⑦魔力調整――家族の朝
王都公爵館の朝。
お兄様達と僕は、ようやく魔力が落ち着いて、大好きな家族と一緒に暮らせるようになった陽光が差し込む中庭には、朝露が残り、風が柔らかく草花を揺らしていた・・・
「やだ!私は農民だ!!兄さんの後の公爵は息子のヴェルメールだ!!勉強やだー」
「・・・13歳に何を押し付けてる(溜息)毎日毎日同じ事言わせないでくれ、勉強ではなく政務だ!
領主の仕事はヴェルメールも一緒にしてくれている、子供の負担を親が軽減しろ!只得さえ今は近くに農地がないのだから遊んでいるなら働け」
父・コクベックは兄のスワロ公爵に引きずられるように政務へ向かい、母・マルタは引きずられる夫を笑いながら治癒師として神殿へ出勤していた。
残された兄弟たちは、久々にそろって中庭に集まり、魔力調整の成果を語り合っていた。
ヴェルメールの膝の上では、メデルがぐずぐずと身をよじっていた。
目は半分閉じていて、髪は寝癖でふわふわ。口元にはよだれの跡が少し残っている。
手にはお気に入りのぬいぐるみ「くましゃん」を握りしめていた。
「…ねむいでしゅ…でも…みんなの声が…うるさいでしゅ…」
「ごめんごめん、メデル。でも、今日はみんな元気なんだよ」
ヴェルメールが優しく言うと、メデルはむにゃむにゃと頷きながら、兄ヴェルメールの方へ手を伸ばした。
「ヴェルメールにいちゃま…きらきらしてるでしゅ…」
ヴェルメールは、メデルの手をそっと握りながら微笑んだ。
「お前のおかげだよ、メデル。魔力が安定して、体が軽くなった。剣の稽古も再開できそうだ」
「えっ!?稽古!?じゃあ、模擬戦しようよ!」
勢いよく飛び込んできたのは、騎士団見習いのエリザマール。
鎧の一部をつけたまま走ってきたせいで、床が少し軋んだ。
「エリザ姉さま、また装備つけっぱなしで走ってきたの?公爵家の床、割れるよ…」
ハクリスが呆れたように言う。
「だって!訓練中に“魔力調整が終わった”って聞いたら、じっとしてられないじゃん!」
「脳筋すぎる…」
ミディットレースがぼそっと呟く。
「うるさい!あたしは“行動力のある騎士”なの!」
「“考える前に突っ込む騎士”の間違いじゃ…」
ブランデットが小声で言うと、エリザマールが振り返った。
「ブラン!聞こえてるよ!でも、あんたが元気になってくれて、あたしは嬉しい!」
ブランデットは照れくさそうに笑った。
「…ありがとう、エリザ姉さま。ぼく、もう走れるようになったです」
「昨日、あたし、訓練場の壁ぶち抜いちゃってさ!教官に“力加減を覚えろ”って怒られたけど、メデルの魔力で体が軽くなって、つい全力で振っちゃった!」
「それ、騎士団の修繕費、また増えるやつじゃん…」
ハクリスがため息をついた。
その時、扉が開き、ココリスが元気に飛び込んできた。
「ただいまー!Dランクの依頼、無事クリア!魔獣の牙、ゲットしてきたよ!」
「えっ、また一人で行ったの?危なくなかった?」
ハクリスが心配そうに言う。
「うん、ひとりはちょっと寂しかったけど…メデルの魔力、持ってるから大丈夫だった!」
ココリスは胸元の小さな魔力石を見せた。
「でも…ハクがいないと、ちょっとつまんない。双子なのに、最近一緒に冒険できてないし…」
ハクリスは少し目を伏せて言った。
「ごめん…魔力調整で、ずっと神殿にいたから…でも、もうすぐ一緒に行けるよ」
「ほんと!?じゃあ、次の依頼は一緒に行こうね!」
ハクリスは慌てて言った。
「僕まだ冒険者登録してないからFからだよ!!」
「大丈夫!すぐすぐだよ!!合わせるし待ってる依頼は一緒に行こうね!」
メデルは、二人の間にふらふらと歩いてきて、ココリスの手を握った。
「ココにいちゃま…さみしいの、ちょっとだけでしゅ…でも、ハクにいちゃま、すぐ元気になるでしゅ…」
