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お気に入り小説2

傷つけられた方は一生忘れないのよ。さようならデール様。

作者: ユミヨシ

どうしてこんなことになったのだろう。


自分はアレス王国の王太子デール。

自慢のこの整った顔は、王国中の女性達の憧れの的であるはずだ。

歳はぴちぴちの18歳。若さ溢れる私は未来の国王として期待の星だった。


それなのに…それなのに…

自分の幼い頃の婚約者、コリアス公爵令嬢のリーティシア。

この私に相応しく、一つ年下の銀の髪のそれはもう美しき令嬢だ。

未来の王妃にふさわしく、勉学も出来、立ち居振る舞いも品があり、自慢の婚約者だったのだ。


でも私は…浮気をしてしまった。

明るくて、コロコロと表情の変わる、可愛らしい男爵令嬢アリスに。


王立学園で親しくなったアリス。

それはもう私は夢中になった。


なんせ可愛くて可愛くて。

思わず守ってあげたくなる可愛らしさに私は…


彼女と結婚なんて考えられなかったけれども、愛するアリスと別れることなんて考えられない。

だから愛しすぎるアリスを、側妃にと…



学園の食堂でリーティシアに頼んだのだ。

隣の席にアリスを座らせて正面に座るリーティシア。

二人で真摯に頼めば、側妃にアリスを認めてくれるかもしれない。


「私とアリスは愛し合っているんだ。もちろん、アリスが王妃になんて無理に決まっている。だからアリスを側妃に迎えたい。王妃は君だ。文句はないだろう?」


アリスも隣で私にしがみつきながら、


「私はデール様を愛しているの。だから、デール様の傍にいたい。お願いします。リーティシア様。どうか私がお傍にいる事をお許しください。」


リーティシアは頷いて、


「わたくしが決める事ではありませんわ。国王陛下と王妃様が側妃を認めるというのなら、わたくしには異存ありません。お話はそれだけですか?」


「いやいや、ちょっと待った。そんなあっさりと。君は私を愛しているから、やきもちを焼いて認めないのかと。」


「政略でしょう?貴方とわたくしの婚姻は。それでは失礼致しますわ。」


そっけない態度でリーティシアは行ってしまった。


いやいやちょっと待ったー――。リーティシア。少しは泣いて縋って、取り乱してくれ。


とちょっと考えてしまった。

自分はリーティシアに愛されていると思っていたから。


それから何事も無く、この件について父である国王に願い出たかったのだが、国王は王妃と共に外遊に出かけていて、話すことも出来ず、三日後、王宮に戻ったら、外遊から帰ってきた難しい顔をした国王である父上に呼びつけられて、


「コリアス公爵家から、婚約を解消してくれと申し入れがあった。それを受け入れた。」


「なんでですか?王家の命令で、リーティシアは私の婚約者になったのです。それを。いとも簡単に?王妃はリーティシア以外にあり得ない。私はアリスを側妃にして、リーティシアを王妃にと考えていたのです。」


「アリスって、ドット男爵令嬢か?王家の影から報告を受けている。お前はここ一年間、アリスという男爵令嬢と学園で仲良くして、リーティシアをないがしろにしてきたらしいな。」


「リーティシアにはちゃんと週に一回のお茶会と、誕生日にはプレゼントを…時に行われる夜会のエスコートだって欠かしていません。」


「だが、学園ではないがしろにしてきた。コリアス公爵はご立腹だ。男爵令嬢ごときに我が娘をないがしろにされたとな。」


「だって、側妃は認められているでしょう?現に弟のウルドは側妃の子じゃありませんか。私だけが母上、王妃の子だ。だから、リーティシアもアリスの事を認めるのが当然でしょう?」


すると、一つ年下の弟のウルドがにこやかに近づいてきた。


「兄上はアリスを愛しているのでしょう?私は生徒会でリーティシアと一緒に仕事をしてきました。そして、事あるごとにリーティシアに愛を囁いてきたのですよ。でも、リーティシアは わたくしは婚約者のいる身ですから と…。婚約解消を聞いて公爵家に出向き、コリアス公爵に改めて申し込んだのです。どうかリーティシアの婚約者を私に変更してくださいませんかと…コリアス公爵は私の目の前でリーティシアに そうウルド王子は言っているが、お前はどうなのか? そうしたらリーティシアが、わたくしは構いませんわ。お父様の命ならば。と、だから私は でしたらOKという事でよろしいですね と承諾して貰いました。この王国の王妃はリーティシアしかいない。でも、国王は兄上でなくてもいい訳だ。」


