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私達は走る。誰よりも早く速く疾く。
他のクラスもホームルームが終わったのだろう。後ろが騒がしくなっている。しかしその事を気にしている暇はない。とにかく走らなければ。
階段を降りれば下駄箱はすぐそこ。
私と楓はほぼ同時に靴を履き替え外に出る。小学生達が正門に向かって歩いてる。まだ人数が少ないため小学校の方もホームルームが終わったばかりなのだろう。
私達は探す。今、私達が1番会いたい人を。探す。いない。そして、私達は同時に見つける。1番会いたい、会わなければならないあの子を。そして二人で叫ぶ。
「「柚ーー! / 陽人ーー!!」」
名前を呼ばれた二人が振り向く。
「柚ー!良かったぁ。もう帰っちゃったのかと思ったよー。さぁ、一緒に帰ろ。」
「お姉ちゃん!走ってきたの?ダメだよ。危ないでしょ。でも一緒に帰るの嬉しい。手、繋いでもいい?」
も、もちろんだとも。声に出す前に身体が動く。さすが私の身体。
「陽人!先に帰ってなくて良かった。今日の指揮者、かっこよかったぞ。ほら、帰るぞ。」
「兄ちゃん!見ててくれた?やったー!スッゲー嬉しい!!あっ、柚月と留美姉ちゃんも一緒に帰ろうぜー。」
「うん!!お姉ちゃん、みんなで帰ろ!」
この後4人仲良く手を繋いで帰りました。
上目遣いで首をかしげるなんてー!
可愛いすぎる。写真撮りたかった。
やっぱり私の弟は天使だわ。
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「今日の伴奏、とってもかっこよかったよー!と、いう事で今日の夕飯はオムライスでーす!。」
「わーい!僕ケチャップで書くー!お姉ちゃんのも書くー!」
家に帰ってきた私達。入学式だったので今日の夕飯は柚の大好きなオムライス。伴奏も頑張ったしね。ご褒美ご褒美。
「はい。お姉ちゃんのオムライス!僕のはね、オムライスって書いたの!」
オムライスにオムライスって、もう柚ったら可愛いー!!さてさて、私のはー。
「お姉ちゃんにはね大好きって書いたの!僕、お姉ちゃんが大好きだから!」
「ゆ、ゆずー!!!お姉ちゃんも柚が大好きだよー!!本当に大好きー!!」
うぅ、もう優しいし可愛いし思いやり溢れまくってるし、大好きだー!!
「本当?じゃあ両思いだね!僕ね、お姉ちゃんと結婚するの!そしたらずっと一緒だよ!お母さんとお父さんみたいに離れなくていいもんね!」
「柚…。うん、そーだね。私は柚と一緒にいるよ。家族だもん。 家族はずーっと一緒にいるもんね。」
私と柚の母親は違う。私の母親は幼い頃病気で亡くなった。その後、父が再婚しマリアさんっていうフランス人の母親が出来た。マリアさんはとっても元気でチャーミングな人で大好きだった。もちろん、お父さんも好きだった。二人に赤ちゃんが出来たって聞いてちょっと寂しかったけど、すごい嬉しかったのを覚えてる。そして、産まれてきた柚。幸せだった。
でも、私が12歳、柚が3歳のころ交通事故で二人は死んだ。居眠り運転だったらしい。
私の家庭はあまり親戚が多くないらしい。葬式が終わった後、私達を誰が引き取るか大人は話していた。結局、一人で暮らしていた父方の祖母の所に行く事になった。
マリアさんの家族は来なかった。
その後、本当は祖母の家に行くべきなんだろうけどみんなで過ごしたこの家から離れたくなかった。
祖母は笑ってあの家はもう古いからねぇ。私も息子が暮らした家にいたい。と言って来てくれた。
優しい人だった。
祖母は去年、亡くなった。寿命だった。
祖母が亡くなって、また誰が引き取るかという話になったが私は高校生になるから柚と二人で暮らすと言った。
誰も引き取りたくなかったのだろう。
何も言われなかった。
祖母の葬式が終わった後、弁護士が家に来た。今まで祖母が管理してきたお金に関してだった。
父とマリアさんが残したお金が沢山あったらしい。思えば、幼稚園、小学校、中学校、通ってきたのは私立だった。
私の家はお金持ちだったらしい。
私と柚が大学卒業するまでのお金は残っているみたいだった。
私がこの大金を管理するのは難しいので弁護士にお金の管理は任せてある。
頼れる人が自分しかいないこの状況で思ったのはただ一つ。
私が柚を育てなければならないという事だった。