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第十三話

コーメーさんにはゲーム中よく混乱いただくので結構苦手な筆者だったりします。うちの亀甲男しゅうゆはよく論破されていました。




「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


 彼女の手を引き館の扉を押し開ける。


 辺りには煙がもうもうと立ち込め焦げ臭い匂いが広がっていく。


「ノア様、私を置いていってください。このままじゃあなたまで……」


「馬鹿を言うな。愛しいお前を置いて一人だけ助かろうなどとは思わない。生きるなら二人でだ」


「はい、弱気な事を言いました」



 気を持ち直し火の手が回っていない方へと急ぎ駆ける。


 バン!


 蹴飛ばして激しく打ち付けられた扉。


 その先には……待ち構える小柄な人影。その後ろには部下だった者や領民だった者達が幾人も控えている。



「うぇるかむとぅーでぃすくらいまっくす! イカれた結末へようこそ、お二方」




 その口を三日月のように釣りあげ、さも楽しげに出迎える。


 その瞳は無慈悲に俺達を見つめていた。


 そして俺達の前には……剣、槍、斧、鍬、鎌、鋸、各々が手に持つ刃物が一斉に襲い掛かってくる。











「うわああああああああ」


 飛び上がるように起きればそこは馬車の中。どうやらシヴァのところからの帰りに寝こけてしまったようだ。

 セバスが心配げな顔でこちらを伺っていた。大丈夫と手で制し深呼吸をして息を整える。



 あー嫌な夢だった。


 どうにも随分と疲れていたのかもしれない。


 あのシヴァに何もさせること無くずっとこちらのターンで無双しようと予め組み立てておいた会話内容は見事成功したと思う。あとは彼がどういった判断を下すかが問題だ。

 俺だってアレを軍師にしたくなんてないもん。


 そうアレ。


 コウメ・ショカンツ


 出身などの詳しい経歴は不明。シヴァが仲間に入らない際、開発側の救済として雇える軍師。

 幼い少女のような外見にひらひらの服。愛くるしい見た目に表情豊かな顔。グラフィックなどヒロインを食ってしまうほどの力の入れようだった。


 だがその実態はゲーム内随一の爆弾である。それもメガトン級の。


 コウメを雇ってSLGパートを進めること250ターン後。こいつは牙を剥き出す。


 俺も情報なしではじめていた頃、こいつを雇うことになったんだが異変に気付いたのは画面内にいる兵士のミニキャラだった。


 フキダシで色々と現状を報告するシステムになっているのだがそれが明らかに変わっていたのだ。


 ――コウメちゃん最高! 俺の女神だね。


 なんぞこれ?


 はじめは気にも留めなかったのだが更にターンが進むごとに……。




 ――コウメ様、ああコウメ様ぁぁぁ


 ――コウメ様こそ至高なり。ああ、我らが主よ


 ――コウメさまぁ、今夜はぜひ私のところに!




 これらでフキダシが埋め尽くされていく。

 愛情を深めた攻略対象者以外はこうやって汚染される可能性があるのだ。


 これどんなホラーだよって叫びそうになったもの。


 そして民の忠誠度を表すグラフとコウメの忠誠度が徐々に低下していきある程度まで下がったとき!







 突如画面が真っ赤になり表示されていた領主の館が火の海になる。







 そう、コウメに唆された民の反乱にあいゲームオーバーとなるのだ。


 初めてこれになったとき妹と二人で思わず抱き合っちゃったもん、怖すぎて。

 真っ赤に染まった画面の中央には影絵のように槍に掲げられた二つの首が浮き上がるんだ。


 無駄にターンをかける事へのペナルティなんだそうだがトラウマとなる人が続出したらしい。


 しかもだ。公式設定資料ではコウメ(♂)ってなっているんだよ。男の娘かよ!

 フキダシ変化してたの全部男だったぞ。乙女ゲームなのに腐女子増産してどうするんだよ製作者! などとついつい突っ込んでしまった。


 妹も懲りたのかどんなときも必ずシヴァだけは仲間に入れていた。うん、俺が頼み込んだからね。






 今回、彼を引き入れるために最後にコウメについて話した。シヴァはコウメにトラウマがあるからである。







「シヴァ君、僕、コウメ。よろしくね」


「……フン、知恵の回らない女に話すことなどない」


 シヴァは昔から気難しい性格だったようだ。


 ひらひらの妖精の様な衣装に身を包んだコウメは素気無く追い払われながらもシヴァの後を着いて回っていた。


「そんなについて来たいならおれの質問に答えてからにしろ。おれについてくるからには受け答えができないと存在する意味がない」


「いいよ。コウメのじつりょく見てもらおうじゃん」


 シヴァからの質問は大人でも答えに詰まるようなものだったのだがコウメはあっさりとその解を引き出してしまう。

 それから徐々に二人の距離は縮まりシヴァも女とばかり呼んでいたところから名前呼びするくらいまで親しくなっていた。


 だが唐突に別れは訪れる。

 シヴァが王都から遠く離れたシュウタツ家の領地へと向かうことになったのだ。最後にと屋敷の近くにある見晴らしのよい丘へコウメを呼び出した。


 数年はあっちで暮らすことになっていたため彼はとある決断をしてここに来ている。


 どうやらコウメは先んじて来ていたらしい。


「どうしたの、シヴァ。急に話したい事があるって」


「コウメ……俺はこれから実家の領地へ戻る。恐らく数年は戻ってこれないだろう」


「そっか、シヴァの実家の領地って遠いもんね。寂しくなるなぁ」


 悲しげな顔で目を逸らすコウメ。そんなコウメの手をつかみ真正面に見据え意を決して話しかけた。


「コウメ、俺は……お前を嫁にしたい。俺と婚約して一緒に領地まで来てくれないか?」



 沈黙。



 そしてシヴァの手の平を両手で掴みそっと……。



「御免ね。シヴァはずっと勘違いしていたみたいだけどボク男なんだ」



 そっと自らの股間へと押し当てていた。



 あるはずのない感触に信じられないものを見たかのようなシヴァ。



「うわああああああああああ」


 彼は絶叫し泡を吹いて倒れた。






 以上が幼少期のトラウマである。俺だったら男として立ち直れないかもしれない。現に彼も長いこと引き篭もりしていたらしい。




 それでも立ち直った彼は数年後再び王都へと戻ってくる。王立学園へと通うためだ。


 詳しい詳細は知らないがここでもコウメとシヴァは出会うらしい。

 追加ディスクでの話なので俺は知らないんだよね。丁度逝ったところだから。



 この現実でコウメのシステム的なところがどういう風に影響されてくるか分からない現状、雇う選択は取りたいとは思わない。そして汚染が広がる可能性を考慮して囲い込むのも危険と判断する。他で雇われることもあるかもしれないので間者を潜ませておき様子を見るしかない。


 悲しいことにコウメの性能はデータ上では随一の知力や政治能力を有している。

 もし敵対した際、対抗するにはシヴァを筆頭に知恵者を総動員して事に当たらねばなるまいと思っていた。


 だから頼む! シヴァよ「うん」と言ってくれ。

 心の底からそう思う俺であった。

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