66旅―冒険者(アルセルフ国)46
夜が明け、城の結界に淡い光が差し込む。
広間の空気はまだ虹光の余韻を残し、精霊たちの歌声が遠くで微かに響いていた。
ブランデットは胸の奥で翠龍の言葉を繰り返しながら、王家三人の前に歩み出る。
その足取りは小さいが、使命の重みを背負っていた。
アルセルフ国王は深い瞳で少年を見つめ、アルディス王太子とミルフェン王子も息を呑んでいる。
ブランデットは一度深呼吸し、震える声を押し殺して告げた。
「昨日お伝えした通り早朝に時間をいただきありがとうございます。……翠龍様からの言葉です。今日、明朝…今から城の結界にて、アルセルフの王家三人で魔力を流してください。その光は、未来を守る盾となります。」
広間に静寂が落ちた。
アルディスは眉をひそめ、低く呟く。
「……結界に、我らの魔力を……?」
ミルフェンは驚きに目を見開き、唇を震わせる。
「僕たちが……未来を守る……?」
アルセルフ国王はゆっくりと立ち上がり、少年の瞳を見つめた。
「翠龍の言葉……重いな。しかし、我らが果たすべき理だ。」
その声は深く、広間に響いた。
精霊たちが舞い降り、虹光の粒子が再び空気を満たす。
その中で、ブランデットは胸の奥で静かに誓った。
(僕も……守るんだ。メデルが繋いだ理を、僕も……。)
遠くでフーマは控える。
…ブランデット頑張れ!坊主ならできる。
アルセルフ国王は深く頷き、静かに言った。
「……結界へ向かおう。我らの理を流し、未来を守る。」
その声は広間に重く響き、アルディスとミルフェンも真剣な眼差しで頷いた。
ブランデットは胸の奥で翠龍の言葉を繰り返す。
(理を結び、命を紡ぐ……僕も、この光を繋ぐんだ。)
精霊たちが舞い、虹光の粒子が結界への道を示すように広間を満たす。
遠くで翠龍の声が再び響いた。
『……砂漠は還る。光は盾となり、闇を退ける。』
その言葉に、誰もが未来の重みを感じていた。
城の奥深く、結界の間。
古代の紋章が刻まれた石壁が静かに光を帯び、精霊たちの歌声が遠くで響いていた。
虹光の粒子が空気を満たし、まるで夜明けの星々が降り注ぐようだった。
アルセルフ国王が一歩前に進む。
その背に、アルディス王太子とミルフェン王子が続く。
三人の瞳には決意の光が宿り、広間の空気が緊張に震えた。
ブランデットは胸の奥で翠龍の言葉を繰り返す。
(理を結び、命を紡ぐ……この瞬間が、未来を守る盾になるんだ。)
翠龍の声が再び響く。
『……始めよ。理を流し、結界を満たせ。砂漠は還り、光は盾となる。』
王は両手を結界の紋章に重ね、深い息を吐いた。
その瞬間、淡い金光が指先から溢れ、紋章に染み込んでいく。
アルディスが続き、蒼の光が王の金光と重なり、結界に波紋を広げる。
最後にミルフェンが手を重ね、翠の光が加わった瞬間――
三つの光が絡み合い、虹光となって結界を包み込んだ。
精霊たちが一斉に舞い降り、歌声を重ねる。
『理を結び、命を紡ぐ。闇を溶かし、光を満たす。』
その調べは、結界の奥深くまで響き、古代の紋章が脈打つように輝いた。
ブランデットは息を呑む。
(……すごい……結界が……生きてるみたいだ……。)
虹光が広間を満たし、砂漠の幻影が淡く揺れ、緑の芽吹きが光の中に映し出される。
それは未来の予兆――翠龍の言葉が現実になり始めていた。
アルセルフ国王は低く呟く。
「……これが……理を流すということか……。」
アルディスは胸の奥で震える声を押し殺す。
(僕たちの魔力が……世界を変えている……。)
ミルフェンは唇を震わせ、虹光に包まれながら目を閉じた。
(未来を……守れるんだ……僕たちで……。)
結界が最後の光を吸い込み、静かに輝きを落ち着かせた。
その瞬間、翠龍の声が深く響く。
『……よくやった。理は結ばれ、命は紡がれた。光は盾となり、闇を退ける。』
広間に静寂が戻る。
だが、その静寂は希望に満ちていた。
ブランデットは胸の奥で静かに誓う。
(メデル……僕もやったよ。君が守った理を、僕も繋いだんだ。)
