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戒縛の王と 森の妖精

3 獅子王さまと 仮初めの妃

作者: にくきぅ

常用漢字ではない漢字の使用が多々あります。 僅かですが、当て字もあります。それ等は、誤字・脱字と共に、広い心で お赦しください。

って……今更ですね。


これも、ラッケンガルド滞在-1日目の お話です。


___視点:〔森之妖精イリフィ〕-リーゼロッテ=サフィール___


石板を タイルの様に貼りあわせた廊下を歩きながら、魔法使リーゼロッテいは 溜息を零した。

彼女は、この王宮へ来て わずか1時間に充たない間に、幾つも 驚愕の体験をした。

この国の若き王である ラノイ=アシュリオン=ラッケンガルド。

彼にそなわっていた天賚てんらいが原因である。

天賚てんらいとは、その名称の通り、天におわす神々より たまわった( =賜わった =与えられた)能力スキルを指す。

魔法使いの能力スキルは云うに及ばず、それ以下の者達の特殊能力も すべ天賚てんらいと呼ばれるモノだ。

天気を予測したり 占いをしたり、動物達と言葉を交わしたり 植物の育成を促進させたり、と 天賚てんらいにも 様々ある。

しかし、これ等は 決して強力な能力スキルではない。

魔法使いならば、大半が 身に付けている能力スキルであり、特殊なモノではない。

だが、ラノイが有していた戒縛のちからは、間違いなく 希少能力レアスキルだった。

血筋で発生し易い能力スキルであるらしい、と 魔法使リーゼロッテいは 推測していた。

彼女の故郷-エスファニア王国にも、同じ天賚てんらいそなえる者がいる為だ。


《 聴いていた以上に、厄介なちから。》


亡き父から 戒縛のちからの恐ろしさを聴いていたのだが、此処までの脅威に曝されたのは 今回が初めてだった。

他を『いましめ縛る』能力は、魔法使いでも有する者はない。

本当に 希少で、或る意味 何よりも恐ろしい能力スキルだ。

影響力の強弱はあれど、この能力スキルの本領は、主に 魔法属に対して発揮される。

動きを止めさせる・特定の行動を制限するなどと云った干渉は、まだ軽いほうだ。

最も警戒すべき効果は『強制的に 魔法使いを操る』点にある。

尤も、エスファニア王国の侍従長-セレディンは、此処までの影響力を与えられない。

覚醒していない事もあるが、そもそも、彼は 戒縛のちからが弱いのだ。

それであったとしても、魔法属には 充分な脅威なのだが、ラノイは その域を超えている。

ラノイならば、言霊を発するだけで 魔法使リーゼロッテいの魔法を発動させる事も可能だろう。

勿論、意思に反しての 強制発動を、である。

事実、彼女は、威嚇する程度の魔法も あの腕からのがれる為の武術も、一切 揮う事が出来なかった。

老獪な魔人や魔女を 幾度も退けてきた〔森之妖精イリフィ〕としては、有り得ない状態だ。


かつて、父さまがとらわれていたと云うはなしにも 納得だわ。》

《 決して近付くな、と云う注告にも……。》


ラノイの腕の中で翻弄された時、逃げる事が可能ならば、この王宮の一部を崩壊させてでも 逃げ出したかった。

しかし、それは 既に制限されていた。

何10万といる魔法使い達の中で かなり上位に数えられる彼女でさえ、この束縛に逆らう事は出来なかった。

ラノイの二面性に驚き 戒縛のちからに翻弄される内に、臨時の妃を演じる事態になってしまっている。

〔獅子王〕が 異国の娘を妃に迎えた と云うはなしは、飛ぶ様に 王宮を駆け巡った。

しかし、正式に 婚姻の儀を、と進言する臣下は 1人もいなかった。


《 せめてもの救いだったけれど……。》


臣下のすべてが、王に娶られた妃を 祝福してはいない、と云う事だ。

つまりは、周囲の全員が 信のおけない者達であり、何等かの企みを持っている と云う事でもあった。

王を失脚させんとする者も 王の権力に擦り寄らんとする者も、突然 現れた王妃を快くは思っていない。


《 こんな処に、何年もいたせい?》


王位に就任して 何年も経たないが、いろいろと遭った事は 伝え聴いている。

混乱は治まったが、今も 気を抜けない状態だと云う事も、簡単に説明されていた。

その為か、王宮にいるラノイは〔獅子王〕の姿を貫こうとする。

勿論、威圧的な獅子の姿も、自由気儘を絵にいた 猫の様な姿も、どちらも『ラノイ』の本性だ。

演じているのではなく、そもそも ああ云った性格をしているのだ。

しかし、他で 少年の様な無邪気さなどを垣間見せないのは、やはり 気を張る必要性を感じているからだろう。


《 昔の 母さまと一緒……。》


彼女の母-アナスターシァは、エスファニアの王女として生まれ みずからの意思で王城を脱するまで、笑いもしない姫だった。

王女は『緑の手』と云われる天賚てんらいそなえていた。

これは、手でれた植物の成長を促進させ、その植物がそなえる効力を最大限に高める天賚てんらいだ。

幼い時から この能力に目覚めていた王女アナスターシァは、事ある毎に 植物に触ろうとする。

れるだけで、その植物が食用なのか 薬草になるのかなども判ってしまう能力スキルだ。

教えられなくとも、れた植物の特性も 特徴も伝わってくるのだ。

導かれる様に 様々な植物に触ろうとしたのも、自然な流れである。

だが、厳格だった当時の王は これを赦さなかった。

大国の王女に あるまじき能力スキルと一喝し、彼女アナスターシァの自由をうばったのだ。

以後、王女アナスターシァは『笑わぬ姫』と異名をとる様になった。


《 結局、母さまは、自分を取り戻す為に 王家である事を棄てたけれど、ラノイ様は……。》


闘う為に この国の王となったのだ。

それは 圧政に苦しむ民の為であり、この国が 他国に侵略される事を防ぐ為でもあるのだろう。

わずかな側近達に 心安い者達がいる様だが、それでも 今の状況は、ラノイにとって『こころざし半ば』と云ったところなのだろう。


《 今、生命いのちうばわれるのは 無念でしょうし……。》


魔法使リーゼロッテいは、ラノイの中に『危機の芽』が育ちつつある事を視抜いていた。

何者かの悪意が ラノイのからだに蓄積しつつあったのだ。

人の良い魔法使リーゼロッテいにとって、見過ごせない事態でもあった。

それが躊躇となって、つい『仮初かりそめの妃』などと云う茶番を受け入れてしまった訳だが。


《 考えてみれば、妃と云う立場でなくても良かった様な……。》


今更である事は、本人も理解している。

少人数とは云え 大臣達に見られた上、ラノイの爆弾発言があったのだ。

回避は難しかったとも云える。

しかし、後悔は 尽きない。

密かに溜息をついている彼女が 数人の女官達に案内されたのは、豪奢な部屋だった。


「ほう」


だだっ広い部屋の壁には 豪華絢爛な装飾が施されていた。

その壁際に、何人もの侍従官や女官達が ならんでっていた。

部屋の中央に 香木を削り出したテーブルと椅子が1セットあるだけだが、何とも云えない 空間になっている。

用意された衣装に着替えて現れた魔法使リーゼロッテいを、先に来ていたラノイが つくづく々と眺める。


「取り急ぎ用意させたが、良く似合う」


