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星使い ティンクル・ライツ ~願いは流星とともに~  作者: 想兼 ヒロ
願いは流星とともに

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プロローグ

 夜空に一筋の軌跡(キセキ)が走る。


 それは刹那の閃き。どこへ行くのだろうか、と少年が見ている間に消えてしまった。その行く先に思いを馳せながら、少年は呟く。


「流れ星」

 足を止めて、しばし星が去った方向を見つめている。再び現れることはなくとも、一瞬で消えてしまっても、意外と心には残っているんだなと少年は流星を夜空に思い描いた。


 流れ星を見たのはいつ以来だろう。最近見たような気もするし、ずいぶん長いこと出会っていなかったかもしれない。

 しかし、思い出そうとしても記憶は曖昧(あいまい)だ。それだけ空を見上げる余裕がなかったのか、と少年は息を吐く。


 少年が、もっともっと小さかった頃。彼はいつ星が降ってきても良いように、窓から星空を眺めていた。それこそ、毎日のように。

 今思い出すと、何故そこまで情熱を傾けられたのか少年にも分からない。幼い自分の想いを理解して上げることもできない。いつからだろう、気づいたときには流星を渇望(かつぼう)する気持ちはどこかに消えてしまっていた。


 どうしてだろうか、と生まれた疑問にはすぐ答えが返ってくる。


「叶わなかったからだろうな」

 だから、いつしか、流星を見つけようともしなくなったのだ。

 

 『流れ星に三回願い事をすると願いが叶う』、そんな話を最初に聞いたのはいつの頃だったろうか。もしかしたら、と幼少の少年は思った。純粋な心に従って、願いを叶えなければと星空に祈った。


 何度も失敗した。ただ三回唱える、それだけのことを。なぜ、こんなにも難しいのかと少年は苛立った。

 できない、となると意地になる。これだけ実行が難しいのなら、この呪いは本物かもしれない。きっと、やり()げれば願い事を叶えてくれるのだろう。何としてでも達成してやる。


 失敗して、失敗して、失敗して。あぁ、あとちょっとだった、次はいけるぞ。

 それでも、また、失敗して。


 ようやくうまく言えたときの達成感といったら、どうだろう。もう、何もかもが自分の思い通りになってくれる。そんな錯覚を、少年は覚えていた頃を思い出していた。


「いやいや。それは目的は変わってるって」


 当時の自分に対して、少年は苦笑いを浮かべる。そこまでして叶えたかった願い。それが確かにあったはずなのだ。

 ようやく願い事を言うことができたその瞬間。言えた、という事実から生まれた達成感で薄れてしまった。すっかり忘れていた。


「でも、さ」


 結局、それだけ必死になって願った願い事は今になっても叶ってはいない。


 願うだけ願って、あとは何もしないのなら、そんな人間は神様も見放すだろう。さすがのお星様だって、自分にだけ頼るのは理不尽だって思うに決まっている。叶わないのは当然だ。

 あくまでも、神様が本当にいたとして、彼が力を貸してくれるのは努力した人間だけなのだ。母がそんなことを言って(いまし)めてきたことを思い出す。


「いや、努力って」


 それでも、だ。


 自分では努力の仕方すら分からない、どうすることもできない願いだったからこそ、星にそれを託したのだ。幼いながらに色々と考えて、一番何とかしてくれそうだったのが流星だった。

 結局は他力本願なのは変わりが無い。それでも必死だった。何とかして願いを叶えたかった。方法は幼稚だとしても、その熱意は本物だった。


 今は、ずいぶんとその熱は冷めてしまっている。大人になった、と言えば聞こえは良いが自覚すると寂しさを感じてしまう。

 

「まぁ、でも、それでも諦めきれないんだから」

 僕はまだまだ子供なんだと少年は自嘲(じちょう)する。そして、再び視線を下げて歩き出した。


 一つ夢を諦める度に大人になっていく。


 どこで聞いた言葉だ。言い得て妙だとは思うが、少年は納得したくない。夢は、諦めきれないからこそ夢なのだ。たとえ、もう無理だと片付けてしまったとしても、きっと心の片隅には残ってしまう。

 それに、だ。人間一人に一つぐらいは、叶うまで足掻いたって良い夢があるはずだ。


 誰かに話せば、馬鹿にされたり呆れられたり。誰にも信じてもらえない。いつしか、口に出すことすら止めてしまった。たぶん、もう叶うことはないと覚悟している部分もある。

 きっと、二度と……。この先を少年は言いたくない。諦める、なんてことはやっぱりできそうにない。


 そんな少年の夢。


「確かに会ったんだ、僕は」

 自分に確かめるように発した言葉は、細く弱いものだった。

「だから、もう一度会える」

 しかし、確実にその言葉は、気を緩めると弱ってしまう彼の心に染み渡っていく。まだまだ諦めることはない、と勇気を生んでくれる。


 そんな彼を、夜空に輝く無数の星々は、ただ静かに見つめているのだった。



 かつて、世界は幻想と共にあった。


 ある者は神の啓示(けいじ)を受け、見目麗しい荘厳な文明を築いた。ある者は美しき妖精に心を奪われ、その思いを(うた)(つづ)った。そして、ある者は悪魔の(ささや)きに傾倒し、その身を、その心を悪徳に(つい)やしてしまった。


 しかし、悠久の時は幻想を人々の心から奪っていった。残っているのは『彼等』を(うた)う、おとぎ話だけ。『彼等』の存在は、今を生きる人にはただの空想になってしまった事象。

 

 それでも、『彼等』はここにいた。確かに、存在していた。まやかしの存在ではなかった。


 そして、今もここにいる。幻想を失った我々には見えないだけで。


 『彼等』は今も、貴方(あなた)の側にいるのだ。

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