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タオグナの決意

「さてと、失礼する」


 戦狼人族の男性、確か、ケフンガーさんだったかな?

 

 ケフンガーさんが俺に手錠をかけた。


 その瞬間、タオグナが慌てる。


「違う! ウェーリー、違う!」


 タオグナがケフンガーさんに訴える。


「確かにこの者が虐待に加担していた、という事実はなかった。しかし、虐待を見逃していた。無罪と言うわけにはいかない」


 どうやら本当によく調べているようだ。


 確かに俺はタオグナが虐待しているのを止められなかった。


「違う! ウェーリー、私、庇った! 優しい、くれる!」


「いいんだ、タオグナ」


 こうなる可能性は、密告した時に予想していた。

 

 俺だけ助かろうなんて都合が良い話だろう。


「陛下、俺はどうなりますか?」


「新法に基づくなら、この街を追放、もう二度とそこの少女と会えないわ」


「……そうですか。じゃあ、タオグナはどうなりますか?」


「タオグナ? ああ、この子の名前ね。この子は私たちで保護するわ。賢明そうだし、いずれは私の近衛にしても良いわね」


 俺はそれを聞いて安心した。


 だとしたら、今よりもマシな生活が出来るようになる。


 いいや、マシなんてどころじゃない。


 いずれは王宮の近衛になれる可能性が出て来たなんて凄い。


「……じゃあね、タオグナ。君は幸せになるんだよ」


 最後にもう一回だけタオグナの顔を見ておこう、と思った。


 最後だし、笑った顔を見たかったが、そうはいかない。


 タオグナは顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた。


「ごめんね、ありがとう、君に会えて良かった」


 生まれて初めて人に頼られた。

 それがとても嬉しかったし、満たされた。


「さぁ、行くぞ」


 ケフンガーさんが俺を引っ張る。


 俺は「はい」と言い、素直に従った。


「駄目……」


 タオグナは俺たちの前に立ちはだかる。


「ウェーリー、連れてく、駄目! 連れてく、駄目!!」


 タオグナは牙を剥き出しにして、爪を構える。

 完全な臨戦態勢だ。


「おい、やめろ、タオグナ!」


 いくら強くても大人の、しかも男性の戦狼人族に勝てるわけがない。


 それにここで戦うということは最悪、女王陛下に対する反逆と取られてしまう。


「お嬢ちゃん、私はあなたの幸せを保証するわよ? 今よりもいい家に住ませてあげるし、おいしい物を食べさせてあげる。良い服を着せてあげる。将来的には富や地位もあげるわ」


 女王陛下の言葉に対して、タオグナはブンブンと首を横に振った。


「いい家、いらない! ウェーリー、いる! ウェーリー、作る、食べ物、好き! 服、ウェーリー、作る! ウェーリー、いる、幸せ! ウェーリー、いない、駄目!」


 タオグナは今にもケフンガーさんへ飛び掛かりそうだった。


 ケフンガーさんもそれが分かっているので、臨戦態勢になる。


「二人ともやめなさい!」


 女王陛下が声を張った。


 その声には圧力があった。


 ケフンガーさんだけではなく、タオグナも怯んだ。


 女王陛下がタオグナに近づく。

 もうタオグナの爪が届く距離だった。


「陛下!」


 ケフンガーさんが慌てるが、女王陛下は「大丈夫よ」と言う。


 そして、女王陛下はタオグナをジッと見た。


「お嬢ちゃんはそっちの彼のことが好きかしら?」


「好き!」とタオグナは即答する。


「じゃあ、あなたから彼を奪ったらどうするかしら?」


「殺す!」


 おい、やめろ!

 相手は国の主、女王陛下だぞ!


 今は穏やかだが、いつ怒りを買うか分からない。


「私は女王よ。それでも敵対するの?」


「関係ない! ウェーリー、奪う奴、殺す!」


「タオグナ、止めるんだ! 女王陛下、申し訳ありません! タオグナは今、興奮しているんです!」


 さすがに怒られると思ったが「別に気にしていないわよ」と女王陛下は笑った。


「ケフンガー、彼の手錠を外しなさい」


「宜しいんですか?」


「構わないわ」と女王陛下が言ったので、俺の手錠が外される。


「ウェーリー!」と言い、タオグナが俺に抱きついた。


「慕われているのね」と言う女王陛下に対して、タオグナは「ガルルル……」と唸って牙を見せた。


「大丈夫よ、もう彼を連れて行く、なんて言わないわ。私はあなたたちのことが気になってしまったもの。…………この街には様々な種族が住んでいるわ。でも、まだ種族間の壁がある。いずれはそんなものが無くなることを私は希望しているの」


「は、はい?」


 突然、女王陛下が俺にそんなことを言う。

 俺にはその理由が分からなかった。


「あなたたちには別種族の間にも絆や愛情があることを証明してもらいましょうか」


「えっと、じゃあ……」


「二人で生きてみなさい」


 俺はその言葉にホッとした。


「でも、新法は良いんですか?」


 施行して、すぐに例外を作っては新法が甘く見られる。


「さっき言ったでしょ? 私が晴れ、と言えば、曇りの日もみんなが晴れ、と言うってね。誰が女王陛下の決定に異論を言うのかしら? それにこの場には私の信頼できる臣下とあなたたちしかいないわ。今日のことは世間に知られない。あっ、さっきの三人もいたかしら?」


 女王陛下はボルグ、エナ、リリアンのことを思い出す。


「あいつらはどうなってしまうんですか?」


 本当に公開処刑にされてしまうのだろうか?


 俺が聞くと女王陛下は笑う。


「殺すようなことはしないわ。昔なら死刑、ってこともあったでしょうけど、私はそんな野蛮な時代を終わらせて、新時代を作りたいのよ」


「新時代ですか?」


「全ての種族に壁が無くなる時代、私はそれを望むわ。最終的には身分なんてくだらないものを無くなって欲しいわね」


 女王陛下はとんでもないことを言い出す。


 だって、それは女王陛下の持っている特権を捨てる行為だ。


「信じられない、という顔をしているわね。今すぐには駄目よ。まだ私は女王で無ければ、ならないわ。だって、改革を進めるには独裁の方が都合が良いですもの。でも、いずれは人々が支え合って、国を作る。そんな未来を見てみたいわ。…………ごめんなさいね。あなたたちにこんなことを言ってもしょうがないわ。とにかく、二人の仲を引き裂くようなことはしない。それは約束するわ。それではまたね」


 そう言い残して、女王陛下とその臣下たちは帰って行った。

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