虹光の余韻が消える頃、精霊たちは静かに舞い上がり、未来への歌を残して去っていった。
結界が最後の光を吸い込み、静かに輝きを落ち着かせた。
虹光の余韻が広間に漂い、精霊たちは静かに舞い上がりながら未来への歌を残して去っていく。
その瞬間、アルセルフ国王が膝を折り、深い息を吐いた。
「……終わった……。」
だが、その重圧は王家三人の体に深く刻まれていた。
アルディスは肩で息をし、ミルフェンは足元がふらつく。
ブランデットも同じだった…使命を果たした安堵と、魔力の消耗で視界が霞む。
「……ブランデット……」アルディスが低く呼びかける。
少年は微笑もうとしたが、そのまま力を抜いて倒れ込んだ。
アルディスはすぐに抱き上げ、その小さな体を胸に抱きしめる。
(よくやった……小さな守り手……。)
同じ頃、ミルフェンも膝を折り、意識を手放した。
アルセルフ国王は迷わずその体を抱き上げ、腕に包む。
「……よく耐えたな……。」
広間の扉が静かに開き、銀毛の尾を揺らしたフーマが駆け寄る。
「ブランデット!」
アルディスは少年をそっとフーマに渡した。
「……頼む。彼を休ませてやってくれ。」
フーマは深く頷き、その腕にブランデットを抱きしめる。
「……よくやったな。お前は本当に……。」
虹光が静かに消え、広間には温かな静寂が満ちていた。
その静寂は、未来を守る者たちの絆を深く結びつけていた。
朝焼けの空に、城から立ち昇る一筋の光があった。
それは太陽の光ではない…虹色の輝きが空を裂き、無数の粒子となって風に乗り、国全域へと広がっていく。
城門の前で警備していた兵士たちは、槍を握る手を止め、空を仰いだ。
「……おい、見ろ……あれ……何だ……?」
「虹……いや、違う……精霊の光だ……。」
鎧に映る虹光が揺れ、彼らの瞳に驚きと畏敬が宿る。
一人が息を呑み、低く呟いた。
「……まるで、国全体が……祝福されてるみたいだ……。」
市場では、民たちが手にした籠を落とし、言葉を失っていた。
「見て……空が……歌ってる……。」
耳を澄ませば、遠くから精霊の歌声が届く。
『理を結び、命を紡ぐ。闇を溶かし、光を満たす。』
その調べは、風に乗って街路を抜け、家々の窓を震わせた。
やがて、癒しの波が国を包み込む。
病に伏していた者の頬に血色が戻り、枯れた木々が芽吹き、井戸に水音が響く。
老女が震える手で井戸を覗き込み、涙を零した。
「……水が……戻ってる……。」
子供たちが歓声を上げ、母親がその小さな体を抱きしめる。
「見て……芽が……生えてる……砂漠に……緑が……。」
遠い地平線で、乾いた砂が静かに崩れ、淡い緑の芽が顔を出していた。
兵士の一人が声を震わせる。
「……砂漠の方角……見ろ……!」
仲間が息を呑む。
「……本当に……還ってる……。」
砂漠の風が変わり、冷たい乾きが柔らかな湿り気に変わっていく。
その光景は、誰もが一生忘れない「奇跡」だった。
空には虹光が舞い、精霊たちが祝福の歌を重ねる。
その歌声は、国の隅々まで響き渡り、希望を告げていた。
結界の儀式から一日が過ぎた。
アルセルフ城の奥深く、柔らかな光が差し込む静かな部屋で、三人の小さな影が眠っていた。
メデル、ブランデット、そしてミルフェン…彼らはまる一日、深い眠りに包まれていた。
部屋に差し込む午後の光が、銀竜の鱗を淡く照らしていた。
その光は静かな湖面のように揺れ、眠る三人を守る盾となっていた。
メデルが先に目を覚まし、かすれた声で呟く。
「……のど……渇いた……」
ブランデットも続いて目を開け、深い息を吐いた。
「……お腹……すいた……」
二人の声に、銀竜が低く喉を鳴らし、まるで笑ったかのように見えた。
その時、ミルフェンが小さく身じろぎし、まぶたを震わせる。
虹光の余韻がまだ瞳に宿り、彼はかすれた声で呟いた。
「……僕……できた……?」
その声は、不安と希望が入り混じった小さな問いだった。
銀竜がゆるやかに翼を広げ、淡い光を彼の頬に落とす。
まるで答えるように、その光は優しく揺れた。
ブランデットが微笑み、弱々しく言葉を返す。