何を言っているんだ?この弟は…


「私は王妃である母上の唯一の息子であり、王太子だ。私しか国王になることはないだろう。」


母であるマリア王妃が姿を現した。


「デール。王妃はこのアレス王国の顔なのです。優れたリーティシアこそ王妃にふさわしいのですよ。リーティシアがウルドと結婚するならば、いっその事、ウルドを王太子に変えてもよいのでは?」


父である国王も、


「そうだな。それがよいのかもしれんな。」


「冗談じゃない。父上母上、私が王太子です。絶対に国王になります。」


ウルドがにんまり笑って、


「それでは猶予を与えればよいではありませんか。私とリーティシア。兄上とアリス。どちらが未来の国王と王妃にふさわしいか。これからの行いを見て判断してもらいましょう。」


母が頷いて、


「そうね。それがよいでしょう。三か月、どちらがふさわしいか、じっくりと見せてもらいましょう。」


父も頷いて、


「その上で判断するとしよう。」



ウルドが頭を下げて、


「承知いたしました。」


デールも頭を下げる。


「必ず父上母上に私が王太子であることを認めさせてみせます。」



デールは思った。

アリスの愛らしさ、可愛らしさ、こんな素敵な女性を皆が見たら、虜になって、彼女を王妃にと思うに違いない。


ウルドとリーティシアに負けてなるものか…


必ず自分が未来の国王になってみせる。




いつも夕食は父と母と自分と弟の四人で食べる。

側妃は夕食の席はともにしない。

それはどうでもいいのだが…


あれ?自分の分だけ、品数が少なくないか?

昨日までは弟ウルドの食事の品数が少なかった。

給仕が間違えているのではないだろうか?


「私は王太子デール。食事の品数が少ない。間違えているのではないのか?」


我慢できずに給仕に詰め寄る。

子牛の濃厚なソースのかかったステーキはデールの大好物なのに、自分の所の肉は薄いソースがかかった豚のステーキっぽいものに変わっている。

品数が少なくなったわけではなく、中身もなんだか貧しくなった。


両親の料理は豪華なまま変わらず、いままで貧しい品数のウルドの料理は両親と同じ、豪華な料理に…


ウルドがうまそうに子牛のステーキを食べながら、


「兄上がアリスがいいって変更したのです。リーティシアの公爵家は金持ちで、貧乏な我が王家に多大な寄付をしてくれていたのですよ。ドット男爵家から寄付は頂きましたか?だから兄上の食事の質が変わったのです。」


デールは叫んだ。


「どうしてそんなに貧乏なんだ?王家だろう。王家っ。」


父は頭を抱えて、


「先王が借金王と呼ばれていたのはお前も知っておろう。いまだに各貴族に借金を払っておるのだ。我が王家に収められる国民の税金から。私たちは質素に暮らさねばならん。だが…我が王妃の実家は裕福なレッドル公爵家だ。その恩恵のおかげで私と王妃は豪華な食事にありつける。弟のウルドもこの度、コリアス公爵家のリーティシアと婚約した。食事が豪華になるのは当然であろう。」


「それならば、私は母上の子ですから、私はレッドル公爵の孫に当たります。ですから。」


「身の程を弁えろ。お前は18歳。もう大人だ。この王国ではな。寄付もしないドット男爵家の令嬢と婚約するのだから当然だ。」


酷い話である。

こんな王家、他の国で見たことがない。


大好きな子牛のステーキが、ぱさぱさの豚のステーキ?に代わってしまった。

ソースのせいか味は美味かったが舌触りは最悪だった。いつもの高価な果物満載のアイスクリームのデザートも自分だけなかった。


香り高いコーヒーも、自分だけ薄い透けたようなコーヒーのような飲み物だった。

何故?こうなった。

今まで弟がそんな感じの食事だったが。側妃の息子だから仕方がないと思っていた。

その点、自分は王太子だし、恵まれていると。


自分の祖父はレッドル公爵家なのだから、自分だって豪華な食事でもいいのではないのか?