「メデル…ありがと。あんた、ほんとに不思議だねメデル(笑)」
ココリスはメデルを抱きしめながら、そっと涙を拭った。
――魔力調整の具体的手順
魔力調整は、神殿の特別室で行われた。
グラウスの指導のもと、兄弟たちは一人ずつ、以下の手順で調整を受けた。
魔力測定石による初期診断
各自の魔力の流れを視覚化し、滞りや過剰な箇所を確認。
ヴェルメールは肩と背中に魔力の滞り、ブランデットは肺周辺に過剰な白魔力が集中していた。
属性調整の儀式
個々の属性に応じた精霊石を用い、魔力の波長を整える。
ハクリスは黄魔法の精霊石に手をかざし、呼吸を整えながら魔力を流す訓練を受けた。
メデルの癒し魔力による共鳴補助
メデルが兄弟の手を握り、「ぎゅってするでしゅ」「あったかくするでしゅ」と語りかけることで、魔力が自然に共鳴。
この時、魔力の流れが精霊石と同調し、調整が加速した。
魔力循環の訓練
魔力を体内で循環させるイメージを持ち、呼吸と連動させる。
ミディットレースは「白い光が胸から背中へ流れる」イメージで、詠唱の安定を得た。
最終確認と安定化
再度魔力測定石で確認し、流れが均一になったことを確認。
グラウスは「これほど自然な調整は初めてだ」と驚きを隠さなかった。
その後、兄姉たちは輪になって座り、魔力調整の成果を語り合った。
「私、昨日は階段を一気に駆け上がれたんだ。前は息切れしてたのに」
「ぼくは、魔法の詠唱が途中で止まらなくなった。前は、声が震えてたのに」
「ブランは、走っても咳き込まなくなったよ。すごいよね」
「メデルの魔力って、ただの癒しじゃない。心まで整えてくれるんだ」
「昨日、メデルが“ぎゅってするでしゅ”って言ってくれてさ…なんか、胸のもやもやが消えたんだよね」
「ぼくも、“あったかくするでしゅ”って言われたら、体がぽかぽかして…眠れた」
その中で、デット(ブランデット)はふと目を閉じ、静かに耳を澄ませた。
《ブラン…みんな、元気になってよかったね》
(うん、カーロ。メデルのおかげだよ。君も感じてる?)
《もちろん。メデルの“ぎゅってするでしゅ”って、心に届くの。あったかくて、涙が出そうになる》
(僕も…メデルがいると、胸がぽかぽかする。君が僕の中にいるように、メデルはみんなの中にいるんだね)
デットはそっと呟いた。
「カーロも、嬉しいって言ってる。みんなが元気になって、心があったかくなったって」
ヴェルメールが微笑みながら言った。
「カーロ…君の言葉も、僕たちの力になってるよ。ありがとう」
エリザマールは、少し照れながらも言った。
「カーロ、あんたがブランの中にいてくれて、ほんとに良かった。あたし、あんたの分まで頑張るからね」
ココリスは、ブランデットの肩に手を置きながら言った。
「カーロ、次の冒険も見守っててね。あたし、もっと強くなるから」
ハクリスは静かに頷いた。
「カーロ…君の記憶が、僕たちの中に生きてる。だから、僕たちは前に進める」
メデルは、ブランデットの手を握りながらにこにこして言った。
「カーロお姉ちゃま、メデルもだいすきでしゅ。いっしょに“スー”ってするでしゅ」
その言葉に、ブランデットの胸元がふわりと光り、カーロの魂が優しく共鳴した。
メデルは、ヴェルメールの膝の上でうとうとしながら、ぽつりと呟いた。
「みんな…きらきらしてるでしゅ…おねむでも…うれしいでしゅ…」
その言葉に、兄弟たちは静かに笑った。
「メデル。お前は、俺たちの光だよ」
「うん。あたし、騎士団でも頑張るから、メデルに誇れる姉になる!」
「次の冒険、メデルの魔力を持って、もっと遠くまで行くよ!」
風がふわりと吹き抜け、中庭に柔らかな光が満ちた。
*** 土の小人たちの語り ―
王都の公爵館の庭
