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VEGA-One of the After and Background

作者: 清水流兎

某国のとある喫茶店。エドワードは戦時を思い起こしながらテレビを見ている。テレビでは戦時を知る者たちが、コメンテーターとして出演しており、その中にはエドワードが知る人物もいる。そんなとき、戦友である研究者マナが店内に飛び込んでくる。マナには何か思惑があるようだが……。


nanaで投稿していた「AI搭載戦闘機シリーズ」の後日談的な話となります、ベガは出てきませんが。


*喫煙する描写がありますが、喫煙および未成年の喫煙を推奨するものではありません。

*大変分かりにくいかもしれませんが、誰が何と言おうと、全編ラブストーリーです。チュッチュするだけがラブストーリーだと思うなよ。


登場人物

マナ・ハナオリ 女性

27歳。人工知能に造詣が深い研究者。通称VEGAと呼ばれた戦闘機に搭載された、飛行機の制御補助AIアルファの開発者。飄々とした性格で掴みどころを見せない。我が道を行く、横暴さも持ち合わせる。一部ロマンチストな一面もあり、科学者としての知見からオカルトに手を出すことも。


マリー 女性 *マナと兼役

20代。エドワードと仲良さげな女性。小柄だが、妖艶な雰囲気を漂わせている。見方によっては幼く見えることも。初対面のはずのシルヴェスターに好意を寄せているようだが……。


エドワード・ライル 男性

37歳。喫茶店の店主、かつては軍に所属する戦闘機パイロットだった。荒々しい性格だが、人を思いやる優しさを持っている。軍を辞めてから雰囲気が柔らかくなったと言われるようになり、満更でもない。


シルヴェスター・フィーラン 男性

25歳。某国の軍関係者。上司から命令され、優秀な研究者であるマナを追っている。正義感が強く、あまり冗談は通じない。夢想家な一面も。マナとは個人的な付き合いがあったようだ。


所要時間:約30分


エドワード(N):商品でもあるコーヒーを自分のために淹れる。今日は人が少ない。常連の連中も気を遣ったのだろうか。テレビからコメンテーターの声がぼんやりと漂う。天井まで昇った煙草の煙は休みなく動くファンに巻き込まれている。


マナ:失礼するよ。


エドワード:いらっしゃい。お嬢さん、元気がいいな。だが、そんな急がなくてもこの店は逃げないぜ。


マナ:何をとぼけたことを言っているんだ。相変わらず察しが悪いな。エド君。かつての反射神経も錆び付いたのかい? 実にお似合いじゃないか。まるでこの店だな。


エドワード:おっと、本当に元気なお嬢さんだな。誰かの紹介かい? それなら、少しサービスしようじゃないか。


マナ:細かいことは後でもいいだろう。悪いが、少し匿ってほしい。奥を借りるよ。


エドワード:ちょ、おいおい、お嬢さん。さすがに困るぜ。さすがに初対面のお嬢さんを入れる訳にはいかないんだ。


マナ:ならば私は問題ないな。お邪魔するよ。


エドワード:こらこらこら、待てって!


マナ:なんだい? この手は。離してくれないか。君はたしか私のように女としての魅力が少ない者に欲情する男ではなかったと記憶しているが、好みが変わったか?


エドワード:急に来て、なにを訳の分からんこと言ってんだ。とにかく、知らない人間を入れるわけにはいかない。


マナ:君こそ何を言っているんだ。冗談なら……、ん? もしかして、君は本当に気付いていないのかい?


エドワード:何にだ。


マナ:私だ。マナだ。エド君、君が無様に負けたAIの制作者であり、戦友だよ。


エドワード:マナ……、マナ?! お前、あのマナか! あの気狂いの。


マナ:失礼だな君は。だが、その反応から察するに、私は君が思い浮かべるマナで間違いないだろう。


エドワード:いや、でもマジか。今まで何してやがったんだ。本当にマナか。


マナ:なんだ、まだ疑っているのか。仕方のない奴だ。では、こういうのははどうかな。君は尻に南十字星のようなホクロがあるな。戦闘機乗りとしてはなかなかに縁起が良いと感心したものだよ。


