姉のセレネと妹のソレイユ
羽磨けいきです。
毎日23時~24時に投稿をしております。
さて、今回の話なのですが、
主人公と姉妹の会話がメインです。
見所は姉妹の真逆の性格ですかね……!
お楽しみに。
俺達が部屋へと競歩のようにそそくさと帰る途中で、俺達の様子をずっと伺っていたらしい妹の方とも合流した。
部屋へと戻った俺達は木でできた椅子に腰を掛け向かい合って座る。
まずは妹の方には既にしているが、自己紹介を行うことにした。
と言っても、さっきのように馬鹿正直に天使なんて言ったら、今度こそ雷に打たれることになるため、嘘を混ぜつつではあるのだが。
「俺の名前は天沢一矢。妹の方に天使と言ったが、あれは冗談だ。俺はただの人間で、人を救済することを生業としている者だ」
「……ふん。水浴びを覗くような男に人の救済などできるものか」
「だから、それは勘違いだって言ってるだろ……」
帰り道、懸命に慰めたというのに、相変わらず態度は変わらないままの金髪の女性。
俺の主張にプイっと顔を逸らして、毛ほども俺の話を聞く気がないらしい。
だが、黒髪の女性――ソレイユの方はそうでもないみたいだった。
「アマサワ、イッシ……さん……。珍しい名前、です」
この世界では偽名を使うべきだっただろうかと後悔するが、ここまで言ってしまって、間違えました実は自分の名前はダニエルです、と訂正しても怪しまれるだけ。
俺は訂正することをやめ、怪しまれないように話題を振った。
「昔からよく言われた。でも俺は結構、この名前は気に入っている。言いづらいかもしれないが、これからは『一矢』と呼んでくれ」
「はい……イッシ、さん……」
名前は呼んでくれるが、濃い赤のローブを身につけている彼女はフードを深く被り、こちらを見ることはなかった。
いずれ、なぜこちらを見ないのかを聞いてみようとは思うが、もう少し仲良くなってからにしようと思う。
「私から一つ、貴様に聞きたいことがあるのだが」
「あぁ、何でも聞いてくれ」
「……貴様は何者だ」
俺の素性を暴こうと真剣な表情で聞いてくる金髪の女性。
やはり、能力を行使したのがまずかったのだろうかなどと思案していると、俺から一つの情報もこぼさないとばかりに睨みながら問い詰めてきた。
「貴様は見たことも聞いたこともない魔法を使い、王国で騎士だった私に勝利する実力を兼ね備えている。……ここまで強ければ、噂になっていても不思議では無いが、そんな噂を耳にしたことは一度も無い。……本当に貴様は何者なのだ?」
俺はどう答えるか、迷った。
異世界についての知識は、天界で死者の魂から聞いた話や資料を少し読んだことがあるだけであって、知らないことが多い。
そのため、下手なことを言ってしまうとまた、戦闘になる可能性だってある。
それはさすがに勘弁して欲しい。
すると、そんな俺の困った様子を察したのか、助け船を出してくれた。
「……きっとイッシさんには言えない事情があるんだよ、お姉ちゃん」
「私はシンシア王国騎士を辞めた身ではあるが、それでも私にはこのシンシア王国の民を守るという強い使命がある。……分かってくれ、ソレイユ。怪しい者を放っておく訳には行かないのだ」
ソレイユの肩に金髪の女性は両肩に手を置き、真剣な目つきで説得した。だが、意外にもソレイユは頷くことはなく、首を横に振った。
「……イッシさんは怪しい人でも悪い人でもないよ、お姉ちゃん。それは、ソレイユが保証する。……だから、これ以上、イッシさんを疑わないであげて……?」
「ソレイユ……」
まだ会って間もないというのに、なぜか信頼してくれているソレイユが俺をフォローしてくれたおかげで、天使とバレることはなかった。
なぜこんなにもかばってくれるのかは分からないが、本当に助かった。
俺はソレイユに頭を軽く下げて、お礼を告げる。
「ありがとう」
「っ!? ……い、いえっ! どういたしまして……」
ただ感謝を伝えただけだというのに、ソレイユは激しく動揺した。
頬が赤くなっているのが一瞬だけ見えたが、俺に顔を見られないように真下を向いてしまった。
「貴様……。一体、ソレイユに何をした……!」