香木を削り出した椅子に掛けたラノイが、微笑と共に 賛辞を向けた事が珍しかったのか。

何人もいる女官達が 吃声を飲み込んだのが伝わった。

褒め言葉に反応したのか 微笑に驚いたのかは、気になるところだ。

しかし、魔法使リーゼロッテいは 内心の興味をおくびにも出さず、婉然と微笑んで返した。

「ありがとうございます」

そう言って、ラノイの手に招かれるままに テーブルへ近付いた。

そんな魔法使リーゼロッテいのが、ゆっくりと テーブルの上を移動する。

そして、準備されていた2脚の湯呑の上で 止まった。

「共に 茶を喫し、そなたのはなしを聴かせてくれ」

王の命令に、返す言葉は 1っだけだ。

「仰せのままに」

ふわりと笑んだ そのが、1人の女官へ向いた。

そして、魔法使リーゼロッテいは 柔かく微笑んだ。

「後は、わたしが」

茶の準備をしようとしていた女官の手から、そっと 急須を取り上げた。

物腰は 軟らかいが、そのじつ 有無を云わせぬ態度だった。




▽ ▽ ▽ ▽ ▽




___視点:国王-ラノイ=アシュリオン=ラッケンガルド___


ラノイは、うつくしい魔法使リーゼロッテいを見詰めていた。

ラッケンガルドの宮廷衣装に着替えた彼女に、人眼ひとめはばからず 見惚れていただけではない。

彼女の向ける視線に、その一挙手一投足に、わずかな違和感をいだいたからに他ならない。

何気なく振舞っているが、彼女の態度は 何かを警戒してのモノだと直感した。

ラノイは、見惚れている様でありながら、その裏で 抜かりなく室内の者達の様子をうかがっていた。

それは、これまでの常であり みずからの生命いのちを護るすべでもあった。

だからこそ、魔法使リーゼロッテいの真意に気付けたのだろう。


《 何かあるのか。》


更に 注意深く見ている内に、魔法使リーゼロッテいは 茶の準備を始める。

エスファニア王国や サマリア王国は、茶と云えば 紅茶が主流だ。

サマリア王国の東にそびえる山脈を越えた先にある このラッケンガルド王国では、茶と云えば 煎茶や焙じ茶の事をす。

慣れた手付きで、魔法使リーゼロッテいは 急須に茶葉を入れ 湯を注ぐ。

蒸らしている間に、魔法使リーゼロッテいは ラノイの前に据えられた湯呑を手に取った。

白磁の湯呑は、小さめで 浅い作りだ。

なめらかな手触りの ガラスの様な質感の、華奢きゃしゃな 陶磁器の湯呑だ。

「美しい器ですね」

手に取って眺めている その指先が、器の縁を そっと撫でた。

何気ない仕草であったが、彼女の素性を知るラノイのには 最も不自然に映った。

飲み口にれるなど、彼女はしないだろう。

こう思えば『れなければならない理由』があった と結論付けられる。

そうする事で何が起きるのかは 全く想像が付かないが、ラノイは 魔法使リーゼロッテいを信頼していた。

すべてを任せようと思っていた。

出会って短い時間でしかないが、全幅の信頼を置いていると云っても過言ではない。

故に、この時も 違和感を指摘はしなかった。

ラノイ-以外には 彼女の手許は見えなかったのか、只単ただたんに 魔法使いに見惚れているだけか。

誰も 不信のを向けなしなかった。

ラノイの視線も 周囲の視線も気にしていないらしく、魔法使リーゼロッテいは、茶托に戻し 急須の茶を注いだ。

「どうぞ」

差し出された湯呑を受け取り、口を付ける。

「 ーーーーーー……… 」

一口含んで、ラノイは 瞠目した。

ゆっくりと嚥下しながら、 おのれの手の中にある湯呑をみおろしていた。

薄茶色の水面には 小さなさざなみがたち、映るべきラノイの喫驚顏を ぼやけさせている。

「 ……美味い」

感動を極限まで抑え、それでも こらえ切れずに零れた賛辞に対し、彼女は 淡白な礼を述べた。

「ありがとうございます」

ふわり と微笑んで 王に応えた後、もう1脚の湯呑へも 茶を注ぐ。

そして、そばにいた女官を振り返った。

如何いかがです?」

自分用に用意されていた湯呑を 女官に差し出して、茶を飲む事を勧める。

ちなみに、こちらの湯呑の飲み口は れていない。

「めっ、滅相もありません!」

大惶おおあわてで、若い女官は 後摩去あとずさった。

「わっわたしの様な者が とっととととんでもない!」

少々 大袈裟に断られ、魔法使リーゼロッテいは ほんのりと笑んだ。

「そうですか」

わなないて首を振る女官からを逸らし 王のほうへ向き直ると、その湯呑を 茶托へ戻す。

そうする間に、ラノイは 茶を飲み干していた。

あっと云う間にからになった湯呑に気付いて、魔法使リーゼロッテいが尋ねた。

「おかわりは 如何いかがですか?」

テーブルの脇に立ち 女官の代わりに給仕をする魔法使リーゼロッテいを見上げ、ラノイは を細めた。

それは〔獅子王〕の微笑みだった。

「確かに そなたの淹れる茶は美味いが、共に喫せよ と申したのだ」

向かいの席に座る様に示されて、彼女は 急須を手に躊躇ためらった。

どうやら、こうしているのが、彼女にとって極-自然な事らしい。

「普段は、そうしているのか?」

「はい」

おかわりの茶を注ぎながら、正直に答える。

「お仕えしている主人や、主人の大切な ご友人の方達や お客様達へ、こうして お茶を淹れて差し上げ、一時いっとき 寛いで頂くのが、この半年の日課です」

仕えているのが エスファニア王だと知れるのは、うまくない。

その判断から、一部の表現をぼかしている。

周囲の者達が 此処から察する事が出来るのは、何処かに仕えていると云う事だけだろう。

この国の民にいる筈がない銀髪は、それだけで 彼女が他国の者だと示している。

気品と 洗練された仕草から、何処かの国で 貴族などに仕えているらしい と想像する程度だ。

室内の女官達は、つくづく々と魔法使リーゼロッテいの後ろ姿を観察している。

「料理もか?」

いつもの茶を 驚きの美味さで淹れるのだ。

料理も さぞかし美味いのだろう、と云う 単純な発想で尋ねていた。

「一応 専属の方達がいらっしゃいますから、いつもではございませんが、時折 作らせて頂いております」

返答に、ラノイは驚いていた。

魔法使リーゼロッテいは、王家の血に連なる者だ。

身分や出生をかくしているとは云え、血筋としては 高貴な生まれだ。

高位の魔法使いでもあり〔森之妖精イリフィ〕でもある、特殊な存在だ。

「 ーーーーーー……… 」

まさか、本当に作っていたとは思わなかった と云うところだった。

表情には出さなかった為 誰にも気付かれる事はなかったが、流石に不自然な沈黙だった様だ。

「ラノイ様?」

魔法使リーゼロッテいの 疑問を含んだ呼び掛けに、ラノイは 改めて彼女を見上げた。

「だが、今は 私の妃だ」

念を押す様な言葉だった。

「夫と同席し 茶を喫する事に、何の遠慮も要らぬだろう」

女官の様に 給仕をさせる為にあるのではない、と 暗に示している。

こう言われては、妃らしい行動をとらざるを得ない。

「 ……はぃ」

仕方がなく と云った感じで、魔法使リーゼロッテいは 席に着いた。

そして、控え目な笑みを浮かべた。

「 ーーーー少し、落ち着きません」

「じきに慣れる」

