2. 部屋とコミュニケーションと私
『部屋と宇宙ノミと私』 を読まれた方は既にご存知だろうが、miniたちの宇宙の渡り方は、こうである。
まずはBIGたちが打ち上げる人工衛星にこっそり乗り込み、宇宙に脱出。その後はあらん限りの力で大跳躍を繰り返し、ブラックホールとホワイトホールを利用して、地球に一気に接近するのだ……!
「ところで、我々の意思を人間に伝える方法は、開発が済んだか?」
星の光に満ちた宇宙空間を大跳躍しながら、©*@«はº*≅¿に尋ねた。
前回は、意思の疎通ができなかったために、仲間たちを無惨に殺されてしまった。そう信じている、miniたちである。
人間が往々にして、意思の疎通ができる相手をも自己都合で殺していることを、彼らはあまり認識していなかった。
「はっ、それはとうの昔にできております」
「なんだと……!」
「すみません、簡単すぎて申し上げるのを忘れていました」
「……そうか」
怒鳴りたいのを、ぐっ、と我慢する©*@«。
……思えば、º*≅¿は彼らの母星・≡<*£に還って以来、ずっと働き詰めであった。
今©*@«がしなければならないことは、º*≅¿を責めることではないはずだ。
「地球到着後、すぐに使えるか?」
「多少の訓練で、間違いなく……!」
「なら、良い。よくやった」
「いえいえ……」 「いやいや……」 とお互いを称賛しあった後。
彼らminiたちは、ブラックホールに向かって大跳躍を決めたのだった。
★★★
ホワイトホールより出て、さらに大跳躍に次ぐ大跳躍を繰り返したminiたちは、地球時間で1ヶ月後の夕方、目的地にたどり着いた。
そのアパートの一室、玄関にかかるネームプレートには……
『旧湖 和樹♡ハルミ』
と書かれている。
そう、miniたちが新しい拠点として目をつけたのは、前作 『部屋と宇宙ノミと私』 でもお馴染みの、少々イラつくリア充寸前カップル、ハルミと和樹の新居だったのだ……!
「ふっ…… やはり知人が身近にいるというのは心安いものだな……!」 と©*@«は満足気にうなずいた。
「しかも、彼等は結婚、ハルミは妊娠中というではないか!
今度こそ、しっかりとコミュニケーションを取り、一緒に昼ドラを鑑賞しつつ泣き笑いする関係を築くのだ……!」
前回は殺されかけたくせに。
と、研究員º*≅¿は0.1mmほどの大きさの脳内のごく一部でツッコミを入れた。
(©*@«様はなぜこれ程、人間に肩入れを……!?)
その理由が、かのカップルに©*@«自身とまだ見ぬ嫁を重ねているためだ、とは思いもよらないº*≅¿である。
©*@«は上機嫌に指示した。
「まずは、彼らに我らのメッセージ 『おめでとう』 を伝えるのだ……! すぐにできるのだろう?」
「は!」 小さく跳びはねる、º*≅¿。
「彼らの帰宅までに、練習いたしましょう! 方法は 『mini文字』 です……!」
mini文字。すなわち、miniたちが寄り集まって文字の形を描くのである。対応するのは日本語のカタカナ、アルファベット、一部の記号。
「監督はもちろん、©*@«様お願いいたします……!」
そんなわけで彼らは、長い宇宙空間の旅で疲れた身体を鞭打ち、mini文字で 『オメデトウ』 と描く練習に励んだのであった。
数時間後。
「つ、ついに完成した……!」
アパートの玄関には、miniたち約3000匹を動員した、『mini ヨリ ハルミ へ ♡ オメデトウ ♡』 との文字が描かれた。
(喜んでくれるに違いない……っ!)
ワクワクしてハルミの帰宅を待つ©*@«であったが……
その期待は、彼女の帰宅を目前にして覆えされることとなってしまう。
(こっ、このそこはかとなく感じる負の思念は……!)
玄関前40cm先から彼女の思念を感じ取った©*@«は、大慌てで仲間たちに指令を出した。
「全員mini文字解除! 隠れよ!」
……そう。その時、©*@«の脳裏に響いてきていたのは。
(ああああ…… やっぱり私なんて死んだ方がイイんだ…… なんの取り柄もない私みたいな女なんて……横から来た元同級生に負けて当然なんだ…… もう……死にたい死にたい死にたいぃぃ…… でもそーすると、赤ちゃんも死んじゃうから無理だしぃ…… もー……こうなったら……お布団の中に引きこもるしか、ないよね……)
という、元汚部屋の主に相応しい、強烈な負の思念だったのである……。