第03話 誰か歯車に油を注しました
出会い編がまとまらず1話で終わりませんでした。
「「…………」」
此処はいったい何処なのでしょうか?先ほどまで魔王と戦っていてカイトが止めを刺したと思いましたが、ひょっとして私は命を落としてしまいましたか?次元の裂け目に落ちたと思いましたが、天上界の女神様の御前に来るとは、これ如何に。
・・・ふぅー言葉も出ないほどの美しさです。やはり人ならざる、だからでしょうか、う~ん、声を掛けたら消えてしまうってことは?ああ、なんで私は緊張しているのでしょうか。動悸もしますね、やはり怪我の影響?いえいえ、死んでいるならば動悸は無いでしょう。賢者のくせに支離滅裂ですね。取りあえず落ち着くためにも此処が何処なのか眼前の女神に教えを請わねばなりませんね。
「失礼、直問する事をお許しください。美の女神よ此処はいったい何処なのでしょうか? 」
「…………」
「えっ、言葉が通じない?これはいよいよ困りました。ああでも、このまま見つめ続けてるだけでも極上の幸せを感じますね。」
「「…………」」
梨里杏は後ろを振り向きながら美の女神って何処にいるのかと辺りを見回すが自分たち以外の人影を見つけられず、今まで見たことが無いくらい素敵な人が話している内容を理解出来ない事が凄く悲しかった。
日本語を話していた気がするけど、見た目は外国の方よね?あんな綺麗な銀色の髪を見たことがないし、瑠璃石のような深い蒼の瞳も見かけないわ。このまま見つめ続けていたいけれどダメね。場所が分からなくなっているみたいだし、年齢も10代後半くらいかしら?いくら素敵でもこんなおばさんから不躾に見つめられたらきっと嫌よね。
「あの… 言葉… 分かりますか?…あっ!! 怪我をしています!早く手当をしないとっ」
「えっ?ああ、これは平気で… す… 」
梨里杏はオドオドと話しかけ、青年が怪我をしていることに気が付くと急いで青年の手を掴んでアトリエへと駈け込んでいく。そんな梨里杏に見惚れ、手を掴まれたことで一気に緊張がぶり返し顔を赤くしたルディは、まともな返事すらしりつぼみになりつつ、なされるがまま梨里杏の後に着いて行く。
青年の怪我が気になり今まで色々考えていたことが一気に吹き飛び、相手の手を掴む大胆な行動すら気が付いていない梨里杏は慌てつつも手当をしようと青年をアトリエのソファーに座らせ薬箱を取りに隣の部屋へバタバタと出ていく。
その後ろ姿をドキドキが未だ止まらないながらも、姿が見えなくなったことで少し冷静さを取り戻したルディは自身の怪我を簡単な回復呪文で治し、辺りの様子を伺った。上質な絵の具に立て掛けてある絵の見事な風景、その隣には今にも飛び立つ寸前のフクロウが一羽。その見事な絵画に柄にもなく見惚れてしまう。
しばらく、惹き込まれるように眺めていると先ほどと同じようにバタバタ急いだ足音が聞こえ、その先に足音の主が現れる。
流石にルディもここに来て、彼女が女神ではないことを薄々感じ始めた。しかし、やはりその美しさは何かに例えるのが難しい程だった。
「お待たせ致しました、直ぐに手当て…を? えっ! 怪我が消えている?ええっ?どうして… 」
「ああ、驚かせてしまいましたか。大丈夫です、回復魔法で治しました、ありがとうございます。」
「… 魔法?」
ああー、なんてことでしょう、頭を強く打ってしまわれたのね?どうしたらいいのかしら?お兄さまに連絡して… あっ! 救急車!! そうだわ、救急車を呼びましょう!
「お待ちくださいね。今、救急車を呼びますから」
「救急車が何なのか分かりかねますが、本当に大丈夫です。ご心配頂きありがとうございます。申し遅れました、私の名前は『ルディ・S・ブロワ』エルオレラ王国、王宮付き賢者です」
「わたしは『久城梨里杏』一応絵を描く仕事をしています」
「ああ、やはりここにある絵は貴女の作品なのですね。見事なものです。王宮でもこれだけの絵を描ける者は少ないないでしょう」
「えっと、ありがとうございます。ルディさん?ごめんなさい、勉強不足で、エルオレラ王国って何処にある国でしょうか?それに賢者って、聖書の中に出てくる賢者様?東方の三賢者みたいな? 」
「ん?すみません、それもよく分かりませんね」
ひょっとしてここは異世界ですか?次元の裂け目に飲み込まれたのだからきっとそうですね。彼女の姿を見ていたら冷静ではいられなくて賢者ともあろう者が馬鹿げた事をしてしまいましたね。
「梨里杏様、ここはどのように呼ばれている国でしょうか? 」
「えっ、ここですか?ここは日本ですが」
うん、やっぱり異世界。それも勇者カイトが住んでいた世界か。時間的な違いはあるだろうが、カイトに聞いていた国のようだね。カイトの話だと魔法が存在しないし、魔物もいない国だと言っていましたね。だから先ほどから梨里杏様がビックリなされた様子なのだね。
「梨里杏様、何やら全てにおいて驚かせてしまったようですね。ビックリさせて申し訳ありませんが、私は別の世界から、次元の裂け目からここに来てしまったようです。ですが日本は知っています。私の友人で勇者のカイトがこの国の出身で召喚魔法で呼び出され現在私の国にいますから。もっとも直ぐに信じてくださいと言っても無理だとは思いますが」
「はい、分かりました。ルディさんを信じます」
梨里杏はルディの話がきっと全て本当のことなのだろうと何故かすんなり思えてしまっていた。奇妙な空間から突然現れた理想の男性。それに先ほどから未だに外の気配が感じられないことが何よりの証拠だった。
そして緊張感もなく梨里杏が思うのは、もう少しわたしが若ければ、逆にルディさんがもう少し年齢が上ならどんなに良かったかしらと再びルディをうっとり見つめていた。




