4. 部屋と憂鬱と私
『パパ・ママ学級』 の帰りに茅波 麗に出会って以来の数日間を、ハルミは、なんとなく不快な思いで過ごした。
つまりは、どうやら、茅波 麗は本気で、和樹に相談を持ちかけているようなのだ。
和樹は親切な男である。
困っている人を見つけたら、ましてやそれが高校時代の同級生なら、助けようと思うに違いないことも知っている。
そこには、下心などカケラもないに違いない。
……だけれども。
相手はハルミなどと違い、元・学園カースト最上位だった女子力高め女子。
(どーせ……私は汚部屋の引っきーだったもんねぇ…… 麗ちゃんとは違うよ……ぅぅ)
とイジけてしまうのは止めようが、なかった。
たとえば。
夕飯中に和樹が、メッセージ着信音でイソイソとスマートフォンを手に取る。
たとえば。
ハルミが話しかけても、スマートフォンをにらみながら、 「ちょっと待って……今、相談きてるから……」 と顔も上げずに、言われたりも、する。
その話の内容が雑談などなら、まだしも。
「ねぇ、赤ちゃんの名前ね、女の子なら、ミワちゃんなんてどう?」
なんて時にですら、そうなのだ……!
素っ気なく扱われ、涙を飲んで ( 『ハルミ』 の 『ミ』 と 『和樹』 の 『和』 で 『ミワちゃん』 ) という説明を諦める、ハルミであった。
…… 相談がきていない時に言えばいいのかもしれないが、ハルミにとっては、和樹が 『彼女からの相談の途中でも』 話に乗ってくれることが重要だったのだ。
しかし何度挑んでも和樹の親切心は挫けることはなかった。
そして、その度に、イライラとモヤモヤが、どんどんとハルミの心の底に溜まっていく……。
(私とのゴハンよりも、次の 『パパママ学級』 の日程よりも、私たちの赤ちゃんの名前よりも……っ!
麗ちゃんの方が大事…… だよね。そうだよね。どーせ私なんて……)
果てしなくループする負の思考は、いつの間にかどんな時もハルミの頭を離れなくなり……
ハルミは、マタニティブルーの沼にどぼどぼと沈み込んでいったのである……!
miniたちが和樹とハルミの新居にたどり着いたのは、ちょうど、そんな時だったのだ。
..º*¿¤*§º*ゝ..
こうして裏では加速度つきで荒んでいくハルミであったが、表向きは汚部屋が20%ほどカムバックしただけで済んだまま、3ヶ月余りが過ぎていった。
その間、miniたちは、地球での生活と平和を謳歌しつつ過ごした。
それぞれに各お気に入りの家庭に散り、部屋の片隅で好きに跳ね回り、人間やペットのフケや血を食べ放題、吸い放題の日がまた、戻ってきたのである……!
いや、その暮らしはむしろ、以前よりはるかに安逸に満ちたものであった。
なにしろ、相手の身に痒みや腫れを引き起こすことなく血を吸うことができるようになった上に、バル○ンへの耐性を身につけたのだから。
さらにはその上に、睡眠時以外の高機能卵殻スーツ着用も義務づけられたため……
どんなノミ叩きにも、毛繕いにも耐えられるようになったのだから……!
もはや、地球上において、miniたちは無敵といって過言ではなかった。
全てのminiがこの結果に満足し、指導者©*@«と、研究員のº*≅¿を誉め称える中……
当の本人たちは、といえば。
「ああああっ! ツラい…… ツラすぎる……っ!」
敷きっぱなしになった、なりかけ汚布団の陰でイライラと宙返りを決めるのは©*@«である。
「なぜに、ハルミはフテ腐れて寝っ転がりながら、モバイルゲームはおろか、マンガ・アニメ・ドラマの鑑賞全てを怠っておるのだ……っ!」
一緒に仲良くイロイロ鑑賞。
それが、©*@«にとって、今回の来訪の一番の楽しみだったのに。
ここのところ、ハルミのマタニティーブルーは極限にまで達し、ハルミはトイレと風呂と食事以外は、ただ寝っ転がっているだけのイモムシと化しているのだ……!
「これでは、苦労して再び地球に来た意味がないではないかぁ……っ!」
「ですね」 と同意を示し、小さく跳ねるº*≅¿。
「私も、人間の恨み妬みや陰謀に溢れた昼ドラを楽しみにしていたからこそ、完全移住計画のための研究を頑張ったのですが…… ほんっと意味ないですよね」
「下剋上しないでくれよ?」
「まっさかぁ……」
「いや、君はやる時はやる男だからな!」
「いえいえ、そんな。©*@«さまこそ……」 「いやいや……」 「いえいえ……」
お決まりのやりとりをしつつ、全神経を集中させて、º*≅¿の思念を脳内隅々まで舐めまわすように探り…… やはり、なんとかハルミに元気を取り戻してもらおう、と決意する©*@«であった。
不満の芽は、早いうちに摘みとるに限る。




