表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/104

~小さな家〜

日記、鎖骨、暖かい日々


「よいっ・・・・・・しょっと。」

虹海ななみー、荷物の積み込み終わったかー?」

「あ、はーい、これで最後です。」

「もー、まだ敬語抜けねーの?」

「こ、こればっかりはしょうがないじゃないですか・・・・・・・・・」

「しょうがなくないっ。姉妹なのに気なんか使わなくていいっ。」

「梨華姉ぇ・・・・・・そんなこと言ったって無理だよぉ・・・・・・」

「ほら今の調子。今みたいに言えばいいんだ。」

「梨華姉・・・・・・・・・」

思わず顔を近づけていた。あわよくばこのまま・・・・・・と、そんな空気をぶち壊すように下階したから運送屋の声がした。

「あっ、残りの荷物運ばないと。」

(ちぇ、逃げられたか。)

「何やってるの梨華姉。行くよ。」

「はいはい。」

(ま、いっか。向こうに着いたら「2人きり」だし。)


最後の荷物をトラックに入れると、私達は車で先に新しい家に向かうことにした。

「梨華姉、いつの間に免許取ってたの?」

「免許?んなもんないよ。」

「すいませんここでおろしてくだ」

「おいおい、冗談だって。・・・・・・おまえな、あれから2年経ったんだぞ。いや、『待った』の方が正しいか・・・・・・お前の、卒業までな。」

「うっ・・・・・・・・・」

それを言われると何も言えない。梨華姉の方が年上だから「待たせる」ことになるのは分かってた。梨華姉が卒業してから、私も後を追って卒業するまで灰色の世界しか見えなかった。ひとりって、こんなに悲しいことなんだ。梨華姉の場合はもっと辛かったはず。

「・・・・・・そんな深刻に考えるな。お前も私もここにいる。それでいいじゃねぇか。」

「梨華姉・・・・・・・・・・・・・・・待たせちゃって、ごめんね。」

「・・・・・・おかえり、虹海。」

「ただいま、梨華姉。」


新居に着くと、トラックはもう着いていた。

「ここが新しい家・・・・・・」

「マンションだからな。今までより大分狭くなるけど・・・・・・・・・ま、いざとなりゃ2人でくっついて寝るか!」

「ちょ、梨華姉っ、それは。」

「冗談。・・・・・・・・・さ、荷物の運び入れだ。早くしないと今日は寝れないぜ~。」

「もう、梨華姉。」


「んと、これは私のとこで・・・・・・あれ、これ私の荷物じゃない。」

どうやら、私の荷物と梨華姉の荷物が混ざっちゃったみたい。

「ん、なんだろこれ・・・・・・・・・日記?」

「おーい虹海ー。」

「ひゃうっ!?」

とっさに日記を後ろ手に隠す。

「おー、ここにあったのか私の荷物。」

梨華姉はダンボールの中身を漁ってガサゴソやっている。

「あれ、ないな・・・・・・なぁ、赤いノート見なかったか?」

「み、見てませんよ。」

「そうか、おっかしーなー。持ってき忘れたかな?」

と、スタスタ行ってしまう。どうやら自分の荷物を片付けるみたい。私も片付けないと・・・・・・・・・あ、ノート。見た限り日記みたいだけど中身が気になる・・・・・・・・・でも人の日記を見るなんて・・・・・・でも・・・・えーい、見ちゃえ!

思い切って開けると、やっぱり日記だった。らしくない丸文字で書かれた日記は、あるページだけボロボロになってた。

「1月15日 虹海が訪ねてきた。新居どうしようっかなー。

1月18日 虹海から連絡があった。この前のとこじゃせまいっぽい。2人で入れるとこ、なかなかない・・・・・・

2月1日 もうそろそろ虹海の誕生日。かわいい妹の為に何贈ろっかな。

2月14日 今日は妹の誕生日。これで18歳―――やっと、2人で暮らせる。長かったけど、これで、2人きりで、暖かい日々を楽しめる。2人でぽかぽかできる。長年の夢が、ここに――」

「なーなーみー?」

「ひうっ!?」

「ないと思ったらやっぱりあんたが持ってたのかー・・・・・・・・・これはお仕置きが必要だねぇ・・・・・・?」

そう言いながら梨華姉の手が私の鎖骨に伸びる。緩いカーブを描く鎖骨を、スススっと梨華姉の指が撫でる。と、急にその動きが止まる。

「なーんてね。見ちゃったもんは仕方ないし、それに、さ。」

と、目線を合わせられて、

「2人きりだから、楽しいことはいつでもできるしね。」

と、梨華姉は意味ありげに微笑んだ。

「さ、残りの片付けやっちゃおっか。」


梨華姉が出ていった後で、私は大きくため息をついて、撫でられたとこをそっと撫で直した。

(気持ち、よかったな―――。)

と、うっとりしそうになるのを抑えるのが大変だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