61 追跡
「大丈夫ですか?」
「……うん…大丈夫……ツムギは…?」
伸ばされた手を取り、立ち上がるティアル。しかしふらついて倒れそうになっている。
「それをね、大丈夫とは言わないんだよ、《回復》流れた血は取り返さないから安静になさい。…さて……どうしようかな……」
拐かされかけた時にナイフでも当てられたのか、ティアルの首には切り傷があった。
気に留めていなかったティアルは、ああ……といった風に今さら気づいた。
そして二人の視線は、ティアルを拐った者に向いていた。
黒ローブの怪しい男。簡素な赤い糸で刺繍がされている。
「………魔力が違う…」
「…………え?」
人の魔力は一人一人異なっている。魔力は人間や魔物には見えず、エルフや魔族などの言によれば、人は魔力を持ち、それを身に纏うようになっているそうだ。人間の魔法を極めた者や、普通の亜人には、身に纏う魔力の量が分かる。
亜人の中の魔法を極めた者は、稀に魔力に色が見えたり、さらに上の者は魔力の種類まで判別出来るそう。
つまり、魔物<人間<亜人<人間(魔法を極めた者)<亜人(魔法を極めた者)<その上(大陸滅ぼせるレベル)
まぁ、魔力を判別出来る者=化け物 という認識で良い。
「魔力が、火を放った者と違うんだ……」
「っ……組織的な犯行………ですか…」
「……あっちかな。僕に捕まっててね。」
ティアルを片腕に抱え、水の玉を作り出し、その上を跳ぶ。
言っておくが、この世界でいうとこれはヤバいのだ。
人一人を片腕で抱えられる筋力と、魔法でもトップレベルの人間にしか出来ない無詠唱とコントロール力、魔法で作り出した物体の上を跳ぶ身軽さと飛躍力。
所謂化け物だ。
ちなみにティアルを拐っていた黒ローブは近くに来たアーテルに託している。
「ど、こ、か、な~?」
「………(そんな呑気にしてる余裕無いと思うんだけど)。」
「そういえば、ティアル様ってずっと城に引きこもってましたけど、二年位前かな?どうしたんですか?」
「え?ああ、っと……突然、父上の補佐か、その辺りの人間に声をかけられたんだ。髪が黒くて、アーテルを思い浮かべるような人だった。……周りが何を言っても、自分には関係ないって、僕に言ったんだ。極論だけどさ、僕の、前の荒んでいた心にはけっこう響いたんだよね。」
少しの微笑みを浮かべながら、ぽつりぽつりと話す。
「名前は教えてくれなかった。けど、守るということを教えてもらったんだ。妹を守れと僕に諭すあの人は、ちょっと寂しそうだった。」
「…………そう、か……」
水の玉の上を跳び、二人は森に着く。
「………本当に此処に居るの……?」
「うーん……。マークした魔力が此処にあるから間違いは無いと思うんだけど。……もう死んでるかな?」
んー、と首を傾げながら思案する。
二人が居る森は「森林迷宮」と呼ばれる、入ったら最後、二度と出られないと言われる森である。
その理由は魔物が強かったり木々にトレントが混ざってたりするからなのだが、森に魔女が住んでいる、この森で死んだ者が怨霊となりやって来る者を呪っている、と色々迷信がある。
「じゃ、進もうか。」
意気揚々と森の中に入ろうとするノーマ。
「大丈夫だよ。いざとなったら跳べば良いんだから。それに奥の手もあるし。」
心配するティアルの心を読んだかのように笑う。そこには何の焦りも無い。ただちょっと……森を燃やし尽くすと言うようなオーラが出ているだけだ。
◆◆
森の中をうろつく二人。
「………………本当に此処?」
「うん。マークしたのがあるのは此処。」
「……………それにしてもこれ、どうにかならない?体が冷えてくるのだけど。」
ティアルが指したのは自分の下のふわふわと浮いている水の玉。ノーマが街で出していたのとは違い、ティアルの身長程の大きさである。
「?……ああ、はい。」
パチンと指を鳴らす。
何が変わったかは見てよくわからないが、水の温度が変わったのだろう。ティアルの表情が明るくなっている。
「あと、さっきから全然魔物に遭遇しないんだけど……」
「うん、そりゃあ僕が見た瞬間に殺ってるからね。王子様には指一本触れさせませんよ。」
「……………僕が男で良かったね。」
本来なら男でも惚れるような笑みなのだが……さすが王子と言うべきか、美形への耐性がついている。
「まぁ、それがどういう意味かは自分でも分かっているんだけど、ねっ」
一直線に落ちてきた鳥を一閃する。………手刀で縦に綺麗に真っ二つだ。
「ん、居たね。………仮面?」
ノーマが目を向けた先には、木にぶら下がっているローブ姿の人が居た。いや、木に掛けられたロープの輪に吊るされていた。
よく見れば、他の木にも、同じように人が吊られていた。全員、同じローブ姿だ。
「ン?新手が来タか?」
ノーマがぱっと後ろを振り返る。
そこには、鬼の半面を被った少年が立っていた。
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