ゆうやけ。
御題:水羊羹・改札・割り箸
「そういえばさ、ベッドどうしよっか。」
「あちゃー、店員に腹たって忘れてたけどそれが本題だったよなぁ……」
「リサイクルショップあたってみる?」
「中古かぁ……せっかくの新生活なんだから全部新品にしたいけど……」
「背に腹は変えられないよ。家賃だっていっぱいっぱいなんだから。」
「それなぁ………」
とりあえず私たちは、デパートからほど近いリサイクルショップに行ってみることにした。
「なんだよ、こっちの方が品揃えいいじゃねーか。」
「これは予想外……」
そう、下手するとデパートの方が貧相なレベルの、選択肢の豊富さだった。
「お、これなんかよさそうだな。」
「……梨華姉、これ香水の匂いが……」
これが元々どこで使われてたのかを、二人とも瞬時に理解した。
「つ、次行こうか。」
「あ、これならいいんじゃ」
「いや、それ多分私が収まんない。」
その言葉に梨華姉の身長を思い出す。卒業してからもなぜか身長が伸び続けて今や170後半。私と20センチぐらい差があるから、コンパスの差で並んで歩くのが大変なのだ。
「……なかなかないよなぁ、そんな、の………あった。」
「えっ?」
梨華姉の視線をたどると、本当にあった。縦幅も梨華姉が十分収まりそうなぐらいある。
「だけどこんなん置けるかなぁ……」
「やっぱ無理ですかねぇ……」
「………」
しばらく梨華姉は考え込んでいた。
「……なーんだ、簡単な話じゃんか。なんで気づかなかったんだろ。」
「梨華姉?」
「虹海、さっきのベッドにするぞ。」
「えっ、でもあれじゃ梨華姉がはみ出して」
「普通に寝たら、な。」
「?」
「お前を抱いて寝ればいいんだよ。」
「………へ?」
突然何を言い出すのやら。
「お前を抱けば、自然と体が丸まるだろ?そうすりゃぴったりってわけよ。」
「………それ、毎日?」
「毎日。」
「私の方が先に起きること多いんだけど。」
「嫌なのか?」
「嫌じゃ、ない、けど……」
(むしろ、うれしい……)
梨華姉はニッと歯を出して笑うと、
「決まり、だな。」
ベッドの方はさすがに担いで買えるわけにもいかないから、明日運んでもらうことにした。
「さーて、フルーツタルト食べ損なったし、何か食べてくか。」
「もー、食べ損なったのは梨華姉のせいでしょ。」
「そう言うなって。………お、水羊羹か。買ってくか。」
「そういえばもう少ししたら夏だね。あ、試食もできるみたい。」
「試食か……また前みたいなことにならないといいけど。」
「すいませーん、水羊羹2つー。」
店先に並べられた椅子に腰掛けて、奥に声をかけると、すぐに運ばれてきた。
「うわぁ……素敵。」
「そう言って頂けると幸いです。」
と、店長らしきおじいさんが割り箸を補充しながら微笑む。
「おいしい………毎日買いたい……」
「家の近くにあればいいのにね。」
チラっとカウンターに目を向けると、さっきのおじいさんとカウンターにいたおばあさんが楽しそうに話していた。
「さーて、お土産も買って帰ろうか。」
「あ、うん。」
駅の改札を通り抜けて、ホームに立った私達の影は長く伸びていた。
「梨華姉。」
「ん、なんだ?」
「私たちも、あの甘味屋の2人と同じぐらいまで一緒に仲良くいたいね。」
梨華姉は満足そうに肯いて、
「ああ。」と答えた。
そして、二つの影は1箇所でくっついた。