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狼の獣人の少女

また奴隷がヒロインのお話です。

でも、今回はハーフエルフじゃありません!

 才能がないとはなんと残酷なことだろうか。


「おいウェーリー、俺たちの食事、部屋の掃除、それから武器磨きやっておけよ」

 

 パーティリーダーのボルグが俺に命令する。


「分かったよ」


 俺は素直に従った。


 クエスト帰りで疲れたので休みたかったが、そうもいかない。

 他のメンバー三人分の食事を作る。


「えーー、肉なの? 私は魚が良かったわ」


 メンバーの一人、エナが不満を漏らす。


「私たちの好みも分からないの? 使えないわね~~」


 さらに三人目のメンバー、リリアンが俺を馬鹿にし、笑う。


 俺たちは四人でパーティを組んでいる。

 元々は同じ村の出身で仲が悪かったわけじゃない。


 でも、俺以外の三人は魔法や武技の才能に目覚めて、俺だけ大したことが出来ないので次第に扱いが悪くなっていった。


 街ではかなり有名なパーティになったが、明らかに俺だけ力不足だ。


 実際、ボルグ、エナ、リリアンの名前を知らない人はいないけど、俺の名前をまったく知られていない。


 パーティを抜けようか、と思ったことは何度もある。


 でも、俺なんかが他で冒険者を出来るとは思えないし、ボルグたちの言いなりになっていれば、住む場所と食べ物に困ることは無い。


 俺はボルグたちが食事をしている間に三人の部屋の掃除をする。


 一人で掃除をしていたら、勝手に涙が出て来た。


 泣くなよ、情けない……


 俺はきっと物語の主人公になれない。

 何者にもなれずに人生を終えていくんだろうな。


 そんな風に色々と諦めていた日々に些細な変化を起きた。


 ボルグが奴隷を買ってきたのだ。


 俺にだけは相談がなく、ボルグたちだけで話は終わっているようだった。

 いつものことだ。




「俺は前衛、エナとリリアンは中衛、で役立たずの後衛が一人。前々からもう一人、前衛が欲しいと思っていたんだ」


 ボルグたちが買ってきた奴隷は獣人で〝戦狼人族〟という種族の女の子だった。


「本当は男の戦狼人族の奴隷が欲しかったんだけど、流石に高すぎて買えなかった。それに年も15歳くらいで、戦闘力は低いんだよな」


 ボルグは悔しそうに言うが、お前たちがもっと倹約に協力してくれたら、金も貯まると思うけどな。


 浪費ばかりしやがって……


 今回だって、どうせ俺からピンハネした金を使ったんだろ。


 それにしても戦狼人族か。

 身体能力が高く、戦闘用の奴隷としては人気が高いと聞いたことはある。


 でも、正直、目の前の少女が強そうには思えなかった。


 ボロボロの服に、奴隷の首輪、それに瞳は野生の獣のように鋭い。

 見た目も人間とは違う。


 頭には耳が生え、手足には体毛、尻尾も生えている。

 口には牙、手には鋭い爪があった。


「…………」


 そして、ずっと黙っているので怖い。


「買ってきてから、ずっとこうなんだよな」


 ボルグが言う。


「ねぇ、ボルグ、本当に大丈夫? この犬、私たちを殺したりしない?」


 エナが野生の獣を見るような視線を戦狼人族の少女に向けた。


「大丈夫だって、奴隷商人のところでこれを受け取って来たからな」


 ボルグは言いながら、小石程度の大きさの魔道具を取り出した。


 ボルグが魔力を込めた瞬間、

「ああああああ!」

と戦狼人族の少女が苦しみ出す。


「おい、どうしたんだ」と俺は少女が心配になり、声をかける。


「どうだ、面白いだろ? この魔道具はその犬の首輪と連動しているんだ。雷属性魔法を喰らったみたいな電流が流れるらしいぞ」


「あはは、ビクビクしておもしろ~~い」


 リリアンが笑う。


 お前らおかしいんじゃないのか!?


「やめろよ! この子が何かをしたわけじゃないだろ!」


「別にいいだろ? こいつは奴隷、俺たちの所有物なんだ」


 所有物って…………

 この子は生きているんだぞ!


「まぁ、鳴き声がうるさいから、そろそろやめるか」


 ボルグが魔道具に魔力を流すのを止めると、少女の悲鳴も止む。

 

 しかし、ダメージは残ったらしく、まだ身体をビクビクとさせていた。


「お、おい、大丈夫か!?」


 俺は心配になり、駆け寄ったが、「ガルルル……!」と唸った。


 そして、俺は鋭い爪で引っ掻かれてしまう。


「…………!?」


 咄嗟に出した腕を切られ、血が流れる。


「相変わらず、鈍くさい奴だな」


 ボルグが笑うと、エナとリリアンも笑う。


「戦狼人族は獣程度の知能しかないんだ。ほら、お前もこれを持っていろ。エナとリリアンもな、人数分受け取って来た」


 ボルグが少女の奴隷の首輪と連動している魔道具を渡す。


「頼むから、その犬に殺されないでくれよ。いくら、役立たずでも、雑用係がいなくなったら、困るからな。じゃあ、そういうことで今後はこの犬の世話も頼むわ。それと庭にこいつ用の檻を買ってきたから、普段はそこへ入れておけ」


