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 放課後になり、朝の約束通り、ネーヴェとクレストールとサイレースを引き連れて生徒会室へ向かうことになった。

 ――予定外な2人も加わったけど、人数が多い方がいいし。大丈夫だよね。

 今更になって、本来誘う予定になかったクレストールとサイレースの存在に、自信をちょっと欠いてしまうが、成績的には、クレストールは常に首席だし。サイレースだって常に10番以内には必ず名前を連ねていることから、問題はなく。また、知名度というか評判というのも、クレストールはもちろんのこと、サイレースも文武両道の美形として人気があるので、問題はないだろう。

 ――まぁ、今さらか。

 そう思い、生徒会室の前へ到着すると、ノックをして「失礼します」と入って行く。

 中では、今日も既に生徒会長のセチロが席に腰を落ち着けて、生徒会の仕事をしている最中であった。

「会長、こんにちは」

「やあ。アルサルミン、こんに――」

 ちは。と、締めくくる直前に、アルサルミンが後ろへ引き連れている3人の姿を目にして、セチロは動きを止めた。

「えっと。アルサルミン。もしかして、後ろにいる3人って……」

「はい。生徒会の仕事を手伝ってくれるって、みんな快く引き受けてくれました。右から、ご存知だと思いますが、クレストールと、同組のサイレースと、昨日お話していたネーヴェです」

 いずれも学校では有名人なので、紹介を省いても良かったのだが、軽くても一応の紹介をするのが礼儀だろうと、セチロに3人を引き合わせていく。

「あぁ。みなさん、それぞれ学園内でも名前が知られているからね。顔を合わせるのは初めての人もいるけど、俺が生徒会長のセチロです。今回は、こちらの我が儘に付き合ってくださり、本当にありがとうございます。大変な作業もありますが、よろしくお願いしますね」

 やはり3人とも有名人のようである。

 手を休め、すでに見聞きしていることをセチロはアンリールに伝えつつ、視線を3人に向けながらにこやかに挨拶するセチロは、やはりネーヴェに一番興味を示したらしい。最後の方は、完全に目線がネーヴェに向けられていた。

 ――親密度が低くてこれだもんなぁ。ネーヴェってば、やっぱり魅了のアイテムを持ってると思うんだよなぁ。いっぱいありすぎてどれがどれだか覚えてないけれどさぁ。

 それでも、どこかしらに必ず身に着けているはずだと、アルサルミンはネーヴェを見つめてしまう。

 しかし、やっぱり思い出せず。諦めるようにセチロに視線を戻した。

 同時に、セチロの視線もアルサルミンに向けられてくる。

「本当はネーヴェだけを誘う話だったけど。2人も協力してくれるというから、会長に確認せずに勝手に判断しちゃってごめんなさい。でも、ひとりでも多い方がいいと思ってお願いすることにしたの」

 自ら立候補してきた2人のことを軽く説明しながら、自薦なのだから遠慮なく働いてもらおうとアルサルミンは心で思う。

 そんな黒い考えをアルサルミンがしているとは、微塵も思っていないらしいセチロは、嬉し気に瞳を緩ませる。

「さすが、アルサルミンだね。噂ではいろいろと言われているけど、やっぱり君はすばらしい女性だよ。3人も連れてきてくれるなんて。もちろん、ネーヴェはもちろんのこと、他の2人のことも大歓迎だよ」

「たまたまですよ」

 感動するままに言葉を紡ぐセチロへ、アルサルミンは褒めすぎだと照れる気分で、謙遜してみせる。

「でも、これで総勢5人になったし。最低限度だけど、役員の人数が揃ったから、これからは仕事が少し楽になりますね」

「えぇ。本当に助かります。みなさん、この度は本当に、こちらの都合で勝手なお願いをしたにもかかわらず、受けてくれてありがとうございます」

 自分の席の前に移動したアルサルミンとは異なり、入ってきたときの状態のまま、扉の前に立っているネーヴェとクレストールとサイレースに、セチロは席から立って、お礼を言う。

 そんな中、長々と何度もお礼を重ねるよう挨拶するのは時間の無駄だとでもいうように、クレストールが口を開いた。

「それで、僕らはなにをすればいいのかな」

「本命は、試験の後のイベントとなりますので。今は、過去の資料のチェックとか、部活の予算のチェックや活動状態のチェックとかですかね。詳しくは、アルサルミンがそういうことはすべてやってくれていたので、アルサルミンから説明してもらってください。俺は違うことをしているので」

「わかりました」

 そう言うと、当然という感じで、クレストールがアルサルミンの脇に腰を落とす。

 そして、それを見ていたネーヴェとサイレースが、アルサルミンたちと向かい合うように設置してある、会長の机からは左側となる席へ、腰を落としていった。

 向き合っている机自体は接してはいないが、ふたつの机の間の空間はさほど広くないことで、教室の一番前の席と一番後ろの席との距離から比べたら、本当にすぐ側というほどに近く。アルサルミンの正面に座ってくれたサイレースの存在に、心をときめかせる。

