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天使のお仕事 前編

羽磨けいきです。

さて、本日二回目の投稿は第三話となります。

この話を見て気に入ってくれた方は20時に第四話を投稿しますので

ぜひ、ごらんください!


今回のお話は天界や女神、天使についての説明をした後、

天使のお仕事をするというお話になっています。

少しばかり、シリアスな展開となりますが、お付き合いください。

 天界。

 それは天使や女神が暮らす世界で、一面神々しい光で照らされている幻想的な空間。

 この世界を初めて見た者は皆、口々にこう呼ぶのだ。

 ――『()()』と。


 それもそのはず、この世界は常識から逸脱しているのだから。

 宙に浮かぶ雲。

 その雲の上にそびえ立つ神殿。

 透き通った水が無限に湧く湖。

 光だけで勝手に育つ植物などなど。


 この世界は奇跡で満ちている。

 誰もが笑って暮らせる夢のような世界。

 そんな世界で暮らす天使や女神は毎日、仕事を行っている。


 その仕事内容は色々あるのだが、まずは女神の仕事を紹介する。

 女神の仕事は『世界の守護』だ。世界は大きく分けて全部で3つある。

 一つ目は天使や女神が暮らす天界。

 二つ目は悪魔や魔王が暮らす魔界。

 三つ目は人間達が暮らす人間界。

 その中で女神が管理しているのは天界と人間界だ。

 二つの世界を神の偉大な力によって崩壊を防ぎ、平和をもたらしているのである。


 次に天使の仕事だが、天使の仕事は3つある。

 一つ目は『女神の守護』だ。

 上級天使と呼ばれる天使達がこの仕事を行っており、女神に敵対する者を沈静化する。

 当然、女神を守護する存在のため、とんでもなく強い力を秘めている。

 ちなみにガブリエルは上級天使のうちの一人なのだが、いつもその辺をフラフラしているため、本当に仕事をしているのかは怪しい。


 二つ目は『人間の救済』。

 これは女神に特別に命じられた天使だけが行う。

 人間界に人間の姿となり舞い降りて、困っている人々を救済するという仕事だ。

 時には悪事を働く者に制裁を加えたり、救いの手を差し伸べたりと、だいぶハードな仕事のため、率先してこの仕事をしたがるものは少ない。

 ちなみに俺もしたくない。


 三つ目は『死者の魂の輪廻転生の補助』。

 死んだ人間の魂は天界もしくは魔界へと誘われる。

 どちらに誘われるかというのは悪事を行ったか、行っていないかどうかだ。

 要するに天界には善人の魂。魔界には悪人の魂が誘われるのである。

 天界に誘われた魂は記憶を消去し、新たなる命として人間界へと再び戻り、新たな人生を歩むこととなる。その際にお手伝いをするというのが仕事なのである。


 天使の約9割程度がこの仕事を行っており、砕いて説明すると、下っ端がする仕事ということだ。

 そしてそんな下っ端である俺は本日もこの業務を行うのであった。


「こちらの椅子におかけになってください」


 ここは天界に大きくそびえ立つ神殿の入口を入ってすぐのところであり、救済の間と呼ばれる場所。

 そんな場所で俺は死者の魂を俺の目の前にある椅子へと誘導しつつ、机の上にある魂の人生が書かれている履歴書(りれきしょ)に目を通す。

 すると死者の魂である若い男性が不安げに聞いてきた。


「あのぉ……ボクはどうすればいいんですか……?」


「それでは、まず、本人確認を行いますので自己紹介をお願いします」


「え、あっ、はい……。南条幸太(なんじょうこうた)です。今年で18歳です」


「はい、確認とれました、ありがとうございます。今、貴方の履歴書に目を通していますので、しばらくお待ちください」


「あ、はい……」


 数分が経ち、ようやく読み終えた俺は南条幸太さんへと目を向ける。

 制服を着ていることと年齢から高校生だということが分かる。

 それと自信のないような話し方からあまり自分に自信がないようなタイプだろう。

 これは言葉に気をつけながら話さないといけないようだ。

 俺は南条さんを落ち着かせるため、営業スマイルを浮かべながら、『輪廻転生マニュアル』に載ってあるステップ1を開始する。

 ステップ1は『天使の質問タイム』だ。


「それではこれから質問をさせていただきますね。貴方を責めるようなことはありませんから、落ち着いて答えてください。……え~、それではまず、小学生の頃に両親が離婚し、父親に引き取られたと書かれているのですが、離婚の原因を教えてもらってもいいですか?」


