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bukimi

カーテン

作者: yuyu

 大量の荷物を運ぶ運送会社の社員。その姿を眺めながら、桐村一義は荷物を一緒に運んでいた。今日から、妻の佳世子と新築の物件へと引っ越しを行っている。


 今は、以前のアパートにある荷物を運送会社の職員と混ざり、トラックへと運ぶ真っ最中だ。


 あえて、引っ越しのシーズンを外し、六月に予定を入れたが、当日は生憎の雨。蒸し暑さも災いし、運び始めて、一時間も経たない内に、上半身はすでに汗にまみれていた。荷物を抱える両腕も乳酸が溜まり、悲鳴を上げる。


 「こんなに荷物あったか?今日中に終わるように予定は立てていたが、予想以上だ」


 流れ落ちてくる汗を首元に巻いたタオルで一生懸命に拭う。


 佳世子は、もう新居のほうに移動しており、ガスや水道、電気等について業者と話し合っているはずだ。


 女だから、こんな重労働は任せたくないと、引っ越しの時期を決める頃には決心していた。

 

 だが、あまりの荷物の多さに、少しでもこちらを手伝って欲しかったとも考えてしまう。


 しかし、喧嘩になれば、元の木阿弥であるため、伝えることは永遠に有り得ないが。


 「しんどいな。けれど、量多いからな。引っ越しの人にも申し訳ないしな」


 実は、引っ越し業者の人数を減らし、料金を通常よりも安く出来ないか交渉していた。


 業者は二つ返事で条件を承諾しており、荷物の運び入れは、なるべく自分も行うとまで話していた。


 「今更、愚痴言っても仕方ないか。頑張るか」


 一義は自分の頬を両手で叩き、気合を入れ直すと、また搬送の作業へと戻っていった。


 数時間後


 いつの間にか、降っていた雨も止み、夕日が沈みかけ、空を染め上げる頃、搬送作業が終わった。遠のいていく運送会社のトラックを眺めながら、佳世子と新居に入った。


 新居はまだ、真新しい新築の木の匂いが漂っていた。この匂いを嗅ぐ内に、今から新しい生活が始まるのだと気持ちが高ぶる。


 部屋に差し込む夕日がフローリングを照らし出す。まだ、カーテンを設置していないからだ。


 様々な大きさの段ボールの山に囲まれながら、佳世子は溜息をつく。


 「せめて、カーテンだけはつけましょうか」


 「そうだな。夜も眠れないしな」


 二人は同意し、早速カーテンの設置に取り掛かる。窓は身長175cmはある一義の頭二つ分の高さがあり、横も両手を精一杯伸ばして、両端に届くかどうかの大きさ。


 事前に購入しておいた、レースと淡い水玉模様のカーテンを脚立を上り、設置する。カーテンレールには予め、銀色のリング状の輪がある為、そこにカーテンのフックをそれぞれ、レースと布用で引っ掛けていけばよいだけで済む。


 ものの数分で設置は完了した。しかし、佳世子は顔をしかめる。


 「ちょっと。高さが合ってないじゃない」


 「何だって?」


 よく見ると、床とカーテンの足元部分に大きな隙間が出来ていた。約20cm程だろうか。フックは最大まで伸びるようにされている為、隙間は全く埋まらない。


 「うわ。高さ間違えたな」


 「冗談じゃないわよ。足元が外から見えるじゃない」


 「そうは言われても。もう買ったんだし、仕方ないだろう」


 「また、そうやって言い訳ばかりして!早く買い直して来てよ!」


 様々な業者とのやり取りで疲れていたのか、普段は温厚な佳世子が憤りを露に、唾を飛ばしながら怒鳴る。


 (こうなったら仕方ないか)


 この場を丸め込むには、一義が動くしかない。気付いたら、車に一人で乗り込み、ホームセンターへと向かっていた。


 ホームセンターで、今のカーテンよりも長い物を見つけ、購入。妻が待ちくたびれている可能性が高い為、すぐに新居へ戻った。


 玄関から入る。もう日はすっかりと落ちており、暗闇がリビング内を支配していた。今日から電気は点く筈なので、壁際にあるスイッチを押す。明かりが一斉に点いた。


 佳世子の姿が見当たらない。リビング内で段ボールの山と向き合っていると考えていたが、電気も点けずに作業を行う事は不可能だ。


 訝しみながら、リビング内を見渡す。カーテンのほうに視線が泳いだ。足元の部分だ。


 両足の素足が床とカーテンの隙間から見えている。


 (こんな遊び心はあるんだよな)


 佳世子はいたずら好きな面があり、よく驚かされた記憶がある。今回は、カーテンの中に隠れ、帰って来た俺を驚かす算段だろう。


 盛大な溜息をつきながら、カーテンを一気に開けた。


 誰もいない。人の気配すらしない。


 「何?見間違いか」


 窓の向こうには庭が広がっているだけだ。外にも誰もいない。唇を尖らせながら、レースを閉める。淡い水玉模様のカーテンも閉めていく。


 「あれ」


 何かにつっかえた様に、しっかりと真ん中で閉まらない。不思議に思い、カーテンレールのほうを見上げると、一気に両腕に鳥肌が立った。


 カーテンレールの隙間に大量の髪の毛が詰め込まれていた。


 ポタ……ポタ……


 カーテンレールを見つめたまま、硬直している一義の頬に垂れてくる液体。赤黒いそれは誰が見ても血だと分かる。


 「ひっ!」


 すぐに飛び退き、必死に頬を拭おうとする。


 ドンッ!


 すぐ真後ろで何かが倒れる音がした。出かかっていた胃液を無理やり飲み込みながら、振り向く。


 むき出しになった頭皮から、血を流している佳世子の姿が眼に飛び込んだ。その顔からはすでに生気が抜け落ちていた。

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