たった二隻の機動部隊 編!!
いよいよこの海戦もクライマックスを迎え始めていた、
インコンパラブル率いるイギリスの機動部隊は確実に迫っていた、
風向きは南西から、
モルディブ諸島を使いまきにかかるが、
相手も偵察機でこちらを見張っていた、
ブラックバーン スクア、
イギリスが開発した単発レシプロ複座艦上急降下爆撃機である、
爆撃機のくせに戦闘機寄りの設計がなされているが、
気にしないであげよう、よくこの機体を戦闘機と勘違いする人がいるが、
爆撃機としてはむしろ制空任務にもよく活躍したと評するべきである、
その機体が、
上空に張り付いているのだ、
イギリスの機動部隊との距離は400、
イギリス航空機の航続力ぎりぎり圏内であるのだ、
スクアの航続力が1.223 km
ソードフィッシュが880 km
そして、シーファイア艦上戦闘機が1,577 km
スピットファイヤの艦上機改修を施したのがこのシーファイヤである、
スピットファイヤはかなりの有名な機体ですので、説明を端折らせて頂きます、
ちなみに先度、艦隊の上空でシーファイヤと二式が格闘戦をやり見事にぎりぎりで撃退した、
着艦した機体の損傷は半端なく、現在に至っても応急修理すら済んでないのだ、
整備兵長が言うには資材と部品を補給しないと完璧には治せないとのこと、
「...」
艦橋でひたすら報告書を覗き込む粟谷はその眉毛を眉間に寄せた、
「...そろそろ作者のネタが切れたか......。」
ウッセェ、黙ってろ(汗)
「...敵艦隊との距離は......」
「605 kmです、」
「結構撒いたな、」
「かなり撒けました」
「...整備兵長呼んできてくれないか...?」
「何を、なさる気なんですか?」
「...敵空母の飛行甲板を、潰してくる、」
艦橋に、
鉛筆が転がる音が聞こえた、
そこには、整備兵長が立っていた、
手から力が抜けたであろうか、レンチもその場に落とした、
「チー(やめろ、もう危険な真似はするな)」
「大丈夫です、今回は、あなたの部下たちに迷惑はかけません、」
「チー(死に急ぐな)」
「...名誉の戦死です、」
「チー(いつからそんな考え方になった)」
「妹のためです、一生幸せに暮らせると、」
「チー(お前のお父さんはそんな事を願っていない!)」
「輜重兵としての父を、確かに誇りに思います、しかし、今ここでは関係ない!」
「チー(死なばもろともよ)」
次の瞬間、
整備兵長は腰からピストルを抜いた、
九四式拳銃だ、
取り扱いが慣れていないと暴発を起こしかねない危険な銃である、
「...殺すんですか、」
「...」
「...安全装置、解除してませんよ、」
「...」
ゆっくりと、
その拳銃をおろすと、
整備兵長は艦橋から出て行った、
「いいんですか!追いかけなくて!!」
「彼には、彼の考え方があるさ、」
「...どうしても、行かれるのですか」
「ほかに、誰がやるというんだ、」
その目は、
悔しさが滲み出ていた、
「(泣いている...)」
千葉はすぐに気づいた、
粟谷の目がすこし潤んでいたということに、
「...怖いんですか?」
「あぁ、」
そういうと、
粟谷も艦橋を出て行った、
ポツリ、ポツリと雨が降りはじめた、
空は既に暗い蒼になっている、
まもなくこの海域も夜の闇に飲み込まれるであろう、
そこに突然のスコールである、
視界は、最悪と化しつつあった、
しかし、スコールがひとたび強まると、
全員が飛行甲板に駆け上がってくる、
全員そろってシャワーの時間である、
軍艦での水は大変貴重であるからだ、
「チー(石鹸忘れた!)」
「チー(イテ!足踏むな!)」
「チー(久しぶりだ~)」
「チー(誰だ!石鹸取ったやつ!?)」
「チー(コイツです!)」
「チー(え?...)」
飛行甲板での乱闘を粟谷はチラッと見てまた頭洗いに専念する、
しばらくすると整備兵長が上がってきたので乱闘は自然と終わりを告げた、
飛行甲板には空の上部をくりぬいたドラム缶が所狭しと並べてあった、
まるで、ドラム缶風呂が飛行甲板で大量発生している光景である、
たまったドラム缶から順番に艦内に持ち込まれ、また新たなドラム缶が並べられる、
大自然がくれたシャワーも浴び終わると、
粟谷は着替えて、艦橋に向かった、
艦橋の両サイドには張り出した三角状の見張り台がある、
航海と操艦を行うためだ、
そして、粟谷は見てしまった、
千葉大尉のはだかを、
(そろそろ説明するのめんどくさくなってきた...)
てなわけで、
その後粟谷が千葉にフルボッコにされたのをここで端折らせて頂く、
そして、粟谷は飛行服を着込み、飛行甲板に立っていた、
エレベーターで揚げられた機体は昼間の空中戦で損傷した機体だ、
計器類、武装すら取っ払い、その腹に二十五番爆弾が装備されていた、
幸いにも今回の敵空母は飛行甲板が装甲化されておらず、二十五番でも当たり所がよければ十分に対応できたのだ、
敵機動部隊との距離は600にまで迫っていた、
「...行ってくる、」
「いまさら何を...」
ちょっとキレ気味の千葉はおいておこう、
「指揮権を、任せたぞ」
「...わかりました、」
雨の中、
ずぶ濡れになりながらカタパルトに載せられた機体に粟谷は乗り込んだ、
まもなくして、
機体は打ち出された、
零式三座水偵に案内されて南西の闇と雨に消えて行った、
『我、突入ス』




