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ここって部活でしたよね?~怪異にスローライフを粉砕されたんですが~  作者: ゆうみん
第弐章 山と電子の乙女と学園と傭兵たち~side:I chapter1
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第拾陸話 混沌とした学生生活

 

「……ん、マジで待っててくれたの?」

「まぁな。」

 僕が、終礼の終わった後に配ると言われていたプリントの受け取りを済ませて席に戻ると、レイジが本当に待っていた。


 この学校、何故か学生寮まで、電車で一駅あるのだ。

 田舎……?の山沿いにある学校だから、設計と建設の都合なのだろうとは予想がつくけど。

 だからってこんな面倒なつくりにしなくても……。


「ほら、さっさと行かないと、食堂の人気メニューがなくなっちまうぞ。」

 え、と思って時計を見れば、午後五時半を示していた。夕食まであと30分だった。


 ……僕らは大慌てで駅に向かった。


 ***


 あれから二日。特に何事もなく、学校で過ごしている。


 ……ほとんどの時間を、例の不良くん……レイジと過ごしているが。向こうの方から来るし、なんかわからないけど、悪い人じゃないし、趣味も合うから、正直一緒にいない理由がない。


 好きな漫画が同じで推しも同じ、とか最高でしかない。学生寮の食堂でもずっと漫画の話を語っている。まだあれから2日しか経ってないけど。


 そんな僕とレイジの仲良しっぷりは有名らしい。出会って3日目なんだけどなあ。


 まあいいや、次の授業はあいつと隣の席だし、こっそり話せるし!お互い化学は得意みたいだから適当に受けても大丈夫か!……などと、僕は彼と一緒に次の授業をサボる気満々だった。


 ……そんな僕の胃袋は、次の瞬間消滅することになる。浅井の口から飛び出した信じられない言葉によって。


「おい、飯田お前!! お前と例の不良っぽい二人の腐った感じの薄い本の話の設定らしき何かが書かれた手帳が図書室で見つかったって佐々木くんが……」

「ふぁっうわああああああ!!!??? ……げほ、う゛え゛っごほっ!!!!!」


 驚きのあまりにむせた。僕とレイジの?薄い本の設定だって?????


 同人誌……同人誌???腐ったって……腐ってるって、まさか……ああ、意識が。

 僕はそういう、自分でそういう妄想をしたりする趣味はないよ!?僕は、同人誌はたまに買うけど、腐った男子ではない……今のところは。いつ腐るかわからないから、あの手のは見ないけど。


 ……ってか、生徒同士のコンビで薄い本を書くとは、どこの不届き者ですか……?


 ……がくっ。

 色々考えているうちに全身の力が抜け、僕はその場に崩れ落ちた。……腰が抜けて立てない。


「飯田、飯田ぁぁぁ!!?? しっかり、気をしっかりもて!!!!!」浅井の叫び声が聞こえる。


「飯田先輩……いい人でしたよ……まあ、この手帳の存在については絶対に漏れないようにしてありますので、作った本人とどうこうってのは自分でどうにかしてくださいね。」佐々木くん、酷い。


「佐々木くん、飯田をそんなに雑に扱わないであげて……。」

 この声……青山先輩! 久しぶりに声を聞いた。


「青山先輩、どうしてここに!?」そう、浅井と同じことが聞きたかった。ナイス質問。

「ん?体育があるんだよ……」なるほどなあ……。青山先輩、体育嫌いだと聞くから少し心配。


「……あ、どうも初めまして。リョースケの友達さん達だよな。本当、俺は見た目だけだから怖がらないで普通に接してくれると嬉しいっす」……あ、そうこうしてるうちにレイジ本人が現れた。


「あ、どうも……えと、君が例の?」と、青山先輩がレイジに声をかけると、彼はきっちり言葉を返した。

「そうだな、そうなり……ます。」ぎこちない敬語……僕が女子だったら萌え死んでいたかもしれない。


「……リョースケ、その様子だとお前もこの人たちから例の噂を聞いたんだな。」

 レイジに声をかけられる。少し心配そうだ。

「……うん……死にそう……ってか立てない……」


「「「お前しゃべれるのかよ!!!普通に意識あったのかよ!!!」」」

 僕が話したことに対し、全員のツッコミがかかる。こうなるとは思っていた。


「……とりあえず、運んでやるよ……よっと。」


 ……ひょいと担がれた。もちろんお姫様抱っこではない。長い物体を持つときみたいに肩の上に乗せられている。そして、そのまま僕は保健室に運ばれてい……かない。降りるべき階段を上った。

 間違いない、屋上に運搬されている。ああ、確かに運ぶとしか言われてないから保健室に行かなくてもさっきの言葉は嘘にならないか。


 ……なんで屋上?


