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12/15

二人だけになった屋敷で

 女王陛下たちが帰り、部屋が急に静かになる。


「ウェーリー!」と叫び、タオグナはまた泣く。


 つられて俺も泣いてしまう。


 二人でしばらく泣き、落ち着いた頃、

「あっ、そうだ。ちょっと来てくれるかな」


 俺はタオグナを連れて、ボルグの部屋へ行った。


 テーブルの下を覗くが、無くなっている。


 それなら、と思い、椅子の下を覗いたら、こっちにあった。


「本当に単純な奴だな」


 俺は椅子の裏に張り付けられていた鍵を手に取った。


「タオグナ、来て」


「?」


 タオグナは不思議そうな表情だった。


 俺はタオグナの首に嵌められている奴隷の首輪の鍵穴に、鍵を差し込み、回す。


 カチッという音がして、奴隷の首輪は外れた。


 タオグナは自由になった首に手を当てて、確認する。


「ウェーリー、なんで?」


「もう君は奴隷じゃない。君は俺の仲間だ」


「仲間?」


「そう、仲間」


「仲間!」


 タオグナは耳をピンと立て、尻尾をブンブンと振った。


「さてと、滅茶苦茶になった食堂を片付けないとな」


 再び食堂へ戻って来た俺とタオグナは倒れた家具を元に戻して、割れた食器を片付けた。


「さて、タオグナ、お風呂に入ろうか?」


「お風呂?」


 ボルグたちに禁止されていたので、タオグナはいつも桶にお湯を汲んで体を拭いていたが、もう関係ない。


 堂々と浴室を使える。


 でも、問題があった。


 浴室へ入るとタオグナは困惑してしていた。


 屋敷の浴室にはお湯を出す機能があるが、タオグナは使い方が分かっていない。


 俺が説明するとタオグナはお湯を出してみる。


「!!?」


 でも、お湯が熱かったらしく、飛び跳ねた。


「ごめん、ごめん、説明不足だった。えっと……」


 俺は温度を調節し、自分の手に当てる。


「これぐらいでどうかな?」


 タオグナは恐る恐るお湯に触れた。


「大丈夫」とタオグナは言った。


「ちょっと、目を閉じてくれるかな」


 俺の指示をタオグナは素直に聞く。

 ゆっくりと頭からお湯をかけ始めた。


 もう少し嫌がると思ったが、タオグナはじっとしてくれた。


 俺は次に石鹸を手に付けてタオグナの頭を洗い始める。


「まだ、目を開けちゃ駄目だよ。今開けたら、大変なことになるからね」


 俺が忠告するとタオグナは「うん」と返す。


 それから頭を洗い終えて、泡を水で流した。


「もう目を開けても大丈夫だよ」


 俺が言うとタオグナは水分を含んだ髪の毛が嫌だったのか、頭をブルッと振った。


 水が俺にも飛ぶ。


「ごめんなさい」


 タオグナはしゅんとする。


「気にしないよ。今度は体を洗っていこうか。自分で出来る?」


「頑張る」


 タオグナは手に石鹸を付けて体を洗う。


 でも、石鹸が泡立ちすぎてモコモコしてきた。


「これじゃ、まるで羊だね」


「ひつじ?」


 タオグナは疑問形で聞き返す。


 そうか、タオグナはまだ羊を見たことないのか。


「その内、見れるよ」


 言いながら、俺はタオグナの尻尾を念入りに洗う。


 ここはタオグナが洗いづらそうだったので、俺がすることにした。


 体を十分に洗い終えたタオグナにお湯をかけて泡を流した。


 いつもは桶のお湯で体を拭くだけだった。


 これだけ念入りに体を洗ったのは初めてだ。


 心なしか、タオグナの肌艶、毛並みが輝いて見える。


「えっ、あっ、ちょっと待って……」


 タオグナがまた体をブルッと震わせた。


 今度は全身だったので、さっきの比じゃない水が飛び、俺はびしょ濡れになった。


「ご、ごめんなさい」


 濡れた犬がするように多分、反射に近いんだろう。


「いや、良いんだよ。さてと体を奇麗にしたし、今度はお風呂に入ろうか」


「おふろ?」


「あれだよ」と俺は指差す。


 タオグナはビクビクしながら、浴槽に近づく。

 そして、手を入れてみた。


「温度はどう? 熱くない?」


 俺が確認するとタオグナはコクリと頷き、足からゆっくり風呂の中へ入れていく。


 初めは怖がっているようだったが、全身がお湯の中に入ると気持ちいいのか脱力した。


「ゆっくり入ってて大丈夫だよ。でも、入り過ぎには注意だよ」


 俺が立ち去ろうとするとタオグナは湯船から出た。


「どうしたんだ?」


 言いながら、俺は視線を逸らした。


 タオグナは気にしていないようだが、色々と見えてしまっている。


「一緒、入る!」


 その上、そんなことまで言い出した。


「いや、俺は……」


「入る!」


 どうやら、譲ってくれそうにない。


 それにタオグナは心配そうだった。


 もしかしたら、女王陛下たちが戻って来て俺を連れて行くと思っているのかもしれない。


「分かったよ」


 俺は諦めて脱衣所で服を脱ぐ。


 そして、身体を洗ってから湯船に入った。


 タオグナと対面になる。


「お風呂、好き!」


 タオグナは気に入ってくれたようだ。


 この屋敷の湯船は大きい。


 二人で入っても広さは十分だ。


 でも…………


「タオグナ、大切な話があるんだ」


 俺が真面目な表情になるとタオグナは心配そうに耳をピクピクと動かす。


「この屋敷は出ないといけない」


「…………」


「この屋敷は俺たちのパーティが優秀だったから、提供されていたんだ。でも、三人は連れて行かれちゃったし、俺の能力は大したことないから、出て行くとことになる。それにお金だって無いし、タオグナには苦労させることになっちゃうかもしれない」


 タオグナは俺に近づいた。


「平気、ウェーリー、いる。幸せ。私、頑張る」


 タオグナは笑いながら、そう言ってくれた。


「ありがとう」と言いながら、俺はいつも通りタオグナの頭を撫でた。


「…………あれ?」


 色々と考えていたので、ある重大なことを失念していた。



 俺、今、女の子と二人でお風呂に入っていないか?



 タオグナの世話をするのが当たり前になっていたので、この子の裸を見ても気にしなくなっていたけれど、年頃の女の子だ。


 ヤバイ、意識したら、急に……


「どうした? ウェーリー、顔赤い?」


「な、何でもないよ! さてと、そろそろ上がろうかな」


「ウェーリー、変? なに、隠す?」


 タオグナが俺の前に回ろうとする。


 前はまずいって!


 俺は体を反転させた。


 するとタオグナがまた回り込もうとする。


「やめろ! 俺の前に立つんじゃない!」


 でも、拒否すればするほど、タオグナは興味を持ってしまった。


「なんで、なんで」

 

 タオグナは俺の周りを犬のように回る。


「駄目! とにかく駄目!」


 タオグナは暫くしてやっと諦めてくれた。


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