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出会いと説教と戦闘と。

羽磨けいきです。

今日から毎日23時から24時の間に

投稿をしていきますので、よろしくお願いします。


今回のお話は、

天界と異世界を行ったり来たりするという

お話になっております。

お楽しみに。

「……くん……き……なさい……」


 どこからか微かに声が聞こえてくる。


「あま……くん……おき……いっ!」


 それは女性の声だった。

 しかし、その声に聞き覚えはない。


「天沢くん……天沢くん、起きなさい」


 ようやく鮮明に聞こえてきたところで、俺は目を開ける。

 目を開けて一番最初に視界に入ったのは、机とその上にあった書類だった。

 どうやら俺は机に突っ伏して寝ていたみたいだ。


 まだ睡魔が抜けきっていない俺は、ここは何処だろうかと周りへと目を向ける。

 すると隣に長い金色の髪をした大人の色気を感じさせるような女性が立っていた。


「……おはよう、天沢くん。目は覚めた?」


 俺の寝ぼけた顔を見て女性は笑っているということは分かったが、霧がかかっているかのように顔がよく見えない。


「すみません、俺、寝てたんですね……。今、何時ですか?」


「夜の8時よ。そんなに疲れているのなら、他の人に手伝ってもらえばいいのに」


「いえ、これは俺の仕事ですから、他の人に手伝ってもらう訳にはいきませんよ」


 そう言って、俺は笑みをこぼした。

 しかし、目の前にいる女性は引き下がらなかった。


「それはいけないわ。優しいのは君の美点ですが、短所でもあります。時には人を頼りなさい。でないと、君の心が壊れてしまいますから」


「……心配してくださって、ありがとうございます。でも俺は大丈夫ですよ。この仕事、割と楽しいですから」


 笑って答える俺を見て、女性は口元を緩ませて俺の頭の上に手を置き、優しく撫でる。


「……私は君のそういうところ、好きです。ですが、今日はもう遅いから帰りなさい。戸締まりは私がしておきますから」


 心臓がドクンと跳ね、顔が紅潮したのが分かった。

 この人はどんな人なのだろうか。俺はなぜか、そんなことを考えた。

 まだ名前や顔すら分からないこの女性に。しかしこの人を見ていると、喜怒哀楽といった色んな感情が溢れてくる。


 これは一体――――


 そう考えたところで、視界が次第に白く眩いほどの光に包まれていった。

 視界の全てが光に支配された時、俺はまたあの人にあえるだろうかとそんなことを考えていた。



 ◆   ◇   ◆   ◇



「あ…………ぶ……か」


 また声が聞こえる。


「あのぉ……聞こえますか……?」


 女性の声だ。

 だが、さっきの声とは明らかに違っている。

 俺はうっすらと目を開けると、見知らぬ天井が広がっていた。

 どうやら、ここは天界ではないどこかで、体が温かいことと背中に感じる柔らかさからベットに寝かされていることが分かった。


「ここは……? って、痛っ……」


 体を起こすと、頭に鈍い痛みが走った。

 そこで全てを思い出す。

 あの天然女神様のおかげで気を失ったまま、異世界に連れてこられたことを。

 ということは、ここは異世界ということだろう。

 ここに来る前に何か大切なことを女神が口にしたような気がしたのだが、今はそれどころではないようだ。


 なぜこのような場所にいるのだろうかと考えていると、視線を感じた。

 俺は視線の主へと目を向けると、そこには怯えているような顔を浮かべ、ローブを着た黒髪の女性が、扉から顔の半分だけひょっこりと出しており、こちらの様子を伺っていた。


「……大丈夫、ですか……?」


 恐らく、この女性が頭の包帯を巻いてくれて、ベッドで休ませてくれていたのだろう。