「ねえ……あの二人……」「ああ、例の……」「しかし、藍原のやつ……そっくりだな……」

 周りでひそひそと話す声が僕の耳に刺さる。仲が良すぎる、というのは普通に有名だから仕方ない。

 ……その中に、何か「そっくり」とか言う言葉が混ざっていたが、今はその言葉の核心に踏み込んでいい場面ではない気がするので、聞かなかったことにしておこうかな……?ああ、でも気になって仕方ない。割とすぐに追求しちゃうかも。


 そのまま、僕は運搬されていき、無事に、本来は立ち入り禁止の屋上に着いた。


 ……お互いに口を開かない。ああ、気まずい空気だ。よくあることだけどね。


「……心当たりはあるが、あいつはたぶんこんなつもりじゃなかっただろう。なにせ、登場人物は間違いなく俺とお前じゃない。よく似た、『アニメの登場人物』だろう。あいつは二次創作作家だから。」


 不意にレイジが口を開いたと思えば、とんでもないセリフが口から出た。


「ああ、二次創作ならみんなの勘違い……え、知り合いなの!!??」

「ああ……そうなるな。というか、あいつはいつも資料に飢えてるからな……少なくとも俺らをモデルにして手帳にネタを書き留めてたのは事実だと思うぞ。

 とりあえず、一回怒るぐらいはしないと。あんたにマジで被害が発生してるんだから」


 ……口ぶりからして、どうやら、それなりに親しい間柄の人物らしい。藍原は、あいつだもんな、仕方ないよな、でも締めるところは締めないと、でも締めすぎるのもな、どうしようかな、……といった感じで悩ましげな顔をしている。


「変わった友達がいるんだね」


と言うと、


「……ああ、あいつは……クソガキの時からの友人でな。」という言葉が返ってきた。


 ……待って、クソガキって何だい。クソガキって。

 大事な問題だから、いくらなんでも、今回ばかりは真面目にやってほしい……さすがに。


「……真面目に話してほしい。どうしても話したくないなら、それはそれでいいから。」


 ……きっと、彼にとって大事で、深刻な話なのだろう。人間が話を適当に流そうとする時は、だいたいは「たいくつだから」か、「聞かれたくないほど大切な内容のことだから」に分けられる。

 ……僕は、後者だと睨んだのだ。


 こうまでしてレイジの心に土足で立ち入ろうとする理由は三つあった。


 一つ目は、僕が小学生時代に見てしまった友人へのいじめがきっかけの人間不信。

 僕は、親友が親友をいじめているところを見てしまったのだ。

 他の友人と束になって、リンチしているところを―……。

 それを見た翌日から、僕は彼らと距離を置くようになり、気づけば友達がほとんどいなくなっていた。


 ちなみに、後日、彼らは仲直りしたらしい。いじめていた当人も罪を償うために頑張っていたそうだ。

 仲は無事修復できたらようだった。僕はほとんどぼっちになったけど。

 それが関係していたのかは知らないが、新作が出るたびにそのゲームで二人で遊んでいたらしい。

 結果、二人ともゲームのプロにして有名な動画投稿者コンビになった。楽しそうだった。なんで?


 ……とにかく、あれから僕は、秘密を持つ人を簡単に信じることができなくなったのだ。

 だから、信じたくて聞いた。


 ……まあ、これは正直言い訳のようなものだろう。


 二つ目は、彼個人への不信感だった。

 過去の経験もあって、どうしても不良を信じられないのはもちろんのこと、僕がこんなに悩まされている少女と知り合いなら、どうしてその活動を止めないのか、とか、僕を嵌めようとしているんじゃないかと疑う要素が多くて仕方がない。初日からあれだけ人に絡んでくるのもおかしいし、あのざわめきの中の「そっくり」という言葉が引っ掛かってしかたがなかったのだ。


 ……そして、最後は……純粋な好奇心だった。


「……どうせ、いつか話すことになるだろうしな……今のうちに話しておこうと思う。

 ……中学時代に亡くなった友人と、俺と、あいつの3人で……ずっと、ずっと遊んだりしてたんだ。……ただ、ただそれだけさ。昔の友人、幼馴染。それだけで、それ以上でもそれ以下でもないんだ。」


 悲しそうな顔で語る彼の顔を見て、僕は理解した。

 ―ああ、僕はやっぱり踏み込んではいけない領域まで土足で立ち入ってしまったんだな……と。

 好奇心で立ち入ってはならないところへ来てしまったし、他者を信じられない彼を信じられないどうこうの次元じゃない……どうしよう、傷つけてしまったんじゃないか?


「……気にしなくていい、俺だっていつか話さないといけなかった。ごめんな、俺……ずっと、あいつとお前を重ねてみてたかもしれないし……それに、ちょっと、……寂しかったからさ。」

「……悲しいのはわかるんだけどさ……。あのね、言い方がちょっとアレだから!!いろんな人の妄想がヤバくなるから!」

「誰もいないからいいだろう!?」

「いたからこうなってるんでしょうがああああ!!!!」


 と、僕が叫んだ瞬間、誰もいないはずの屋上の奥の方で山積みになっている机のあたりから、ガタッと音がした。……ああもう、情報量が多い。


 藍原が机をどけると、そこには一人の女の子がいた。

「……ああ……ばれちゃった……ごめんなさい……本当にごめんなさい……」と、ぶつぶつ唱えている。


 ……あぁ、藍原がプルプルし始めた。


 ―僕のメンタルが砕けた豆腐になるまで、あと一秒。


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