たった二隻の機動部隊 編!!
1946年、7月かな?
だって夏だもん、
そうやって、
雑役少佐こと、粟谷が呟いていた、
実際は8月だ、
無精髭を生やした粟谷は珍しく立ち食い蕎麦屋におり、
涼を楽しんでいた、
もちろん、妹の彩音の為に沢庵しか注文していない、
灼熱が呉の木造住宅や鉄筋コンクリート建造物の並ぶ町並みを包み込み、支配する、
実際、ケニアなどの人達も日本の夏は過ごしにくいと言った程の高温多湿環境だ、
陽炎で揺らぐ呉の町並みの中、
粟谷は無精髭をさすりながら考え事をする、
「前回の特務艇から一ヶ月経っているよな、何にも催促が無いって事は、用済みだからかな?」
赤レンガ倉庫の影、
裏路地のひんやりとした涼しさが肌には嬉しかった、
呉軍港の自分の個室に戻り、廃材から作った手製の執務机に座る、
あっちこっちが海水の影響で削れており、
木目が浮き出し凸凹した表面を手で撫でた、
執務の時は下敷きをひく、そうでもしないと凸凹に鉛筆を当ててしまい、汚く見えるからだ、
丁度その時、
部屋の扉がノックされた、
また図書室の整理かな?と思いながら返事をする、
「どうぞー、また図書室の整理ですか?」
そう言って椅子を回転させ、
扉の方を向く、
入って来たのは明らかに異性である、
最初は妹の彩音かと思ったが、
黒くて艶のある長髪が帽子から姿を見せていた、
ーおかしい、彩音は後ろに一本に纏めている筈、
脳裏には彩音の弓道の試合の時の姿が浮かぶ、
ちなみに彩音は地区大会優勝、県大会新人賞の成績を持つ、
「はじめまして、貴方が、粟谷少佐ですか?」
「は、はい、貴女は、どちら様ですか?」
「申し遅れました、本日より貴官の参謀を務める、千葉香織です、」
「さ、参謀!?」
「そうです、知らないんですか?インド洋での貴方の奮戦と敵空母撃破の戦績が上層部で評価されまして、貴方に機動部隊が与えられたのですよ?」
「き、機動部隊!?初耳なんだが………。」
「そして、私が機動部隊の司令官たる貴方の補佐をします参謀、と言う訳です、」
説明が終わった頃には粟谷は既に放心状態になっていた、
何しろ機動部隊である、
小沢提督率いる雲竜型航空母艦の第二航空艦隊は既に初戦から活躍する南雲提督の第一航空艦隊を引き離しに掛かっている程に戦績を伸ばしつつある、
アウトレイジ戦法がこの事を可能にしているのだ、
間もなく大鳳型航空母艦を基軸とする第三航空艦隊が編成寸前であり、
もしかしたら!と言う事もありえなくはない、(実際は第一航空艦隊の山口多聞か、角田覚治か、で軍令部や聯合艦隊司令部が大喧嘩している)
そうやって色々説明され、
身支度し、早速配属先の機動部隊の元に向かう、
そして、最早ご恒例のこの一言、
「軍令部のドケチンボ!!」
「え、たったこれだけですか!?」
すまない、
ヒロインが追加されたので二言だった、
しかし搭載機が凄かった!
かつてスターリンは命令した、
空冷エンジン機を作れと、
それに答えたラヴォーチキン設計局がLa-5を開発した、
しかし、スターリンはまた命令した、
空冷エンジン機はやっぱりいらん、世の中は水冷エンジン機だ!
と、(ワガママで困るね、)
性能自体は良くないものではなかった、
特に低空での機動性能、操縦には敏感に反応し、
失速からの回復も容易で、低速でのループはもちろん、空戦マニューバの一つ、インメルマンターンもこなせた、
そして、復讐に燃えるラヴォーチキン設計局はこれを基にLa-7を開発した!
恐るべき執念!
そして、スターリンに直訴し、儚く散ったのであった。
しかし!ラヴォーチキン設計局は遂に爆発した!
なんとお隣の日本に売り込みにやって来たのだ!
流石は技術屋である、オソロシア…、
最初は軍令部も断っていたが、とうとう根負けし、ラヴォーチキン設計局舞鶴支社工場を建設、
La-7を二級品の戦闘機として二式局地戦闘機として嫌々採用された、
やったね!ラヴォーチキン設計局!!
そして、その二式局地戦闘機の唯一の派生が、二式艦上防空戦闘機だ、
ただし、低空や中空高度のみの運用の為に高高度に対応出来ないのが欠点だ、
おまけに敵国ソ連の戦闘機である、
搭乗員たちからは極端に嫌われていた、
そのあまり余った二式艦上防空戦闘機ともう一機種が、
作者が好きな九六式艦攻だ!
あのソードフィッシュ雷撃機と同期だ!
説明無用!
嫌われた戦闘機と忘れ去られた旧式艦攻をのせて、
空母『海鷹』と
水上機母艦兼給油艦の『速吸』は粟谷少佐指揮の元、
インド洋へと飛び出した!
物語は始まったばかりだ!!