 俺は表情を柔らかくして話しかけた。


「君が、俺を手当てして、ここに寝かせてくれたのか?」


 ――――こくり。


「ありがとう、助かった」


 俺が感謝を伝えた途端、彼女は半分だけ出ていた顔でさえ、引っ込めてしまう。

 どうしてしまったのだろうかと俺はベッドから下りて、扉から外へと出る。

 周囲を見ると、木造の家が建ち並んでおり、食材を売っているお婆さんや無邪気に遊んでいる子供がいた。

 しかし、先程の女性の姿はなかったため、俺はどうしたものかと思いながら、扉を閉めると、いた。


「「……あっ」」


 顔を赤らめて、しゃがみ込んでいる彼女は扉の後ろに隠れていたのだ。

 しかし見つかった瞬間、彼女は脱兎のごとく、俺から距離をとり、木の後ろへと隠れてしまった。

 もしかして、恥ずかしがり屋なのだろうかと考えていると、また顔を半分だけ出して、こちらを怯えるような表情で見つめてきた。


 これ以上、怖がらせては話が全く進まない。

 俺は距離を詰めることはせず、その場から動かずに話しかけたことにした。


「怖がらせて、申し訳ない。俺は怪しい者ではないんだ」


「……本当、ですか?」


 恐る恐る、彼女は口を開いた。

 よし、ほんの少しだけ心を開いてくれたみたいだ。


「あぁ、本当だ。少し、聞きたいことがあるんだが、聞かせてくれないか?」


 ――――こくり。こくり。


 頷いてくれた彼女に、俺は今の状況を把握するため、ここまでの経緯を聞くことにした。


「頭の上に石が降ってきて気を失っていたんだが、俺はどこにいたんだ?」


「……この町の、東にある湖で、あなたを見つけました」


「湖……?」


「はい、ソレイユとお姉ちゃんが水浴びをしていた時に……あなたが突然落ちてきたんです」


「……それは、本当に悪かった」


 俺は可愛い女神様の顔を思い浮かべる。

 怪我人を異世界に送っただけでなく、水浴びをしている女性のところに召喚させたという事実に怒りがふつふつと湧いてきた。

 これは少し、お仕置きをしないと気が済まない。


「あなたのお名前は……?」


 イライラとした気持ちで、あの女神にどうしてやろうかと考えていると、名前を聞いてくる。

 そこで、俺は女神にお仕置きをするための方法を思いついたため、自己紹介を行った。


「名乗るのが遅くなってしまい、すまない。俺の名前は天沢一矢」


 そして、自己紹介ついでに、天界の禁忌を犯したのだった。


「天使だ」



 ◆   ◇   ◆   ◇



 それを告げた途端、見覚えのある女神の間へと一瞬で移動した。

 そこに笑顔で立っていたのは女神、レイゼ様。


「……一矢? 天界のルールで人間に天使ということをばらすのは禁止と知って――――」


 だが、そこで俺は女神の言葉を遮る。


「正座」


「な、何を言っているんですか、一矢……? 今はわたくしが一矢を怒っている時なの――――」


「せ、い、ざ」


「………………はい」


 女神は俺の雰囲気から本気だということを察したらしく、素直に正座する。

 こうして、女神の間で正座する女神とそれを指示する天使という謎の図が出来上がった。


「なぜ、俺が怒っているか分かりますか……?」


「……もしかして、お腹が空いたとか?」


「ぶっ飛ばしますよ」


「今、女神に向かって『ぶっ飛ばす』って、言いましたか!?」


 少し涙目になる女神。

 さて、これからどう説教しようかと迷っていると、女神の間に思わぬ来客が訪れた。


「失礼しま……って、レイゼ様!? 貴方、何をしているの!?」


「……ガブリエルか。実はな……」


 俺は女神の間へと偶然やってきたガブリエルに事情を説明した。

 事情を聞いている間、女神様の頭を『よしよし』と撫でていたのだが、聞き終えた後、女神様から離れ、俺の隣に立った。

 どうやらガブリエルも女神様が悪いと思ったようだ。