「……うん……ミルフェンも……ちゃんとやったよ……。」
メデルもにっこり笑い、手を伸ばす。
「寝ていた時に翠龍様が教えてくれたの!大丈夫砂漠は還ってるって……守ったんだよ……。」
ミルフェンの瞳に、安堵の涙がにじむ。
扉の外で、フーマの声が低く響く。
「……起きたか。水と食事を持ってこい。」
兵士たちが慌ただしく動き、銀竜は静かに目を開けた。
その瞳は、深い銀の湖のように澄み、三人を見つめていた。
銀竜は静かに頭を垂れ、その鱗が光を弾いた。
その光景は、言葉にならない誓い――「守った理と命を、これからも繋ぐ」という未来の約束だった。
兵士たちが慌ただしく動き、やがて香ばしい匂いが部屋に満ちた。
大きな皿に盛られたのは……砂蠍の丸焼き。
黄金色に焼き上げられた甲殻がパリパリと音を立て、熱気が漂う。
フーマが腕を組み、にやりと笑った。
「……祝いの食事だ。砂漠で獲った特大の砂蠍だぞ。」
メデルは目を丸くし、ブランデットは思わず声を漏らす。
「……えっ……これ、食べるの……?」
フーマが豪快に笑い、肉を裂いて皿に盛る。
「当たり前だ。砂漠が還った証だろう?」
メデルは恐る恐る一口かじり、目を輝かせた。
「……おいしい……!」
ブランデットも続き、頬を膨らませながら呟く。
「……うん……悪くない……。」
その様子に兵士たちが笑い、部屋に温かな空気が広がった。
ミルフェンはまだ少しぼんやりしていたが、皿を差し出されると小さく笑った。
「……僕も……食べる……。」
その声に、メデルがにっこり笑って言う。
「みんなで食べると、もっとおいしいね!」
ブランデットが肩をすくめ、苦笑する。
「……メデルは、どんな時でも楽しそうだな……。」
小さな笑いが、緊張を溶かしていく。
その時、光銀竜が静かに目を閉じ、心の声を響かせた。
『……守った理は、命を紡ぐ。幼き者たちよ、その笑いを忘れないで。光は盾となり、砂漠は還る。でも、闇はいつも遠くに潜む。次なる理を結ぶ時…絆が、世界を救う。』
その声は、誰にも聞こえないはずなのに、三人の胸に温かく届いた。
メデルは小さく呟く。
「……光銀竜様……ありがとう……。」
銀竜は静かに尾を揺らし、その鱗が淡い光を弾いた。
祝宴の賑わいが広間に満ちる中、ケルビスとルククはそっと席を抜け出した。
「……ねぇ、ルクク。お城って、どこまで広いんだろう?」
ケルビスが小声で囁くと、ルククは炎のように輝く瞳をきらりと光らせた。
「決まってるだろ!探検だよ、探検!」
二人は長い回廊を駆け抜け、巨大な柱の影に身を隠す。
壁には古代の紋章が刻まれ、天井には精霊を象ったステンドグラスが輝いていた。
「わぁ……ここ、すごい……。」
ケルビスが息を呑む。
「見ろよ、あの扉!絶対、秘密の部屋だ!」ルククが指差す。
扉を押すと、軋む音とともに小さな部屋が現れた。
中には古い地図と、精霊の羽根を閉じ込めたガラス瓶が並んでいる。
ケルビスは眉をひそめ、そっと瓶に触れた。
「……これ、精霊を閉じ込めてた……?」
ルククの炎が小さく揺れ、声が低くなる。
「……やっぱり、昔の人間って……怖いな。」
その時、背後で銀竜の影がゆらりと揺れた。
二人が振り返ると、光銀竜が静かに立っていた。
その瞳は深い湖のように澄み、心の声が響く。
『……過去を知り、未来を選べ。幼き者たちよ、理を閉ざすな。』
ケルビスは拳を握り、ルククは炎を強く灯した。
「……僕たち、守るよ。精霊も、みんなも。」
「当たり前だろ!次の冒険は、もっとでっかいぞ!」
二人の笑い声が、静かな回廊に響いた。
城の奥深く、ケルビスとルククはわくわくした顔で回廊を駆け抜けていた。
「なぁ、ケルビス!あの壁、ちょっと怪しくないか?」
ルククが炎のような瞳を輝かせ、古びた石壁を指差す。
「……確かに……紋章がずれてる……。」
二人は力を合わせて押すと、ゴゴゴ……と低い音が響き、隠し扉が開いた。
「やった!秘密の部屋だ!」
ルククが飛び込むと、ケルビスも後に続く。
だが、次の瞬間。
ガチャン!
