第11話 縁は異なもの 敵も異なもの?
満月のフル充電が切れるまで久しぶりな逢瀬を堪能したルディだったが、師匠やカイトに散々文句を言われることになったのは言うまでもない。
カイトも早く日本へ帰って嫁と娘に会いたいだろうにと、師匠に言われ帰す言葉もなかったルディであった。しかし、カイトはそんなことで文句を言うほど器の小さい男ではなかった。実は初めに鏡に映った梨里杏を見た記憶があり、少し確認しておきたかったのが理由だった。
他人の空似ならいいが、もし思っていた人物なら嫌な予感がするとカイトは顎に手を当てて考え込む。そんなカイトの様子に軽く流せる雰囲気じゃないと敏感に感じ取りルディは改めてカイトに向き直る。
「カイト、何か気になる事がありましたか?」
「ああ、お前の女神だが・・・」
「なんです、気になる言い方ですね。はっきりおっしゃって下さって結構ですよ、何を言われても彼女をあきらめる気は毛頭ありませんから」
「ああ、違う!そんな意味じゃないさ!ルディ、彼女の名前は梨里杏さんと言ったか?ひょっとして『久城梨里杏』じゃなかったか?どうだ?」
「ええ、そうですが、よくご存じですね。まさか、カイト私の梨里杏さんを?」
「おおっいっ!何てこと考えてやがる。俺には可愛い嫁がいるよ!そんな目で人を殺せそうに睨むなよ、まったく怖えーな。いやな、間違いなく俺が知っている人物の妹だと思い出しただけだよ」
「そう言えば、三人お兄さまがいると聞きましたね。名前までは聞きませんでしたが」
「いや、それだけで分かったよ、俺が知ってる人物だな。う~ん、少し拙いかもしれんな」
「どういうことでしょう、私と梨里杏さんの未来に影を落とす事なら早急に対処致しますが」
「まあ、簡単にこの世界に照らし合わせたらルディが惚れた相手は俺の故郷の悪魔一族の姫様だってことだな、もっとも悪魔から魔王一族に格上げしててもおかしくない奴らだ」
ルディはカイトのその言葉に驚いてはいたが、何故かすんなり納得してしまった。実は日本へ飛ばされた時、梨里杏が次元の影響を受けなかったことを頭の隅で少し引っかかりを感じていたのだ。有機物無機物の別なく全ての時を止めた中で何ら影響を受けずにいられる。それはルディや師匠のような大きな魔力を有する存在や神の特別な加護を持つ者かはたまた真逆に位置するものか。カイトの話だと日本でもはるか昔には法術がありそれなりに力を有する一族もいたと聞いた。後は梨里杏の屋敷を囲むあの高台の一角が一種の結界になっているかだろう。
「カイト、日本に飛ばされた時、梨里杏さんは自然に動いていた。それにペットのフクロウと猫も動いていた。敷地内だが1キロ離れた場所にいた警備は皆動きを止めていた。それを踏まえて彼女の兄達は次元の影響を受けていたと思うか?」
「普通に受けてただろうぜ。俺は梨里杏嬢だけが特別だと思うぞ。彼女の絵を見た事があるか?あれは普通の人間じゃ描けないものだ。俺もこの世界に来て様々な体験を得て感じられるんだが、彼女は特別な人間だな、しいて言えば聖女に似ている気がする。久城一族はここで言う貴族で、悪辣非道な一族で評判だったが彼女が生まれてから久城家は闇世界でおとなしくなったと一時評判だった。それに兄貴たち、特に三男の章時が次元の影響を受けていなかったとしたら、今頃あの鏡は粉々だ」
「成る程、確かにそうですね。では何がそれ程カイトを不安にさせる要因になるのでしょうか」
「ん?わりい、『感』だな。章時って奴は昔から妹に対する感情が狂ってやがる。妹が知らない所で妹に好意を持つ相手を排除していたからな。中にはマジで行方知れずもいるくらいヤバい兄貴だよ。それが異世界とはいえ妹に男の気配が感じられれば次元だって吹き飛ばすかもな。彼女を迎えに行けるまで出来れば感づかれたくない相手だ」
「フフ、それは少し手遅れかも知れませんが、梨里杏さんにそれとなく用心していただくように話をしておきます」
「あ?なんで笑うんだよ。バレるとマジやばなんだって」
「ええ、それが梨里杏さんが素晴らしい私の絵を描いてくださいまして、お兄さんからも尋ねられたそうですが夢の人物とお話したそうですよ」
「マジか!でもな章時は夢でも許さない奴だ油断するな。きっとかなり疑っている、魔道具が見つかるとヤバいな」
「わかりました、直ぐに梨里杏さんへ連絡し隠蔽魔法を魔道具にかけます。でも今連絡したら明日まで魔力は溜まりませんね。1日声が聞けないのは寂しいですね。カイトはそんな生活を10年ですか。君を尊敬したことはありませんでしたがこれからは尊敬して差し上げます」
「いや、その言い方だと渋々な気がするんだが・・・」
「細かいことは気になさらないのがカイトの良いところです。帰還の目途も経ちそうですから後少しだけ待って下さい。でも不思議なものです、帰還後は召喚前の年齢で同じ時、同じ場所に戻る。寂しい事ですが異世界で過ごした記憶を全て失う代わりに平穏無事な生活を取り戻す、感慨深いです。」
「おおおいっ!それなんだ!初めて聞いたんだがな!」
「おや?何をいまさらあたり前な事を。10年もこの世界で過ごしその記憶を持ったまま日本に戻れば身体に変化は無くても精神のバランスが崩れます。貴方は家族や日本の友人が知らない10年分精神的にお年寄りです、ただでさえ若い奥さんがいらっしゃるとか、爺臭いこと言って嫌われますよ」
「まあな、でも記憶を消されるのは嫌だな、俺はこの世界での10年を無駄にして生きたくねえよ。ルディの話しぶりからすれば記憶を消さなくて済む方法がありそうじゃねえか、だろう?」
「・・・私としたことが口を滑らしてしまいました。また師匠にどやされますね。ふう、分かりました、少し考えます」
「ああ、頼んだぞ!俺はお前らの事を忘れて生きるのはまっぴらごめんだからな」
あーあ、やってしまいました。でも私もカイトに忘れられるのは残念だと思っていましたから何とか致しましょう。方法はいくらでもありますからね。フフッさあーて、梨里杏さんに連絡して兄上の事をお聞きしますか。カイトの『感』は外れた事がないですから、打てる手は何重にでも打っておきませんと安心出来ませんからね。ルディはほんの数時間前に遠距離通話を長々していたこともすっかり忘れ、誰にも邪魔されない場所で梨里杏との会話を楽しむためにそそくさと移動したのであった。