エドワード:おい、なんだそれは。いつ見やがった。


マナ:何を言っている。君たちのメディカルチェックを担当したのは私だぞ。君たちの身体のことは隅から隅まで知っている。君に関しては軍を抜けるまでだが。


エドワード:くそっ、信じてやるよ。そのイケ好かない性格はたしかにマナだ。


マナ:では、奥を借りるよ。


エドワード:だが、待て。急に来て、はいそうですかと納得できるか。


マナ:納得なんて必要ないさ、では。


エドワード:だから、待てと言うのに。


マナ:時間がないんだ。装いを変えたらすぐに出てくるさ。説明はそれからにさせてくれ。


エドワード:……はぁ、わかった。早くしろよ。



――淑女移動中――



エドワード:まったく、なんだってんだ。……お、いらっしゃい。


シルヴェスター:失礼。少しご協力願いたい。


エドワード:ああ、なるほどな。で、あんたはどちらさん?


シルヴェスター:それは、すみません。察していただけると助かります。


エドワード:いいだろう。とりあえず座んな。


シルヴェスター:いえ、お構い無く。


エドワード:そう言うな。場末のカフェとはいえ、協力を請うなら一杯くらい頼んでいくのが礼儀ってもんだぜ。


シルヴェスター:しかし――


エドワード:まったく、あんた誰に言われて来たんだ。話を聞いてやると言ってんだ。さっさと座んな。これ以上は。さすがにちょっと『寒い』ぞ。


シルヴェスター:それは……、失礼。面目ない。少々お邪魔させていただきます。


エドワード:そうでなくてはな。何にする。


シルヴェスター:では、ブレンドを。


エドワード:了解。


シルヴェスター:……。どの番組も同じ話題ばかりですね。


エドワード:戦勝五周年。政府が勝利を宣言した日だな。


シルヴェスター:ええ、形のない敵、事実上勝利は不可能だと言われた敵。我が軍は歴史的にも意味のある偉業を成し遂げました。


エドワード:まあ、そうだな……。で、そんな日にも兄さんは仕事かい? 大変だな。


シルヴェスター:国民のためにあるのが我々の使命ですので。


エドワード:まったく固いな。もうちょっと力を抜かないと身がもたないぜ。


シルヴェスター:大丈夫です。私はこれに納得しています。どうぞ、お構い無く。


エドワード:まあ、いいがな。で?


シルヴェスター:ええ、この辺りで白衣を着た東洋系の女性を見かけませんでしたか。


エドワード:白衣を着た東洋人の女、ね。それだけじゃなんとも言えねえな。写真はないのか。


シルヴェスター:これを。


エドワード:どれ……。なるほど、ここらじゃ見ない顔だ。名は?


シルヴェスター:マナ・ハナオリ。人工知能に造詣(ぞうけい)が深い研究者です。


エドワード:ほう、こんな可愛らしいお嬢さんがね。立派なもんだ。


マリー:あら、あなたが可愛いなんて言う女性、興味があるわね。私にも見せてもらえるかしら。


エドワード:おい、お前っ――。


マリー:マリー。あなたの口はいつ覚えてくれるのかしら。


シルヴェスター:マスター、この方は。


エドワード:……ちょっとした昔馴染みだ。


マリー:あら、つれない人ね。私はあなたの身体を覚えているのよ。激しかったあの日々を忘れてはいないのに。


エドワード:おい、変な言い方をするんじゃねえ。あんまり調子に乗っていると放り出すぞ。


マリー:酷い人。


シルヴェスター:マスター、その、あなたの貞操観念を咎めるわけではないが、男性として、最低限女性に応えるところはあるのではないでしょうか。


エドワード:ちっ。


マリー:あら、お兄さん、優しいのね。


シルヴェスター:ありがとうございます。レディ。ですが、お褒めいただくほどのことではありません。曲がったことが嫌いなだけですから。


エドワード:……もう勝手にしてくれ。


マリー:ええ、勝手にするわ。ごめんなさいね。お兄さん。この人、いつもこうなのよ。よろしければ、お名前を教えていただけるかしら。


シルヴェスター:それは……。


エドワード:……。


マリー:この人のことは気にしなくていいのよ。都合が悪いことがあれば、すぐに拗ねちゃうんだから。ねえ、あなたのお名前を教えてちょうだい。


シルヴェスター:自分は、シルヴェスター・フィーランです。あなたはマリーさん、でよろしいでしょうか?