「それはレイゼ様が悪いです」


「ガブリエルまでっ!? わたくしはただ、寝ている一矢を起こしてあげようと思って湖に召喚させてあげただけなんです!」


 まさかの親切心からの行為だった。

 さすがは天然女神様。

 俺の脳裏ではこれっぽっちも理解できない。

 驚愕のあまり、毒気が抜かれてしまった俺は許してあげることに。


「はぁ……。もういいですよ。女神様、今度からは気をつけてくださいね。するとしても、湖の上ではなく、湖の付近にしてください」


「……なるほど、確かに一矢の言うとおりね……。ごめんなさい、一矢。今度、同じように寝ている天使を異世界に召喚することがあったら、そうするようにしますね」


 『いや、まず寝ている天使を異世界に送ることをやめて欲しいのですが』という言葉が喉から出そうになる。

 しかし、言っても分からないだろうと思った俺は言うのをやめた。


「……では、俺は満足しましたから、俺を異世界の同じ場所へ戻してください」


「分かりました。……あ、戻ったときに、誤魔化しておいてくださいね? 今回は許しますけど、これから先は天界のルールを破らないこと。いいですね?」


 誤魔化しておくことというのは、俺が彼女に天使だと伝えたことだろう。

 天界には『天界法』という法律があり、その中の一つに『生きている人間に天使だとバレてはならない』という内容が記されている。

 それを破ると女神から重い罰が与えられるのだが、今回はまだ誤魔化せるだろうと判断したのだろう。

 再び雷を落とされることはないようだ。


 俺は『冗談だ』などと言って誤魔化すことを決め、頷く。

 そんな俺を見て、満足げに笑みを浮かべた後、召喚の準備を始めた。


「……フフッ……貴方も大変ね」


 まるで他人事のようにそう言って、ニヤついた表情のガブリエル。

 実際、他人事ではあるが、その煽ってくるような言動にイラッとした俺は、とあることを思い出した。


「……そういえば、ガブリエル。何でもお願いを聞いてくれるって言ってたよな」


「……な、なに……!? 一体、何をさせる気なの!?」


 俺は一瞬だけ止まることで得た『ガブリエルに何でも言うことを聞いてもらう権利』を思い出したのだ。


 ――――今、ここで、この権利を使わせてもらうぞ……!


「一矢、準備ができましたよ」


「分かりました。……では、俺と……ガブリエルも行きたいそうなので、お願いします」


 驚愕の表情を浮かべ、ガブリエルは『私は女神様の護衛がありますので!』と抵抗したのだが。


「ガブリエルは一矢のことが大好きだものね。……分かりました。では、一緒に異世界へと召喚しますっ!」


 天然女神様は相変わらず、全く話を聞かない。


「ちょ、ちょっと待ってください、レイゼ様! 私は行きたいだなんて一言も――――」


「あ、ガブリエルはまだ眠たいそうですので、俺が召喚された場所に召喚してあげてください」


 ガブリエルの言葉を遮り、俺は親切心で女神へとそう進言した。

 すると女神は俺の予想通りの答えを口にした。


「そうね! 起きているのなら、湖で溺れることはないから、安全だものね! 分かったわ!」


「お願いです、レイゼ様! 少しだけ! 少しだけで良いので話を聞いてくだ――――」


「それじゃあ、二人とも、行ってらっしゃい♪」


 女神がニッコリと笑顔を浮かべて手を振ったと同時に俺とガブリエルは天界から姿を消したのだった。

 最後にガブリエルが『覚えておきなさい……!』と言っていたのは聞いてないことにして。



 ◆   ◇   ◆   ◇



 俺は一瞬で同じ場所へと帰ってきた。

 隣を見るとガブリエルがいなかった。

 察するに、本当にガブリエルは湖へと落ちたのだろう。


 ――――ありがとう、ガブリエル。おかげでスッキリさせてもらいました……!