「檻、ってこの子は獣人なんだ。部屋は余っているだろ。その一つをさ……」


「私は嫌よ。屋敷が獣臭くなるわ」


 エナが言うとボルグとリリアンも同意する。


「でもさ……」


「うるせーな。それ以上、何か言ったら、もう一つ、檻を買ってくるぞ。もちろん、お前用のな」


「…………分かったよ」


 結局、俺の意見なんて意味がない。


 俺はボルグたちに従うしかないんだ。


 電流で弱った戦狼人族の少女をボルグは蹴って、檻の中へ入れる。


 この日から俺に仕事が一つ増えた。




 とりあえず、このボロボロの服をどうにかしないとな。


 俺は持っている服の中から戦狼人族の少女が着れそうなものを選んで、檻へ戻って来た。


 戦狼人族の少女は電流のダメージが抜けたらしく、俺を睨みつける。


「グルルル……」と呻き声をあげていた。


「服を着せる前にまずは体を洗わないとだよな」


 でも、浴室を使ったら、ボルグがうるさそうだ。


 俺は仕方なく、大きな桶にお湯を張って檻までも持って来た。


 そして、檻の鍵を掛ける。


「!!?」


 その瞬間、俺は戦狼人族の少女に襲われ、押し倒された。

 目前に鋭い牙が迫る。


「くっ……!」


 俺は命の危機を感じて、ポケットに入れていた魔道具を取り出した。


「えっ?」


 すると少女は俺から離れて、身体を丸める。

 明らかに怯えていた。


 先ほど、ボルグにやられたことがトラウマになっているようだ。


「…………!」


 少女は泣きそうな表情で俺を見る。


 先ほど睨んでいた時はまったく違う顔だ。


 確か、ボルグがこの子の年齢は15歳前後って言っていたっけ?


 戦狼人族、ということを除けば、この子はまだ子供なんだ。

 どういう経緯かは知らないが、奴隷として売られていた。

 

 そして、買われた先でいきなり酷い目に遭ったのだ。

 警戒して当然だ。


 ここでこの魔道具を使って、この子を痛めつけたら、俺はボルグたちを同じになってしまう。


「いいかい、よく見ていてくれ!」


 俺は魔道具を少女に見せた。


 見せられた少女はまた痛めつけられると思ったらしく、泣き始める。


「泣かないでくれ。ほら、こうするからさ!」

 

 俺は魔道具を遠くへ投げた。


 その瞬間、少女は泣き止み、驚いた顔になる。


 俺は両手をバッと広げ、

「俺は絶対、君に酷いことをしない!」

と宣言した。


 もし、襲われたら、もう対抗手段がない。


 でも、俺は自分よりも三つも幼い子を道具で無理やり屈服させるようなことはしたくなかった。


「お、おい!」

 

 俺が襲われることは無かった。


 でも、少女は気を失ってしまう。

 ずっと張っていた気が途切れたのだろう。


 俺は申し訳ないと思いながら、今のうちにこの子の身体を拭くことにした。


 しかし、ここは庭だ。


 さすがにこんなところで裸にしたくはない。

 

 俺は少女を武器防具の入っている倉庫へ運んで、そこで体を拭いた。


 少女の身体はかなり骨ばっていた。

 多分、まともな食事をしていない。


「じゃあ、いきなり味の強い食べ物は食べさせない方が良いな」


 あいつらに見つかったら、うるさいだろうけど、流石に人を庭の檻に入れるなんて狂っている。


 俺は自分の部屋に少女を運び、ベッドに寝かせた。


「さてと何を作ろうかな」


 この子に食べさせる献立を考える。


 でも、その前にあの三人の食事を作らないと怒り出すよな。


 俺は急いで三人分の食事を作って、その間に三人の部屋を掃除する。


「そういえば、さっき、庭が騒がしかったが、どうしたんだ」


 部屋の掃除を終えて、食堂へ戻って来たら、ボルグが尋ねてきた。


「あの子の体を拭いていたんだ」

と俺は説明と説明した。


「獣人とはいえ、女の子を裸にしたの?」とエナ。

「気持悪~~い」とリリアン。


「まぁ、そう言ってやるなよ。俺にはお前たちがいるが、こいつは童貞で、女になんて相手にされない。犬にだって欲情するさ」


 ボルグは言いながら、エナとリリアンに肩組みをする。


「別に犬とヤッても良いが、変な病気になっても知らないからな!」


 三人は笑い始める。


 俺は三人には何も言わず、厨房に入った。


 そして、戦狼人族の少女の為に料理を作り始める。


「えっと、何を作ろうかな?」


 料理は毎日、作っているのに、今はいつもより楽しかった。

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