マリー:あら、他人行儀ね。マリーって呼んで。


シルヴェスター:は、はあ。


マリー:ふふっ、可愛い方。先程の写真を見せていただいても?


シルヴェスター:はい、こちらです。


マリー:あら、本当。可愛らしい方ね。


エドワード:マナ・ハナオリ。AIの研究者らしいぞ。知っているか?


マリー:マナ、あのマナ・ハナオリ?! すごいわ。彼女、メディアへの露出はあまりしていなかったはずなのに。もしかして、シルヴェスターさんは彼女とお知り合いなのかしら。


シルヴェスター:知っているのですか!


マリー:その分野では有名人ですもの。彼女は今どこに?


シルヴェスター:しばらく国営の研究所にいたようなのですが、どうも彼女は少し奔放な性格のようでして……。


マリー:あら、そうなの? 意外ね。


シルヴェスター:ええ、ええ、本当に。私も初めて会うまでは、本当に素晴らしい人物なのかと……。


マリー:彼女と会ったことがあるのね。 素敵ね! どんな方なのかしら。


シルヴェスター:ええ、まあ、そうですね……。マリーさんは――。


マリー:マリー。


シルヴェスター:ああ、はい。マリーはどこで彼女を?


マリー:私? 私、こう見えても大学の専攻は人工知能だったの。その分野で彼女は有名人だもの。流星の如く現れて、瞬く間に頭角を表した若き天才。同年代として、憧れているし、尊敬しているわ。ねえねえ、あなたは会ったことがあるのでしょう? 彼女ってどんな――。


エドワード:入ったぞ。うち特性のブレンドコーヒーだ。


シルヴェスター:ああ、はい。ありがとうございます。


マリー:もう、エド。邪魔しないでよ。


エドワード:邪魔はお前だ。さっさと帰れ。


マリー:嫌よ。こんなに素敵な方がいるのに。一期一会、って東洋の言葉をあなたは知らないのかしら。


エドワード:知らねえな。なんだそれ。


マリー:こんな錆び付いたお店でも、時にはこんなに素敵な方にお会いできる奇跡のような出会いがある。その奇跡は欠けがえのないものなの。素敵よね。


シルヴェスター:マリーは東洋の文化にも詳しいので?


マリー:ええ、大学の頃に勉強したの。かの国の人工知能に対する捉え方は興味深いものがありますもの。


エドワード:で、その有名で優秀な学者様がなぜ追われているんだ。何かやらかしたのか。


シルヴェスター:それは……。


エドワード:ああ、こいつなら大丈夫だ。こんなだが、約束事を破ったり、他人のことをペラペラ話すような奴じゃない。


マリー:私、口は固い方よ。


シルヴェスター:しかし……。


エドワード:言えないならいいさ。そちらさんにも事情はあるんだろうからな。協力できるのはここまでだが。


シルヴェスター:……。


マリー:なら、こういうのでは如何かしら。


シルヴェスター:っ――何をっ――。


マリー:じっとして。んっ――。


エドワード:はぁ……。


マリー:――ん、ふふっ。


シルヴェスター:――マリー、ダメですよ。こういうことは。


エドワード:そういうのはTPOを考えてほしいところだな。まったく。


マリー:ねえ、私、これでも初めてなのよ?


シルヴェスター:なっ、それでは――。


エドワード:ああ、俺か? 少なくとも俺はその女と関係を持ったことはないぞ。さっきのはそいつのおふざけだ。


シルヴェスター:それでは――、しかし――。


マリー:一期一会、って言ったでしょう? 私は、しっかり決められる男の人が好き。あなたは如何かしら。


シルヴェスター:なぜ――。


マリー:理由が必要かしら。それとも、心に決めた方がいる?


