。
「まったくもう……」
「受付嬢さん、これはどういうことですか」
「どう、って見ての通りあなたの争奪戦ですよ」
俺の争奪戦だって?
「信じられない、という表情ですね。でもこれがあなたの正当な評価です」
「ボルグたちにはもったいなかったぜ。あいつら、自分たちの実力を誤解して、態度ばかり大きくて迷惑だったんだ」とオドネルさん。
「まぁ、私たちからすれば、いい笑い者で、ボルグたちは有名になりましたけどね」カルロッソさん。
「だけど、規則とはいえ、君を引き抜けなかったことが残念だった」とマクラウドさん。
「というわけです。ウェーリーさん、皆さん、あなたが欲しいみたいですよ。どうしますか?」と受付嬢さん。
「ちょ、ちょっと待ってください! いきなりそんなことを言われても……」
こんなことになるなんて想定外だ。
タオグナと二人だとあまり効率の良いクエストに行けないから、どうしようかと考えていた。
まさか、複数の有名パーティから勧誘を受けるなんて……
「じゃあ、当分は色々なパーティのお手伝いをしたらどうですか?」
「お手伝いですか?」
「はいウェーリーさんの能力は後衛特化ですから、複雑な連携をする必要がありません。タオグナちゃんをウェーリーさんの護衛と考えれば、戦力として完全に独立します。それに喧嘩にもなりませんしね」
受付嬢さんがマクラウドさん、オドネルさん、カルロッソさんを見た。
「それで納得するか、気に入るパーティがあれば、正式に加入すればいい」
マクラウドさんの言葉にオドネルさんとカルロッソさんも納得した。
仕事が無くなるどころか、あり過ぎて忙しくなるなりそうだ。
「それともウェーリーさんが一からパーティを作りますか?」
「俺がパーティを?」
「はい、きっとうまく行きますよ。それに屋敷だって空き部屋ばかりになってしまって、もったいないじゃありませんか?」
俺がパーティを組む、そんなことを考えたこともなかった。
けれど、タオグナと一緒ならうまく出来る気がする。
「あ、でも、他にもあの屋敷を賑やかにする方法はありますね」
受付嬢さんが笑う。
「なんですか?」
「子供を作るんですよ」
こ、子供!?
俺はそんなことを突然言われて、驚いてしまった。
「いや、それは……」
「子供、欲しい!」
俺が否定しようとしたら、タオグナが言いながら、俺に抱きつく。
「でも、子供、どうしたら、出来る?」
タオグナはキョトンした。
おい、こんな大衆の目前で何を聞いているんだ!?
「あとで教えるから、今は駄目!」と俺が言うがタオグナは「教えて! 教えて!」と言って引かなくなってしまった。
「どうせなら、実技で教えてやれ!」
誰かがそんな無責任なことを言う。
ギルド内は朝から笑い声で騒がしくなる。
「実技、ここで、やる?」
タオグナは俺に迫った。
「やるわけないだろ!」
まだまだ、タオグナに教えないといけないことはたくさんをあることを自覚する。
でも、今日、冒険者になったことを始めて良かったと思った。
それに関してはタオグナに感謝する。
さて、俺の、いや、俺たちの新しい冒険者人生を始めようか。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
本作は完結となります。
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