「離婚の原因は母の不倫です。ですから、ボクが7歳の頃から父親が一人でボクを育ててくれました」


「そうですか……。一人で子を育てるということは、本来夫婦で分担して行うことを全て一人でしないといけません。それを10年間もしてきたなんて、南条さんのお父さんはきっととても優しい人だったのでしょうね」


「そう、ですね……。自慢の父親でした」


 それから数回、何気ない質問をしていくうちに、段々と南条さんは俺に対して心を開いてくれるようになってきた。

 実はこれがステップ1『天使の質問タイム』の狙いなのである。

 質問をしていく中で相手に共感することによって心の距離を縮めなければ、ステップ2に進むことが出来ないのだ。


 だが、これが結構難しい。今回のような優しい人ならば良いのだが、時にはチンピラや頑固親父など、対応不可能な死者の魂が現れる。

 そんな時に必要なのは『決して諦めない心』などとマニュアルには書かれてあるが、それだけではまず不可能だ。

 更に必要になってくるのは、『笑顔』だ。

 やはり怒った顔をしているよりは、笑った顔の方が相手の緊張をほぐすことができる。

 俺の場合は特に幼い顔をしているため高確率で距離を縮められるので、常々心がけているのだ。


 そして、次はステップ2。


「次は南条さんの死因について詳しく聞かせていただきます。あまり言いたくないことだと思いますけど、お願いできますでしょうか?」


「……はい」


 そう、ステップ2は『死んだ原因に触れる』ことだ。

 ステップ1で心を開かせる必要があったのは最もデリケートな部分に触れていくからなのである。


 誰もが幸福な最期を迎えられる訳じゃない。

 むしろ凄惨で悲哀に満ちた最期を迎えた人達もいる。

 だからこそこのステップ2では言葉の選択を間違えないように最大限の注意をしなければならないのである。


 俺は南城さんに緊張を悟られないように一度、履歴書に目を通すフリをして下を向く。

 そのまま目を閉じて数秒の間、大きく呼吸をしながら気持ちを落ち着かせる。

 鼓動が静まるのを感じた頃、俺は顔を上げてステップ2を開始した。


「南条さんの死因は窒息死とあるのですが、これは――――」


「……はい。自殺です」


 俺が聞く前に南条さんはゆっくりと答えた。

 そして弱々しく笑いながら続ける。


「……高校生になって、ボクはバスケットボール部に入部しました。最初は下手でドリブルも出来ないくらいだったんです。ですけど、毎日練習して2年の夏、ようやくスタメンに入ることができました」


「2年でレギュラー入りを果たしたんですか……? 3年生から少ない枠を奪うことが出来るなんて、凄いことではないですか」


「ありがとうございます……。実はボクもその頃は自信に溢れていて、実際、試合では大活躍することができて、決勝まで行くことができたんです。でもそこでボクは……失敗したんです」


「失敗、ですか」


 南条さんは眉間にしわを寄せ、膝の上に置いている手を拳に変えながら頷いた。

 その様子から俺は悟った。


 ――これが自殺の原因になるということを。


「決勝戦は強豪校との試合だったのですが、弱小のボク達のチームは大進撃を見せました。最終クォーター残り10秒の時点で63対62で1点リードしていたんです。その時、対戦校のエースがシュートエリアからかなり離れた場所からシュートを打ちました。そのシュートは入ることはなく、リングに当たり、ボールが跳ねたんです。そこでボクは相手のチームにボールを奪われまいと大きくジャンプして手を伸ばしました。ボールはボクの手に触れ、勝利を確信しました。ですが、次の瞬間、汗のせいで手が滑ってしまい、再びボールから手が離れ――――」


「――――逆転オウンゴールを決めてしまったんです」


 勝てば全国という大事な局面での痛恨のミス。日々練習に励み、高校生活のほとんどをバスケットボールに費やしてきた南条さんにとって、それがどれほどショックだったかというのは想像に難くない。


「……それが原因で自殺を……?」


「……いえ、これも原因の一つですが、もう一つあるんです。試合が終わった後、チームメイトはボクを責めました。当然ですよね、ボクのせいで全国を逃したんですから。それに3年生の先輩はこれが最後の試合だった。そんな大事な試合をボクのせいで負けてしまったんです。怒って、当然です……」