 先程までの怒りが嘘のように消えた俺は、黒髪の女性を探し始めた。

 だが、扉の後ろにも木の後ろにもいない。俺が天界にいた間にどこかへ行ってしまったのだろうか。

 誤解も解かないといけないため、町を歩き回ることに。


 歩いていると、町の入り口にアーチ状のゲートがあるのが見えた。

 そこには『ミツの町へようこそ』と異世界の文字で書かれていた。

 ここはミツの町というらしい。

 しかし、分かったのはそれだけで黒髪の女性の姿はない。


「あの子は一体、何処に行った……? 俺が天界で説教している間にどこかに出かけたのか……?」


 それからも俺は町中を探し回り、様々な発見があったのだが、どこにも姿はなく、困り果てていた。

 しかし諦めかけたその時、背後から突然、何者かに抱きつかれる。


 俺は怪しい者が抱きついてきたのかと思い、身構えたのだが、それにしては腕の力が弱い。

 これでは簡単に逃げ出せてしまう。

 では一体誰がこんなことをしているのだろうかと後ろを見ると、探していた女性がそこにいた。


 さっきまで警戒して俺から距離をとっていたというのに、今度は抱きついてくるという謎の行動に驚いていると、彼女の小さな体が小刻みに震えているのに気がついた。

 もしかすると彼女はかなり勇気を出して、この行動をしているのではないだろうかと。

 ならばここは、優しく聞いてあげるべきだろう。


「……どうかしたのか?」


「……お願い、します……!」


 思わず『え、なにを!?』と口にしそうになったが、急かしてしまうのは良くない。

 グッと飲み込み、無言を貫いた。

 そして少し躊躇した後、勢いよく彼女は告げた。


「ソレイユを……弟子にしてくださいっ!」


「……は?」


 完全なる予想外に言葉が出ない。

 弟子とは師について、学問や技の教えを受ける人のことを言う。

 俺は誰かに教えられるほど、賢い訳でもなければ、芸があるわけでもない。

 そんな俺に何を教えて欲しいのだろうか。

 全然浮かばない答えに頭を悩ませていると、黒髪の女性は後ろへと振り返った。


「あ、お姉ちゃん……!」


「お姉ちゃん……?」


 そういえば、お姉ちゃんと水浴びをしていたと言っていたことを思い出す。

 俺が振り返るとそこにいたのは、長い金色の髪を一つにまとめて垂らしており、白く美しい鎧を装備している女性。

 しかしその女性は整った顔を怒りで歪めており、拳をわなわなと振るわせている。

 怒っている理由はきっと俺が妹に抱きつかれているというこの状況を目にしたからだろう。


「……あー、うん。きっと貴方は勘違いしていると思うんだ」


「私達、姉妹の水浴びを覗いただけじゃなく、妹を拐かすなんて……!」


 ――――天然女神様と同じタイプの話を聞かない系か……!?


 俺は何をされても対応できるように身構えるが、鎧を着た金髪の女性は俺の遙かに予想を超えてきた。

 彼女は背中に背負っている大剣を抜いたのだ。


「……頼む、落ち着いてくれ……。これは貴方の妹が抱きついてきただけで、俺は何もしていないっ!」


「私の妹がそのような破廉恥なことをするわけがないっ! ソレイユから離れろ、この変態ッ!」


 そう言った彼女は俺を狙って、剣を振り下ろした。

 しかしその剣はギリギリの所で避けたため、空を切る。

 俺はすぐに抱きついていたソレイユという名の黒髪の女性に離れてもらう。

 

「お、お姉ちゃん、これは誤解……!」


 ソレイユは金髪の姉を止めようとするのだが。


「ソレイユは部屋で休んでいるといい。この変態は私が八つ裂きにしておく」


 全く話を聞くことはなく、妹の頭を人撫ですると、俺を睨み付ける。

 これは逃げないと命が危ない。

 危機を感知した俺はすぐに逃走を開始した。


「待て、変態! 私の妹に助けられておきながら、それを仇で返すようなあの行為……! 絶対に許さないっ!」


「だから、勘違いだって言ってるだろ! 話を聞けよ!?」


 どんなに容疑を否定しても、彼女は俺を追い続けて剣を振り回す。

 家が傷ついたり、人に当たったりしないよう、なるべく広い場所で人があまりいない道を逃げる。

 

「逃げるなと……言っているのだっ……!」


 何かが風を切るような音が聞こえ、嫌な予感がした俺は地を蹴り、右へ回避。

 するとさっきまで俺がいた場所に大剣が深々と突き刺さっていた。

 地面はぬかるんでいたという訳ではない。

 

 要するに、とんでもない力で大剣を投擲してきたということである。


 ――――こいつ、完全に俺を殺す気だ……!?


「お、おいっ!? 俺が避けなかったら、今の死んでたぞっ!?」


「当たり前だっ、殺すつもりで投擲したのだから」


 彼女は大剣を片手で抜くと、すぐに俺を追いかけてくる。

 それも大剣に鎧という装備にもかかわらず、俺に追い付くほどの速度で。

 このまま追いつかれてしまえば、背中からバッサリ切られてしまう。

 異世界に来て一日目で殺されるのはご免だ。


 俺は直線的に逃げるのをやめ、曲がり角を用いてくねくねと移動する。

 更に町の人々の間をすり抜けるようにして進み、距離を稼がせてもらう。


「蛇のように移動するな、この変態っ! 大人しく性欲を捨てろ!」


「武器を捨てろみたいに言うなっ!」


 しばらく逃げ続けているとようやく、誰もいない広場へとたどり着いた。

 周りにあるのは広場の真ん中にある大きな時計塔だけであり、ここから被害を出すことはなさそうだ。


「いつまで、逃げ続けているつもりだ!? さっさと観念しろっ!」


「断るっ! 勘違いで殺されてたまるか! 悪いが、ここで抵抗させてもらうぞ……!」


 俺は天聖力を掌へと集中させながら、生成したい武器を思い浮かべる。


 ――――材質は鉄。形状は鎖鎌。死神の如き切れ味を誇る鎌は容易に命を刈り取り、柄尻に取付いている長い鎖分銅は捉えたものを決して離すことはない。


「――――想生ッ!」

 