シルヴェスター:……、すみません。


マリー:あら、残念。振られちゃったわ。でも、私の初めてを奪ったんだもの。何か譲歩があっても良いのではなくて? 男性として、最低限女性に応えるところはあるのでしょう?


シルヴェスター:それは、あなたが――。


エドワード:あー、兄さん。あんたの負けだぜ。話してやんなよ。どうせ話しちゃならんってことでもないんだろう。


シルヴェスター:それは、しかし、そういうわけにも……。


エドワード:あんたの懸念もわかるがな。だが、実はそう心配する必要はない。ここには三人しかいない。詳しくは言わなかったが、マリーは昔馴染みで、戦友でもある。だいたいの事情は把握しているんだ。


シルヴェスター:それは……、エドワード・ライル氏、かの戦争において、あなたが所属したチーム『VEGA(ベガ)』。当時の最新鋭機を中核とし、最後の作戦でも先駆けを勤めた精鋭達。そこに彼女も関わっていたと?


エドワード:なんだ、やっぱり知っていやがったんじゃねえか。ああ、そう思ってもらって問題ない。


シルヴェスター:だが、あなた方のチームにマリーという名の女性がいたという話は聞いたことがない。


マリー:まあ、それはそうでしょうね。


エドワード:若造、お前は当事者である俺達より知っていることがあると? 歴史、記録、そういったものがすべてではないと、お前は知っているんだろう。


シルヴェスター:……。


マリー:ごめんなさいね。嘘ついちゃって。私もマナのことは知っているのよ。何か協力できるかもしれないわ。


シルヴェスター:……いいでしょう。あなたを信用します。我々が彼女を追っているのは、交渉するためです。


エドワード:交渉? 何のだ。


シルヴェスター:もう一度、国営、軍の研究施設に戻ってもらえるようにと。


エドワード:なんだ、マナは脱走でもしたのか?


シルヴェスター:いえ、任期でしたので。当然更新するものと予想されていたのですが、彼女は拒否したそうでして。


エドワード:そうなのか。なんだ、この国の研究所ってのは、そんなに待遇が悪いのか。


シルヴェスター:いいえ、そんなことはないはずなのです。大変名誉なことでもありますし。だからこそ、所長もまさか断られるとは思わず。説得も袖にされてしまったそうでして……。それなりに付き合いのあった私が彼女から話を聞く役を仰せつかったという次第です。


エドワード:なるほどな。だが、本人にその気がないのに、無理矢理連れ戻すこともないんじゃないのか?


シルヴェスター:本来ならそうなのですが、そうもいかない事情があるのですよ。お二人は、この国の現状をどう思われますか。


エドワード:平和になった。良いことだ。


マリー:そうね。今の状況こそ多くの人々が望んだことだったのではないかしら。


シルヴェスター:ええ、その通り。今は間違いなく平和と呼べるのでしょう。


エドワード:なんだ、含みのある言い方だな。


マリー:残念だけど、この男に難しい答えを期待しても無駄よ。バカだもの。


エドワード:うるせえ。俺だって最近は色々考えてるんだぞ。


マリー:そうかな。君のそれはただの逃げだろう。


エドワード:おい。


シルヴェスター:今、AIの需要が高まっているのです。少し前にヨーロッパ某国の都市で、反乱軍が政府軍によって大規模な空爆を受けた事件をご存知でしょう。その際使用された偵察機は我が国から輸出された無人機だったのです。あの空爆によって無人機の有用性が示されたのですよ。政府は恐れているのです。ハナオリ博士が国外へ流出することによって、より高性能な無人機が開発され、現在我が国が持つ他国に対する技術的アドバンテージが失われることを。


マリー:ありがちな話ね。


シルヴェスター:ライル氏、我々はハナオリ博士に関してはあなたも無関係ではないと考えています。


エドワード:俺がか?


シルヴェスター:ええ、あなたが本当に今の世界を好ましく感じているのなら、なぜ軍を辞めたのですか。


エドワード:理由なんざ色々あるだろうさ。まあ、あれだ。平和になったから、やりたかったことをやろうと思った。そんなところだ。


シルヴェスター:ええ、場合によっては、それも信じたのでしょう。しかし、同時期、同じように軍を辞めた人間が複数いた。あなたは事情を知っているのでは?


