30 王の依頼
「っつう……思いっきりやっちゃって…………報告に行かないといけないけど………」
暗い街道の中、腕をブランと垂れる女性はアヤノである。いかにも怪しそうな黒ずくめの服装である。
口元を隠すマスク、フード付きのローブに黒い手袋までしているのだから動物に間違えられても無理は無い。
腕は痛そうだが、それを知らずにやって来るバカがいる。
………まぁ盗賊や山賊の類い、である。
「ヒャッハー!!姉ちゃん、命惜しかったら金目の物を置いてきな!!」
「……………今腕が痛くてムカムカしてんの。衛兵につき出されたくなかったら去りな。こう見えてもSランクだよ。」
「…………ヒャッハー!!Sランクだろうが何だろうが怪我していればこっちのモンだぁー!!」
明らかに動揺を見せた盗賊Bだったが、それでもアヤノに飛び掛かる。
盗賊Aの厳しい視線を受けてヤケクソである。
ヒョイ
アヤノはあっさりBをよけ、足払いをする。
「いったい!!痛いでやんす!!何でオラばかりこんな目に合うんでやんすかー!?」
背中を思いっきり打ち、のたうち回る。
アヤノはその姿を、修行はじめの弟に重ねていた。
「それは君が「バカ」という部類に入るからだね。仮にもSランクに手を出そうなんて君が入る部類しかやらないよ。聞いた事はないかい?多くのSランク冒険者には師と呼ぶ人物がいてねぇ。皆同じ人を指しているのだよ。」
「………ヒィィィィ!!おかしらぁ!!………お頭?」
「ンフフッ………逃げたよ。それにしてもあの青年の顔には見覚えがあるねぇ…………はて、どこだったか………」
唸るアヤノの横では泡を吹いて倒れるB。
「おっと……………気を失ったか……運ぶのは面倒だが………報告ついでに見習いとしていれてやろう。素質がある。」
ウキウキしている心を隠してアヤノは無表情でBを引きずる。
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「遅れました、宰相様。処分は無事完了いたしました。戻る道中で素質がある者を見つけましたので部隊に見習いとして入れたいと思います。………報告が遅れていまいましたこと、心から謝罪申し上げます。」
「……………うむ。理解した。すまないが、私の上司が依頼があると言うもので、向かってくれないか。」
「……………承知しました。」
アヤノは淡々と報告を済ませ、宰相の「理解」の言葉の後に放たれた一言に驚きながらも、言葉を返した。
宰相の視線が机上の書類に行った事を確認し、アヤノは音を立てずに部屋から出ていく。
堂々と城の廊下を歩くアヤノを誰一人気にしない。アヤノが気配を消しているから。魔法でも呪式でもないソレは技術で、独学である。
………取りあえず凄いということが分かれば良いのである。
それで、ツカツカ歩いているアヤノはお馴染みとなった黒ずくめの格好で豪華な戸の前に来た。
耳をすませ、居るのがデューア一人だと確認すると音を立てずにドアを開け、デューアが気付かない内に隣へ立った。
「………護衛も付けずに公務か………それでも王か?」
書類の内容を見ながらボソッと呟く。
「うわああああぁぁぁぁ!!!???」
「鼓膜が破れかけました。何の御用でしょうか、王よ。筆頭を呼び出すモノとは?」
「……姉…………お前か。驚かせるな。」
「フッ。少しは警戒したらどうでしょう。ついこの間刺されたばかりなのですから。」
「……………呼び出した理由だったな。次の任務は護衛だ。私のな。」
「承知。」
アヤノはデューアが思いっきり話題を変えた事に気付きながらも、後に出された任務に短く答えた。
「………………普通もうちょい聞くよね?何で承知しちゃうかな?別に断ってくれても良かったんだよ?ジークが言うから仕方なく依頼したんだよ?冒険者として依頼しても良かったのに?それだと貴族がうるさいって?もうめんどくさいー!」
「口調が崩れております、王よ。今、此処におりますのは暗影の筆頭でございます。」
「………分かっている。鬱憤が貯まっておるのだ。………………アヤノに変わってくれないか?」
「………………」
アヤノはデューアの言葉を聞いてため息を吐きながらも指をパチンと鳴らしいつもの姿に変わった。
「仕方ないなぁ、デューア?公私分けないと王モードの時に崩れるよ?それにね?私筆頭なの。分かってるよね?こんな姿隊員に見られたら私筆頭出来なくなる。無職になる。」
「良いじゃん………!無職になってずっと僕の傍にいて………!暗影部隊なんてやらないで………!姉さんの約束だって分かってる………!でもね……僕は………僕たちは……姉さんが心配なんだ………!だから、だからぁ………」
デューアはアヤノの服にすがり付く様に掴み、顔を伏せる。
そんなデューアをアヤノはゆっくりと撫でている。
「うん。……ごめんね?でも……私はこれを続けなくちゃいけない。デューア達の気持ちは受け取ってる。ありがとう。…………任務は引き受ける。姿は見せておいた方がいい?」
「…………うん。……………僕の傍に居て。ちゃんと見えるようにして。じゃないと………怖くてしかたない………!」
デューアは暫くアヤノに抱きついていたが、ノックの音でハッとなり、目を擦って慌てて椅子にかけた。
アヤノもいつの間にか黒ずくめに変わり、デューアの目を優しく拭いて横に立った。
アヤノが隣にいる事を確認して、デューアは言葉を発した。
「入って良いぞ。」
その声は少し高く、震えてはいたが、訪問者が慌てていたため、気付かれなかった。
「失礼いたしますっ!!王よ!!問題が発生いたしました!!すぐにでも第四の庭へお越しください!!」
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