 ――あぁ。やっぱり麗しいわぁ。

 見惚れてしまう。と、サイレースを熱い眼差しで見つめていたアルサルミンの肩を掴むようにして、傍らに座るクレストールが、アルサルミンの心を現実に引き戻した。

「で、なにをすればいいんですか?」

 目つきは鋭く、なにかものすごく物言いたげな瞳であることに、アルサルミンは自分がサイレースに向けていた眼差しの意味がバレてしまったのだろうか? と周章狼狽したものの、それを必死に抑え込み、平静を装うようにクレストールへにっこり笑って返した。

「それじゃあ、クレストールは部活の部費の使い方の整理とチェックをしてちょうだい」

 そう言いながら、後ろの棚からファイルをひとつ取り出すと、ノートを添えて、クレストールの前に置く。

「まとめ方の見本として、過去のノートもファイルの中に挟まっているから。分からないところがあったらそれを参考にしてね。でも、クレストールが分かりやすいと思う方法でまとめてくれるのが、一番いいかな」

「わかりました。では、僕が見やすいと思う方法でまとめさせてもらいますね」

 入学した時から今までの3年間首席を維持してきたクレストールの頭脳を、最大限活用しなくては。と、アルサルミンは無茶を承知でお願いしたのだが、クレストールはそれに素直に気軽に応じるように返事をしてきた。

 アルサルミン的には難題を押し付けたつもりだったので、心持ち、拍子抜けした感じだろうか。

 ――これだから、天才は……。

 でも、クレストールに任せておけば絶対に大丈夫だという思いから、アルサルミンはそれ以上なにも言わず。ファイルを開いて作業を開始したクレストールを視界の脇に収めながら、後ろの棚から数冊のファイルを取り出した。

 それを抱え持ち、反対側の席に座っている、ネーヴェとサイレースの間に、そのファイルを音を立てないようにそっと置くと、その上にノートを添える。

「ネーヴェとサイレースには、過去のイベントの整理をしてもらいたいんだ。どんなことをしたか、みんなの反応はどうだったかとか。ノートが足りなかったら言ってちょうだい。ノートはたくさんあるから」

「参考にできるノートは、ないのか?」

 ファイルを覗き、先ほどクレストールへ説明していたときの話を聞いていたことで、中にこれまで書きまとめてきたノートが入っていると思ったのだろう。サイレースが不思議そうに呟く。

 それを受け、アルサルミンは申し訳なさそうに説明を続ける。

「こっちは、今回がまとめるの初めてだから、参考にできるものがなにもないんだ」

「そうなのか?」

 若干戸惑い気味に応じるサイレースに、アルサルミンは更に話を進めた。

「うん。だから、2人で協力してやってほしいの」

 説明しながら、アルサルミンの頭に浮かんでいるのは『親密度100%』という単語であった。

 だが、この座り方をされてしまった以上、この2人でやってもらうしかないという苦渋の判断から、アルサルミンは涙を呑み、2人にこの仕事を頼むことにしたのである。

「ネーヴェやサイレースが、分かりやすいと思った形でまとめてちょうだい。それが、試験後のイベントの参考資料となるから、大変な作業になると思うけど本当によろしくね」

 サイレースだけでは心許ないかもしれないが、こちらには鬼畜な高さのステータス持ちの。だけでなく、もしかしたら、隠しステータスにもこの仕事に役立つ効果を持っているかもしれない、ネーヴェが控えているのである。期待は、正直、かなりしている。

「それじゃあ、本当に手間のかかる作業だけど、お願いね」

「分かったわ。アルサルミンのお願いですもの、全力で頑張らせてもらうわね」

「あー。うん。そうだな。とにかくやれるだけやってみるさ」

 アルサルミンのお願いに、ネーヴェは快く。サイレースも渋々ながらも、可能な限り努力することを約束してくれた。

 口が悪いが、本当はやさしいサイレース。やっぱり、すごく好みだと、改めて実感しながら、今はそれどころではないことで、乙女な感情はしまい込み、アルサルミンは自身の席に戻って行った。



 生徒会長をはじめ、それぞれが黙々と作業し続けること3時間弱といったところか。

 頑張りすぎたというのが、アルサルミンの感想である。

「初日から、ごめんなさいッ! 門限もあるのに」

「生徒会の仕事を手伝っていたと言ってもらえば、門限の方は大丈夫だから。今日はこの辺で終わりにしよう」

 セチロの台詞を機に、それぞれが片づけを開始する。そして、それぞれからファイルとノートを受け取ると、アルサルミンは後ろの棚にそれらをしまい、扉を閉じると鍵を掛ける。

