第四章 超一流カジノディーラーと私 PART2
喫煙所を出て天野と別れた後、さくらは予定通り資料室に来ていた。
定時を過ぎているということもあり、
無人だった室内はさくらの訪問により
再び息を吹き返したかのように明るい照明で照らされていた。
この部屋に来てから、
既に幾つかの雑誌を手にとって香月の記事が無いか調べてみたものの、
生憎これといったものが見つからなかったのだが、
折角ここまで来て収穫ゼロではあまりに寂しい。
だからとりあえずカジノに関する知識をもう少し深めておこうと、
ネットで検索するためにパソコンを起動させることにしたのだった。
まずはカジノでどのようなゲームが行われるのか知っておいた方がいいだろう。
さくらはそう考えて、
検索欄に「カジノ ゲーム」と打ち込み、最後にENTERキーを押した。
しかし、画面に表示されたのは家庭用ゲーム機やオンラインで楽しめる
「ゲームソフト」に該当する項目ばかりだった。
そうじゃないんだよ、とさくらは苛立ちを感じつつ、
今度は「カジノ種目」で調べてみることにした。
次に表示された画面でも、
一目でカジノが扱っているゲームが分かるような項目は出なかったものの、
さっきよりは知りたい情報を集められそうだったので、
表示されたリンク先の幾つかへと飛んでみることにした。
調べていくうちに、
カジノには大きく分けて二種類のゲームが行われていることが分かった。
まず一つ目は機械相手に勝負を行うもの。
主にスロットマシーンがこれに該当するのだが、
ディーラーがあまり関与しない以上、
香月が活躍する場ではなさそうだったので
これに関してはひとまず置いておいて大丈夫だろう。
そして二つ目が人間相手、つまりディーラーと客の勝負によるものである。
具体的にはブラックジャックやポーカーといったトランプを使用するものの他、ルーレットもこれに該当するはずだ。
つまりは今回の取材相手で香月が生業としているのが
これらのゲームということだった。
さくらはパソコンに表示された、
カジノで真剣な表情で対峙する人達の画像を幾つも見ていくうちに
日本で許可されている公営ギャンブルの中で、
ここまで露骨に人と人との戦いが映し出される種目があるのだろうか、
と軽いカルチャーショックを感じ始めていた。
パチンコは完全に機械相手だし、
競馬や競輪などは確かに相手の行動によって結果が左右されるが、
一対一の勝負とは何かが違う。
強いて言えば公営ギャンブルと言えるかどうかは分からないが、
四人が同条件で戦う麻雀が少し近いものと思えるぐらいなのだ。
また、さくらは文化の違いを感じつつ、嫌な予感を思い浮かべていた。
それは、見た目の華々しさや各ゲームが持つ遊戯性の裏に潜む射幸心の煽りに、一体どれだけの人間が耐えうることができるのだろうか、
ということだ。
負けが込み始めた際に、
後もう一回だけ、次こそは勝てるはず、まだ大丈夫、
と言いながらどんどん引き戻せないラインまでお金を使い続ける人は
きっと少なくないのだろう。
精神面の弱さに定評のある日本人なら尚更である。
まぁギャンブルに限らず、
新しい物事を始める際にその荒を探していたらキリがないし、
そもそも日本にカジノが設立されると決まったわけでは無い。
海外から旅行客の増加が見込めるなど、プラス材料も多々あるはずだ。
それでも尚さくらが不安に感じるのは、
この企画を通じて最初に出会った島が話してくれた、
「多数意見に囚われがちな日本人の弱さ」が
彼女の頭から離れなかったからなのかもしれない。
そこまでさくらが個人的にカジノのというものを解釈したところで、
テーブルに置かれた内線電話がプルルルっと鳴った。
電話を覗き込むと、そこには見覚えのある内線番号が表示されていた。
「はい。矢作です」
『お疲れ~。天野で~す』
受話器から聞こえてきたのは、さくらの予想通り天野の声だった。
「お疲れ様です。どうされました?」
『うん。さっきまで比呂木さんと話してんだけど、
今からご飯に食べに行こうってことになってさ。
あんたも一緒にどう?まだ仕事かかりそう?』
天野の話を聞きながら、
ここに来る前は自分と話しておりそれから比呂木と話していても、
実は仕事もしっかりこなしている彼女の手際の良さに、
さくらは頭が下がる思いを感じていた。
「いえ、大丈夫です。直ぐに戻ります」
『は~い。了解』
受話器を置いた後、
パソコンの電源を落とすべく改めて画面を除いたさくらの目に
欧米ディーラーの顔写真が飛び込んだ。
その時、
さくらは何故か昔読んだギャンブル漫画の主人公の尖った鼻を
思い出したのだった。




