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 専属のメイドであるリテラエを従え、日曜日のお昼過ぎには寮へ戻り。みんなから、心配していたのだと言われながら、寮へ戻ってきたことを歓迎され、過ごすこと半日。

 そして、ついに訪れた月曜日。

 顔の広さを物語るよう、男女関係なく、すれ違う人すれ違う人に「ご機嫌はいかが?」とか「ごきげんよう」とか「おはようございます」と声を掛けられ、それに適当に応じながら到着した教室。

 一列目は、クラス代表の2人である、アルサルミンと、その婚約者であるクレストールが中央に座っているのみで、他の生徒は二列目以降に座っていた。

 これは嫌がらせか? と、なんの情報もなければ思ってしまうところだが、どうやら王族であるクレストールに近づき難いことと、2人が婚約者同士ということで2人きりにしてあげようという気づかいによるものらしかった。

 今のアルサルミンにとって迷惑極まりないことに。

 しかし、これはアルサルミンが前世の記憶を取り戻す前からの配置であることから、どうしようもなく。さもいつもの通りというようにして、アルサルミンは一列目中央の席へ腰を落とした。

 ――あぁ、サイレース様のお席の遠いこと。

 教室に入るなり確認したのは、サイレースの席。一番後ろの窓際が定位置らしく、今日もそこに座っていた。

 とてもでないが、わざわざ出向かないと挨拶を交わせない位置である。

 ――しかたない、昼にでも声をかけるか。

 そう思いながら、すでに傍らに腰を落としていたクレストールと朝の挨拶を交わす。

「おはよう」

「おはようございます」

 相手が王子様なので、一応、丁寧な言葉を使っておくことにする。

「長いこと休んでいたもので、授業に追いつけるかどうか心配で」

 どうでもいいことを口にしながら、クレストールの反応を伺う。

「君のことだから、大丈夫だよ。休み中のノート貸そうか?」

「ありがとうございます」

 お礼を述べつつ、ここは「君の分のノートを取っておいたよ」って休んでいた間のノートを個別に作り、アルサルミンにくれるところではないか。と、思いながらも、表情は嬉しそうな笑みを浮かべてみせる。

「あぁ、そうそう。お見舞いに来てくれたサイレースに聞いたんだけど、途中入学してくる人が、今日、来るらしいね」

 おっと、うっかり。口調を改めるのを忘れて素のまま発してしまった言葉に、しまったと思いつつ。出てしまったものは仕方ないと、誤魔化すような笑みを添えてクレストールを見つめる。

 一瞬、驚いたような表情を浮かべたクレストールだが、すぐに普段の表情に戻ってしまう。

「1週間も高熱に浮かされて、なにかが壊れてしまったらしいね。サイレースが言っていたよ」

 戻されてきた笑みは、極上のものであった。

 美形だけあって、贔屓キャラではなかったが、目の保養くらいの役目は担ってくれそうだなと、アルサルミンは感想を抱く

 ただし、告げられてきた台詞はいただけなかった。

 ――毒吐きやがった。

 王子様には丁寧語を使えって言いたいのか! と心の中でケンカを売りつつ、アルサルミンは平常心を装いあははと笑う。

「そうなんですよ。ちょっと頭のねじが一本くらい外れちゃったかなって感じで」

「一本でよかったじゃないですか」

 そう言うと、一方的に話を切り上げ「そうそう」と、言葉を続けた。

「すごい好成績だったそうですよ。今日、途中入学してくる人の噂ですが」

「それは楽しみですね」

 クレストールの話を聞いて、アルサルミンは表では感心したような態度で返事をしながら、内心で「あれ?」と首をひねる。

 ――初期のステータスは本当に低めだったから、ゲームの都合上なんとか入学を許可される成績を取れたって設定で、好成績を取れるようなものじゃなかったよね。

 自分が操作したキャラのことである。二巡目三巡目と回を重ねるごとに、ミニゲームのクリア特典や課金分の親密度。イベントで手に入れたアイテムにて加算された隠しステータスはそのまま引き継がれる形だったので、五巡目くらいにはしょっぱなから優秀な成績を収めていたが、一巡目は本当にしょぼかったと記憶している。

 つまりは、エンディングを迎える卒業パーティに至るまでに、ヒロインを優秀なキャラに育てるのが本当に大変だったので、間違えるはずがない。

 ――別人なのかな?

 似てはいるけど、この世界は『Eterrnal Love』とは違うのかもしれない。

 そう思って見ると、心がふっと軽くなる。

 ――なーんだ、私は別に悪役ライバルキャラなんかじゃなかったんだ。

 初期の巡回でこそ邪魔ではあったが、五巡目にもなると、ヒロインの歯牙にもかからないへっぽこキャラに成り下がっていた、スペックが無駄に良いだけの悪役ライバルキャラのアルサルミン・フレーズ。

 同じ名前ではあるし、外見もそっくりだが、悪役ライバルキャラなんて設定はない方がいいので、アルサルミンは素直に心から喜んだ。

 そして、機嫌よくクレストールから借りたノートを写している途中で、朝の朝礼のチャイムが鳴り響いた。

 まるでそれを待っていたかのようなタイミングで、いつも現れる、担任の教師。

 続くように入って来たのは、ピンク色の制服を着たネーヴェであった。

 ――えー。あれって、私が前世で死ぬ前夜、課金しまくって奪い取った第一位の賞品じゃないの?

