52 物語と日常
「ある女の子が居た。その子はハーフで、故郷では忌み嫌われた存在だった。しかしその母の人望もあり、避けられながらも一般の生活を送る事が出来た。
その子に流れる二つの血は、両方とも魔法が得意な種族の血だった。」
「何度も言うが、これはある物語だ。」
念押しする男はまた話し出した。
「その子の故郷に、奴隷商が訪れてしまった。彼女は故郷の皆を守るため、魔法を放った。一度も使った事が無い『闇魔法』を、使ってしまった。
闇魔法は暴走し、守る筈のヒトを傷つけた。結果、敵対者である奴隷商は全滅。だが、彼女は仲間を傷付けた。自分が忌み嫌われる存在であっても触れ続けてくれたヒト達を、殺した。
……その中には彼女の母親の姿もあった。」
「「っ…………」」
話す男の前に居る少年達が息を飲んだ。
それでも構わず話し続けた。
「彼女は悔い、嘆き、苦しんだ。自分が居るせいで母は死んだ。優しくしてくれた人達も死んだのだ、と……
故郷は彼女を追い出した。母親が居たからこそ彼女は住むことが出来た。その母親を自分で殺した彼女は、無気力に出ていった。引き留める声にも気付かぬまま。」
話していた男は立って告げた。
「今日は此処までね。続きが気になるのならまたおいで。本題には入ってないけど、ごめんね。明日、また話してあげる。」
紙の束が置いてある机に戻り、何かを書いてツムギに渡した。
「僕は此処から動けないからこの紙を教会に持っていきな。名前の届け出を出すときに役立つ。」
「ぁ………はい………」
「ユテアも、城に戻りな。お兄様が待っているよ。」
俯いていたユテアがぱっ、と顔をあげ、
「忘れていましたわ!」
「あ、今のは他言無用ね。ノアにも秘密だ。」
「「わかりました」」
「また明日おいで~」
「「は~い」」
ニコニコと手を振り返しながら扉を出ていった子供達。その足音が、騒がしい一階ギルドの中に消えていったのを確認すると、
「出てきたら?話を聞かない様にしてくれたのはありがたいけどさ、何か嫌だから出てきてよ。」
ノーマがそう言うと、部屋の隅に人影が出てきた。
「アヤノは居ないよ。問題を片付けに行ってるから。それとも、君の属する組織が問題なのかな?」
「…………流石はギルド長と言うべきか、言わぬべきか。俺に気付いたのは褒めたい所だが、もう一人居る事に、気付かないとはな……」
「んーん。気付いてるよ。どう反応するか気になっただけ。それとも、裏ギルドの御使いさんはそんな事も分からないのかい?」
人影は舌打ちをして、
「一週間後、会議がある。」
「了解した。卿にこれを。…………胃薬。最近胃が痛いって言ってたし。僕が作ったから効果は絶大。一日一錠な。」
「うん分かった。ありがとう。」
ノーマが取り出した紙袋。それを後ろから伸びてきた手が取る。
「じゃあ会議で会おうか、御使い兄弟さん。」
部屋の中の人影が二つ、どこかへ消えた。
ノーマは思案する。
『会議でわざわざ話す内容。十中八九、王女と王子の事だろう。デューアはちゃんと考えてるというのに……せっかちな連中め………
どう発言すべきか………別の僕が考えてくれるだろうから……ええと…
ギルドの会議もあるな。今回はランクの内容を決めるか……Sランク昇格希望が……うわ、面倒。
……他のSランク三人の推薦を取ること、今まで受けた依頼の内容……僕の承認……よし、こんなもんか。』
「失礼します、ギルド長。少々問題が起きまして………長を出せと受付嬢を脅しています……」
部屋の外から響いた声に頭を現実に引き戻されたノーマは今日も起こるギルドの揉め事を解決するのだった。
お読み頂きありがとうございます。