エドワード:さあな。偶然だろう。他の人間の理由までは知らないさ。


シルヴェスター:そうですか。マリーは?


マリー:私?


シルヴェスター:『VEGA』は解体された。あなたもそこに含まれていたのでしょう。


マリー:ええ、まあ、そうね。……エド、話してあげてもいいんじゃない?


エドワード:いいのか?


マリー:いつかは世に出ることよ。それに、彼を誤魔化したくはないわ。


シルヴェスター:マリー。


エドワード:まあ、お前がそう言うならそれでいいがな。……だが、そうだな。ただ思い通りになるのも正直面白くねえ。


マリー:まったく、見栄っ張りだね君は。


エドワード:言ってろ。これでも気を遣ったんだぞ、こっちは。


シルヴェスター:では。


エドワード:ああ、ただし、俺にゲームで勝ったらだ。ここに三本の煙草を並べる。それぞれの銘柄を当てられたら、その数に応じて、知りたいことを答えてやる。どうだ、簡単だろう。


シルヴェスター:私は、煙草は……。


エドワード:辞めるか?


マリー:……。


シルヴェスター:……いえ、やりましょう。


エドワード:OK。火は?


シルヴェスター:お借りしても?


エドワード:どうぞ。(火を差し出す)


シルヴェスター:……。これは、KOOL(クール)です。


エドワード:ほぅ、やるじゃねえか。正解だ。


シルヴェスター:昔吸っていた銘柄でしたので。


エドワード:で、何が聞きたい?


シルヴェスター:……ハナオリ博士は、何故軍の研究施設を去ったのでしょうか。


マリー:それは……。


エドワード:それに関しては本当に知らん。だが、推測することはできる。それで構わねえか。


シルヴェスター:はい、お願いします。


エドワード:いいだろう。だが、その前に、シルヴェスター、お前は『VEGA』についてどこまで知っている?


シルヴェスター:かの戦争において、時代を先取りする最新鋭機を有した精鋭で、戦後すぐに解体された、と。


エドワード:なるほど。一般的に知られている程度ってところか。その名の由来は知っているか?


シルヴェスター:人が到達する宇宙の先、希望の象徴として名付けられたと。


マリー:半分正解、と言ったところかしら。VEGAというのは、そもそもチーム名ではないのよ。


シルヴェスター:どういうことですか。


マリー:『JA-2505(ジュリエットアルファ-トゥエンティファイブオーファイブ)』。史上初、人格を有したAIを搭載した実験機。その通称がVEGAよ。


シルヴェスター:そうだったのですか。しかし、それの何が問題なのですか。


エドワード:まあ、有り体に言うと、感情移入しちまったのさ。そのパイロットも、俺たちも。本当の友だと思っていた。


シルヴェスター:なるほど。それで、その機体は、今は?


マリー:彼女は、戦死した。


シルヴェスター:……。


エドワード:戦争だったんだ。友の戦死なんざ、ありふれた話だ。元々軍人でもないマナはどうだったかしれないが、ただの戦死なら俺たちもまだ割り切ることもできた。


シルヴェスター:そうではなかったと?


エドワード:ああ、まあな。俺たちにとっての友は、他の人間たちにとっては人間ではなかった。それを知って、虚しくなっちまってな。俺の理由はそんなところだ。


マリー:全部予定調和だったんだ。


エドワード:……。


シルヴェスター:マリー?


マリー:この国が戦勝で湧く傍ら、ある国で、とある旅客機の新型機が墜ちた。実験中の事故で、犠牲者はいなかったそうだが、問題はそこじゃない。君はJA-2505という識別符号に違和感を覚えないかな。私でも知っている。それは戦闘機の識別符号ではない。アルファはその機体に載せられるはずだった。なのに、彼女が載せられたのはその機体ではなかった。だからこそ、私は海を渡ったんだ。


シルヴェスター:……?