 そう言って、南条さんは力なく笑みを浮かべた。

 その瞳には今にもこぼれそうな涙を溜めながら。

 バスケットボールは個人ではなくチームプレイが必要となっている競技。

 誰かが失敗すれば、チーム全体に影響が出る。


 だが、だからといってその失敗を責めるのは絶対に間違っている。

 悔しい気持ちも分かる。

 全国に行きたかったという気持ちも分かる。

 けれど、そこはチームの責任として結果を受け止め、失敗した南条さんを励ましてあげるのがチームメイトというものだと思う。


 しかし、きっとチームメイトにはそれが出来なかったのだろう。

 南条さんを責め、南条さんに全ての責任を押しつけることで、どうしようもない気持ちをぶつけたのだ。

 そして先程の話から俺は――もう一つの原因に気がついた。


「……そうだったんですね。……ということはもう一つの原因というのは――――」


「――えぇ……。()()()()()()()()()()()()、です」


 俺の当たってほしくなかった予想は当たっていた。

 傷心状態の南条さんに追い打ちをかけるように始まったいじめ。

 残酷な話に思わず、冷静さを欠きそうになる。

 それを抑えるため、俺は一度目を閉じて深呼吸し、落ち着きを取り戻す。

 再び、視線を南条さんに向けると、南条さんの瞳からは一粒の涙が流れていた。


「試合に負けた次の日、ボクはもうこの部活にはいられないんだと思い、バスケットボール部を退部して、しばらくの間、家の自室に引きこもりました。逃げたかったんです、バスケから。チームメイトから。それから一週間の間、暗い部屋で一人きりでベットから動かず、ひたすら天井を眺めていました」


 南条さんは涙を人差し指ですくい、無理して笑顔を作った。そして父親とのエピソードを語り始めた。


「そんなボクを心配して父は、直接話しかけてくることはなかったのですが、仕事に行く前にボクの好物だったカレーを作ってくれたんです。父が仕事に行っている間にカレーを食べようとキッチンへと移動すると、机にお皿に盛られたカレーライスと、白色のメモ帳が置かれていました。そのメモ帳にはたった一文だけ、『俺はいつでも幸太の味方だ』と書かれていて、それを見てボクは涙が止まりませんでした」


 父親の不器用な愛情。

 それが南条さんの傷ついていた心を癒やし、バスケを失い、無気力になっていた南条さんに勇気を与えたのだ。


 だが、南条さんの話はここでは終わらない。

 終わることはできなかった。


 南条さんは視線を落とし、絶望で終わる結末を話し始める。


「次の日、ボクは学校に登校しました。許してもらえるなんて思ってはいませんでしたが、チームメイトに謝るため、父からもらった勇気を胸に、教室へと入りました。しかし、ボクの席に机と椅子はなく、代わりにあったのは一枚の紙。そこには『お前のせいだ』、そう書いてありました。そこから本格的ないじめが始まったんです」


 父親からもらった勇気は悪意によって失われ、南条さんはそこから、様々ないじめにあったという。

 上履きを隠されるくらいならまだ可愛いほう。

 教科書は破かれ、鞄と共に教室の隅のゴミ箱に捨てられることもあったそうだ。


「耐えられなくなったボクは、自室で首を吊って……自殺……しました」


「……辛い話をさせてしまって、申し訳ありませんでした。話してくださってありがとうございます」


 『いえ……』と小さく呟く南条さんを見て、俺はステップ3に移行することを決意する。


「それでは、南条さん。これからのことを説明させていただきます。南条さんはこれから異なる人間へと生まれ変わり、再び人間界へと戻ることになります。……その前に、貴方の心残りや不安教えてください」


 ステップ3とは『輪廻転生の説明と心残りと不安の消去』だ。

 と言っても、心残りを全て消すというのは難しいため、極力消してあげるというのが限界。


 正直、ステップ3は早いとも思ったのだが、俺は今の南条さんの顔を見て、話を掘り下げて傷つけることはしたくなかった。

 この人を今すぐ、救ってあげたい。

 そんな想いから焦りから冷静さを欠きそうになる。

 感情的になりそうな気持ちを抑え、南条さんの話に耳を傾けたのだが――


「……心残り、ですか。……そんなのな――――」


 『そんなのないです』

 そう言おうとした南城さんを俺は遮った。

 俺には分かったのだ。

 南城さんが()()()()()()()()()()()()()