 記憶が正しければだが、効果はカリスマアップだったはずである。

 実際に、その効果が表れているのか、先生からの紹介が終わり、笑顔を浮かべながら自己紹介をするネーヴェの姿は輝いているようにみえた。

 ――公式だから、許されるってこと?

 たとえ、王族でも。最高位の爵位である公爵でも、身につける制服は青地を基本とした制服のみ。

 それが、ピンク色の制服が、なんの問題もなく通ってしまうということは、そういうことなのではないかと、心で叫ぶ。

 ――でも、あれを着ているってことは、前世の私が費やした時間とお金の結果も、この世界では見ることはできないようだけど、ステータスや親密度、隠れステータスに加算されているってことだよね。

 きっと、たぶん、おそらくは。

 ――強敵じゃん。

 というより、相手にならないじゃん。と言うべきだろうか。

 とほほ。と思いながら、自己紹介を終え、笑顔を振りまき、まるで当然のようにサイレースの座る席の傍に、ネーヴェが腰を落とすのを見守ってしまう。

 ――サイレースに対する親密度、既に100%ってこと?

 前世の自分が課金をしまくった結果ではあるが。

 思わず、なんてことをやらかしてくれたんだと、アルサルミンは思ってしまう。

 そして、落ち着かなげにジリジリとしているアルサルミンを隣で見ていたクレストールが、声をかけてきた。

「素敵な人ですね」

「ええ。とても」

 それで当然だろう。とは、前世の自分が犯した功績を反省しながら、顔だけは立派な笑みをこしらえて応じてみせる。

「あんなに魅力的なんだもん。クレストールも、あぁいう女性に惹かれたりするんだろうね」

「えっ?」

 嫌味ではなく、素直に。ネーヴェの持っているステータスや隠しステータスのことを思い浮かべながら、太刀打ちできる人がいるなら見てみたいという心境で呟いてしまった台詞に、クレストールが不思議そうに首を傾げた。

「僕には、既に、君という婚約者がいますから」

「え? でも、男として惹かれないわけ? あんなに素敵なのに」

 ここで、ネーヴェに心奪われたなんて言われたら、それはそれでショックではあるが。

 ――目指すは、婚約破棄だもんね!

 もちろん、忘れたりなんてしていません。と、ネーヴェのことをプッシュするように、クレストールに語り掛ける。

「王族のお嫁さんとかには、あぁいう魅力的な人が合いそうだよね」

「そうですか? なら、兄にでもおすすめしてみましょうか?」

 さりげなくクレストールにおすすめしたつもりが、あっさり受け流されてしまう。

 しかし、ここで引き下がるわけにもいかず。

「え? でもクレストールのお兄さんには、ちゃんとした婚約者がいるじゃん」

「それを言ったら、僕にだって、ちゃんとペアリングを交換済みのアルサルミンという婚約者がいますからね」

「そうだけど……」

 それでは困るのだと。ネーヴェに惹かれてもらわないと、この先の予定が狂うのだと思いながらも、クレストールが口にした事実に対しアルサルミンは小さく頷く。

「にしても、公爵という地位も関係しているのでしょうが、他の人と違い僕の前でも畏まることなくいてくれるのはプラスでしたが、将来は王族になれることが楽しみだったらしく、これまでの従順すぎる君ってつまらなかったけど」

「え?」

「一本ねじが飛んでしまったという、君も、なんかおもしろくないね」

 人前では出すことのないはずの、ブラック部分を曝け出してきたクレストールは、首を伸ばすようにしてアルサルミンとの距離を詰めてくると、ちょっぴり不機嫌そうに瞳を歪ませる。

「僕にネーヴェを押し付けて、君はなにをしたいのかな?」

「えぇ!」

 なんでバレバレ? と、内心であわを食いながら、必死に平静を装った。

「なんのこと? 私はただ、途中入学してきたネーヴェさんが素敵な子ねってことを言いたかっただけじゃない」

「どうだか?」

 アルサルミンの言い訳を鵜呑みすることなく、けれどもそろそろ授業が始まりそうなことで、クレストールは姿勢を元に戻しただすと、正面を向き直る。

「いいですか、僕に臆することなく接してきた君を気に入って。見た目も悪くありませんし、成績もよい点も考慮し、僕が君と将来結婚すると決めて、婚約を申し込んだんです。そう簡単に他に目を移したりしませんから。安心してください」

 正面を見据えたまま、告げられてきた台詞は絶望的で。

 途中入学してきたヒロインは無敵状態の上、風雅が積み上げて来た努力がすべて反映しているのならば、サイレースに対する親密度はすでに100%になっているはずで。

 さらには、まったく無視してきた王子様はときたら、想定外にアルサルミンにご執心らしく、簡単には心をネーヴェに移してくれそうもなく。

 ――うわー、私の人生計画が!

 狂ってしまう。と、外面は真面目な顔で授業を受けつつ、内心で深く葛藤を始めていた。

誤字脱字多発中。少しずつ直していきます。すみません。

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