そう付け加えながら、ラノイは 何口目かの茶を飲んで、ゆっくりと喉を潤す。

「美味い」

味わいながら飲んで、再び 感想を言った。

「恐縮です」

何処へ行っても 褒められる技能だ。

尤も、これは熟練の技である以前に 能力スキルの影響が大きいのだ。

魔法使リーゼロッテいとしては、最早 掛けられた賛辞に感動も覚えない。

表情を変える事なく、受け答えていた。

一方、ラノイは 茶の水面を凝視している。

「 ………… 」

若き王は、難しい顔で 何かを考え込んでいる。

「ラノイ様?」

「今日は、を通さねばならなぬ書類が多く 気が滅入っていたのだが、この茶があれば 凌げるかもしれぬな」

何が言いたいのかを察した 魔法使リーゼロッテいは、やや驚いた様に ラノイを見た。

「 ーーーーそれは…… 」

「ああ、執務室でも 共にいてくれぬか?」

はっきりと言葉にすると、彼女は わずかに眉を寄せた。

「お邪魔になってしまいます。他国で生まれ育ち 何処の誰とも知れない者が執務室の中にいては、他の方達も 気が散ってしまわれるでしょう」

「多くの者の報告を聴く事は 執政室で行うが、執務室は 主に書類ばかりだ。邪魔になる事はない」

この国では、国王の行政に携わる仕事部屋は、主に 2っ。

1っが 執政室、もう1っが 執務室だ。

執政室は、南棟の1階にある。

此処は がらんと広く、左右に別室を備え、全体では 小さな体育館程の広さを有しているそうだ。

各種 報告・各種 会議・簡単な謁見に用いられる場所となっているらしい。

執務室のほうは、最上階にある 魔法使リーゼロッテいが初めてラノイを見た あの部屋だ。

広さは 20畳程で、幾つかの机と 本棚があり、書類の精査をおこなう為の部屋だった。

「ですが、執務室におられるのが ラノイ様だけではない事も、確かでしょう?」

幾つかの机があった事からも、これは 確かだろう。

エスファニア王国ならば、秘書官や 執政官が同室している。

この国でも、付き従って執務に当たる側近や 官吏がいる筈だ。

魔法使リーゼロッテいの問いは、その意を含んでいた。

「ああ」

「でしたら、わたしは おのれのぶんわきまえるべきです」

公私は 分けるべきモノである。

遠回しに そう注意されても、ラノイは 魔法使リーゼロッテいの説得に掛かった。

「だが、そなたがそばにいてくれたら、私も 仕事に身が入るのだが」

「どうしても と仰有おっしゃるのでしたら、お茶の時間にだけ お邪魔させて頂きますので…… 」

「執務室は 僅かな者しか出入りはせぬし、やる事は 他愛のない事務仕事ばかりだ。充分なの保養と 和みになる事はあっても、邪魔にはならぬ」

途端に、魔法使リーゼロッテいの雰囲気が変わった。

「いいえ、ラノイ様」

それまでとは わずかに違う、硬い声だった。

「王たる者が負われる お仕事は、どれ程 些細であっても 手を抜いてはならないモノの筈です。それを…… 」

どうやら、ラノイの『他愛のない事務仕事』と云う発言が 彼女のかんれたらしい。

説教モードになったところへ、青年が入って来た。


「構いません」


少し前から会話を聴いていたのだろう。

2人の会話を理解した上で、言葉をさしはさんできた。


「それで、陛下のやる気が出るなら」


この国のほとんどの者と同じ 黒髪と黒いをした青年だ。

歳の頃は、20代後半だろう。

ラノイよりも何歳か年長の印象がある。

背も ラノイと同じくらいだが、からだ付きは ひょろりとした感じだった。

どう見ても、文官である事に間違いはないだろう。

「陛下の手が止まるのが、一番 困るんです。妃だと云うなら、つべこべ言わずに協力なさい」

青年の言葉に、魔法使リーゼロッテいは面食らっている。

「忙しいのですよ、人材不足で。財政は 建て直し中なのに、不正官吏は 後を絶たないし」

流れる様に 官吏達の文句を言い始めた事に、更に驚いているらしい。

「 ーーーーーー……… 」

魔法使リーゼロッテいは、テーブルのそばへやって来た青年を見て 絶句している。

「彼は 私の側近で、今は宰相だ」

ラノイの紹介に、彼-シズは にこりと笑みを作った。

「シズ=ラトウィッジと申します」

忠告をする暇もなく、相手が名告なのった。

宰相と云えば 官吏・大臣達の上に立つ人物だ。

クランツが 彼女の事を相談している筈だし、相手が〔森之妖精イリフィ〕だと判っている筈だ。

そうであれば、不用意に名告なのらないだろう と思っていただけに、魔法使リーゼロッテいは困惑していた。

「 ……ご丁寧に」

何とか それだけを返した魔法使リーゼロッテいの喫驚を、愉しそうな表情で ラノイが見詰めていた。

「初めまして、うつくしい姫君。陛下の お妃になるとは、何て勇気のある方でしょう」

この若き宰相である青年は、側近のクランツ-以上に、王に対して 畏怖を感じていないらしい。

そう看て、彼女は 1っ苦情を述べてみた。

「帰りたい と申し上げているのですが、おき入れくださいません」

「帰して差し上げては?」

何もかも事務的に、シズは 王に進言した。

「アシュリーがいないなら、やる気も失せるな」

深い溜息と共に呟かれた 既にやる気のない言葉こえに、シズの態度は急変した。

「いなさい」

くつがえりそうもない命令が 返ってきた。

この青年には、全ての事柄の優先順位が『仕事』の次から始まっているのだろう。

迷いも 溜めもない、即断だった。

或いは と思っての事だったが、此処まで きっぱりと言われると、やはり 言葉を失くすモノらしい。

「 ーーーーーー……… 」

うつくしい蒼いしばたかせ、押し黙ってしまった。

「シズは、仕事の鬼だからな」

そう言って〔獅子王〕は 低い声で嗤った。

そして、壁際に控えている侍従官や女官達へ手を振る。

彼等は 軽く頭を下げた状態で、後摩去あとずさる様に 退室して行った。

「アシュリー」

室内に 3人だけになってから、ラノイは 気になっていた事を問う。

「この お茶、毒でも入ってた?」

冷徹な〔獅子王〕から変化した言葉に、内心 驚きもし、何処か 安堵もしていた。

「器のほうに」

飲み口に 毒が塗られていた。

「だから、自分で淹れるって言ったの?」

サマリア王国の件で、毒に対する知識と経験は増えていた。

そして、それを打ち消す方法も 様々 学んでいた。

「微弱ではありましたが、何度も口にする事で その効力を増す毒です。今度は、毒消しの お茶を淹れますから、こちらで おからだの中をきよめてください」

たすかるよ」

2人の遣り取りを見ていた シズが、興味深そうに 魔法使リーゼロッテいを眺めている。

その視線の中、彼女は、何処からともなく 花を出した。

亜空間に保管していた 魔法製植物の花である。

彼女は、魔法薬の精製の為に 薬用植物を数多く採集していた。

勿論、こう云った事態に対処する為だ。

「毒を、中和出来るのですか?」

シズの 好奇のも、魔法使リーゼロッテいは 顔色一つ変えない。

エスファニアや サマリアの王侯貴族達の相手をしてきた事で、すっかり慣れたからだろう。

「わたしの手は、れるだけで あらゆる毒を打ち消してしまいます。作られた毒も 自然の毒も、全て」