朝、兄弟たちが輪になって座る中、風がふわりと吹き抜け、土の香りが濃くなった。
その瞬間、足元の土がふくふくと盛り上がり、葉っぱ帽子を揺らした小人たちが現れた。
「坊ちゃま…そして、公爵家の皆様。我らが語る“命の言葉”をお聞きくだされ」
長老らしき小人が、杖代わりの小枝をつきながら前に出る。その声は小さくも、どこか深く響くものだった。
兄弟たちは静かに耳を傾け、メデルは小人の前にちょこんと座った。くましゃんを抱えたまま、目をきらきらと輝かせている。
「昔々、風と土がまだ若かった頃――
命は“言葉”によって生まれ、育まれておりました。
その言葉は、心の奥に宿る“響き”――それが、魔力の源でございます」
小人たちは、古代の言葉を口ずさむように語り始めた。その声は、風のささやきのように優しく、土の鼓動のように温かかった。
「“スー”は、流れ。“ぎゅ”は、結び。“ぽか”は、温もり。坊ちゃまが使う言葉は、古代の命の言葉に近いのです。それは、精霊たちがかつて子どもたちに教えた“心の魔法”」
メデルは目を丸くして言った。
「メデル、しってたでしゅか?…でも、なんで、みんなわすれちゃったでしゅか?」
小人は、静かに答えた。
「人々が、魔力を“力”として使うようになったからです。心の言葉は、記録には残らず、ただ“感じる”もの。坊ちゃまは、それを思い出させてくれたのです」
兄弟たちは、メデルの言葉を思い返しながら、胸に手を当てた。
「“ぎゅってするでしゅ”って言われた時、心がほどけた気がした」
「“あったかくするでしゅ”って言われたら、涙が出そうになった」
「“スー”って言葉が、魔力の流れを整えてくれた」
その時、ブランデットがそっと呟いた。
「カーロも…“スー”って言ってた。僕の中で、いつも優しく響いてる」
《ブラン…メデルの“スー”は、私たちの記憶を呼び起こしてくれる。それは、命の言葉。忘れられていた、でも確かにあったもの》
小人たちは、にこにこしながら言った。
「坊ちゃまは、“命の言葉”を使える者。我らは、それを守り、伝える者。これからも、坊ちゃまの“言葉”が、世界を癒していくでしょう」
メデルは、そっと手を胸に当てて言った。
「メデル、がんばるでしゅ。みんなの“スー”を、きれいにするでしゅ。“ぎゅ”ってして、“ぽか”ってして、みんなを笑顔にするでしゅ」
その言葉に、風が優しく吹き抜け、精霊石が淡く光った。土の小人たちは、葉っぱ帽子を揺らしながら、静かに頭を下げた。
「坊ちゃま…あなたの言葉は、命の記憶。それは、魔力の時代に忘れられた“心の魔法”の再来です...」
命の言葉と家族の絆に包まれていくそれは、魔力の時代に新たな“心の魔法”が芽吹く始まり・・・。
*** 魔力の変化 ―
神殿の庭。
朝、公爵家で起こった土の小人たちの語りを、グラウス様と伯父のコルベックに兄弟たちが伝えていた時――
メデルは、そっと立ち上がった。
風がふわりと吹き抜け、メデルの髪が揺れる。
胸元の紋章が、青白く、そして黄金色に淡く光り始めた。
「メデル…?」
ヴェルメールが声をかけると、メデルはゆっくりと振り返った。
「みんなの“スー”が…きれいになってきたでしゅ…でも、まだ…ちょっと、いたいところがあるでしゅ…」
メデルは、両手を広げた。
その掌から、これまでとは違う、七色の光がふわりと立ち上がった。
「これは…!」
グラウスが息を呑む。
「風しゃん…土しゃん…光しゃん…水しゃん…火しゃん…影しゃん…みんな、来てくれたでしゅ…」
その瞬間、空気が震えた。
神殿の精霊石が一斉に光り、空から柔らかな風が舞い降りる。
地面が優しく脈打ち、草花が揺れ、空に虹のような魔力の波が広がった。
兄弟たちは、思わず立ち上がり、メデルの周囲に集まった。
「メデル様の魔力が…変わってる。これは、属性を超えた…“精霊との共鳴”だ」
