第13話 勇者カイトの帰還
エルオレラ王国の王宮筆頭賢者マーロンとその弟子賢者ルディの二人は時間を惜しんで異世界「双方向の転移」が可能で持ち運びが出来る小型魔法陣の完成を試行錯誤していた。王国に現存する魔法陣は大魔法陣で王宮の地下空間に巨大な魔法陣が描かれている。勇者を召喚し帰還させる一度だけの「双方向の転移」が可能なのだからルディを日本に送り込み梨里杏を連れて戻ることは難しくないように思われるが、送り元の世界にはそもそも魔法陣はなく勇者召喚は勇者の素質がある人間を無作為で送り先のエルオレラ王国に問答無用で引きずり込む荒業だった。
ルディなら愛の力で梨里杏元へ飛んで行って帰ってこられる気がするが梨里杏に何かあれば悔やんでも悔やみきれない思いからの思考錯誤である。もっとも次元空間転移魔法を使えば一度行ったことがある場所なら一瞬で行けるがルディは残念ながら習得していない魔法だった。この世界で転移魔法は使えるが時空を飛び越えるにはまだ魔法の扱いが未熟で、師匠には鍛錬不足と指摘を受けていた。空間を自由自在に扱い時空を飛び越える、魔法力だけなら十分出来る素質を持つがそれも少し時間がかかるだろう。魔法陣と並行して訓練はしているが思うような成果が出ていなかった。
「ふうー、簡単には出来ませんね。私が次元空間魔法を使えればカイトを直ぐに故郷へ帰せるのですけれど」
「ルディ、焦るでない。ワシとて全てを簡単にこなせた訳ではない、能力の熟練は鍛錬あるのみじゃ」
直径100メートルを超える大魔法陣を縮小化したものをカイトが帰還する時に持たせ、それを使ってルディが次元移動をする予定だが、未だに縮小化に成功していない。カイトが帰還すれば記憶が消えることについてはマーロンとルディで対策済みでカイトの故郷ではカイトの全面的な協力を受けることが可能になる。
異世界は狭いとは思えないが、偶然カイトと梨里杏が同郷で住まいも近く同じ時間軸に暮らし、カイトは梨里杏の兄と不仲ながら幼馴染で当然梨里杏とも面識がある。ルディにとっては運命の導き以外には考えられない現象だった。だからこそ自分たちのためにも待っていてくれるカイトのためにも完成を急ぎたかった。
「おおーい、マーロン様、ルディー調子はどうだ?」
「いまいち芳しくありませんね」
「小難しいことはわかんねえが、無理するなよ。でも二人が苦戦してるとは珍しいな」
「ええ、直径100メートルを持ち運び出来る小型サイズにしないとなりませんからね。大きいままだと紙では大きさ的に強度が持ちませんし、布では綺麗な魔法陣が描けません」
「ふーん、平面で考えてるからじゃね?出来るかどうかは分からんが、水晶みたいな球体に立体的に閉じ込めて、こう、浮かび上がらせる?みたいな…ああーやっぱり言ってて分からん」
「「・・・・・・・」」「それじゃ」「それです」
「カイト、お手柄です!そうですよ、平面にこだわり過ぎました!師匠これなら」
「ほほ、ほんにお手柄じゃ。脳筋勇者と噂されとったのがウソのようじゃの」
「はは、マーロン様、脳筋ってそんな風に俺って思われてたか。はぁー」
「まあ良いではないか、これで故郷へ帰れるんじゃからの」
マーロンとカイトが話してさなかルディはカイトによってもたされたアイディアを具現化し、水晶内に閉じ込め光魔法のライトを内部に込め魔法陣を水晶によって拡大させる水晶魔法陣をこの日創り出すことに成功する。
◇◇◇◇◇
「勇者カイト、今までお疲れ様。我が王国の大恩人です、王共々お礼を申します。ルディの話では故郷と王国を行き来出来る日が来るかもしれないと話していた。その日を楽しみにしています。」
王国第1王子が国を代表して挨拶をし、続いて魔王討伐メンバーがそれぞれ別れを告げた。
「「お疲れ様、楽しかったですわ、よ。」」
「噂だと故郷に戻るとオヤジになるそうだね?長生きしなよ」
「そうですわ、いくら体力バカでも病気には敵いませんからね」
「ああー、お前らだろ?俺を脳筋って噂流した犯人は!!」
「「なんのことでしょう…」」
「まあいいや、10年も一緒にいた仲間だからな、お前らこそ元気でいろよ」
「「はい、お元気で」」
すっかり用意も整い、ルディから持たされた魔道具の転移水晶とルディ特性携帯電話を身に着けてカイトは日本名『新界 海渡』としての暮らしにここから帰還する。普通であれば異世界での記憶は無くなり召喚された同日同時刻へ戻り、何事もなく平穏無事に戻れるがあえて困難な道を選んだ。異世界での10年はそれ程海渡にとってかけがえのない月日だった。
「ああ、しんみりしているところすみませんが、さっさと魔法陣に乗ってください。永遠の別れじゃありませんし、私の創った画像送受信付き携帯電話で毎日でも話せるし顔も見れます。カイト、梨里杏さんの分の新しい携帯も持ちましたか?魔法石を組み込んだ魔道具ですから長時間毎日話せます。でもカイトが帰ったら直ぐに私も向かいますから大丈夫ですけどね」
「すまんかった、もう行くからそんなにまくしたてないでくれ、俺の実年齢は42歳のオヤジなんだから今後は優しくしてくれ」
「なに言ってるんでしょうね、分かりましたからお早くどうぞ、向こうに着いたら直ぐに魔道具通信して下さい、今後の確認やら状況確認しますから。」
「わかった、みんなじゃーな!」
カイトは今か今かと待機していたルディの高魔力の発動と共に輝く大魔法陣の中で一瞬にして姿が消え去り数分後ルディ特性画像送受信付き携帯電話の着信を知らせる音が鳴り響いていた。
後半戦に突入します。




