第七話
骨折して二日後、大事をとって今日は部屋から出てはいけませんとセバスに監禁、もとい療養を申し付けられた。昨日は熱出して寝込んでいたからね。とはいえ手持ち無沙汰なので俺は左手だけで出来ることをやっていた。
いるもの、いらないものを仕分けするだけだけどね。
前世でも一回だけ引越し経験があるがやっぱりある程度荷物は少なくしないといけないと思う。
いるものBOX、いらないものBOXを用意してと、さぁ開始だ。
母上から貰った小さな肖像画の入ったペンダント、いる。
兄上から貰った羽ペン、いる。
セバスから貰った領主の心得読本、いる。
リリン嬢から貰った魔除けのお守り、い…る。
親父殿から貰った大きな肖像画(親父殿の全身画)、いらない。
親父殿から貰った中くらいの肖像画(親父殿の半身画)、いらない。
親父殿から貰ったそれなりの大きさの肖像画(親父殿の小さな絵)、いら……なくもない。
親父殿、自分の誕生日ごとに肖像画贈るのはやめてほしい。
最後のだけは持っていくことにします。
あとの絵はセバスに託そう。どうするか分からないけど。
そんな選別を繰り返していると棚の影から小さな冊子が出てきた。
あれ?
これって俺の幼い頃の日記じゃないか。全然覚えてないけれど何書いてたんだろう。
◇◇◇
せばすのかんさつにっき
ぼくのせんぞくしつじのせばすはとってもなぞの多いおとなです。
だからきょうはせばすをじっとかんさつすることにしました。
でも、せばすはぼくのそばでほほえむだけです、つまんない。
せばすをあらわすにはどんな言葉がいいの?とじじょのひとりに聞いたら『しらがをびしっとおーるばっくにしたおひげがきゅーとなないすみどる』っていってました。ないすみどるってなんだろうね。でも、ひびきがかっこいいです。
ないすみどるなせばすはいつもぼくをみまもってくれています。
おはようしてからおやすみするまでせばすがいるのであんしんです。
ぼくもおとなになったらせばすみたいなないすみどるになりたいな。
ふぅ、つかれちゃったから今日はここまで。おやすみなさい。
◆◆◆
……
…………
幼い心に憧れを抱いていた時期だったのかねぇ。
ちなみに今これを書き起こすとしたらこうなるだろうか。
◇◇◇
セバスの観察日記
俺の御付の執事、その名をセバスチャン。
完璧な白髪を常にオールバックにして素敵で無敵な御髭を蓄えたナイスミドル。
セバスはいつも俺達(親父殿込み)を(逃げ出さないように)見守っている。
老境に差し掛かったくらいの年齢に見えるが実のところ正確な年齢は俺も知らない。
そういえば物心ついたときの姿から変わってないようにも思える。
以前、疑問に思って聞いたことがあるが『執事ですから』の一言で終わってしまった。勿論、我が侭な僕様状態の俺だったので何度も詰め寄ったけどするりとかわされて結局根負けしたのはいい思い出……か?
年を重ねたらセバスみたいになりたいものだと昔は思ったものだ。
え? 今は? コメントは控えさせていただきます。
彼の特徴の一つにその強さが上げられる。
俺の推測でしかないがこの王国で一番強いんじゃないだろうか?
この間、近衛騎士長に訓練へ誘われてタイマンしてたけど傷の一つどころかつけられたのは土埃くらいだった。
誘われてタイマンはるくらいなので戦うことが嫌いではないのだろう。
さらに料理、礼儀作法、他国語の会話、雑学知識、様々な分野を網羅するその姿はまさに完璧! パーフェクトだ、セバスチャン。
そんなパーフェクツなセバスは当然モテる。
城内の侍女や貴族の奥様方からも熱烈な視線が飛び交っていた。
その一場面がこれである。
王城で開かれる夜会の最中。
俺を寝かしつけたセバスは一人、月の光が差す大樹の陰に居た。
その立ち姿はまるで物語の中から抜け出てきた貴族のような優雅さを誇っている。
そんな彼へとそっと近づく一つの影。
「お会いしとうございました、セバスチャン様……」
セバスへ向けるその顔は上気しておりその瞳には恋慕の情が見て取れた。身にまとうドレスは明らかに貴族だと思わせる豪奢な造りとなっており強調された胸元はほとんどの男性の目線が釘付けになってしまうだろう。そして花の香りをあしらった香水と女性特有の甘い香りが鼻腔をくすぐる。ウェーブのかかった金髪は月夜に照らし出されて妖しく輝いている。
「あの日、あの時、夜会で目があったその時からあなたをお慕いしておりました。一夜の花の如く今宵だけでもあなたと共にありとうございます」
しな垂れかかる様にセバスの胸へと飛び込む女性。吐息がかかる距離で見つめる女性へセバスは耳元でこう囁いた。
「それで、私を篭絡してどんな情報を聞きだすおつもりですか、隣国からの間諜さん?」
ビクリと一瞬体を硬直させる女性。その言葉に慌てて離れようとするもセバスに腰を掴まれ身動きが取れない。
「ゆっくり話していただきましょうか? 一夜の花の如く今宵はあなたの傍におりましょう」
甘く囁くセバス。このとき間諜の女性はその囁きだけで惚けてしまい腰が砕けて立てない状態になってしまったという。
これが旧隣国の間諜の女性、現セバスの部下である仮称Aさんの実体験だそうな。甘いセリフ、実のところ鸚鵡返ししただけなのにセバスが囁くとこうも違うのか!
これはセバスの使用済み手拭で買収、もとい情報提供していただきました。あれ? 恋愛要素どこいった?
ちなみに肉体言語を用いたわけでなく話術だけで篭絡されたらしい。セバス、恐ろしい子!
そんなセバスの趣味は絵画だ。見るだけでなく自分で描いている。
俺が『いるBOX』にいれた母の肖像画とそれなりの大きさの父の肖像画は彼が描いたもので宮廷画家よりも上手いと思う。
ただ、絵を描くところは見たことがない。俺が見るセバスはいつも俺の傍らにいるからである。
そんな謎の多いセバス。今後も継続して観察していきたい。
◆◆◆
「ノア様、ご昼食の用意が出来ました。こちらで召し上がられますか?」
びくりと体を跳ね上げ意識は現実に戻った。
扉越しにセバスの声がする。ノックの音を聞き逃していたようだ。
「イ、イ、イゥェ、そっちの部屋でいただかせていただきます」
素っ頓狂な声で返事をしつつ隣の部屋へ移動する。
おふぅ、びっくりしたぁぁ。