掌の上にあった 小さな花達は、あっと云う間に形を変えた。

花と同じ色の 淡い光りの粒になり、急須の中に注がれる。

驚く間も無く、新しい茶が用意された。

空になっていたラノイの湯呑に、毒の浄化の効力がある茶が淹れられる。

「何と便利な」

彼女がいる限り、毒殺の心配はない。

体内に入った毒も中和出来るのなら、これ程 心強い味方はない。

得難い人材の 得難い能力スキルに感動しているシズに、魔法使リーゼロッテいの 蒼いが向いた。

「シズ様も お飲みください」

「私も?」

きょとんとする宰相に、魔法使リーゼロッテいは 小さく頷いて湯呑を差し出した。

「体内の毒も 視えるの?」

改めて淹れられた茶を味わっていたラノイも、を丸くしている。

「はい」

「つまり、私の口にする物にも 毒が入っていた、と?」

これに答える事なく、魔法使リーゼロッテいは 湯呑を手渡した。

「どうぞ」

差し出された茶を受け取り、一口飲んで、シズは 瞠目した。

「っーーーーーー‼︎」

言葉にならない驚きが、シズの細いに溢れた。

「美味しいよねっ?」

感動を分かち合う事が出来るのが、余程 嬉しかったのか。

テンションの高い声で、ラノイは、非常に嬉しそうに尋ねている。

「はい」

感動と 喫驚と 動揺が綯い交ぜになった状態なのか。

シズは、茫然とした様子で 湯呑の中身を見詰めている。

そして、味を確かめる様に ちびりちびりと茶を飲んだ。

疑いようもなく いつもの茶葉だが、信じられない程 味わい深く 薫り高い。

茶らしい 甘みや渋みは消し去らず、口の中に まろやかに広がり、喉の奥で 浸み通る様に吸収される。

胃に収めていると云うよりは、口内から 喉の奥へ通す間に、清浄な何かが からだに拡がってゆく感覚だ。

きよめられている、と はっきりと感じられた。

体験した事のない 感覚であるのは、云うをたないだろう。

「改めて、陛下の正妃として 歓迎します」

ずっと此処にいてくれ と云わんばかりの科白に、今度は 魔法使リーゼロッテいが を丸くした。

つい先程も『帰りたい』のだ と言ったばかりである。

此処へ来る前に、ラノイの側近-クランツから 概要も聴いて事情を知っている筈でもある。

にも拘らず、この宰相は『此処にいろ』と言ったのだ。

「 ……帰らなければ、ならないのですが」

まさか 忘れられてしまった訳ではないだろう と思いながら、魔法使リーゼロッテいは、再度 そう発言してみる。

「エスファニア王国に ですか?」

「はい」

「却下します」

即答するシズに、彼女は瞠目し 瞬きをしていた。

シズの言葉の裏に『何故 そんな不利益を認めねばならん』と云った科白ほんねが視えたのだ。

徹底した実益主義者とでも云えば良いのか、シズは 損得で物事を判断するらしい。

多くの国で見た、強欲に囚われた自己中心的な者達とも違う。

相手が〔森之妖精イリフィ〕と知っていて こう云った態度を貫く者は、かなり珍しかった。

「 ーーーーーー……… 」

じっとシズを見ている蒼いに驚きが滲んでいる事を見てとったのか。

ラノイは、密やかに微笑んだ。

しかし、一風変わった おのれの臣下を、彼女が どう評価するかには、大した興味はないらしい。

若き王は、あっさりと話題を変えた。

「あの国の王様は 新婚だって聴いたよ。確か、王妃は サマリア王国の貴族なんだよね?」

侵略を企んだ 強欲なサマリア王と、それを迎え撃つ側の エスファニア王との間で どの様な取引があったのか。

これについては、どの国も把握していない。

対立する国家間で婚姻がなされれば、それは 同盟の為のモノとされる。

戦争を避け 互いに利益のある関係を築く為の『戦略の1っ』とされるのだ。

特に、エスファニア王は、20代になったばかりの若い王だ。

おまけに、周辺諸国へ絶大な影響力を持っていた執政官を 亡くしたばかりでもある。

大国とは云え、侮られる要素は多い。

あのサマリア王が、これに着目しない筈がない。

ラノイは、そう考えていた。

「違いますよ?」

そんな彼の思考を読んだのか、魔法使リーゼロッテいが 否定の言葉を発した。

「そうなの?」

「はい。陛下と フローリェン様は、真実 愛し合われておられます」

そうでなければ 手を貸す事はしなかった、とでも言いたげな声だった。

彼女は、有能な魔法使いだ。

たった独りであっても、サマリアの軍勢を斥けるくらい 簡単にしてのけただろう。

そう気付いて、ラノイも 納得をした。

エスファニア王が 妥協案を提示する必要も、相手国からの不利益な条件を呑む必要もないのだ。

「どんな人?」

「サマリアの前王の姪に当たり、とてもうつくしく お優しい方です」

エスファニア王妃は、旧姓を フローリェン=エステートと云い、伯爵家の令嬢だ。

サマリア王の後妻に収まった者に 尋常ならぬ何かを感じ、エスファニア王-フェイトゥーダに毒手が届くのを恐れていた。

その為、互いに愛を感じていたのに『自分をえらんではならない』と幾度も フェイトゥーダに訴えた程だ。

尤も、フェイトゥーダが これをき入れる事はなく、何10人と云う貴族達の前で フローリェンを妻にすると宣言する。

これは、魔法使リーゼロッテいが 予見した未来に沿う結果だった。

「止めなかったのですか?」

「良い未来でしたから」

魔法使リーゼロッテいは、そうとだけ答えた。




▽ ▽ ▽ ▽ ▽




___宰相-シズ=ラトウィッジ___


森之妖精イリフィ〕は、言葉短く『良い未来だった為だ』と答えた。

その 言葉を濁す様な雰囲気に、シズは 湧き上がる疑問を押し留めた。

そして、ちらりと かたわらの王を見る。

ラノイは、見惚れる様な笑みを浮かべて 魔法使リーゼロッテいを見詰めている。

興味を持った事には 追究の手を緩めないラノイが、この事に関しては 問い掛ける素ぶりもない。

つまりは、彼は 何かしらを知っているのだろう。

そう判断して、シズは 疑問を言葉にはしなかった。

「ひょっとして、あの強欲王が フォルモーサを返還したのって、アシュリーの為だったりする?」

ラノイは、またも はなしの向きを変えた。

これで、シズは、自分の仮説に 確信が持てた。

だからこそ、最初の疑問は口にしない事にした訳だが。

「そうなんですか?」

この質問に、彼女は、淑やかな笑みを浮かべて 押し黙っている。

「それも『王に仕える魔法使いの本分』?」

「いいえ、こちらは わたしのエゴにるモノです」

間違いなく、彼女の存在が、強欲王と名高いサマリア王に フォルモーサ王国の返還を決意させたのだろう。

そして、そうさせる必要が 彼女にはあった、と云う事でもあった様だ。

このうつくしい姫の事だから、強制したのではないだろう。

そんな事を考えながら、美味しい茶を啜る。

「アシュリーは 謙虚だなぁ」

ラノイはと云うと、謙虚さの欠片もなく 何杯目かの茶の おかわりを要求している。

同じ王族でも こうも違うものか、などと 他人事の様に思うシズだった。

シズは、 自分の為に淹れてくれた 美味なる茶を飲み干して、一息をついた。

「さて、陛下」

湯呑を茶托に据えるなり、シズは 如何にも事務的な声で呼び掛けた。

