続・食べ物は大切に。
「こんなおいしい食べ方教わったのに、お礼をしないと対価があわないわね。そうだ、ちょうどいいものがあるわ」
彼女は地面に置いていたアナコンダサイズの蛇の頭を落とし、そのまま皮を引っ張りながら剥がした。蛇特有のしなやかな筋肉がぷりんっとでてきた。その肉を適当なところで二つに切断した。そしてその片方を俺に差し出した。
「サイズは小さいけれど、極上のロックヴァイパーだよ。美味いからたべてみなよ。きっとこれは満腹でも別腹で食べられるわ」
彼女はそういうと手本とばかりに自分の取り分にかじりついた。少々固めなのか引きちぎりながら食べているので口の回りが血で真っ赤に染まっている。
さっきの虫肉に比べるとまだインパクトが小さい・・・かな?
なんとなくだが、頭は冷静に蛇の血って赤いのね、なんて考えがよぎったが、よくよく考えると冷静と言うより現実逃避である。
しかし、現実は俺の手の中に握られる蛇肉を食べねばならないという状況。
虫と言い、蛇と言い、貴重な蛋白源だもんね。
へんなじいさまに連れてこられた以上、金を貯めるまではココでの暮らしになじまねばならない。
がんばれ、俺。
勢いよく蛇肉にかじりついた。
口の中で生臭さが爆発する。
そりゃーそうか、血抜きも何もしていない生肉だもんな。
おまけに肉が硬すぎて歯が立たない。
現代人の顎には凶器すぎる堅さだ。顎がギャクにはじかれる勢いだ。
とてもじゃないがかみ切れる代物ではない。
「ご主人様、もしかして硬くて食えねぇーだかぁ?」
あまりの堅さで顎を痛くしたため、顎を押さえていた俺に、ちょっと存在が薄れかかったぽんたが話しかけてきた。
半分涙目の俺はぽんたの方を向いてコクコクと2回頷いた。
「ちょいと失礼しますだ。」
ぽんたが俺がかじった方と反対側の肉にかぶりつくと一発でかみちぎった。
そしておいしそうに咀嚼して飲み込む。
「これはなかなかうめぇーだっ。ご主人様、これが食べられないのはもったいないだ。さっきのコロコロ虫みたいに焼いたりして食べられないだか?」
ぽんたの一言で思いつく。
そういえば、と自分のステータス画面を開いたままのスマフォに目を落とす。
自由度の高いゲームならではの遊び要素で、様々なスキルとアビリティが存在していた。
そのなかでいかにも運営が遊びでつくったなと言うネタスキルがいくつかあった。
まさか、廃人プレイのために絶対振ることは無いと思っていたこれらが役に立つ日が来るとは・・・
俺は仕方なく「調理」というスキルを習得した。
ネタ要素なので振るポイントは少なくて済むが、ゲームの時だと、おいしそうな見た目の回復薬ということで、NPC店で購入できるポーションと大差が無い上に、バリエーションが豊富すぎるのでアイテム欄にかさばると言う理由で、敬遠されていた。
見た目がいいので一部プレイヤーがお遊び露天や、イベントの時に飾り付けなどで遊んでいたぐらいのイメージしかない。
そもそも味も臭いもないスマフォゲーにそんな要素は必要なかったのである。
しかし、今の俺には死活問題だ。
さて、振り終わった後だが、どうすればこのスキルが使えるのだろうか。
まさか、自分自身で料理するとか言うオチはないだろうか?
正直、今までまともに自炊なんかしたことがないので、包丁一つまともに扱えない。
すがるようにスキル横のヘルプをタップしてみた。
【調理】
食材を料理することに特化した錬金術系スキル。必要な材料を用意する必要がある。元素と魔力を消費して、調理過程を省略し料理に仕上げることができる。材料をカメラで読み込み、調理方法を選んだあとはスキル発動方法は他の魔法スキルと変わらない。
ゲーム内でカメラを使う要素はなかったので、どうやらこれはこの世界に対応した要素のようである。
とりあえず、いつまでも食べないから少し不審そうな視線を感じるし、さくっと調理してしまおう。
まず、食材である蛇肉をカメラで読み込む、まるでバーコードリーダーのように反応して、調理方法がずらっと一覧で出る。色んな料理方法が並ぶが、材料が足りないようで、ほとんど灰色表記で選択できない。唯一選べたのが白焼きだった。
火の要素と水の要素を求められたため、必要な分投入する。あと魔力も必要分注ぎ込むようにセットする。
そして、蛇肉に向けてスマフォを振った。さきほどのぽんた召喚の時は掲げたが、そこまでする必要は無いかなっというただの気持ちの問題である。
すると、ぽんという音を立てて、蛇肉が開かれて串に刺さった状態で手元に現れた。
火の要素と水の要素が入っているので蒸し焼きのようにふっくらとしあがっている。
生の状態よりは柔らかくなって食べやすそうだ。
改めて蛇肉にかじりつく。さきほどの弾力とは段違いに、やや硬いもののきちんと食いちぎれる。
味としては弾力のある鶏のささみって感じだろうか。
ただ、問題は・・・淡泊すぎて味が無いように思える。
調理方法も白焼きなものだから素材の味が生かされすぎている。
濃い味に慣れた現代っ子の俺にはちょっとなぁ。
そう思いながら、我が家に入り、冷蔵庫から醤油とわさびを取り出してついでに、手に握りしめられた大量の白焼きを食べる分以外はお皿におく。
やはり調味料は偉大なり。
しみじみとありがたさを感じながら食べた。
元が蛇肉ということを考えなければ、十分食べられる味に仕上がっている。
「ねぇ、今のなに?魔法??そして、それは何?おいしいの?」
「ご主人様ぁ~オラさも!オラさも食べたいだぁ~!」
おっと、一人と一匹を忘れていた。
俺は串に刺さった白焼きを赤髪の女に渡してわさび醤油とともに渡した。ねだるように太股にすがるぽんたには串から外してあげた。わんこには塩分控えめがいいからぽんたには醤油なしね。
「なにこれ。鼻がつんと痛いけれど、やわらかくておいしい!」
「ご主人様ぁ。これすっごくうめぇーだぁ~。柔らかくて食べ易いだぁ」
大きさが大きさだけにたくさんの串焼きがあったのだが、すごい勢いで一人と一匹が食べるのであっという間に皿は空になった。
やはり、食べ物は偉大なり。