部屋へ戻れば、今まで使っていた豪華な天蓋付きのベッドもなくなっていて、見るからに硬いベッドに変わってしまっていた。

アンティークの香り高い調度品も、なんだか古くて穴が開いた怪しげな調度品に変更されていた。


「私の部屋の家具はどこへ行った?」


メイドに聞いてみれば、


「国王陛下のご命令で、ウルド様の部屋へ運びました。ウルド様の部屋の家具をデール王太子殿下の部屋へ運び込みました。」


私は王太子だぞ。なぜに王太子がこのような目に。


一週間後、夜会が開かれるとあって、ドレスをアリスにプレゼントしなければならない。

アリスの家も貧乏なドット男爵令嬢。前の時にプレゼントしたドレスは質に流してしまったと言っていたので、新しいドレスを作ってやらねば。


王宮の財政部の室長に会いに行き、


「アリス・ドット男爵令嬢へ夜会用のドレスを贈りたい。その金をもらいたいのだが。」


そういえば、室長は顔を歪めて、


「王太子殿下の毎月渡されている生活雑費から捻出してくださいますようお願い致します。」


「私の婚約者へのドレスだぞ。なぜ、私の生活雑費から出さねばならん?」


「アリス様はまだ結婚しているわけではないのです。我が王宮の財政は火の車。今まではコリアス公爵家のご寄付がありましたので、多少のお金を出していましたが、王太子殿下におかれましてはそれがなくなりましたので。ドレスは王太子殿下の生活雑費からお願い致します。」


オーダーメイドにしようと思っていたドレス。だが自分の金から出すのであれば、金がない。

仕方がないので、学園でアリスに会った時に。


「すまない。アリス。今度の週末の夜会のドレス。街へ買いに行こう。そしてできるだけ安く済ませてほしい。」


アリスはええええっ?と叫んで。


「どうしてどうして?今までオーダーメイドにしてくださったではありませんか。そのドレスを売るおかげで我が男爵家は助かっているのですよ。」


「財政部が金を出してくれないのだから仕方ないじゃないか。」


「世の中、お金、お金なのです。それなのにっ。あんまりです。」


アリスはわぁわぁ泣き出した。泣きたいのはこっちだ。自分の生活雑費から出すなんて、ただでさえ、少ないのに。


そこへ、ウルドと共にリーティシアが歩いてきた。


リーティシアは泣いているアリスに、首を傾げて、


「どうかなさったのですか?泣いているようですが。」


デールにだって意地がある。


「何でもない。」


「そうですの。ああ、話の続きですが。」


にこやかに、ウルドに向かってリーティシアは話しかける。


「今度の夜会のドレス、ウルド様の服と色をお揃いに致しましょう。我が公爵家の御用達の店で一緒に作りません事?」


「それはいい。そうしよう。」


デールは思い出す。


そういえば、リーティシアとたまに夜会に行くときに、一緒に服とドレスを作ったりしたなと。その支払いはコリアス公爵家が支払ってくれた。


リーティシアは、


「胸元をエメラルドで飾って、ドレスはグリーン系に致しましょうか。」


ウルドはリーティシアの胸元を見つめ、


「さぞかし、似合うと思うよ。リーティシアの胸元を飾るエメラルド。なんて素敵な。」


エメラルドだって?なんて贅沢なっ…


アリスが縋って来て、


「私もエメラルドでドレスを飾りたいですっ。」


「いやいやいや、どこにそんな金があるっ???」


「だって王太子殿下なのでしょう?」


「王太子だって貧乏なものは貧乏なんだよっー-。お前の家が貧乏なのがいけないんじゃないか。」


「えええっ?私の家はもともと、貧乏なんですっ。いまさらそれを言うなんて。」


呆れたように、リーティシアは、


「今までわたくしの婚約者だから、色々と便宜を図って参りましたわ。王宮では我が公爵家の寄付のお陰で上等な物を食べ、上等な部屋で寝起きをしてきたはずです。毎月、王太子殿下の使えるお金だって、ある程度、こちらで融通してきたのですのよ。これからはウルド様がわたくしの婚約者なのですから、わが公爵家はウルド様を支援致しますわ。」


ウルドはちらりと自分の方を見てから、にこやかにリーティシアを見つめ、


「ありがとう。愛しのリーティシア。嬉しいよ。」



どうしてどうしてっ??自分は愛するアリスを側妃にと望んだだけなのに、どうしてこうなった???