これだけで 判ったのだろう。

ラノイは、実にいやそうな顔になる。

「 ……もう?」

「充分 お休みになったでしょう」

「もう ちょっと…… 」

「却下します」

希望を口にしたラノイに対しても、この宰相は変わらない。

けんもほろろに、一国の王の嘆願を 即刻 棄却して、毅然とした態度を貫く。

「この お茶を飲んだら、山の様な書類にを通してもらいますよ」

仕事が第一、宰相が その姿勢をくずす事はない。

「憂鬱だなぁ」

何を言っても無駄だ、とも判っているのだろう。

ラノイは、残りすくなくなった茶を 惜しみつつ飲んで、深い溜息をついた。

これまでなら、首に縄を括ってでも執務室へ連行する シズだが、今日は違った。

良い事を思い付いた と云った様子で、魔法使リーゼロッテいを見る。

「アシュリー姫」

「はい」

「何でもいいから、手っ取り早く やる気が出る魔法はないですか?」

この魔法使いならば 何か面白い効果の魔法薬を持っているだろう、と思い付いたからこその問いだった。

宰相のシズや 側近のクランツにとって、最も悩んでいるのが『ラノイのやる気』だった。

ラノイは、優秀な王である。

これは 疑い様もない事実で、そばにいる2人を含め 大半の臣下も同意するだろう。

カリスマ性も る事ながら、冷静な判断も 驚異的な記憶力も、執務の上で有難いと思えるモノだ。

しかし、この若き王は ムラが大きい。

性格上の問題なのか、二面性の様に やる気モードのオン・オフの差が激しいのだ。

オフの時でも ちゃんと働いてくれるのだが、愚痴が多く 何かに付け遊ぼうとし始める。

これを、いさめ・叱り・なだめ・時折 無視をして、デスクワークを終わらせる。

今日みたいな日は、かなり 苦労をするのだ。

「シズ、何で そんな事を頼むかな〜ぁ」

「表向きとは云え、彼女は〔獅子王〕の妃です。夫たる王の力になる事が 妻たる妃の務めでしょう」

正当性のある意見に、ラノイは ますます々 面白くないと云った顔になる。

「ラノイ様が、デスクワークに 精を出してくだされば宜しいのですね?」

「その通りです」

「畏まりました。では、その様に」

どうやら、希望する効果を得られる魔法薬があるらしい。

魔法使リーゼロッテいは、シズの希望通りの未来を導き出してくれる様だ。

「頼みます」

今日の執務は楽になりそうだ と思ってか、シズの機嫌は すこぶる良い。

「何だかんだ云って、思いっきり 利用する気だね」

っているモノは 親でも使うべし。これが 私の信条です」

シズは、あっけらかんと言い放っている。

クランツから聴いて 眼の前の美女の正体を知っていると云うのに、だ。

中々の度胸である。

「ごめんねぇ、アシュリー」

変わって詫びるラノイへ、魔法使リーゼロッテいは 笑顔で首を振る。

「いいえ、お気遣いなく」

何でもない事だと示して、彼女は 婉然と微笑んだ。




▽ ▽ ▽ ▽ ▽




___視点:宰相-シズ=ラトウィッジ___


「どう云う事か 教えてくれるか?」

執務室へ移動し 2人だけになった事で、シズは そう尋ねた。

並み居る臣下のトップに立つ宰相とは云え、一国の王であり 主人である青年に対する言葉遣いではない。

しかし、ラノイに それを咎める気はないらしい。

それどころか、驚いた様子もない。

「何で、アシュリー姫は 未来を教えなかった?」

前以て知っていながら、従兄でもあり 主人でもある王に危険を教えなかったのは 何故なのか、と思うのは 当然の疑問だろう。

「予見の結果は、そう簡単にはなせないんだよ」

「だから、どう云う事だ?」

「『未来を知る』って云うのは、普通の事じゃないでしょ?」

それを云ったら、魔法だって 大概 普通ではない、と思うも シズは言葉にはしない。

「特に 未来は、扱いが難しいんだよ」

「過去・現在・未来と云った時間は〔時之女神〕の領域だ。特に『未来を知る』って云うのは 特殊な事で、アシュリーの場合は、尚更ね」

説明にならない言葉を 言い濁し気味に呟いて、美形の若き王は 淋しそうに微笑んだ。

「未来を知る って行為は『〔時之女神〕から未来をぬすむ』に等しい事なんだ。だから、知った者には 罰則ペナルティが科せられる」

知り得た未来に関わる者・関わらない者に拘らず、対価なしに語る者には 相応の罰則ペナルティが適用される。

それは、知りたくて視た者であろうとも 知る気がないのに視えてしまった者であっても、同等に降り掛かる。

「 ……実際には、どんな?」

「まぁ、知っちゃった未来の程度にるらしいけど…… 」

前置きをして、ラノイは かつて教えられた知識を語った。

過去でも 現在でも、気軽に語る事がはばかられるが、未来は 断トツに扱いが難しかった。

「つまり、相応の代価の遣り取りがなければ その身が切り裂かれる、と云う事か?」

こまかい条件は 僕には判らないけど、傷を負ったり 不幸が降り掛かったり 寿命が短くなったりするそうだよ」

未来をはなすと云う事は、未来を変えると云う事だ。

何をするでもなくとも、その可能性が生まれる限り 罰則ペナルティは発生する。

勿論、二次的に知ってしまった一般人に対しても 同等の制約が発生するのだ。

気軽にはなせる筈がない。

誰にも言うな などと忠告をしても、危険には変わりない。

何かの弾みで、王が 魔法使リーゼロッテいから聴いた未来を 誰かにはなしてしまったら、その事で生命いのちとす危険すらあるのだ。

魔法にうといシズにも、良い未来も 悪い未来も、不用意にはなせなくなる罰則ペナルティだと 理解が及んだ。

成程なるほどはなさずにいる危険よりも はなした時の危険のほうが大きいな」

これにって、魔法使リーゼロッテいは 知り得た未来を誰にもはなせなくなっていたのだろう。

納得の理由だった。

「敵国になりそうな国の 貴族の娘との婚姻は、国家が関わる事態だ。事の重大さから云って、代価は 安くなかっただろうしね」

「忠告しようとすれば、国家単位の代価が発生する可能性もあった……か?」

大凡おおよそ そんなところだとおもうよ」

否応なく 納得してしまった。

もし、これが希まない未来につながったなら、彼女は みずから動いて それをき換えていただろう。

「 ……成程なるほど、難しいモノだな」

大きな溜息をつきながら、シズは 天井を仰いだ。

「たった 13齢で、背負うモノが大きいな」

「特に、アシュリーが視る未来は 決まってるからね」

「 ーーーーーーどう云う事だ?」

「アシュリーは、予見のちからを封印してるんだって。その時の封印が完全じゃなくて 視ちゃうんだよ、もう『決定した未来』をね」

魔法使リーゼロッテいが何もしなければ 確実に実現する未来、と云っても良い。

確度の高い予見は、代価も それなりになる。

だから、魔法使リーゼロッテいの視た予見の代価は どうしても高額になる。

つまり、扱いは 更に難しくなる。

安易にはなしても、相手は 代価を払えない事が多いからだ。

「 ーーーーーー……… 」

シズは、絶句してしまった。

加えて ラノイが語ったはなしると、彼女は 視たくて視ている訳ではない との事だった。

封印が 完全なモノではなかったが故に、近くにいる人物の未来を 不意に視てしまうらしい。

