第18話 この世界にも悪魔がいたんですね
恋愛とファンタジーの融合に失敗
「ルディ、準備はいいか?」
「大丈夫、いつでも行けますよ。」
カイトとルディは久城建設本社ビルの真ん前に堂々と佇んでいた。もちろん二人とも隠蔽魔法で姿を消し、今回はさらに用心して気配も消し会話は念話で行う徹底ぶりだった。
「ビルの最上階とその下の階が久城家の梨里杏さんの身内役員や双子の兄がいるフロアだ。俺は下の階に入り込むからルディは最上階へ行ってくれ。他にも怪しい事があれば逐一報告するからな。」
「分かりました、よろしくお願いします。では後程ここで」
二人はそれぞれに探索することになり、ルディは迷宮探検みたいだと近代化された巨大なビルを見上げていた。カイトに言われた通り上の階へ行こうとして、ルディはらしくなく戸惑う。これに乗れば上まで行けると言ってましたが、一番上に行くにはこの上のボタンを押せばいいのでしたか?しかし、思っていた以上に人の出入りが多いですね。外から行ったほうが早い気がします。
ルディはエレベーターを諦め、ビルの外壁を強化魔法で一瞬にして駆け上がる。ルディは屋上から階下に探索を開始した。魔法を駆使し、壁をすり抜け入り込んだ場所は副社長室、そこにいた人物はルディに気が付く事もなく、女性秘書と房事の真っ最中だった。
これは失礼と出ようとした瞬間、女性秘書と思われた女が豹変し、ルディに襲い掛かる。あらら、これはこれは、悪魔がこんな所に入り込んでいましたか。淫魔さん?すみませんがそちらの男性に用事があるのでしばらくお休み下さいね。
ルディは無詠唱で聖魔悪邪滅魔法を秘書に放つ、声にならない声を発しながら煙のように掻き消える。人間に取り憑いた魔族かと思いましたが、本物の悪魔でしたか。これにはルディも驚きを隠せなかった。
《カイト、聞こえますか?出来れば私の所に転移で来てくれませんか?》
ルディが念話で伝えたと同時に目の前にカイトが現れる。
《どうした? おっ、実時副社長か? またなんちゅう姿さらして—— 》
カイトが指摘するのも当然だった。上は一応ワイシャツとネクタイをかろうじて身に着けていたが下はうら若き乙女どころか、どんな年齢層の淑女がいても悲鳴を上げるレベルの露出だ。それにそんな姿をしているのに恥かしがる様子も皆無でよだれを垂れ流し、目は虚ろの状態がまともな訳がなかった。
《カイト、この方は梨里杏さんの—— ?》
ルディは少し引き気味でカイトに問いかけるが、むろん答えは無情にも是である。ルディはカイトが来たことで冷静に観察し始めるが、どうやらこちらは低級悪魔に身体を乗っ取られているようだったのでルディは軽めの聖魔法で悪魔を払い、回復魔法と状態異常の魔法を梨里杏の兄に掛けてソファーに横たえる。
《カイト、貴方の国は悪魔がこんなに簡単に人間社会に紛れ込んでいるのですか ?》
《ンな訳あるか!この久城がおかしいんだ。下の階も見て来たが俺でも分かる悪魔が数人いたぜ。実時さんは、大丈夫なのか ?》
《ええ、淫魔のお姉さんが低級悪魔と遊ぶ為のお人形さんに使われたようですよ。》
《マジか!でも実時さんは人間で間違いないよな?受肉した悪魔の気配は感じないが。》
《ええ、人間です、どうやらこの方と言うよりこの方の血筋で古来の永遠の血の契約をしている気がします》
ルディは過去にエルオレラ王国の貴族が永遠の血の契約によって栄華を極める代わりに代々生贄と人間社会で具現化出来る依り代としての人形を一定数用意する為に残虐な行為をしていた事を思い出していた。久城家も間違いなくそれに類する行為をしているとルディは確信していた。
カイトも伊達に異世界で10年暮らしていた訳ではない、ルディが話す血の契約が何なのかはっきり理解していた。ああ、成程な、言われてみればその通りだ。異世界へ行く前は気が付かないことも今ならはっきりと理解できるカイトである。
