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ここって部活でしたよね?~怪異にスローライフを粉砕されたんですが~  作者: ゆうみん
第壱章 夢見る少女と幻想の島~side:K chapter1
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第壱話 理解に苦しむ幕開け

 

 ああ、ついに、ついにたどりついたぞ!! 楽園、江の島に!! 

 私、高野も大歓喜ですよ!!!


 まあ、今は夜だけどね!! 修行は朝に終わったのに、移動やら準備やらにもたもたしてるうちに夜になったけどね!!!

 まあ出発した時点で4時半だもんね!! 夜の浜辺はロマンチックで不気味だぜ、はっはっは!!


 ……しかしここ、楽園は言い過ぎにしても、いい観光地だ。あんな用事さえなければ。


 まあ、我々は非常にシリアスな事情を抱えてここにきているのだから楽園じゃなくて地獄になるとは思うんだが。


 とにかく、まずユイちゃんという子を探さねば。手がかりは支給された写真一枚というね、まあ所謂ハードモードなので厳しい。はあ、私がたった一言、「いい子そうじゃん」って言ったというのを理由にされ、人探しを押し付けられて、みんなは宿泊先でBBQ。羨ましいなぁ……楽しそう。


 空腹と、ふと思い出した皆の笑顔にかなりイライラしつつユイちゃんを探し続ける。それにしても、あの子は本当にここにいるのか?


 これ厳しいんじゃないかな……なんて私が思ってふらふらと水族館付近の浜辺をうろうろしていると、「あなたは海が好き?私は、海は好きよ。」と、一人の少女が声をかけてきた。え、何こわい。


 ……この子はまさしく写真の少女ではないか。なんというイージーモード。


「私も海は好きよ。まあ海の生き物が好きというか……」とかなんとか言いつつぴトランシーバーのスイッチを入れて「今水族館近くの浜辺にいる」と小声で言った。


「どうしたの?」と彼女が言うので「友達とはぐれちゃってね。でも今ここにいることを伝えたのよ。後でご飯を一緒に食べることになっていたのに……はぐれたからご飯抜きになりそうになっちゃったのよね……」


 そう半泣きで半分事実を伝えると、

「へえ……おなかすかないの?」なんて返してくる。


 なんて純粋な瞳をしているんだろうか。


「あなたこそ、ずっとここにいるみたいな顔してるけどおなかがすかないの?」と言うと「あたしを守ってくれるおばちゃんはね、いつもおいしいご飯を出してくれるんだけど、いつも絶対おなかいっぱいにならないんだ……」と悲しそうな顔で言う。


「そうなのね。」と私が言った瞬間、唐突に背後から乾いた音がした。

『え?』と理解ができないという表情のユイちゃん。その視線の先は、私の胸元。


 私がそこに目を向けると、赤いしみができていた。触れる。手に赤い液体がつく。


 ……地面を見ると、何かがぽたぽたと滴り落ちていて……。ああ、私は撃たれたのだ。

 そう認識した次の瞬間、今まで体験したことのないほど壮絶な痛みが右胸を襲った。


「……っっぁあああ!!!! ああああぁぁぁああッッッ!!!!!」

 いきなり自分の身を襲ってきたあまりの痛みに絶叫した。待ってくれ、全ての展開が早すぎる。私には理解できない。


 後ろを向けば、そこには、銃……それも、高火力なショットガンを手にした、近所にいそうな感じのオバサンが立っていた。……討伐対象、精霊化した人間。みんなで排除しなければならない相手。


 おいおいなんなんだこのクソババア精霊とかいう名前を冠しているなら実銃撃つんじゃねえ! 魔法でも使え、いや使うな! ここ日本だぞ。ああ、3発も撃ち込みやがって……クソッ!

 なんてふざけたことを思っていたが、息が少し苦しくなってきた……視界がかすんできた。ああ、

 ああ、痛い。痛い痛い痛い痛い痛い!!!!


 どうして、どうしてこんなにすぐに命の危機に瀕することになったんだ??理解できない。


 当たっちゃいけない場所に弾が当たったのか、呼吸が苦しくなってきた。


 弾の当たったところからの出血が止まらない。苦しくてせき込むと、ごふ、と喉が音をたてて、空気と共に大量に口から血を吐き出した。

 ああ、血を吐く……呼吸困難……間違いない、ああ、呼吸器をやられたんだな、ああ……


 ぐす、と鼻をすする音がしたので、思わず振り向いて後ろを見ると、ユイちゃんが震えている。「お、おばちゃん……ひどいよお……」と呟いて泣いている。


「あなた!! ユイを誑かそうったってそうはいかないわ!! この子を攫って好き放題しようとしたんでしょう!!?? 無駄よ!! この子に食われてしまいなさい!!」

 そう叫ぶ声の持ち主は、見るまでもなくあのオバサンだろう。


 ……なんなんだ、こいつは。異常すぎる。控えめに言ってキモイ、きもすぎる。


「やめて、おばちゃん!! この人には、私が自分で声をかけたの!」

 とユイちゃんが言ってくれたが、


「それならなおさらこいつの血を吸いなさい!あなたの身が危ないのよ!」

 とおばちゃんはキーキー言っている。なんだこれは。なんなんだ、これは……


 いうまでもなく、このババアが今回の目標怪異の精霊化した人間だろう。面倒だ。


 というかここまでハードだとは聞いてない。難易度はちゃんとイージーかノーマルにしたよな?まだ怪異退治初心者だぜ?

