春うらら。
御題:キス・カフェオレ・夏
「大分家の中も片付いてきたなー。」
「もー、ほとんど梨華姉の荷物じゃない。」
「そういう虹海だって、枕とかぬいぐるみとかそんなんばっかじゃねぇかよー。」
「う、こ、これは・・・・・・」
「あ、まさか枕変わると寝られないとかか~?そしてそのぬいぐるみを抱いて寝ると。」
「ぐっ・・・・・・・・・」
見事なまでに図星だ。
「だったらさ、今日からは私が抱き枕になってやるよー!」
「ええっ!?」
うれし・・・・・・・・・じゃなかった、驚いた。
「ん、嫌か?」
「い、嫌じゃないけど・・・・・・しばらくしたら夏ですし、それに・・・」
持たない、主に心が。
「ちぇ、ダメかぁ。」
「なんでそんな悲しそうなの・・・・・・」
「夢だったのになあ、添い寝。」
「はいはい、そのうち、ね。」
「お?そのうちってことは今日か」
「ダメです。」
「あ、やっぱり?」
そんなやりとりを繰り返していると、ぽかぽかとしてなんだか眠くなってきた。
「寝るにはまだ早いよね。」
「そういいつつなんで枕持ってるの・・・・・・」
「いやー、今日面白い映画放送するんだよねー。」
梨華姉の目がキラキラしてる。
「・・・・・・わかりました、付き合ってあげますよ。」
「おー、さすが私の妹。」
その時、私の携帯が鳴った。ディスプレイに浮かんだ番号は、運送会社のもの。
「じゃーカフェオレ淹れて待ってるから、電話終わったら来いよ~。」
「あ、もしもし。」
「あ、姫宮さんでしょうか?私運送会社のものですけど。」
違います、と言いかけて思いとどまった。そっか、もう私は「山川」じゃなくて「姫宮虹海」なんだ。すっかり忘れてた。
「あ、はい、そうですけど・・・・・・」
「実は、明日搬入するベッドの件なんですが、こちらのミスで破損してしまって・・・・・・後日、弁償致しますので・・・・・・。」
へ?ってことは私、どうやって寝れば・・・・・・。布団は先にこっちに持ってきてあるから問題はないけど、敷きっぱなしにしとくわけにもいかないし・・・・・・・・・
運送屋さんとは、引越し代金を割り引く方向で話がまとまった。
「つまり、寝床がない、と。」
「しばらくは床に布団敷いて寝るけど・・・・・・・・・」
「私のもボロかったから実家に置いてきちゃったしなぁ・・・・・・よし、明日買いに行くか。もちろんダ」
「ダブルベッドは嫌ですよ。」
「なんで見抜かれたっ」
「だって梨華姉、・・・・・・ね、寝たらいろんなことしてくるんですもん・・・・・・」
「虹海ぃ・・・・・・冷たいなぁお前は・・・・・・」
「そ、そんなうるうるした目で見てもダメですからっ!」
「それにさ、二つ買うと割高だろ。お金もないしさ、ダブルベッドにしようよぉ・・・・・・」
「・・・・・・。」
だめだ、これは私の負けだ。
「・・・・・・寝た後で、キスだけなら、いいですよ。」
途端に梨華姉の顔にいたずらっ子のような笑みが浮かぶ。
「わかった、それ以外はしない。・・・・・・・・・っと、もう始まるじゃんか。さ、こっち来いよ。」
この後、くっついて映画を見てたら私も梨華姉も寝てしまった。
私は、ぬいぐるみとは違うあったかい感覚を感じながらぐっすりと寝たのだった。
1日目 Fin.