表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

3.産婦人科と未知との遭遇と私

 地球時間にて、その数日前のこと。


 和樹とハルミは、寄り添って産婦人科医院の廊下を歩いていた。

 窓から覗くのは初夏の青空と若々しい緑、ハルミのお腹には、ふたりのベイビー…… 現在は妊娠6ヶ月の安定期、本日は産院の 『初めてのパパママ教室』 に、仲良く参加した帰りである。


「あっ……いま、蹴った……!」


「えっ……もう、蹴ったりするの?」


「ふふ……男の子かもね……。パパに似てカッコいいといいなぁ♡」


「ママに似たカワイイ女の子もいいよ♡」


 イチャイチャと幸せいっぱいに歩いていた時。

 急に、近くの妊婦が、崩れ落ちるようにしゃがみこんだ。


「「大丈夫ですか……!?」」


「あ、すみません…… ちょっと寝不足で…… 急にめまいが」


「看護師さん呼びますね!」


「いいんです、大丈夫……」


 話していて、ほぼ同時に、ふと気づく3人。


「「「あっ……」」」


「和樹くんとハルミちゃんじゃん!」


茅波(かやなみ)さん! もしかして茅波(かやなみ)さんも……?」


 茅波(かやなみ) (うらら)。和樹とハルミの高校時代の同級生である。

 優等生だった麗は、高校時代、和樹にしばしば勉強を教えていた。


 その親切で明るい性格で、クラスメイトからの人気も高かった麗だが……


 なぜか今、その明るさは影を潜めていた。


「うん……妊娠……3ヶ月で……」


 どこか虚ろな瞳でうなずくその様子に、只事でないものを感じながらも、口々に 「おめでとう」 「無理しないで、大事にしてね」 と声をかける和樹とハルミ。


 すると。

「…………!」

 みるみるうちに、麗の目に涙が盛り上がり、頬を伝った。


「どうしたんだ、茅波さん!」


「つわり、ひどいの……?」


 慌てる和樹と心配そうな顔をするハルミにかぶりをふって、麗は泣きながら言った。


「ち、違うの……ぐすっ……た、ただ嬉しくて……これまで、誰も、喜んでくれなかったから……っ」


「…………」 「…………」 和樹とハルミは、無言で互いを見交わしてうなずいた。


「茅波さん、何があったんだ?」 「相談してよ、同級生じゃん!」


「う、ぐすっ……うん……ありがとう……」


 麗が、涙ながらに訴えたところによると。

 同棲している彼氏が、妊娠がわかったとたんに、そっけなくなったのだという。


「 『つわりでツラいだろ、僕は実家で飯くうから、夕飯いいよ。ゆっくりしてな!』 とか言って……

 夕飯実家で食べて……そのまま、あっちに泊まってきたりとか、しょっちゅうで……

 『今ホラ、新人教育で忙しい時期だから、ごめんな!』 とか言って……帰りも遅くて……」


「それはひどいよね!」 興奮する、ハルミ。


「じゃあ、こっちのご飯どうすんのよ! お前は実家で優雅に上げ膳据え膳してもらって、こっちはひとりで栄養ゼリー飲みながら、おト○レとニラメッコかよ!

 腹の中にいるのは誰の子だ、オラァっ!? って言いたくなるよね!」


「で、でも…… 私もご飯作れないの確かだし、彼が忙しいのも本当だから……

 きっと、ひとりぼっちだ、って感じるのも、私が今、不安に思いやすい時期だからなだけで……彼が悪いわけじゃ……」


「悪いよ!」 きっぱりと、ハルミが言い切る。


「妊娠なんて、一生のうち、そうない一大事(いちだいじ)じゃん! そんな大変な時の彼女に、その程度の気遣いしかできなくて、自分だけ普通に日常生活送る男なんて……クズ! ドクズ! ノミ以下……っ!」


「そ、そんな……」


 ハルミの剣幕に恐れをなす、麗。

 ちなみに和樹は、ハルミが怖すぎてもはや何も言えない。

 ……確か和樹も、ハルミがつわり期間中、ちょうどOJTを担当していて…… しばしば、帰りが遅くなった。あとは、歓送会が2回くらいあって、どうしても上司からの酒を断れずに、夜中に酔っぱらって帰ったこともある。

 ……ハルミは確か、いつも笑顔で…… 『大丈夫だよ。和樹(かず)ちゃん忙しいもんね! わかってる♡』 と言ってくれていたはずだが。


 その笑顔の裏に、もしかして渦巻いていたかもしれない感情(こころ)に、ゾッとする和樹であった。


「そんなヤツ、もう別れちゃえ!」


「う、うーん……だけど……」


「一緒にいても麗ちゃんが苦労するだけだよ!」


「……そうだね……うん……」


 割とあっさりと同意した茅波に、内心の悲鳴を禁じ得ない和樹。


(えーっ!? 女子の認識って実はそんななの!? こわいこわいこわいこわい……!)


 それで行くと、和樹など、何度ハルミに 『もう離婚!』 と思われていることか。


 別れ際、和樹はやっとの思いで、茅波(かやなみ)に言った。


「何かあれば、いつでも相談に乗るから……」


 昔の親切で明るかった彼女に戻ってほしい。彼氏とも、うまく行ってほしい…… そんな思いでメモ帳にSNSのIDを書き、ちぎって手渡す。


 もちろん、和樹にはわかっていないのだ。

 その行為を、ハルミがどんな思いで見るのか、などということは……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >じゃあ、こっちのご飯どうすんのよ! Σ( ̄□ ̄|||)ww てか、この渦中に我らがピンハネ様が入るのですか?(怖)
[良い点] 妊娠中の女性に対し、正解と言える行動を取れる男性はほとんどいません。多分正解ってない気もします。お産のときも、男は何もできません。その不満が爆発すると……怖い!! こんな状況にminiは…
[気になる点] これは……和樹、地雷を踏んでしまいましたか……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