 ……っておいおい、その銃こっちに向けんなババア。まだ死にたくないんだが。


 しかし、本格的にヤバい。何がって、私の命が、だ。ピンチだ。あーこれは死んだかもしれない。どうしよう。ああ、もうふざけたことを考えてる場合ではない……。ああ、い……意識がヤバくなってきた……。


 呼吸がどんどん弱くなっている。ああ、病院行きたい。でもこのままだと追撃されて始末される……。

 これまでたくさんの人が死んだというが、ほかの人々も、これほどまでに理不尽に訪れた死を苦痛を味わいながらゆっくり受け入れていっただろうか?ああ、もう何も考えたくない。痛い痛い痛い痛い……。


 ってか、推しはこんな苦痛を味わいながら死んでいったのか?


 ……いや、でもまだ好きなアニメは最終回放送されてないしあのゲームのエンディングも見てないし……。そう思ったので、イザヨイを使って一度ここは襲撃をかわすことにした。ああ、ああ、でも多分、あの時連絡入れたみんながすぐに来なかったら死ぬけど。


 使い方……修業はしたけど、見た目が銃であるからか、人型の的を狙うときに手の震えが止まらなかったのが最後までなおらなかったのに。こんなに、本当に人間みたいなの相手に引き金を引くなんて……できない。できるわけがない。ああ、ああ……


 ……ちなみに私が撃たれてここまで1分も経っていない……。

 まだ1分も経ってないのに、ここまで状況は最悪だし、消耗も激しい。


「私は何もしてないのに……話しただけなのに……!私にはまだ、未練があるのに!!」と思いながらスイッチを押し、リボルバー型のイザヨイを取り出す。そして、手早く弾を込めて、構えた。決まった……!


 ……けど、やはり手が震える。ああ、数日前まで一般人だったんだ、私は。当たり前だ。余程異常でなければ、一般的な日本の女子高生は、人に銃を向けて、相手を殺すつもりで引き金を引くことなど……できるわけがない。「できるわけがない」。


 相変わらず呼吸は苦しく、撃たれた部分は激しい痛みがあり、視界はかすみ、体は満足に動く気配がない。さっきイザヨイを出した時、きっと、この身体に残されたほんの少しばかりの酸素の多くを使ってしまったのだろう。もうイザヨイを撃っても、きっとこの身体じゃ逃げられない。


 ああ、なら、もう、殺してしまえばいい、道連れにしてしまえばいい、と私の中の悪魔が囁く。

 ああ、そうしよう、そうしよう……私は悪魔と共に歩もう、そしてそのまま地獄に落ちてしまえ……。


「フン、私を撃てるもんなら撃ってみろ!!」

 ああ、実銃は怪異に効かないんだろうね……でも、この銃は特別なんだ。みんなを守るためだ、撃たないと、撃たないと、排除しないと……これ以上、町の人が死んだら、死んでしまったら……いやだ、こんな苦しみを味わわせてやりたくは決してない。


 ……震える手を必死に抑え、なんとか撃とうとした瞬間、

「うっっがああああぁぁぁあああああああああああ!!!!」

 とオバサンの悲鳴が。


 何かと思ったら……「おお、いたいた」なんて言って藤川が出てきて、そのあとに大立もついてきた。

 ああ、仲間がいるって、こんなに素敵なんだ。コワかった。孤独はここまで心をむしばむのか。


 安心したからか、緊張の糸が切れて……身体から力が抜けて、その場に崩れ落ちた。


「さっすが先輩、当てるじゃん……」と、ぼそっと大立が言ったので、おそらく、あのスナイパーライフル型のイザヨイで、今この場にいない志先輩がそこのオバサンを狙撃したんだろう。


「おい、……しっかりしろ!! どうしてこんなことになったんだ!! おい、高野!!! おい!!!!」

 ああ、藤川のやつが私を呼んでいる。その後に大立もこちらに向かってああ、でも、もう全然聞こえない。何も感じない。感じられない。


 手足が冷たくなっていくのを感じる、ゆっくりと死が迫ってくる……ああ、こわい……いやだ……ああ、でも、最後にあの子に謝らなくては……。


「ユイちゃんであってるよねーー? ユイちゃーん、怖がらせてすっごいごめんねーーーー!!!」


 と声の限り叫んで……いや、呼吸困難になっていたのだから、間違いなく声にさえなっていなかったが……そして、私は大量の血を吐いて、そのまま視界が真っ暗になって……私は気を失った。


 次に目を覚ました時、どれだけ絶望することになるかも知らずに。


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