「それでは、みんな。今日は本当にありがとう。生徒会室の鍵を閉めてから俺は帰るから、アルサルミンたちは先に寮へ帰ってくれて大丈夫だよ」

「それでは、会長。お言葉に甘えさせてもらいます」

 相変わらずのセチロの優しい微笑みを受け止めながら、アルサルミンは3人を引き連れて生徒会室から廊下へと出ていく。

「今日は本当に、3人ともありがとう。これに懲りず、明日からもお願いね」

「わかってますよ。自分から申し出た以上、役目はきちんと果たします」

「私も、アルサルミンのお願いですもの。協力するのにやぶさかではありませんから。期待に応えられるよう頑張りますね」

「だな。ネーヴェのおかげで、まとめ方の方向性も決まったし、なんとかなると思うぜ」

 三人三様に、それぞれアルサルミンのお礼に対し、任せておけと返してきてくれる。

 ただ、サイレースの台詞を聞いた瞬間、胸がチクリと痛んだのは内緒である。

 ――食堂では、あんなこと言っていたけど。やっぱり、恐るべきは親密度が100%ってことか。

 このままでは、邪魔をしないでいると、サイレースがネーヴェに落とされてしまうと思うのだが。まさか今更、ネーヴェとクレストールを組ませる訳にもいかず。そもそも二人は高すぎるカリスマがぶつかり合って、相性がいまいちのようだし。

 ――どうすればいいんだろう。

 ネーヴェとクレストールには恋人になってもらって、ゆくゆくは、クレストールに婚約破棄を言い渡してもらわなくてはならないというのに。その最たるふたりの仲を取り持つことが、激しく難しそうな現状は、アルサルミンとしては絶望的ともいえるもので。不覚にも涙が零れそうになるのを、アルサルミンは必死にこらえる。

 それに気づいていないらしいサイレースが、アルサルミンの肩を叩いてきた。

「でもよー。お前すごいな。生徒会で、いつもこんなに遅くなるまで、あんな仕事をひとりでやってたんだろ。セチロは違う仕事があるみたいだしさ」

「え、えぇ。会長は他にやらなければならない仕事があるから、仕方ないんだ。でも、ひとりでもなんとかなるもんだよ。試験後はイベントが控えているからそうはいかなくて、今回みんなにお願いすることになったんだけどね」

 サイレースの手のぬくもりが、心を癒してくれている。

 ――どうすれば、フラグを立てられるんだろう。

 サイレースに、アルサルミンを見てほしい。ネーヴェに取られたくない。と、心から思ってしまったアルサルミンは、なんとしてもサイレースに馬鹿にしてもらうネタを考えなければと、心に決める。

「とにかく、今日はもう遅いから。みんな帰りましょう」

 そう言うと、クレストールが、アルサルミンの背中に手を添え、サイレースの手を払いのけるようにして、帰宅を促す。

 思わず、反射的に邪魔しないでほしいと思ってしまったが、現在は未だクレストールの婚約者であるアルサルミンには、それを拒む手立てがなく。黙ってそれを受け入れる。

 ただし、である。

「クレストール、王族としては、みだりに女性に触れるのは禁止なのじゃなかったの?」

「婚約者に対しては、例外ということにしました」

 嫌味交じりに告げた台詞に、飄々とクレストールは応じると。後ろに立つ2人に目線を向けて行った。

「それはそうと、おふたりって意外とお似合いですね。並んで歩いてると、美男美女のカップルのようですよ」

「はぁ? 急になに言ってんだ? クレストールが冗談言うなんて珍しいじゃねーか」

「そうですよ。アルサルミンの隣を奪い取ったからって、ちょっといい気になっているのではないでしょうか? 男子寮とは、学校を出たらすぐ反対方向になるので、アルサルミンのエスコートは私に任せてもらっていいんですよ」

 売り言葉に買い言葉。そんな感じで、サイレースとネーヴェが言い返すが、アルサルミンには、それが空々しく聞こえてしまった。

 ――風雅の、馬鹿。

 アルサルミンだって、無駄にハイスペックな美少女キャラのはずなのに。風雅がやれることはすべてやりつくした結果のヒロインであるネーヴェは、それを上回るステータスや魔力。隠しステータスの持ち主で。更には最高課金レベルの恩恵まで与えられているのだ。

 勝ち目なんてあるわけない。

 ――とにかく、なんとかして、相性の悪いクレストールとネーヴェを恋人同士にする方法を考えなくちゃ。

 こうなったら、意地である。

 そのための、クレストールのフラグがなんなのか、それを探らなくてはと、アルサルミンは改めて心に誓ったのであった。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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