グラウスの声は震えていた。
ベルセルが静かに言った。
「これは…“言葉”が“魔法”になった瞬間だ。命の言葉が、精霊に届いたんだ」
コルベックは眼鏡を押し上げながら、深く頷いた。
「理論では説明できない。これは、心が世界と繋がった証だ」
メデルは、両手を胸に当てて、そっと呟いた。
「メデル…みんなの“スー”を、もっときれいにしたいでしゅ。“ぎゅ”ってして、“ぽか”ってして、“ひかり”にするでしゅ…」
その言葉に、精霊石がさらに強く輝き、空から七色の光が降り注いだ。
風の精霊が、葉のような羽を広げて舞い、土の精霊が、根のような光を地に伸ばす。
そして、メデルの魔力は――
癒しの力から、“精霊との契約”へと変化した。
それは、命の言葉が、世界の魔法として認められた瞬間。
メデルは、ただの“癒し手”ではなく、“調和者”としての第一歩を踏み出した。
兄弟たちは、静かにその光景を見守りながら、心の奥に温かな感情を抱いていた。
「メデル…お前は、僕たちの未来だ」
「うん。あたし、もっと強くなる。メデルの魔力に恥じない姉になる」
「次の冒険、メデルの魔力を持って、もっと遠くまで行くよ」
風が吹き、土が揺れ、光が満ちる。
それは、魔力の時代に新たな“心の魔法”が芽吹いた瞬間だった。
公爵館の朝――日課?
「やだ!私は農民だ!!兄さんの後の公爵は息子のヴェルメールだ!!勉強やだー!!」
父・コクベックが、寝間着のまま庭の隅に逃げ込もうとしていた。
「コクベック。逃げるな。政務の時間だ」
兄スワロ公爵が、冷静な口調で言いながら、片手でコクベックの襟を掴んでいた。
「兄さん!私は農民なんだってば!畑を耕したい!子供たちと土遊びしたい!政務なんて、ヴェルメールに任せればいいじゃないか!」
「…13歳に何を押し付けてる(溜息)。毎日毎日同じこと言わせないでくれ。勉強ではなく政務だ。領主の仕事はヴェルメールも一緒にしてくれている。子供の負担を親が軽減しろ」
「でも、私は子供たちと遊びたいんだよ!昨日なんて、メデルが“おとーしゃま、だっこでしゅ!”って言ってくれて…あれはもう、癒しの極みだったんだぞ!政務より大事だろ!?」
「その癒しの魔力は、メデルが持ってる。君はただの“甘えん坊の父親”だ!」
「ぐぅ…兄さん、冷たい…」
「冷たいのは君の政務報告書だ。昨日の提出分、空白が三割だったぞ」
「それは…メデルと鬼ごっこしてたから…」
「その“鬼ごっこ”のせいで、領地の農地再編計画が一日遅れた。只得さえ今は近くに農地がないのだから、遊んでいるなら働け」
「働いてるよ!昨日は、土の小人たちと一緒に畑の夢を見たんだ!あれはもう、農業の神託だった!」
「夢ではなく、現実を見ろ。さあ、行くぞ。政務室が君を待っている」
「いやだー!メデルー!助けてくれー!」
「おとーしゃま、がんばるでしゅー!」
メデルがくましゃんを抱えながら、ふらふらと手を振る。
「メデル…お前まで…!」
母・マルタがその様子を見ながら、神殿へ向かう準備を整えていた。
「あなた、子供たちの前でみっともないですよ。お兄様、毎日ありがとうございます(笑)」
「いえ、昔から慣れていますので大丈夫ですよ(笑)」
スワロ公爵はお母様に和かに答えながら、コクベックを片手で引きずって政務室へと向かった。
その後ろ姿を見ながら、兄姉達は笑いをこらえきれずに吹き出した。(笑)x7
「お父様、今日も元気だね」
「うん、でもあれ、政務逃げれないよね…?(笑)」
「でも、メデルの“がんばるでしゅー”で、ちょっとだけやる気出てたよね」
「うん。メデルの魔力、すごいね。父まで動かすんだもん」
風がふわりと吹き抜け、朝の光が中庭を包み込んだ。
公爵家の朝は、今日もにぎやかで、愛に満ちていた。




