特権の真実
体を拭いて、服を着た俺たちは食堂へ戻って来る。
「座って、待ってて」
タオグナに言い残して、俺は厨房へ入った。
今まで一番楽しい気持ちで料理をしている。
これまでは食材に制限があったけど、ボルグたちがいなくなったから、気を使う必要もない。
俺は何種類も料理を作った。
「さぁ、食べてくれ」
料理が出されるとタオグナは目をキラキラさせる。
「これ、全部!?」
「全部、食べていいんだよ」
どうせ屋敷を追い出されるなら、食材は出来る限り処分した方が良い。
それにタオグナが食べてくれなら無駄じゃない。
タオグナはさっそく食べ始めた。
当たり前だけど、あった時に比べるとスプーンもフォークも上手に使っている。
作り過ぎたかもしれない思ったが、タオグナの食欲は凄まじく全て食べてしまった。
食事が終わると、タオグナはウトウトとし始める。
歯を磨いてから、俺たちは寝ることにした。
「んっ? どうしたんだい?」
タオグナ以外は誰もいなくなったし、俺は別の部屋で寝ようと思った。
そうしたら、タオグナに服を引っ張られる。
「こっち、一緒」とタオグナは言う。
「分かったよ」
結局、俺とタオグナはいつものと同じように狭い一つのベッドで寝ることになった。
「一緒、一緒、ずっと、一緒」
タオグナは嬉しそうに言う。
でも、すぐに眠ってしまった。
ホッとしたし、疲れもあったのだろう。
それは俺もだった。
いつの間にか寝て、気付いたら、朝だった。
「そんなことがあったんですね」
次の日、ギルドが開くと同時に俺は中へ入る。
今日はタオグナも一緒に連れて来た。
この時間、ギルドに人はほとんど誰もいない。
面倒なことを話すには忙しくない時間の方が良い。
いつもの受付嬢さんに昨日のことを報告した。
さすがに女王陛下が来た、と言わない方が良いと思ったので、そこは誤魔化す。
「分かりました。ウェーリーさんの住んでいる屋敷はこの国から提供されたものなので、確認を取ってみます」
「お願いします」
「私、頑張る! お金、稼ぐ!」
タオグナが受付嬢さんに訴えると、
「分かりました。私たちも出来る限りのことはします」
そう言ってくれた。
俺は今後のことを受付嬢に任せて、いったん帰宅した。
いつ屋敷を退去してもいいようにタオグナと二人で物の整理を始める。
あいつらは俺の金を取ったりしていたし、売れそうなものがあれば、売ってしまおうと思っていた。
「ウェーリー、宝石、いっぱい!」
エナの部屋を片付けていたタオグナが両手に宝石を持って、俺のところへやって来た。
「あいつ、こんなものを買っていたのかよ」
でも、助かる。
これを売れば、まとまった金になりそうだ。
残念なことにボルグとリリアンの部屋には高く売れそうなものはなかった。
俺とタオグナは処分する物と売れそうな物で仕分けをしていく。
気が付くと夜になっていた。
一日中、作業をしていたので埃塗れだ。
「ウェーリー、一緒、お風呂」
タオグナが俺を引っ張る。
「わ、分かったよ」
タオグナはどうやらお風呂が気に入ったようだ。
でも、俺は色々と抑えるのに苦労する。
タオグナがこれだけ気に入ってくれたなら、次に住むところもお風呂がある家が良いな。
でも、そうなると貸家でも高いか。
今度はタオグナに大衆浴場の入り方を教えないといけないだろう。
お風呂に入って、食事をして、就寝する。
そして、次の日、またギルドへ足を運んだ。
「あの屋敷をそのまま使ってもいいんですか?」
俺は驚き、受付嬢に確認する。
「はい、問題無いそうです」
「でも、ボルグたちはもういません。役立たずの俺が特権を受けるわけには…………」
「あ、あのですね、ウェーリーさん!」
受付嬢さんが机をバン、と叩いた。
「は、はい!?」
「もうボルグさんたちがいないので、言いますけど、あなた方のパーティが特権を受けられていたのはウェーリーさんがいたからです」
「お、俺ですか?」
受付嬢さんの言葉は信じられなかった。
「でも、俺はまともに戦えませんよ?」
「戦闘能力だけが評価の対象じゃありません。そもそも、多種族が暮らすこの街で多少強いだけの人間なんて評価されませんよ。純粋な戦闘力では獣人の方が遥かに優れています」
言われて、ケフンガーさんのことを思い出す。
「じゃあ、俺の何が評価されているんですか?」
俺の言葉に対し、受付嬢さんが溜息をついた。
「もっと自分をきちんと評価してください。外傷、内患に対する治癒魔法、他者に魔力を供給する魔力回復魔法、それからどんなに複雑な地形でも把握できる探索魔法。そして、それらを複数回使える魔力量、全て並の人間の域を超えています」
受付嬢さんが俺に対する評価を説明する。
「それなのにあなたはいつも虐げられていた。特権を受ける際の規則が無ければ、ボルグさんたちに言ってやりたかったですよ」
この冒険者特権を受ける際に決まりがあった。
それは誰が特権の対象になっているかを公表しない。
他パーティは特権を与えられているパーティに対しての勧誘をしてはいけない。
一つ目は対象者を公表した際にパーティ内で揉め事が起き、パーティが解散すると事案が多数発生した為だ。
主な原因は特権の対象者が他のメンバーに対し、横暴な態度になってしまったことがあげられる。
勧誘を禁止しているのは単純な理由で、パーティ間のトラブルを防ぐためだ。
「そういうわけで、ウェーリーさんが特権の対象なのでこれからも優遇されます。でも……」
受付嬢さんが難しい顔になる。
「昨日、即答をしなかったのは、さすがにパーティではなくなってしまったので、あの屋敷は退去してもらうことになると思ったからです。でも、昨日、国の方へ問い合わせをしてみたら、ウェーリーさんはあの屋敷をずっと使っても良いと言われました。一応、もう一度確認したのですけど、なんでもかなり上の立場の方がウェーリーさんを気に入っているようで、その方の指示らしいです」
「上の方? 誰ですか?」
「そこまでは教えて頂けませんでした」
俺は女王陛下のことが頭に浮かんだ。
「とにかく、そういうわけなので、ウェーリーさんは今まで通りで大丈夫です」
それを聞いて、俺はホッとした。
「ウェーリー?」
タオグナが心配そうな声で言う。
話が長すぎて、分からなくなってしまったようだ。
面倒な説明は要らないだろう。
「俺たち二人であの家に住めるよ」
だから、俺はそれだけ伝えた。
するとタオグナは尻尾を振る。
俺は帰宅途中に色々なことを考える。
引っ越し費用を考えなくなったのは良かった。
それに捨てる予定だった家財は使えるし、宝石とかを売れば、結構なお金が手に入る。
無駄遣いをする余裕はないが、当面の生活は問題無いだろう。
それと女王陛下のことを考えた。
どうも気に入られたみたいだ。
あの性格だし、また会いに来てしまうかもしれない。