夏の登校
三題噺もどき―きゅうひゃくなな。
じりじりと日差しが照り付ける。
むき出しになった腕がヒリヒリと痛む。
吹き出す汗が肌をすべるのが分かる。
「……」
家から学校に行くまでの、数十分。
それだけなのにこんなに汗をかく。
自転車に乗っているから、多少風はあるけれど……おかげでスカートが捲れて鬱陶しくて仕方ない。
ただでさえ暑くて汗をかいて鬱陶しいのに、スカートまでも鬱陶しいので、もう学校に行くのが面倒くさい。
「……」
というかなぜ、夏休みに入っているはずなのに学校に行っているんだろうか。
まぁ、高校生になってもう3年経って慣れてはいるが、謎だよなぁ。
さすがにお盆の時期になれば休みになるが、それがあければまた学校だ。
夏休みとは、という感じだ。
「……」
家に居ても何もしないし。
あの子に会えるから。
いいんだけど。
「……」
しかしまぁ、暑いものは暑い。
なんというか、去年はこんなにではなかったと思うんだが。
記憶にないから分からない……でもこんなに暑い暑い毎日言っていなかったような気がする。
「……、」
目の前の信号が赤になる。
影を見つけて止まりたいところだが、そううまくいくモノでもない。
そもそもこの時間はこの道沿いに影はあまり出来ない。
「……」
キュ―とブレーキをかけ、信号が変わるのを待つ。
数秒前まで浴びていた風がなくなった途端、面白いくらいに汗が噴き出すのが分かる。
何かに刺されているのかと錯覚してしまうくらいに、腕が痛む。
「……」
ここの信号長いんだよなぁ。
前かごの中に入っているリュックを眺めながら、そんなことを思う。
夏休みに入ってからリュックだけの登校が許されているので、学生鞄は使っていない。
黒の大き目のリュックに、小さめのポーチがぶら下がっている。
「……」
中身は、あの子がくれた口紅だ。あまり派手な色ではない、オレンジっぽい色の。
一昨年の誕生日にくれたのだけど、使うこともないので、お守りみたいな感じでリュックにつけている。そのポーチも一緒にくれたのだ。
どうせ、つけないでしょって言いながら。
「……」
分かっているならなんで、と聞いたのだけど。
いいからいいからと、こうしてリュックにつけとけばいいからと、その時にあの子にしてもらってからそのままだ。
物持ちはいいのでリュックは変わっていない。
たまに気分でキーホルダーを付け替えたりするけれど、このポーチだけはそのままだ。
「……」
未だになぜくれたのか分からないんだが……ま、あの子がくれたものなら何でも嬉しいのでいいのだけど。修学旅行も一緒に行っているけれど、キーホルダーをくれたり、夏休みのお土産もくれたり、そういうモノは全部大事に取ってある。
小学生の頃の同級生にもらったものは、引っ越しの際に捨てたけれど。
「……、」
いつの間にか隣に立っていた人が動き出す。
視線をあげれば、信号が青に変わっていた。
暑すぎてぼうっとしているのか、気づかなかった。
「……」
さっさと学校に行って、涼まなくてはさすがに倒れてしまう。
きっと、あの子は送ってもらっているだろうから既についているかもしれないし。
時間があれば、教室に行ってみよう。
「……」
もう、とにもかくにも、暑すぎる。
こんな中で学校に自転車や徒歩で行くのなんて……どれだけ危ないか考えられないんだろうかあの教師陣は。本人たちは車だから分かるわけないか。
「……」
いいや。
もうさっさと学校に行こう。こんな考えている時間がもったいない。
お題:ポーチ・口紅・スカート