本人の希まぬ予見で、知りたくもない不幸を視てしまう事もあるのだろう。

そう考えると、不憫になってくる。

「彼女には、優しくしよう」

妙な方向に 決意を固めた様だ。

シズは、神妙な顔で そんな事を口にしている。

それを見て、ラノイは 小さく笑った。

「そうだな、丁重に扱ってくれ」

きっと無理だろう、とおもいながら、ラノイは 山の様に積み上がった書類に向き合った。




▽ ▽ ▽ ▽ ▽




___視点:国王-ラノイ=アシュリオン=ラッケンガルド___


僕の王妃(今のところは 仮)となったアシュリーの部屋に と用意させたのは、後宮の中の 一棟だ。

王宮内にある後宮には 何棟もの建物があり、その1っ1っが 1人の妃-専用の『家』になっている。

各棟は 回廊でつながっており、に割り当てたのは 後宮の入口に近い棟だ。

比較的 小さな棟で、本来は 正妃に宛てた棟ではない。

云うなれば、最も身分の低い側妃に宛行あてがわれる場所だ。

部屋は それなりに広いが、衣装部屋を含め 4部屋しかない。

彼女には 不釣り合いに思ったが『なるべくそばに置きたい』と云う願望から こうなった。

クランツには 説教に近い反論を食らったが、シズが取りなしてくれた。

最終的には『アシュリーを快く思わない者達に 反感を買われない為にも』と説得した。

クランツは、苦い顔をしながら 押し黙っていた。

エスファニア王国の 王家の血を引くと知るからこそ、この扱いは あんまりだと云う思いと、正妃として扱えば 敵を増やすだけと云う意見にも納得だと云う思いがあったのだろう。

葛藤をかかえているのは判っていたが、放置した。

クランツが黙っている内に、事を進めてしまったほうがいい。

そんな訳で、面倒な事を言い出される前に 手配を完了させた。


《 アシュリーは、煌びやかなのは好まないだろうし。》


気に入ってくれているといいが、と思いながら 後宮へ急ぐ。

人眼ひとめはないが、走る訳にはいかない。

気持ちはぐが、飽く迄も悠然と 回廊をわたった。


《 近くにして良かった。》


すぐに、アシュリーのいる棟に着く。

何で 歴代の王達は、正妃の棟を奥にしたんだろう?

絶対に 近いほうがいいのに。

アシュリーを正妃に迎えても、やっぱり 部屋は此処にしようと思う。

仕事を終えたら、すぐに会いたいしね。

部屋に入ると、がらんとしていた。

女官達がいない事に 軽く違和感を覚えながら、奥へと進む。

次の間に入ろうとした処で、アシュリーの声が かすかに聴こえてきて 安心した。

われ知らず そろりと、次の間に近付く。

部屋の中は、蝋燭ろうそくかもし出す 軟らかい色の光りで満ちていて、その一郭に アシュリーがいた。

後宮の各部屋には、備え付けの 大きな鏡がある。


「その様な経緯で、しばらく 帰れそうにありません」


アシュリーは、その前に 座って、鏡の向うへはなし掛けている。

その視線は、かなり低い。


「確かに そうなのですが、見過ごせない事も 幾つかあって」


鏡に魔法を掛け、遠く離れた何処かに連絡を取っているんだろう。

そう察して、部屋の入口であしを停めた。


「これから、何かの時に備えて 結界を築きますので、どうか、我儘を お赦しください」


会話の片方しか聴こえないが、はなしている相手は 彼女の主人なのだと見当を付ける。

エスファニア王に 長期間 留守にする許可を取っているのだ と判ると、何だか嬉しくなった。


「ぁーーー……それは」


何を言われたのか、アシュリーは 少し困った様に 言葉を途切れさせた。

しばらく 何事かを考えている。


「そうですね、何も言わずに来てしまいましたから」


確かに、現在の状況は 何の予定にもなかった事態だろう。

彼女は 視察に来ただけだった訳だし、今日中に帰るつもりだっただろうし。

そう思うと 悪かったと云う気がしないでも……いや、しないな。

そばから離したくないんだ。

アシュリーの希みが どうであれ、すくなくとも 当面は無理だ。

知らなかったら 帰してあげられたかもしれないけど、あの甘露を味わって 手を放せる程 無欲じゃない。


「 ーーーーはい、判りました。仰せのままに」


いつの間にか、何がしかの折衷案せっちゅうあんされていたらしい。

その一言を最後に、アシュリーは 鏡の前を離れた。

「終わった?」

声を掛けると、アシュリーが こちらを見た。

蒼い瞳が 軽く驚きを浮かべているのが判る。


「いらしたのですか」


驚くのも 無理はない、と思う。

アシュリーは、部屋に 障壁を張っていた。

途中で誰かが入って来た時の事を考えてか、不可視と 不可侵、この2っの障壁だった。

それを視透みとおしたんだから、吃驚もするだろう。

「うん、さっきから」

部屋に入り アシュリーのもとに近付きながら、そう答えた。

「それは、失礼を致しました」

そう言いながら、アシュリーは 部屋に備え付けのソファを勧めてくれた。

遠慮なく ソファに腰掛け、背凭れに 体重を預けた。

「ふーーーーうぅぅ」

思わず、大きな溜息が零れた。

冗談でも 揶揄やゆでもなく、山の様に積まれていた書類を ノンストップで精査してきたんだ。

このくらいは 赦されると思う。

「お疲れ様でした」

アシュリーは、お茶の準備をしながら 労いの言葉を掛けてくれた。

どうしてだろう、シズやクランツと同じ言葉なのに 全然 違って聴こえる。

褒められて嬉しい歳でもない筈だけど、素直に嬉しかった。


《 頑張って良かった。》


それも これも、アシュリーの淹れた お茶の効果なんだろうけど。

「あの お茶、良く効くなぁ」

「疲労回復の お茶でも、お淹れ致しましょうか?」

本当に疲れていると察したのか、遣り過ぎた と思ったのか。

アシュリーは、そう提案してきた。

「 ……そうだね、お願いしようかな」

「畏まりました」

きっと、これも 良く効くんだろうな。

後 2〜3分で、この疲労感も消えると思う。

何より、彼女の お茶は美味しい。

どんな効果があろうと 愉しみでしかなかった。





お茶を飲みながら、隣に座らせた美女を見る。

対面にもソファはあるんだけど、ゴリ押しをして 隣に座らせたんだ。

「アシュリーは、帰りたい?」

ふと、そんな事を口走ってしまった。

「あっちには、君の王様もいるしね。平和だとしても、離れてるのは 心配でしょ?」

何度も 帰りたいと言っていたんだ、帰りたいに決まっているのに。

莫迦な事を訊いたな と思っていると、予想外の言葉が返ってきた。

「 ーーーー心配は しておりません」

「え?」

「あちらには、優秀な執政官がおられますから」

ヘリオス=リンザー=クェンティンは、元は騎士で 老成してから執政官に収まった実力者だと聴いている。

各国にパイプがあり、国の内外に 睨みも利き、知識の広い 有能な執政官だったらしい。

その跡を誰かが継げるとは思えないんだが。

「ヘリオス殿の跡を 誰が…… 」

「リンザー様の育てられた猫が、立派に 継いでおられます」

想定外の生物が 後継者になっている……ただの猫に 政治や外交が出来るとでも?