床が沈み、二人の足元が崩れた。
「うわっ!?」
「ええええええっ!」
狭い通路に滑り落ち、埃が舞い上がる。
「……ここ、どこ……?」
ケルビスが声を震わせる。
「わからんけど……めっちゃ面白い!」
ルククは笑っているが、足元は不安定だ。
その時、遠くからメデルの声が響いた。
「ケルビス!?ルクク!?どこ行ったのー!」
ブランデットも息を切らしながら駆けてくる。
「まったく……何やってるの!」
二人は必死に声を上げる。
「ここだー!落ちたー!」
メデルが目を丸くし、ブランデットが呆れた顔でため息をつく。
「……隠し扉か……ほんとに君たちは……。」
ブランデットが魔力で床を固定し、メデルが小さな手を伸ばす。
「掴んで!引っ張るよ!」
ケルビスとルククは必死に手を伸ばし、ようやく引き上げられた。
埃まみれの二人を見て、メデルがぷっと吹き出す。
「……顔、真っ白だよ!」
ブランデットも苦笑しながら肩をすくめる。
「次からは……探検する前に、報告・連絡・相談が必要(笑)。」
その時、光銀竜が回廊の奥で静かに見守っていた。
心の声が、四人の胸に響く。
『……幼き者たちよ、好奇心は理を開く鍵。だが、無謀は闇を呼ぶ。絆を忘れず、共に進め。』
ルククが炎を揺らしながら笑う。
「……次はもっと面白いとこ探そうぜ!」
ケルビスは苦笑しつつ、メデルとブランデットに頭を下げた。
「……ありがとう。ほんとに……。」
その笑い声が、古い城の回廊に温かく響いた。
砂蠍の香ばしい匂いが広間に満ち、笑い声が響く中、貴族たちの一角だけは静かだった。
豪奢な衣をまとった彼らは、皿を前に手を止め、互いに視線を交わす。
「……あの光……精霊の歌……」
「我らが……閉じ込めていたものだ。」
低い声が重なり、沈黙が広がる。
一人の老貴族が深く息を吐き、震える手で杯を置いた。
「……力を求め、理を歪めた。我らの愚かさが、砂漠を生んだのだ。」
若い貴族が唇を噛み、目を伏せる。
「……精霊を封じ、結界を歪め……それがどれほどの罪だったか……今、思い知った。」
その時、銀竜が静かに目を開き、淡い光を放った。
心の声が、彼らの胸に響く。
『……理を閉ざす者よ、過ちを知り、未来を選べ。光は赦しを与えるが、再び闇を呼ぶなら、その理は砕ける。』
貴族たちは息を呑み、深く頭を垂れた。
「……二度と……精霊を縛らぬ。我らの誓いだ。」
その声は震えていたが、確かな決意を宿していた。
メデルがその様子を見て、小さく微笑む。
「…… が言ってたよ。『理を結ぶのは、心だ』って。」
その言葉に、広間の空気が静かに変わった。
笑いと祝福の中に、未来への誓いが芽吹いていた。




