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報告

「あら、待っていたわよ」



 いつかまた女王陛下と会うかもしれない、とは予想した。


 だからって、今日、会うとは思わなかった。


「あの、ここ俺たちの屋敷なんですけど?」


「私、造形魔法は得意なのよ」


「鍵を作ったのですか?」


 だとしたら、無茶苦茶だ。


「いいえ、ケフンガーが壁に穴を開けて、入ってから私が修繕したわ。


 もっと無茶苦茶をしていた。


「そんな呆れないでくれるかしら? あなたがこの屋敷から出て行かなくても良いように手を回したのは私よ」


 やっぱりそうなのか。


「ガルルルル…………!」


 ちなみに女王陛下を見てから、ずっとタオグナは臨戦態勢だった。


 でも、ケフンガーさんがじっとしているということは、タオグナが本気で無いと分かっているようだ。


「帰れ、ここ、ウェーリー、家」


「タオグナ、もう陛下は俺を連れて行こうとしないから、安心して」


 俺の言葉に対して、タオグナがブンブンと首を横に振った。


「女王、危ない」


 タオグナは俺の腕をギュッと掴んだ。


「お、おい」

 

 俺はタオグナが何を心配しているか分からなかった。


 一方、女王陛下は何を理解して笑い始める。


「そんなに心配しなくても私は、えーっと、ウェーリーだったかしら? あなたの大切な人を取ったりはしないわよ」


 女王陛下の言葉でタオグナが何を心配しているか、理解した。


 美しい女王陛下に俺が惹かれてしまうことを心配しているのだ。


「タオグナ、大丈夫だって、第一、女王陛下と俺じゃ宝石とその辺の石だ」


「あら、別にあなたが良いなら、付き合ってみましょうか?」


 女王陛下が余計なことを言ったせいで、タオグナはさらに強く俺の腕を握り絞めた。


 てか、痛い痛い!

 爪が食い込んでいるから!


「仲が良さそうね」


 女王陛下は呑気なことを言う。


 俺は何とかタオグナを宥める。


「今日はどうしてここへ?」


 女王陛下なら忙しいだろう。

 屋敷の件を言うだけでここへ来たとは思えなかった。


「そうね、二日前はドタバタしたせいで聞けなかったことがあったから、聞きに来たのよ」


 その言葉に俺は少しだけ緊張する。


 一体、何を言われるのだろうか?


「なんでその子はタオグナちゃんって言うのかしら?」


 女王陛下がタオグナを指差して言う。


「えっ?」


「この街と同じ名前なのは偶然? 気になって、仕事が手に付かないわ」


 女王陛下は俺に迫った。


「近づくな」とタオグナが割って入る。


「ねぇ、教えてくれるかしら」


 それの聞く為、わざわざここへ来たのか。


 この女王陛下はやっぱり少し変わっているかもしれない。


「えっとですね、実は……」


 俺はタオグナの名前を決めるクジ引きの際、間違って街の名前を書いた紙も入れてしまったことを説明する。


 すると女王陛下は声を上げて笑った。


「そんなことがあったのね。でも、やり直そうとは思わなかったのかしら?」


「そうしようとしたんですが、タオグナが気に入ってしまって……」


「それでタオグナちゃんになったのね」


「……もしかして、改名した方が良いですか?」


「いいえ、その必要は無いわ。古来、蛇人族は(まつりごと)を行う際、その決定に遊戯やクジを使ったわ。今ではその風習が消えかけているけど、私たちは目に見えない力を重視する。だから、その子がタオグナちゃんになったのも何かの力に引かれた結果じゃないかしら」


 女王陛下はそう言って、タオグナの名前を変えることを強要しなかった。


「さてと、私はそろそろ帰るわね。実は政務を放り出して、ここへ来たから、今頃、大臣連中が困ってる頃よ」


「それは早く帰った方が良いですね」


 この国が傾いたら、俺たちも困ってしまう。


「それから一応、あの三人がどうなりそうかだけは伝えておくわね」


「ありがとうございます」


 ボルグ、エナ、リリアンのことは気になる。


 あいつらの心配などはしていない。


 もし、解放されたら俺やタオグナに危害を及ぼす可能性がある。

 だから知っておきたかった


「結論から言うと地下の強制労働施設行きね」


「地下の強制労働施設?」


「埋没した地下遺跡の調査を行っているのよ。そこで囚人や多重債務者は働いているわ。十年もすれば、出て来れるじゃないかしら」


 それを聞いて、俺は首を傾げた。


 ボルグやエナの発言や行動が不敬罪や反逆罪、と取られたなら軽すぎるし、奴隷の虐待だとしたら、重すぎる。


「不思議そうな表情をしているわね。あの子たちが強制労働施設へ送られたのは罪じゃなくて、借金のせいよ」


「借金?」


「三人総額で約五千万ね」


「五千万!? 一体どうしたら、そんな借金が出来るんですか?」


「調べたら、簡単に分かったわ。男の子の方はギャンブルね。女の子の方は片方が宝石類の買い漁り……」


 その言葉でエナの部屋にあった宝石のことを思い出す。

 あいつ、借金してまで宝石を買っていたのかよ。


「もう一人の女の子は男遊びね」


「は?」


「何人もの男に貢いでいたみたいよ。しかも碌な男共じゃないわね」


 それを聞いて、俺は呆れてしまった。


 エナもだったが、リリアンもボルグと男女の関係だった。


「私にはボルグだけだよ~~」や「愛しているよ~~、ボルグ」などとよく言っていたのに、男漁りをして、貢いでいたなんて……


 そんな状態だったのに楽をしたいからってタオグナを買ってきたのかよ。


 でも、そのおかげでタオグナに会えたんだから、ちょっと複雑な気分になるな。


 あっ、そういえば……


「あの、じゃあ、借金の足しにあいつらの私物を差し押えますか? だったら、持ってきますけど……」


「あなたは欲が無いのかしら。いいわよ、それはあなたが貰っちゃいなさい。あなたはあの子たちに不当な扱いを受けていたのだから、払ってもらえなかった給料だと思いなさい」


 正直、それは助かった。


「じゃあ、本当にそろそろ行くわね、そうしないと大臣連中に怒られるわ」


 そう言うと女王陛下は屋敷から出て行った。



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