秋~進展〜
御題:ベール・時計・石
ヒュウ、とどことなく夏の断末魔を思わせる風が吹いて、地面に墜ちた蝉が乾いた目を向ける。
「暗くなってきたね、梨華姉。」
「そうだね、虹海」
梨華姉は腕の時計に目を落として、
「まだ6時なんだ・・・・・・早いね。」
「こないだまであんなに陽が長かったのに・・・・・・・・・」
こないだ、と聞いて梨華姉が思い出したように笑う。
「ほんと、指輪渡したのがまだ昨日のことみたい。」
私も自然と、目線が左手に落ちる。由緒通り薬指にはめた指輪は、仮初のものとはいえ銀の光を放っている。
「そういえばさ、誕生日いつだっけ?」
「え、2月ですけど・・・・・・」
「そっか、なら好都合だ。」
ニッと歯を出して笑う梨華姉。そういえば梨華姉も2月生まれだったっけ。
「本当のペアリングを作る時の石を考えててさー、お互いの誕生石にしようと思ってたからちょうどよかったわ。2人で同じ石だもんな。」
「ペア・・・・・・リング。」
その言葉で、未だにこれが仮契約だと思い出す。脆くて壊れやすい心だけで繋がってる思い、まだぶつかってないけど、いつかは壊れちゃうのかな。
「ん、どうした?嫌か?」
答えは決まってる。
「いえ・・・・・・・・・でも、
梨華姉がそばにいてくれれば、それでいいんです。」
思いもよらずスラッと出た言葉に、互いに固まる。いち早くショックから立ち直った梨華姉は、
「参ったなー、そんなこと言われると今のこの指輪でいいように思えるじゃんかー。」
「思いと値段は比例しないと思いますよ?」
「いやいや、折角なら豪華なの作りたいじゃん。そして・・・・・・交換した後ベールをまくって・・・・・・キ、キスってほっぺでもありだよな?」
「いやダメだと思いますよ流石に。」
「そ、そうなのか・・・・・・・・・」
急に焦る梨華姉。もしかして・・・・・・
「梨華姉、もしかしてファーストキス?」
「そ、そそそそんなわけが・・・・・・ある。」
「やっぱり。」
「なんだよ、取っといちゃダメか?」
「そういうわけじゃ――」
「とかいいつつ。
そっちもファーストだよねー?人のこと言えるのかなー(ニヤニヤ)」
「くっ・・・・・・・・・わかりました。なら―――後で、2人の『初めて』交換しましょうか。」
「えっ」
「ほら、行きますよ。」
ちょっとの間戸惑っていた梨華姉だったけど、すぐに復活して
「普通は式の時がファーストだとおもうんだけどなぁ・・・・・・ま、『予行練習』は大事だよね。ま、行こっか。」
と、足を揃える。
秋は秋でも、2人で過ごす時間に「飽き」はないね、と2人で話す帰り道。夕暮れに二つの影が溶けて伸びて、やがて一つになって消えた。