 この場にいれば誰だって分かる。

 心残りが本当にない人間はそんな悲壮な表情を浮かべることは決してないのだから。


「――それは嘘ですね」


「っ!?」


 心残りがないと言い終える前に即答した俺に、南条さんは面食らう。

 そんな南条さんに俺は問い詰め始める。


「貴方は間違いなく、嘘をついています」


「なぜそんなに言い切れるのですか……! 天使にそんな能力でも備わっているのですか!?」


「天使によってはそういう能力を持っている方もいますが、私にはありません」


「だったら、なぜ!?」


 我を忘れ、激昂し、南条さんは立ち上がり、俺の方へ詰め寄る。

 周りで同じ仕事を行っている天使達がざわざわとし始め、『これ、まずいんじゃないか』、『若い子って難しいしなぁ』といった声が広がり始める。

 そんな状況で俺は、南条さんの目を真っ直ぐと見据え、笑った。


「そんなの話を聞いていたら誰にだって分かりますよ。――貴方の心残りは二つ。大好きだったバスケと父親のこと。違いますか?」


 高校生活のほとんどをバスケの練習で費やした。

 朝早くにも練習。

 昼休みも弁当を食べてすぐに練習。

 放課後も。そして休日さえも。

 そんなバスケを嫌いになれるはずがない。

 たとえその結果が残酷な結果であろうとも、大好きなバスケを続けたいと思ったはずだ。


 そしてもう一つ、父親に関してだが、あんなに嬉しそうに語っておいて、父親のことが気にかかってないはずがない。

 それに自分を高校生になるまで必死に働いてくれた父親のことを忘れられる訳がないのだ。


「……ハ、ハハッ……」


 南城さんは力なく笑い、頬には涙が流れていた。そしてとうとう、抑えていた感情が爆発した。


「ボクは、バスケがしたかった! もう一度チームメイトと一緒にバスケをしたかったんだ! それなのになんで……なんでなんだよっ!? なんでこんなに上手くいかないんだよぉッ!?」


 今まで堪えていた感情が大きな波となり、心に押し寄せる。

 心は波で満たされ、溢れたものが瞳から涙となって流れていく。


「ボクは誰よりも練習をしてきたッ! チームのために頑張ったんだよ! なのに、なんで、なんで……っ……こんな結末になってしまうんだよ……!」


 声を枯らし、子供のように泣きじゃくりながら不満を叫ぶ。

 その姿は俺だけではなく、周りで仕事をしている天使達の心もひどく揺らした。


 この状況から逃げたくない。

 でも逃げたい。

 そんな葛藤を抱えながら耐え続けた結果、自殺し、南城さんの人生は終わってしまった。

 

 ――――こんな結末、絶対に間違っている……!


 そう思った瞬間、俺の体は勝手に動き――――


「……天使、さん……?」



 南条さんの頭を優しく撫で、抱き締めていた。

 俺にはそうすることしかできなかったのだ。


「がんばり、ましたね」


 きっとそれは南条さんが誰かに言って欲しかった言葉。


「……っ!? ……っ……うあぁぁぁぁぁぁッ!」


 俺は大声で泣く南条さんの頭をポンポンと優しく撫でながら、情けなさを感じていた。

 この人は全てに裏切られて、人生を終えた。

 継続していた努力に裏切られ、絆を深めていたチームメイトに裏切られた。

 そして最後には自殺という結末。

 こんな終わり方があっていいはずがない。

 もっと、報われてもいいはずなんだ。


 だが、結末は変えられない。

 だから、天使である俺がこの青年の心残りや不安を消してあげなければならない。

 ならないはずなのに。


 俺は自分の無力さを呪いながら、南条さんを抱き締め続けた。


いかがだったでしょうか。

今回は南条幸太さんの人生に触れるお話でした。

近年、若者の自殺が増加しているとの話を耳にして、

こういうお話にさせてもらいました。


次の話で南城さんは最後の瞬間を迎えます。

その時、南城さんは何を思うのか。そして天沢一矢は何を感じるのか。

ぜひ次回もごらんください。

※次回の投稿は20時となっています。


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