渡った異世界は敵ばかり。
世の中は不公平だと常々思ってきたが、世は世でも異世界は非常に不公平だ。
魔法やら剣やら槍やら弓やら、今僕に遅い来るそれらは、元小市民な僕など、赤子のてを捻るよりも容易く、息を吹けば飛んでいく埃のごとく、命をあの世へ飛ばせることだろう。 僕の誇りなど積もる暇もなし。 馬車馬もかくやな勢いで足を動かす、イメージ。 イメージだけ。 僕にはお馬さんほどの脚力はない。
そんな頼りない足でも動かさなければ死ぬのだ。理由はわからないが死ぬのだ。 必死に―――というと皮肉っぽくて面白い―――、足を動かす。
死山血河、死屍累々な戦場を抜け、森の奥へ、がむしゃらに。
主人公になど、なれそうもなかった。
◇◆◇◆
僕を一言で言えば『無関心』と言うことができるだろう。何にたいしても関心がわかない、と言うわけではないが、起伏が少なく、感情表現が出来ない人間だった。そんな人間でも、好きなことはあった。読書と音楽鑑賞(と言っても、聴いたのはロックやメタル)だ。 特に読書は読みきるまで止まらない人間で、読んでるときは、恥ずかしいことだが、その本の世界の人間になった気分になる。妄想の激しい人間だった。とは言え現実との区別はついていた。
昼休み、図書室の最奥、そこで本を読んでいたとき、不意に思考が乱れた。 思考の中に、もう一つの、何かの思考が割り込んできたような違和感。それは事実で、すぐに脳内で思考が主張する。
(おめでとうございます。貴方は異世界への移動が許可されました)
(はぁ? 異世界? ………あぁ、遂に思考回路までくるってしまったのか。残念すぎる………)
だが、それを事実とは受け止められなかった。たまたま読んでいた本がその系統で、無駄に廃スペックな脳が謎な進化を遂げたものだと思った。
(異世界へ渡るに辺り、貴方には特殊能力が付加されます。これは研磨し練磨することが可能です。あなたの希望を答えてください)
(はいはい、テンプレンプレ。そうゆうのは他のがやってくれるよ)
と言うか、そろそろ鬱陶しいぞ廃スペック残念思考。
だなんて、思った瞬間、ファンファーレが鳴り響き、漸く低スペックな脳で異常だと悟った。
(貴方の能力が決まりました。それでは、ご武運をお祈りします。―――神より)
「うそぉぉぉぉぉぉ!?」
◇◆◇◆
そんなこんなで、異世界へ落ちて、そこはたまたま戦場で、そんなところに落ちたら当然怪しまれるわけで、殺意満々な戦士だか獣だか解らない人間と、杖なんかで火とか出す魔法使いに追われている………と、回想して能力で何を願ったかを思い出そうとしたが、絶望度が増すだけだった。死にたい、いや生きる!!
だが運動部では無く、日頃運動せずに怠けた体ではすぐに追い付かれ、四方を囲まれ、絶体絶命。てかあんたらさっきまで敵だったくせに、何を肩並べて追い回すんだ!! 畜生、マゾゲー過ぎる……。
「■■■■■■!!■■■■■!?■■■■■、■■!!」
「あ? なにいってるかわかんねーよ僕は馬鹿なんだ!!」
「■■? ■■■■!? ■■■■■!!」
何だか筋骨隆々な戦士に激昂されたようで、鞘に収まった剣が僕の首を目掛けて走らされる。 あ、死ぬなと、思ったが、絶望的だからこそ、奇跡にかける。僕は諦めが悪いんだっ。
「誰かたっけてぇぇぇぇぇ!!」
そして、鮮血が舞った。