「落ち着いてくれ、何もしていない」
ソレイユの不自然な様子を見て、俺を睨み付ける金髪の女性。
俺は両手を挙げて身の潔白を証明するが、警戒心が解かれることはなかった。
しかし、またソレイユがフォローをしてくれた。
「お、お姉ちゃん、ソレイユは別に何もされてないよっ! ……気にしなくていいから、今度はソレイユ達の紹介をしよ? ……ね?」
「…………分かった」
納得はいっていないみたいだったが、妹であるソレイユのお願いは断れなかったようだった。
そしてようやく俺の紹介のターンは終わり、姉妹達の紹介が始まった。
「では、まずは私から。……私の名前はセレネ。………………以上だ」
よっぽど俺のことが嫌いなのだろう。
自己紹介が終わるとセレネはサラサラとした手触りの良さそうなブロンドの長髪のポニーテールを揺らして、そっぽを向いた。
そんな姉の態度に『失礼だよ、お姉ちゃん……!』と注意するソレイユは誤魔化すようにコホンと咳をしてから、ゆったりとした口調で自己紹介をしてくれた。
「……名前はソレイユ、です。大賢者様を探して、お姉ちゃんと一緒に旅をしています。よろしくお願いしますね、イッシさん」
ペコリと頭を下げるソレイユに気になった言葉を尋ねる。
「すまないが、その、大賢者様っていうのは何なんだ……?」
俺の問いに姉妹達は目を丸くして驚く。
その二人の表情から、まずいことを口にしてしまったのではないかと思い、肝が冷えた。
だが、そんな俺に優しい口調でソレイユが教えてくれた。
「大賢者様っていうのは、この世界のあらゆる魔法を操ることのできる伝説の魔法使いのことです。目撃したという噂は絶えないのですが、誰も正体は知らないのです」
「へぇ……。ということは各地で情報を集めながら旅をしているってことか。……見つかりそうなのか?」
「はい。……すでに、もう見つけましたから」
「……? 今、何か言わなかったか?」
「い、いえ、何も言ってませんよ? イッシさんの気のせいですっ」
ボソッと何か言った気がしたのだが、俺の気のせいだったらしい。
だが、その割には落ち着きをなくしているように見えるのだが。
まぁ、本人がそう言うのなら、気にしないことにするか。
こうして自己紹介が終わり、次はこの世界に関する知識が少ない俺は疑問を口にした。
「しばらくこの町に滞在したいのだが、湖にお金を落としてしまったみたいなんだ。この辺でお金を稼げる仕事ってないか?」
湖に金を落としたというのは嘘だが、お金を持っていないのは本当であり、このままでは今夜、寝る場所がない。
セレネやソレイユのように宿に泊まるためのお金を得るためにも働き口が欲しいところだった。
その働き口を教えてくれたのは意外にもセレネだった。
「……それならギルドに行くといい」
「この町にはギルドがあるのか……! 教えてくれてありがとう、セレネ」
「……礼には及ばない。騎士として当然のことをしただけだからな」
お礼を伝えると、セレネは俺からそっぽを向いてそう言った。
これは俺の憶測ではあるが、セレネは困っている人を放っておけないような優しい人なのだと思う。
だからきっと、普通の出会い方をしていれば、こんなツンツンした態度をとられることはなかったのだろう。
そう考えるとまた女神様にイライラしてきた。今度、会ったときに全力でイタズラしてやろう。
そう心に誓っていると、ソレイユがモジモジとしながら俺にとって有難い提案をしてくれた。
「……もし良かったら、ソレイユとお姉ちゃんが案内しましょうか……?」
「良いのか……?」
「はい。……お姉ちゃんも、いいよね……?」
「……まぁ、いいだろう。では、ついてこい。今から案内をしてやる」
俺は金髪ポニーテールで元王国騎士の姉と黒髪ロングの人見知りの妹と共にギルドへと向かった。
いかがだったでしょうか。
次回はギルドに主人公達が向かうのですが
そこで主人公は衝撃的な事実を突きつけられることとなります。
ぜひ明日も見てくださいね。
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それでは、また次回。