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インド洋海戦

「そうか、残念だがいたし方あるまい、引き続き針路はこのままだ」

遅かったかと心の中でつぶやく、

世界最大の巡洋戦艦を目の前にして、

泊地で全艦隊の全力出撃が栗田中将により言い渡された、


もちろん、インド洋のマダガスカル海域近くにおいて粟谷とは別働での船団襲撃をしていた水上機母艦と旧式巡洋艦も呼び戻された、

もっともこの巡洋艦たちを巡洋艦といってもいいのかどうかは謎であり、日露を戦い抜いた老兵であったことは間違いなかった、


ここに、対英艦隊包囲網が完成した、

泊地より全力出撃した艦隊はまずは三つの戦隊に分かれた、

戦艦と重巡洋艦を主力とした突撃部隊、軽巡洋艦木曽を旗艦とし、重雷装艦北上大井、以下四個駆逐隊を主軸とした水雷戦隊、もっとも木曽は北上と大井の護衛のために中心線上の主砲は全て連装に改装されておりカタパルトと水上機も搭載されていた、さらに北側には巡洋艦を主軸とした高速戦隊が居た、この高速戦隊には夕張も混じっており、いささか不安要素であった、不安要素といえばこれほどまでに不安要素を抱えたままでその場仕上げの大雑把な作戦で行われた海戦はあったのだろうか、


とにもかくにもここで英国が誇るインコンパラブルを食い止めなければ泊地が危ないのは目に見えていた、

実際イギリスもその気であり、あわよくばインド洋の制海権を取り戻したかったのだ、

状況が錯綜する中、双方の艦隊が双方の空母の撤退を確認、ここに、前代未聞の艦隊決戦が生まれた、


すでに包囲網は出来上がっているものの南東に位置する日進の率いる通商破壊艦隊はそのもてる速力をつぎ込み全速で北西に進路をとっていた、

しかし旧式の巡洋艦たちにとって見れば地獄の時間なのだ、

酷使した船体が軋みを上げ、ボイラーはいつ燃え尽きるか分からず、主砲の装填はほぼ手動に等しいのだ、

装甲も頼りにならない、こんな状況でも荒れもようのインド洋を白波立てて突き進む、


南からの突入を担当する木曽率いる水雷戦隊は波に遊ばれている状況であり、少々の遅れをとっていた、

元々小さい駆逐艦、魚雷の重量がある北上大井、武装強化でバランスが怪しくなっている木曽、

どれも晴天ならまともだが今は時化が襲い掛かってくる、

艦橋にも波飛沫がかかっており、決して気の休める環境でもないのだ、

それでもみんな必死に艦橋にかじりついていた、


北からの突入を敢行する高速戦隊は夕張がやはり気になっていた、

その小さな船体はやはり波の影響をもろに受けており上下左右に揺れていた、

夕張を帰らせる意見も出たが頑として夕張が譲らなかったためこの意見は通らなかった、

それでも足を引っ張っているほどで無いにしろ全員が不安になっていた、

重大な作戦の前では誰もが不安になる、


戦艦土佐率いる戦艦部隊は合計三隻、扶桑と山城である、

主に通信設備を買われて配備されていたがどちらかというと厄介払いみたいなものだった、

伊勢型が本土待機なのに対してまるでダメダメな性能の扶桑型がここに派遣されたわけである、

戦艦土佐も新鋭艦ながらも度重なる不運と事故でここに配属となった、

従えている巡洋艦は古鷹型や青葉型といった旧式でここにも不安要素があった、


このため、これを補うためにさらに南のまだ天候の影響が無い海域に軽空母龍驤と数隻の護衛のための駆逐艦が展開していた、

流石にあの空母を嵐の中に突っ込むことはしなかったようだがどちらにしろ空はオレンジから闇に支配されつつある、

よするに飛んでいって攻撃して帰ってくると夜間着艦をしなければならないのだ、


「あちらの乗員には申し訳ないがここはぜひとも航空魚雷で相手方の損害を拡大してもらいたいが、」

「もっともです、しかも彼らは夜間攻撃のプロです、こちらの水偵が照明弾をかかえたまま敵艦隊に接触し続けていますし、攻撃隊到着とともに照明弾を落とすでしょう、心配は要りません」

「しかし戦艦というのは機銃の山だ、うかつには近づけないし今回の攻撃機は九七式二号だ、どちらにしろ損害は出るのを覚悟したほうがいい、戦果もあまり過剰期待はかけないほうがいいだろう」


周りの参謀からこいつ今さらっと雷撃隊の技量バカにしただろという目線を向けられるも、

咳払いひとつして「すまんかった、他には無いか?」とその場を仕切り直した、

もっとも、もう議論は先ほどので終わっておりもう何も無いのだ、

このぎすぎすした緊張感が接敵まで続くのかと一部の者は脂汗をかくしかなく、

ただひたすら荒波で揺れる土佐艦上でその時を待っていた、


この時、英艦隊まで実に、

接触まであと二時間だった、

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