「猫? ーーーーーーっ、あ!」

1っ、可能性を思い付いた。

実際に見た事はないが、魔法使いには『使い魔』と云う存在がある。

それは、文字通り 魔法使いの為にある存在。

魔法で生成した生物に 名前と存在意義を与えるか、元々 存在していた生物に 名前と存在意義を与えて、使い魔にするか。

方法は 2っあるが、どちらも 特殊な生命体だ。

与えようと思えば 世界有数の叡智えいちも授けられるし、強力な魔法使いの使い魔になると 幾つかの魔法も使いこなすらしい。

執政官に収まった『猫』は その類いのモノじゃないか、と閃いた。

「それって、ひょっとして…… 」

「その親猫は、わたしが 差し上げました」

つまりは、今 執政官に収まっている猫は、アシュリーの使い魔の仔どもって事だ。

直接は アシュリーの使い魔じゃないけど、そもそも血統からして『ただの猫じゃない』訳だ。

「 ……そっか」

この世のすべての光りと 生命いのちを司る〔森之妖精イリフィ〕の使い魔の 仔どもだ。

たぶん、とんでもなく有能なんだろうな。

「じゃあ、もう少しあまえても いいかな」

ぽつり と、心の声が零れていた。

「はい?」

「ん〜ん、何でもない」

聴き取られなくて良かった。

警戒されたくない、させちゃ いけない。

強制は出来るけど、可能なら 遣りたくないし。

取り敢えず、今のは 内緒にしておこう。

「じゃあ、さっき はなしてたのは、その執政官殿?」

「はい」

道理で 視線が低かった訳だ。

「お赦しは出た?」

「この国-全体に 対-魔法属用の結界を張る事と、明日の朝 陛下や侍従長へ報告をする事で、何とか」

ラッケンガルドは 小さな国だけど、そうは云ったって、3都市と 27町村は あるんだけど。

ほとんどが 不毛の大地だから、市町村の数もすくないけど、国土は 旧サマリア王国より大きいんだけど。

それでも、アシュリーは この国を結界で包んでしまえるらしい。

而も、大して苦労はないと云った様子で 言ってけた。

幼い魔法使いであるとは云え、強大な魔力を持つ所以ゆえんだろうか。

「明日の朝ね」

それまでの間に 結界は張る事が出来る様だ。

アシュリーに 急いでいる様子はないし、必要なのは ほんの数時間くらいかもしれない。

「はい」

隣に座る美女の 小さな笑みを見た途端、ふと 思った。


《 エスファニア王や 侍従長とやらが反対をしたら、アシュリーは どうするんだろう。》


アシュリーは、出生を隠して 従兄であるエスファニア王に仕えている。

彼を護るのは 亡き執政官との契約らしいが、それを抜きにしても 彼女は従兄を放っておかないだろうな。

危難が迫っていれば、何を差し置いても 救いの手を差し伸べる。

今日 会ったばかりであり、戒縛のちからとどまらせたと云うのに、僕とシズの毒をきよめちゃうくらい お人好しだし。

彼等が『戻れ』と言い出せば、絶対にさからえない。

「ラノイ様?」

そう思ったら、軽く混乱してしまった。

危うく 手の中の湯呑を取りとすところだった。

「どうかなさいましたか?」

小首を傾げると、長い銀髪が 軽く揺れる。

そんな 何でもない仕草が、凄く魅力的だった。

そのせいか、ちょっと意地悪をしたくなった。

ついさっき としかけた湯呑を 茶托に戻して、アシュリーへ向き直る。

ところで、今夜は どうする?」

「はい?」

何を言われているか判らなかったらしい。

蒼い瞳が こちらを見上げた。

じっと見詰め返していると、唐突に アシュリーが喫驚をかべた。

「 ーーーーーーっ、ぇえ⁈」

急に狼狽え出した彼女に、にじる様に近付く。

「知らぬ場所での独り寝は 心細かろう?」

ソファに座ったまま アシュリーのほうへ膝を進めると、彼女は、これまた腰掛けたまま 後摩去あとずさる様に離れる。

「ぃ、いえ、お構いなく」

僕に 距離を詰めさせまいとしてだろうけど、そもそも ソファの端にいたんだ。

追い詰めるのは 簡単だ。

「そなたは、私の妃だろう?」

肘掛に阻まれ、それでも のがれようとち上がりかけたアシュリーの腰へ 腕を回す。

細い腰を絡め取って、引き寄せた。

「初夜に 夫を放るのか?」

「わ、わたしは これから、国境を巡って 結界を…… 」

「朝までにやれば良い事だ」

少しでも離れようとする彼女に、こちらから身を寄せた。

「そ、う ですが」

アシュリーは、上体をよじるようにした上、両腕を つっかえ棒にして 離れようとしてる。

無駄だ って、判ってるクセに。

本当に 可愛い反応をするなぁ。

「1〜2時間、私と睦み合ってからでも、充分 間に合う」

わざと、耳許で囁いた。

案の定、アシュリーは 飛び上がらんばかりの 過剰な反応を見せてくれた。

「そなたは 私の妃だ、構わぬだろう?」

絶対に拒絶が返ってくるのが判ってて、こんな事を言うのは 反応を愉しんでいられるからだ。

頬を赤くして ぷるぷる震えてるのが、可愛くて仕方ない。

この初心うぶな魔法使いにとって、こんな事をするのも 僕くらいなんだろう。

そう思うと、どんな反応でも嬉しいんだ。

まぁ、半分は 意地悪でもあるんだけど、本気で口説く時の参考にしよう、とも考えてる。

どっちにしても、僕は 人が悪いって事に変わりないんだろうな。

「なっ……だ、駄目です!」

「どうしても?」

おびえを含んだを覗き込む様にして尋ねると、小さめの頭が 何度も上下する。

思った通りの反応に、もう 苦笑しか出ない。

「頑なだなぁ」

声も出せずにいる うつくしい魔法使いを 腕から放し、からだを離す。

「判ったよ、今日のところは 引き揚げる」

そう言って、最後に アシュリーの頬を撫でた。

朱の差していた頬は、微硬直してた。

「お休み、アシュリー」

そう言って、アシュリーに 笑みを向けた。

彼女は、ソファの端に身を寄せるようにしているまま 僕を見上げていた。

真っ赤な顔をして、見上げていた。

ソファからつと、泣き出しそうになっていた瞳へ 笑顔を向けて、やや足早に 部屋を出る。


「は、はい。お休みなさいませ」


強張った声に送り出されて、僕は 部屋をあとにした。




▽ ▽ ▽ ▽ ▽




___視点:宰相-シズ=ラトウィッジ___


執務室で精査された書類の整頓をしていたシズは、ふと ドアを振り返って、瞠目した。

其処には、長時間の執務を熟して 意気揚々と後宮へむかった筈の人物がいたのだ。

而も、浮かない顔をしている。


「僕って、魅力ないのかな」


彼からはなし掛ける前に、ラノイが 不満そうに そう呟いた。

「何ですか? 藪から棒に」

そう 返しはしたが、大体の事情が判ってしまった。


「アシュリーがなびいてくれない」


やはり、と思う一方、此処まで ラノイを拒んだ者がいたか、と 記憶を手繰たぐる。

そうしている間に、ラノイは 執務室のソファに腰を掛けた。

「他の どうでもいい女は、呼んでなくても 勝手に寄ってくるのに」