エドワード:ああ……。


マリー:私はただの研究者だ。政治家が必要だと断じたなら従うし、否とは言わないさ。しかし、これはないだろう。ただ載った飛行機が違っただけならば、まだよかった。だが、あの最後の瞬間、最後の引き金引いたのは本当にアルファだったのか。違うね。他の連中は彼女が真に人としての心を獲得し、定められたプログラムすらも凌駕したのだとありがたがったし、私も本当にそうだったならどんなに嬉しかったか。だが、私は調べたんだ。プログラムは誰かに書き換えられていたのさ。最終的には彼女は処分されるように定められていた。たいそうな理由のように与えられた識別符号はただの保険でしかなかったのさ。じゃあ、結局彼女は何だったんだ。私はそんなつもりで――。


シルヴェスター:……。


エドワード:……。


マリー:――ん? なんだ二人とも。変な顔をして。


シルヴェスター:その、もしかしてなんですが――。


エドワード:ああ……、もういいのか。マリー?


マリー:……? ああ、そうか。ええと、シル君、私はマリーだ。


エドワード:いや、無理があるだろうよ。


シルヴェスター:マナさっ、ハナオリ博士?


マナ:まあ、とにかくだな。人間とAIとの違いは何かという話でだね……。


エドワード:端折(はしょ)り過ぎだ。


マナ:……。


シルヴェスター:ええと、本当にマナさんですか?


マナ:どうだい。すごいだろう。私の変装も。


シルヴェスター:ええ、そうですね。いえ、そうではなくて。


マナ:ちなみに初めてというのは本当だよ。なかなか良いものだね。柄にもなく興奮してしまったよ。


シルヴェスター:っ……。


マナ:ん? どうかしたかい? 口なんか押さえて。できれば私も感想を聞いてみたいのだが。よくわからなかったのなら、もう一度しようか。どれ、膝の上失礼するよ。


シルヴェスター:っ、あ、いえ、私はここで失礼します。ライル氏、また伺わせてください。では。


マナ:……。


エドワード:……。


マナ:なあ、エド君。


エドワード:なんだ。


マナ:私の、何がダメだったのだろう。


エドワード:全部だろ。


マナ:男とは、性的なことが好きなのではないのか。


エドワード:ムードってもんがあるだろうが。


マナ:なんだそれは。何かの役に立つのかい?


エドワード:少なくとも、お前には必要だろう。


マナ:なるほど。


エドワード:しかし、お前も恋なんかするんだな。


マナ:私も女だからな。


エドワード:わお、それはビックリだ。


マナ:ところで、あと二本あるが。


エドワード:俺とお前で一本ずつ。一つずつでどうだ?


マナ:いいね。火を。


エドワード:ほらよ。


マナ:……。


エドワード:……。


マナ:Peace(ピース)だね。海外の煙草も揃えているのか。君らしい。で、実際のところ、私ってどうなのかな。


エドワード:JPSだ。俺の好みじゃないが、奴さんにとっては良い線行ってたみたいだぜ。で、お前の方はどうなんだ。


マナ:大好きだよ。


エドワード:今のお前は幸せそうだ。友として嬉しいぜ。


マナ:ありがとう。ところで、魂とAIの話なのだが。


エドワード:まだ続けるのか、その話。


マナ:話し足りないんだよ。人の脳を駆け巡る電気信号の残滓が、漂う魂として幽霊となるなら、AIの集積回路を流れるそれも魂と呼べるのではないかな。では、人間だと決定付けるものとは、結局のところ何なのだろうね。


エドワード:さあな。少なくとも、今のお前は人間らしいよ。あと、あいつのチェック、お前が払って行けよ。


元々は私のお遊びから生まれた作品でしたが、nanaでの一分半台本も含め色々な想いを込めました。本当に表に出せたのはほんの一部でしかありませんが、台本にするならこれくらいがちょうど良いのではないかとも思っております。私の作品は視点は違っても、世界観は共通していたりするので、気が向いたらまたベガに関わる話も書くかもしれません、その時は、どうぞ彼らの物語をお楽しみいただければと思います。

配信サイトなどでご使用になられる際は、録画をのこしていただければ、是非とも視聴しに参りたいと思います。

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