夏~ふたりで〜
御題:アクセサリー・空・夢
真夏と言うにはまだ早い気温が、自然と汗を誘う。
「先輩、髪伸びましたね。」
話しかけるや否や、すぐに向き直って、
「だーめ。2人の時は?」
「あっ、――清白、さん。」
「30点。」
「―――梨華、さん。」
「おまけで91点。」
「――――り、梨華?」
「なんで疑問形なのよ。――まあ、合格。」
「そんなこと言ったって・・・・・・無理ですよぉ。先輩を呼び捨てなんて。」
「おやぁ?教室の時の元気はどうしたのかな?いやー傑作だったね、一生かけて償―――」
「うわぁぁぁやめてぇぇぇぇ」
思い出すだけでも頭が噴火しそう。でも、それ以外に言葉が見つからなかったし仕方ない、仕方ないはず、だけど―――
「でもさ、償うって言ってくれた時は嬉しかった。」
「へ?」
「いやさ、あの一件があってから
お互いに気まずくなってそんな話せなかったじゃん?これじゃダメだよなぁってずっと思ってて、気がついたら10年経って。ずっと妹みたいに思ってたのがいなくなるって、思ったよりずっと寂しいことなんだよ。それがこんなに大きくなって、そして私の本当の『家族』になった。こんなこと、想像もできなかったよ。」
「本当の、『家族』―――。」
形の上ではまだ家族じゃないし、この先も本当の家族になれるっていう保証は無い。でも、
「―――そうですね、私と、梨華姉さんは『家族』です。」
世界中の皆が認めなくても、私達は『家族』であり、『姉妹』であり、『夫婦』なんだ。
「夢、なのかもね。」
突然梨華姉が呟く。
「生まれた時にベッドが隣だったのも、親が仲良くなったもの、この火傷をしたのも、そしてまた会って『本当の姉妹』になったのも、全部夢の中のことで起きたら全部無くなってて、また空っぽの家のベッドで1人で目覚めるのかなぁ――って。」
突然ネガティブなことを言い出した梨華姉に、私はどう返せばいいのか悩んでいた。確かに私も、これは夢かもしれないと考えたことがあった。夢だったら梨華姉は火傷せずに済んでいたと思う一方で、『姉妹』になれたのも夢だったと思うと胸が苦しい。いや、出会ったことさえも夢だったなら―――。
「でもさ。」
と、いきなりほっぺたをむにむにされる。
「本当に夢だったとしてもさ、今私達が今こうやってここにいるのは変わらないよね。だったらさ、楽しもうよ。『きっと永遠に覚めない夢』を、さ。」
「永遠に、覚めない、夢・・・・・・?」
「そう。私達がこの世界から消えたとしても、ずっと覚めない素敵な夢。」
「――なるほど、覚めない夢ですか―――それなら楽しまないと大損ですね。」
自然と笑みがこぼれていた。それと同時に、涙も。
「おいおい、泣くなよ。夢から覚めちゃうぜ。」
「そ、それだけは嫌!」
「だったら覚めないうちに。」
と、左手を強くつかまれる。梨華姉の右手には指輪が握られていた。
「この年ならまだただのアクセサリーって思われるから問題ないよな。お揃いにしといたぞ。」
気づいたら梨華姉の薬指にも同じものがはまっている。指輪は、誂えたかのように私の薬指にスッとはまった。
「ま、今はこんな仮の指輪だけだけど、いつかは、な。」
「はい、いつになるかはわかりませんけど、『いつか』。」
薄曇りの空から、心なしか一筋の光が差し込んだような気がした。