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ヒロイン・ブレイカー  作者: じゃ
1/2

乙女の恋は

 初心者ですのでよろしくお願いします。




乙女の恋は、戦争だ。それは、第一次世界大戦かもしれないし、もしかしたらアメリカとソ連の冷戦かも知れない。




 ここは○○県△△市俵町。昔は有数のコメの生産地として知られたが、今は全然そんなこともなく、それなりに都会な町として知られている。その俵町で、一人のモテすぎで鈍感で優柔不断でダメな男が、目を覚ました。

「ヤバイ遅刻する!」

 物語の始まりから締りのない奴だ。服を着替え、早急に朝ごはんを食べ、学校へ向かった。

「忘れ物無いの?」

「大丈夫か弟よ」

「無い! 行ってきます!」

 街を駆け抜ける男は、俗に言うイケメンでも、情けない顔をしていた。

「おはよう」

 教室は静かだ。飯田いいだ 隼人はやとは、クラスメイトを見るなり、挨拶をした。爽やかな朝だ。爽やかといえばコーラな隼人だが、今日はなんて言うかソーダ的な感じがした。つまり、炭酸ならなんでもいいのである。

「おはようございます」

 暑苦しい青春の清涼剤の様な笑顔が向けられる。口にこそ出さないものの、軽く幸せ気分に隼人はなった。ふと四つ葉のクローバーを見つけたような感覚だ。今日はいいことありそう! とか言ってスキップしちゃいそうな気分。しかし、鋭い声にそんな隼人の気分も直ぐに吹き飛んでしまった。

「ちょっと隼人。あかりちゃんを見てニヤニヤしていんじゃないわよ」

 隼人は後ろから蹴られた。毎日のこととはいえこのドメスティックバイオレンスには慣れないものだ。たまに喜んでいるのかと言われることがあるが、そんなわけないだろう。隼人は背中をさすった。廊下まで飛ばされるとは。信じられん。奴は化物か……。

「あー酷いなぁ公花は。大丈夫かい少年っ」

 小麦色に焼けた健康的な肌。隼人に秋田あきた 小町こまちが手を差し伸べる。部活焼けというのは元気の印のようなものだ。そして、その印を持つ彼女はやはり信じられないくらい元気だった。

「秋田さん、なんで三年の貴方が二年の教室に?」隼人が首を傾げる。

「キミに会いに来たに決まってるだろう!」

 小町は座り込んでいる隼人に顔を近づけ、鼻の頭を指さして本当に楽しそうに笑った。

「え?あ、それって「セイヤー!」

 次の瞬間、隼人は本日二発目の蹴りを食らうこととなる。

「は、隼人くん大丈夫?」

 灯は心配そうにバッグから絆創膏を取り出そうとしていた。いや、血は出ていない。それだったらもう一撃が来ないように助けて欲しい。隼人は公花から逃げるべく、すぐに立ち上がった。

「君たちはいつもそうだねぇ。あはは……」

苦笑いの小町までもが、隼人にとってはいつも通りの風景だった。

「待て!」

「助けてくれ! っていうか俺が何したって言うんだ」

 廊下を走り抜ける。他の生徒がすぐさま過ぎ去っていく。もう暦の上ではすっかり春だというのに、隼人には暖かさではなく公花の蹴りのフルコースがやってくる。

そんな日常の中でも、彼女らは亡霊を連れていた。本人も含め誰も気付いてはいない。

……それでも、確かにそいつは彼女らの近くにいた。恋心なんていう、限りなく不確かなものを糧として、そいつらは潜んでいるのだ。

「これで帰りの会を終わります」

「さようなら!」

 学級委員の合図で全員が一斉におじぎをする。さぁ帰ろう。隼人がバッグを持ち上げた時、担任の山田先生が思い出したように言った。

「生活委員はロッカーに変なものが入っていないかチェックしてから帰ってくれ。最近は何かと物騒だからな」

 そんなことを隼人が考えていると、後ろから灯が声をかけてきた。

「じゃあロッカーチェックしちゃおうか」

 よくよく思い起こしてみれば、彼女も生活委員だったな。隼人はバッグを机に下ろして気合を入れた。

「やるか!」

 そうは言ったものの、先生の言うようにロッカーに変なものや面白いものが入っているはずもなく、作業は大変つまらないものだった。これほどつまらないのは久しぶりだ。どれくらいつまらないかといえば拾った分厚い財布の中身が全部レシートだったくらいつまらない。