夜会はさらに散々な物だった。


遠国のマディニア王国のディオン皇太子夫妻の接待をせねばならず、しかし北の遠い国のマディニア王国語は難しく、どう接待したらよいか解らない。


「まるぃせうtぃえうrてれおいsぃえるえ」


ディオン皇太子から挨拶をされた。

まるで何を言っているのか解らない。


「lりえうというえれおてーうぇて」


ディオン皇太子の妃のセシリア皇太子妃からも挨拶された。

余計に何を言っているのか解らない。


アリスは自分の隣でにこにこして、


「凄い美男と美女ですねぇ。目の保養だわ。私、アリスって言います。よろしくお願いします。」


アリスが普通に話して挨拶していた…


「触っていいですか??」


セシリア皇太子妃の美しいドレスをぺたぺたと触って、


「わぁ、素敵なドレスですねぇ、うらやましい。宝石の一個でも売ったら、夕飯が豪華になりますよねぇ。一個もらえませんか?」


ア…アリスっ。恥ずかしいからやめてくれっー――――。



ウルドがリーティシアと共に現れて、


「sぃえつえそいれlててぃ」


「あぇあいるえあつえおあうrぁいえて」


二人は普通に、自分の解らないマディニア王国語で話しかけていた。


父である国王と母である王妃が背後から現れて、


「かうてしあるえつえしうてい」


「あlていうろいえsぃてへんて」


二人も普通にマディニア王国語を…


いや…マディニア王国語は難しくて難しくて、自分はちっとも勉強しなかった。


アリスはセシリア皇太子妃のドレスに着いている宝石をおねだりしているし…

あああああ…終わった…確実に終わった…




結局、色々と金がないことが続いて…

三か月後、デールは王太子から外され、ドット男爵家に婿として入ることになった。

王太子はウルドが新たになり、リーティシアと結婚し、彼女は王太子妃となった。



男爵家は貧乏男爵家で、小さな領地を持っているが、そこの領地でとれる野菜を売る仕事で生計を立てている。


デールはアリスと共に王都の中央広場で、領地でとれる野菜を売る仕事をしていた。


「サツマイモにジャガイモ、芋なら我がドット野菜店で買うのが美味いよ。」


「いらっしゃいませ。お芋はいかがですか?」



自分は王太子になる器ではなかったのだろう。


相変わらず貧乏で、アリスは金金お金が欲しいと騒いでいる。


アリスと付き合っていた頃に感じていた、アリスが可愛くて可愛くて愛しくてという気持ちは、今やどこかへ吹っ飛んでいってしまった。


ああ…どうしてこうなったのだろう…













わたくしに心が無いと…?

わたくしはデール王太子殿下を愛しておりましたのよ。


もう、狂おしい程に、婚約者と決まった時から…


初めて王宮で紹介されたデール王太子殿下を見たときは、まだわたくしは12歳。デール王太子殿下は13歳。


ああ…なんて美しくて凛々しい。

わたくしだけの王子様。


天にも昇る気持ちでうっとりと見つめていたら、デール様が手を差し伸べて下さって、


「一緒に庭を見に行こう。」


そう言って、庭を案内して下さいましたわ。


わたくしは幸せだった。

お父様に頼んで、デール様が王宮で豪華な暮らしができるように、王家への寄付金を増やして貰った。


わたくしだけの王子様。

美しく気高く、それはもう、恵まれた生活を送って貰いたいと思ったから。


それがアリスという令嬢に出会ってからのデール様は…

アリスの方を大事にして…

わたくしとの付き合いはいかにも義務という感じで。


茶会で一緒にお茶を飲んでも、夜会でダンスを踊っても…

心ここにあらず…アリスの事ばかり考えていて。


側妃にですって?


わたくしだけの王子様のはずが…アリスを側妃に?


それは国王陛下は側妃を娶ることを許されてはおりますけれども…

わたくしは嫌。他の女とデール様を…


弟のウルド第二王子殿下がわたくしの事を好きだという事は解っておりました。

ウルド様とは王立学園の生徒会で共に仕事を致しましたし、一緒にいる時間が長かったので。


ウルド様から婚約を申し込まれた時、わたくしにはデール王太子殿下への憎しみしか残っていなかった。


彼を転落させたい。

彼を見下したい。

彼を貶めたい。


わたくしを裏切ってアリスに心を移した彼なんていらない。


徹底的にデール王太子殿下を破滅に追い込むことにわたくしはしたのです。


まずはお父様に頼んで、王家に圧力をかけてもらいました。


ウルド様に婚約者が変わったのですもの。

ウルド様に便宜が図るよう、今まで生活の面で便宜を図っていたデール様への支援を一切やめました。


貧乏な王家。借金まみれの王家。


面白い程に経済的に困窮するのが解って…


マディニア王国のディオン皇太子殿下夫妻が夜会に来た時も、マディニア語で話して下さるようにお二方に頼みましたわ。


あの方々は我がアレス王国語なんて、普通に話せる程、各国語に精通しております。

でも、見せつけたかった。


わたくしがいかに優れている女性であるかを。

王立学園でも学年で1位の成績を収めているわたくしの力を。

見せつけてやりたかった。


だって悔しいでしょう?