《ルディ、これって大元を絶たないとダメなヤツだな ?》
ルディは頷きながら久城ビルを丸ごと聖魔結界で覆いはじめ念のため対魔物結界も上掛けし、取りあえず内部にいる悪魔と悪魔にとりつかれたであろう人間を外に出さないようにした。
《カイト、このビルに今から獄眠広域魔法を仕掛けます。貴方も結界で防いでおいて下さい。》
この状況が悪魔召喚の最上級に位置する永遠の血の契約だとすれば、久城の血筋が残っている限り何度でも悪魔は現世に具現し久城の血筋は何度でも取り憑かれることになる。簡易措置として悪魔を防ぐ個人結界を久城の人間に施すことは可能だが、これは悪魔と久城の契約である。それを根本的に破壊しなければ解決しないだろう。
さて、どのようにするのが一番いいでしょうか。梨里杏さんが悲しむ姿は見たくありませんね。普通であればその家の当主が古の悪魔との血の契約を代々継承しているはずですが——
「カイト、久城の現当主は何処にいますか ?」
「ああ、社長の宗時さんか、多分このフロアに社長室があるからそこだろ」
フロア最奥にある社長室に二人で乗り込むと、そこにはルディの獄眠魔法に必死で抵抗している上位悪魔と意識を刈り取られ抜け殻のように転がる数人の人間とその中に社長の久城宗時の姿もあった。
「カイト、前に見た角のある悪魔とはコイツですか ?受肉には至ってませんね。獄眠魔法に抵抗して人間から抜け出したようです。精神体で具現化している所を見れば悪魔の上位種でしょう。もっとも私の獄眠魔法は精神体にも効果抜群ですがね。」
軽口を叩きながらもルディは手早く聖魔拘束で上位悪魔の身動きを封じ、逃がさないように獄牢檻悪閉扉を発動していた。
「ルディ、コイツを消せば解決か ?間違いなく乗っ取られていたのは久城家当主だぞ。」
しかし、ルディはカイトに疑問視を投げかける。先程からこのビル全体に広域探索魔法で調べているが古の悪魔と契約している禍々しい気配が感じられず下級や数人の中級悪魔、使い魔の気配に留まっていた。ビル内での上位種は確かにこの悪魔しかいませんが、おかしいです。何か見落としている気がしますが。
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「あっ !分かりましたよカイト。ここには真の久城家当主はいません。どんな理由なのかは分かりませんが、古の悪魔の気配を色濃く受け継いだ存在と私はこの世界で遭遇しています。不幸中の幸いで完全体でこの世界での受肉には至っていませんでしたが、あの様子ではそれも怪しいですね。」
「———— 章時 なのか?」
「はい、梨里杏さんが側にいたからなのかそこまでの邪悪な気配は感じられませんでしたが、あれは古の悪魔の気配に間違いない。エルオレラ王国で一度対峙した気配と同等かそれ以上のものです。」
「「?! …………」」
「カイト、最悪です。」「ああ、俺でも気が付いたぜ」
「どうやら悪魔の受肉が終わったようです。しかしこの気配は魔王に匹敵しますよ。」
「"デーモンプリンス"なんて出てこんだろな ?」
「カイト、フラグが立つようなことは言わないように。」
ルディとカイトはビルの屋上に転移し、梨里杏の屋敷がある高台を望んでいた。屋敷が位置する上空に暗雲が立ち込め離れた場所からでも邪悪で禍々しい気配が街へ拡散されていく。間もなくあの邪悪な気配に踊らせられた哀れな心弱き人間が闇と悪に飲まれるだろう。どんな因果か異世界魔王討伐パーティーのメンバーだった二人は日本で再び邪悪なるものに立ち向かうことになる。
自分の世界を守るため。
愛する者を守るため。
誰にも知られることが無い自国の勇者と異世界の賢者。
負けられない戦いが今始まろうとしていた。