 隼人が1つずつ丁寧にチェックをしていると、灯が仕事もせずに窓の外を見ていた。

「七ツ星どうしたの?」

「うわぁ! 今日は空が紫色だ」

 灯がそう言うので、隼人も空を見た。夕日であまりみないくらい綺麗に紫になっている。雲の動きは時を忘れさせるものだ。

 二人で少し空を眺める。あぁ、幸せだなぁ。灯は思った。好きな人とこうして、他愛もない話をして笑えるなんて、素敵だ。きっと彼女は老夫婦が縁側でほのぼのするのを今の自分らと重ねあわせたのだろう。

晩年の夫婦で仲がいいというのはすごく幸せそうで魅力的なものだ。灯はおばあちゃんっ子で、祖父母はすごく仲が良かった。あんなふうになりたいなぁという考えは自然なものだろう。

「確かに綺麗だなぁ」

「太陽が沈んでるからあっちは南だよね」

「……七ツ星。西だ。西」

 灯は苗字を呼ばれ、いつになれば名前で読んでくれるようになるのか考える。っていうか西……恥ずかしい。きっと今日、灯は枕に顔をうずめて「失敗したよぉ」とかずっと考えることになるだろう。そして隼人と憧れの老夫婦になった頃には笑い話になるだろう。……なれるかどうかは別だが。

「あのさぁ」

 いい雰囲気の魔法。とでも言うべきだろうか。ストーブの力で妙に温かい教室で、灯は勇気とともに口を開いた。「隼人君って、好きな人いる?」灯の口は、『は』まで来ていた。

その時、灯の後ろの白い細身の騎士を、黒く光る騎士が大剣で叩き潰した。


七ツ星 灯 60

 VS 

笹西 公花 70


「おーい! 二人共遅いわよ」

 呆れ顔で公花は教室の扉を開けた。なんてタイミングが悪いのだろう。黒い騎士は白い騎士が動けなくなるのを見届けると、公花の後ろに戻っていった。

「……はっ」

 『は』とだけ言って、灯は教室から荷物を持って走っていった。なんだか居られる自信がなかった。何かしでかしてしまいそうだった。覚悟が打ち砕かれたショックと、気恥ずかしさ。灯は重い心を引きずって昇降口までを走り抜けた。

 隼人はそんな後ろ姿を見て、追いかけようとしたが、灯の気持ちまでくんでやることは出来なかった。どうしたんだろう。そんなことばかり考えていた。よくよくダメな男である。しかし、それに理由がないわけではないのだ。

……つまり、鈍感なよくある恋愛話の主人公は、淡い恋心は平気で無視する奴だった。悪気はない。ただ、時にはそれは人に小さな、それでいて深い傷をつける。

「失敗しちゃったなぁ」

 宵闇に迫りつつある空を見て、灯は家路をたどった。灯の後ろには、敗北した騎士が、傷ついた体でよろよろと歩く姿があった。それは見える人間にとっては、恐らく不気味だろう。問題は見えない事。それだけである。

 その後、隼人の方はというと、公花を待っていた。隣同士の家なので、登下校は仕方なく。というのが公花の主張だが、どう考えても別々でもいい。まずそんな提案をしてくる事自体一般的な男子だったら驚くだろう。

……しかし、隼人の感想は「まぁ、いいか」という無味乾燥なものだった。これは見てる方も、言った公花も面白く無い。やはり主人公は贅沢者だ。割とわかりやすいアピールのはずなのに、気付く事は最近面白そうなゲームが出たとか、今あの漫画が流行ってるらしいとかそういうことばかりだ。

「アイツもなんか用あるって言ってたけど……遅いな」

 隼人は昇降口の前でずっと立っていた。もう人は1人としていない。外は既に暗くなってきている。この時間の空は何となく物悲しい。昼の輝く太陽が終わっていくような……。隼人はボーっとそんなことを考えていた。



「あっ。隼人先輩じゃないですか」




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