わたくしだって愛していたのよ。

デール王太子殿下を…心から…


悔しい…すごく悔しい。



着ているものも、生活も…何もかも王太子としての素質はないとみなされて、

王太子はウルド様へ変更になりましたわ。


デール様はドット男爵家に婿養子に入り、王都の広場で野菜売りをしていると…

アリスと結婚して野菜売りをしているとお聞きしましたわ。



じわじわと、さらに圧力をかけて、男爵家の商売が傾くように致しましょう。


借金まみれになってから、わがコリアス公爵家に泣きつくように…

わたくしに泣きつくように…


じわじわと真綿で首を絞めるように致しましょう。


わたくしを裏切った貴方がいけないのです。貴方が…アリスなんかに現を抜かすから。

デール様。

わたくしは貴方の事を愛しておりましたわ。





雪の降る寒い日でした。


空がどんよりと曇って…


わたくしは馬車に乗って、教会へ慰問へ出かける途中でしたのよ。

そこへ道をふさぐ二人組が…



護衛にとらえられて喚く二人はデール様とアリスだという事が馬車の中から見て解りましたの。


馬車から降りてわたくしは、護衛達に捕まってこちらを見ている二人に向かって、


「何か御用ですの?デール様。」


「リーティシア。私が悪かった。」


デール様は涙を流しながら、


「もう、食べる物もない。私とアリスは冬を越せない。金を貸してくれないか?君しか頼りになる人がいないんだ。」


アリスも涙を流しながら、


「お願いです。リーティシア様。お腹がすいて。」



「わたくしは、傷ついていたのよ。貴方がアリスだなんて女に現を抜かしたときに…わたくしは貴方を愛していた。貴方と共に王国の為に生きていきたかったのに。」


涙が流れる。


そう…ボロボロにして地獄に突き落としたかった。

自分を裏切ったデールを。

自分からデールを盗ったアリスを。


でも…わたくしは…


やせ衰えたデールを見たら、心が揺らぐ。

アリスなんてどうでもいい。でも、デールの事は愛していた。今もきっと愛している。


「アリスを殺しなさい。そうしたらわたくしは、貴方の元へ戻るわ。貴方は王太子に戻れるかもしれない。」


愛しいデールに近づいて、その耳元でそっと囁く。


デールに突き飛ばされた。


「私はそこまで落ちてはいない。アリスを殺してまで助かりたいと思わない。」


「それでも、元婚約者に恥も外聞も無く、すがる恥知らずなのは変わらないじゃない。」


立ち上がるとリーティシアは金貨が入った袋を、デールに向かって投げつけた。


「消えて。もう二度とわたくしの前に現れないで。」


「君が圧力をかけて、男爵家の事業をつぶしたのは解っている。」


「それならこれは慰謝料よ。消えてっー――。もうわたくしの前から消えて。」



胸が痛い。破滅させた…自分を頼るように。でも…

心の傷をえぐっただけだった。


「さようなら。」


デールとアリスはその場をよろめきながら立ち去った。

金貨の入った革袋を大事そうに抱えながら。


雪が酷くなる。


今日の教会の慰問はやめておこう。

この雪じゃどのみち戻った方がよさそう…



王宮に帰れば王太子のウルドが待っていてくれて。


「この雪で戻ってきたのは正解だ。積もりそうだからね。」


「そうね…」


「私では駄目かな…君の心はまだ兄上に…」


「護衛から報告を受けたのね。」


「愛しているよ。リーティシア。私には君だけだ。兄上の婚約者であった君の事をずっと思っていた。ずっと…今でも変わらず…」


ぎゅっと抱きしめられる。

ウルド王太子殿下の気持ちはとても嬉しい…

それでも、わたくしは…

心にガラスの破片を突き刺したまま…

王太子妃として、先は王妃として生き続けるのでしょう。


傷つけられた方は一生忘れないのよ。


さようなら…デール様…








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― 新着の感想 ―
[良い点] デールが殺せってそそのかしに乗るほど愚かでなかった事。 [一言] いつかウルドがリーティシアの心を溶かせますように。
[良い点] 終わった恋は長く残るよ…けど、いつかは思い出に出来る!はず!! ちゃんと自分の恋に幕を下ろせて偉かった…いっぱい泣くといいよ…とか思いつつ、ウルド、ここで存分に泣かせないといつまでも痕を残…
[一言] リーテシア様も余計な事しちゃったなあ・・・ ただの貧しい男爵で終わらせてれば、接点無しで今後再会して苦しむ可能性も無かったでしょうに。 デール元王子っておバカさんだけど、一応それなりに教育…
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