小さな溜息と共に呟かれた言葉に、シズは 苦笑をかべた。


《 そりゃ まぁ、そうだろうが。》


すらりと高い背・痩身にして優美なからだ付き・誰もが見惚れる 美丈夫な青年。

それが、ラノイだ。

うつくしかった母親に 良く似て、人を魅了する容姿をしているのだ。

青少年期には、選び放題の 遊び放題になっていても不思議ではない。

ラノイの身分を知らなくとも、女のほうから アピールしてくるのだ。


《 そのリオを、拒んだのか。》


奇特な存在だ と思いながら、ソファに座って 不貞腐れている国王を見る。

「彼女は魔法使いだ。一般人やらとは、いろいろと違うんだろう」

そう返した シズの それは、主従の口調ではない。

向ける眼差しも、臣下の それではない。

「僕なら、護ってあげられるのに」

小さく零れた独白に、シズも 苦笑いをかべる。

「リオのちからは、魔法使いといえどさからえるモノではないからな。だけど、その程度、アシュリー姫にも出来るだろう?」

事実、エスファニアの魔法使いは、数多の魔人・魔女をしりぞけてきた。

御伽噺にはなっていないが、幾千もの闘いを経験している。

ラノイから それを聴かされていたシズは、特に考えずに そう返していた。

「 ーーーーーー……… 」

これに、ラノイのが 険しくなる。

「リオ?」

虚空を睨んだ 若き国王を、若き宰相は そうんだ。

これも、特別な事ではないらしい。

口調と同様、ラノイは、注意する事も とがめる事もしない。

「〔森之妖精イリフィ〕ってさ、魔法使いにとって 凄く特別なんだよ」

「『妖精』とばれる1人だから、だけではなく?」

魔法使いには、2っの種類がある。

1っは 魔人や魔女、そして もう1っが『妖精』である。

「妖精達は、唯一 光りに属する存在だ。死や 闇を、そのに冠する妖精達でさえ、月のひかりに属するちからなんだ」

そう返して、ラノイは シズを見た。

シズは、執務用の大机を前に 書類の束をかかえたまま、眉を寄せていた。

どうやら 得心していないとんで、ラノイは 説明を始める。

「つまりね、普通の魔法使い達が使うちからって『闇』なんだよ。それは、魔人や魔女達の心と同じく、常闇と虚無にるモノなんだ」

「対して、妖精達は 光り…… 」

「暗闇に射し込む 一条の光り……彼等も 人間だからね。本能的に、それを求めてしまう。だから、アシュリーは 狙われるんだ」

半ば理解してきたシズだが、疑問は残る。

現在、妖精とばれる魔法使いは 4人いる。

魔法使リーゼロッテいは、その1人にぎない。

妖精が 特殊な存在なのは判ったが、先程の ラノイの言い方は『〔森之妖精イリフィ〕が特別』だと示していた。

わざわざ々 妖精の1人である彼女を特定したからには、その理由もある筈だ。

「アシュリー姫は、その中でも特別なのか?」

そう思っての問いに、ラノイは 重々しく頷いた。

「アシュリーは、この世の光り-そのモノ。すべてなんだ」

この説明に、シズは 小首を傾げた。

意味が飲み込めなかったのだ。

相手の反応から それを察したラノイは、説明を重ねる。

「陽のひかりも 月のひかりも 星のひかりも、更には 地上に溢れる人工的な光りも……すべてだ」

「え?」

「この世の すべての光りを統べる存在、って事」

小さく息をついて、更に 言葉を連ねる。

「アシュリーのそばにいると、虚無感や 飢えが充たされるんだよ。凍えてたからだを一気に溶かす 暖かい春の陽みたいな、凄く心地いい光りなんだ」

「それは、リオも?」

シズの問いに、リオとばれたラノイは しばし考える。

「 ーーーーそうだね、そうかもしれない」

彼女を『甘露』と感じたのは、自分も 飢えていた側だったからではないか、と結論付けた。

「魔法使いにたない僕でさえ そう感じるんだから、何1000年も生きてる魔人達や 魔女達は、喉から手が出る程 あの甘露が欲しいだろうね」

「 ………… 」

「少しれただけで、あんなに美味しいなんて」

このソファで抱き締めた時、彼女の肌に口付けていた。

あの 何とも云えない 魅惑的な感覚を思い出して、ラノイは 口許を緩める。

「それも、その 光りのちからの……?」

「妖精の中に、1人 身持ちの緩い女がいるそうだよ。その妖精は、数日間 自分を護ってもらう代りに、魔人達に抱かせてやるんだってさ」

「つまり、妖精が 魔人達にもたらす効果は、そんな一時の対価で 交渉が成立する程だ、と」

「彼女のは 星のちからだと聴いた。アシュリーの 何10分の1にもたないちからだ」

森之妖精イリフィ〕の何10分の1だとしても、それを 微弱と呼んでいいモノか。

シズに その判断は出来ないが、魔法属にとって どれ程 特殊であるかには察しが付いてきた。

「アシュリーは、これまで 誰の腕にも抱かれてないしね」

苦笑を交えた この言葉に、シズは 魔法使リーゼロッテいへ 尊敬の念すらいだいていた。

「本当に 実力で、その身を護ってきたんだな。わずか 13齢の幼さで」

「どれ程の苦労だったろうね。おまけに、その いざこざのせいで、両親を失ってれば……つらさは 倍増だ」

「!」

「この国で、僕のそばで、あんなに笑ってても……闘う為に、手を抜かない」

哀しそうな笑みを浮かべたラノイを見て、シズは 表情を曇らせた。


《 それは、リオも同じだ。》


この小さな国の王になった青年は 大きな内乱を戦い抜き、王となった今も 国の内外のあらゆるモノと闘っている。

それをたすける為に、シズは 宰相になったのだ。

若き王が 孤独にならない様に、そばに仕える為に。

「僕は、アシュリーがいいなぁ」

わずかな者達にしか 心をひらかないのも、現在進行形で 戦闘中であるが故だろう。

そのラノイが、たった半日で 1人の女性を気に入ったと云うのだ。


《 リオは、アシュリー姫だから 気を赦しているんだろうな。》


シズは、心の何処かで ほっとしていた。

ラノイが欲し そばにいてくれるのが あの姫ならば、何の心配もない。

むしろ、いろいろと大歓迎だった。

「なら、慎重にやってください。こわがらせたり おびえられたりしない様に。ゆっくりと、搦め獲る様に」

シズは、手にしていた書類の束を 一綴ひとつづりにし、次々と 片付けながら、そう進言する。

これに、若き王は、にやり と口許くちもとを吊り上げた。

「ああ、そうだな」

「クランツには 黙っておきますから、ゆっくり、さっさと、ですよ」

矛盾する2っの条件を提示したシズに、ラノイは 声をてずに笑った。



まだ続きます。

こんな事なら 連続小説にしとけば良かった。

今更 遅いけど……。


魔法使いさんは あのラノイから貞操を守れるのか!

……まだ、決めてません。

が、逃げ切れるとも思えない。

どうしよっかな。誰か ストーリー考えてくれないかな。 ←おい!

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