 能力を発動させた瞬間、俺の右手に集まっていた天聖力は鎖鎌へと姿を変えた。

 この鎖鎌とはその昔、日本で農民などが護身用に用いられていた武器で、鎌の柄尻の部分に鎖分銅という鎖の頭端部に分銅がついているものだ。

 この武器の特徴は、接近戦だけでなく遠隔戦でも戦うことができるという点。

 鎖鎌は万能な武器なのである。


「……魔法!?」


 完璧に勘違いされているが、この世界の人間に能力を知られるのは天界法に触れるため、これは好都合。

 俺は『そうだっ!』と自信満々に答えておく。

 そして鎖分銅を勢いよく回しながら、戦闘態勢をとった。


「……なるほど、その鎖の先についている鉄塊で遠距離からの攻撃を可能としているのか……変態のくせに厄介な……!」


「その変態っていうのをやめろっ! 人聞きが悪すぎるんだ……よっ!」


 俺は答えるのと同時に鎖分銅を相手の鎧に向かって放った。

 金髪の女性はそれを籠手で弾く。


「……ふん、こんなものか」


「それはどうだろうな? 舐めてると痛い目を見るかもしれないぞ?」


 余裕の表情を浮かべる女性に、再び、鎖分銅を放った。

 しかし今度は横から、なぎ払うように。

 その鎖は鎧に向かって放ったのだが、女性は剣で受けた。

 受けてしまったのだ。


 次の瞬間、彼女の表情から余裕が消えた。


「鎖がっ……!?」


 鎖は剣に絡みつき、動きを完全に封じたのだ。

 しかし、それだけでは終わらない。さらに俺は脚に力を入れ、体全体で鎖を引き寄せる。

 すると、彼女の手に握られていた剣は――――手から離れ、俺の元へ。


「……しまったっ!?」


「……悪いが、武器は預からせてもらう」


 そう言って俺は十字鍔の西洋風の剣を手に取り、無力化させることに成功したのだった。

 実は最初からこれが狙いだったのだ。女性を傷つけるのは天使として、というよりも、人間としても3流以下な行為。

 そんなことをしたくなかった俺はこの鎖鎌を選んだのである。


「……まさか、貴様、初めからこうするつもりで……!」


 俺の狙いに気がついた金髪の女性はプライドを傷つけられたのか、頭に血が上っている様子だった。


「……例え私がここで命を尽きようとも、お前を殺す……!」


 剣を奪ったにもかかわらず、戦意の宿った瞳をこちらへと向けた。

 そこで、俺は怒りのメーターが振り切った。


「命を……粗末に扱うなッ!」


 金髪の女性は俺の怒鳴った声により、驚愕の表情で絶句し、耳をかたむける。


「お前の命はこれっきりなんだよ! 死んでから何回、後悔しても遅いんだよ! それなのに、簡単に命を捨てようとするんじゃないっ!」


 俺は命の大切さを知っている。

 どれだけ尊いものであるかを。

 だからこそ、その自分の命を捨てようとするこの女性を許せなかったのだ。


 俺の言葉から女性に気持ちが伝わったのかは分からない。

 だが、彼女の瞳からは戦意は失われて、俯いていた。


 ようやくこれで話を聞いてもらえそうだなと思った瞬間、突然、背後から拍手する音と歓声が飛び交った。

 まさかと思い、後ろを振り返ると、町の人々が大勢集まってきていた。


「その武器、格好いいっ! お兄ちゃん、それボクにも作ってよ~!」


「あの女性の剣の腕も凄かったのぅ。……まぁ、儂の次くらいじゃがな」


 どうやらこの村人達は先程の戦闘を見世物かなにかと勘違いしているようだった。

 金髪の女性もそれに気がついたようで、顔を赤くし、恥ずかしさを必死に堪えていた。

 いたたまれなくなった俺は女性の方へと移動し、剣を返して、小声で伝えた。


「……話は部屋でしないか?」


 女性はすぐに頷き、俺達は広場を後にした。




 部屋へと帰る途中、色々な人に話しかけられたが、一番印象に残ったのは少年の純粋な言葉。


「強いお兄ちゃんと弱いお姉ちゃん、またね!」


「………………ぐすっ」


 俺は先程まで戦っていた女性を一生懸命、慰めながら帰ったのだった。


いかがだったでしょうか。

強いお兄ちゃんと弱いお姉ちゃん。

それから弟子にしてほしいと願うソレイユ。

この三人はこれから一体どうなっていくのか。

気になった方は、

明日の23時から24時に次話をご覧ください!


気に入ってくれた方は

ブクマ、評価、感想、レビュー等々。

よろしくお願いいたします!


それではまた、次回。

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