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僕はメデル〜" "にはなりません〜  作者: はるかかなえ


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⑥風と土の癒し――希望

神殿の午後。

中庭には柔らかな陽光が差し込み、風が木々を揺らしていた。

メデルは、兄ハクリスの膝の上で丸くなって眠っていたが、ふわりと目を覚ました。

「ん…ぽかぽかでしゅ…」

メデルは目をこすりながら、兄たちの顔を見渡す。

「おはよう、メデル。いい夢見たか?」

ハクリスが微笑みながら声をかける。

「うん…風しゃんと土しゃんが、いっしょに歌ってたでしゅ。みんなの心が、きらきらしてたでしゅ…」

メデルは胸元の紋章に手を添えた。

その瞬間、紋章が淡く光り始めた。

風の紋章は青白く、土の紋章は黄金色に輝き、メデルの掌から柔らかな魔力が広がっていく。

「メデル…その魔力…」

レースが息を呑む。

魔力の波は、神殿の庭に咲く傷んだ花々へと届き、枯れかけていた花が次々と蘇っていく。

帝国仕える魔術師グラウス・エル・ヴァルドは、静かにその場に立ち尽くしていた。

彼の瞳は、メデルの掌から放たれる光を見つめながら、遠い記憶へと沈んでいった。


――回想:若き日のグラウス

かつて、グラウスも“希望”を信じていた。

若き魔術師として帝国に仕え始めた頃、彼は魔力を「人を救う力」として学び、夢を抱いていた。

「魔力は、命を守るためにある。僕は、癒しの魔法を極めたい」

そう語っていた彼に、師は静かに言った。

「理想は美しい。しかし、国家は理想だけでは動かない。魔力は、時に武器となる」

その言葉を境に、グラウスは“癒し”よりも“制御”を選んだ。

戦乱の時代、彼は数多の魔術師を育て、帝国の防衛に貢献した。

だが、その過程で、彼の心は少しずつ“命”から離れていった。

「魔力は、管理されるべきだ。感情に流されてはならない」

それが、彼の信念となった。


――現在:神殿の庭にて

だが今、目の前で――

幼いメデルが、誰に教えられるでもなく、自然と癒しの魔力を放っている。

その魔力は、理論では説明できない。

属性を超え、心に触れ、命を包み込む。

さらに、近くにいた神殿の侍者のひとりが、足を痛めていたのだが、メデルの魔力が触れると、彼の足元に光が集まり、痛みが消えていった。

「えっ…痛みが…消えた…」

侍者は驚きながら、何度も足を動かして確認した。

その時、魔術師団の長――グラウス・エル・ヴァルドが、静かに歩み寄った。

彼の顔には、先ほどまでの硬さはなく、深い思索の色が浮かんでいた。

「これは…癒しの魔力。しかも、属性を超えている…」

彼は呟きながら、メデルの魔力の波を見つめていた。

コルベックが静かに言った。

「グラウス殿。あなたは、魔力を“制御すべき力”と見ていた。だが、今のメデルの魔力は、誰かを“癒す”ために自然と流れている」

グラウスはしばらく沈黙した後、低く言った。

「私は…魔術師団の長として、魔力を“兵器”として扱うことに慣れすぎていた。

だが、彼の魔力は…“命”そのものだ。理論では説明できない。これは…“心”の力だ」

ベルセルが一歩前に出て、グラウスに向き直る。

「あなたがそう言ってくれるなら、帝国も変われる。

メデルの力は、誰かのものではなく、彼自身のものだ。それを守るのが、我々の役目だ」

メデルは、兄弟たちの方へ歩み寄り、ひとりひとりの手を取った。

「ヴェルメールにいちゃま…おつかれでしゅ。ちょっと、あったかくするでしゅ」

メデルが手を添えると、ヴェルメールの肩に光が集まり、彼の疲れがすっと抜けていく。

「…メデル。ありがとう。お前の魔力は、優しさそのものだな」

ヴェルメールは目を細めて微笑んだ。

「エリザ姉しゃま…心がちょっと、さみしかったでしゅ。ぎゅってするでしゅ」

メデルが抱きつくと、エリザマールの胸元に光が集まり、彼女は涙を浮かべながら微笑んだ。

「メデル…あなたは、私たちの光よ。あなたがいるだけで、心があったかくなる」

ハクリス、ココリス、ミディットレース、ブランデット――

兄弟たちは次々にメデルの癒しの魔力に触れ、心の奥にあった疲れや不安が、静かに溶けていった。

グラウスは、深く頭を下げた。

「公爵家の皆様、そして王太子殿下。魔術師団は、今後メデルの意思を尊重し、彼の成長を見守る立場に立ちます。

…私自身も、学び直す必要があるようです」

コルベックは静かに微笑んだ。

「それができる人こそ、真の魔術師です。理論を超えて、命に向き合える者こそが」

ベルセルは、優しく言った。

「彼は、僕たちの“未来”だ。誰にも縛られない、自由な命だ。…風と土の誓いは、彼に繋がっている・・・」

そして、神殿の庭には、風と土の魔力が優しく流れていた。

メデルの癒しの力は、兄弟たちの絆をさらに強く結び、魔術師団の心をも変えていった。

それは、幼き日の誓いが、世界を少しずつ変えていく始まりだった。


――師の誓い

神殿の夕暮れ。

空は茜色に染まり、風が静かに吹き抜ける中庭に、グラウス・エル=ヴァルドはひとり佇んでいた。

彼の手には、古びた魔術師団の記録書があった。

そこには、かつて彼が夢見た「癒しの魔法」の理論が、未完成のまま記されていた。

「…あの頃の私は、夢を語るだけの若者だった。

現実に押され、理想を捨てた。だが、メデルは…夢を現実にしている」

その時、足音が近づいた。

メデルが、兄ハクリスと手をつなぎながら、グラウスのもとへ歩いてきた。

「グラウスしゃん…おひとりでさみしいでしゅか?」

メデルが首を傾げて尋ねる。

グラウスは、少し驚いたように微笑んだ。

「いや…少し、昔のことを思い出していたんだ。君の魔力を見て、忘れていたものを思い出した」

ハクリスが静かに言った。

「メデルは、誰かの心に触れる力を持ってるんです。だから、僕たち兄弟も、彼に救われてる」

メデルは、グラウスの手をそっと握った。

「グラウスしゃん…いっしょに、おべんきょうするでしゅか?風しゃんと土しゃんのこと、もっと知りたいでしゅ」

その言葉に、グラウスの胸が熱くなった。

彼は、ゆっくりと膝をつき、メデルと目線を合わせた。

「メデル。君が望むなら、私は君の“師”になろう。

魔術師団の長としてではなく、ひとりの魔術師として。

君の魔力を、君自身の言葉で、君自身の心で育てていこう」

メデルはぱあっと笑顔になり、両手を広げた。

「やったー!グラウスしゃん、せんせいでしゅ!」

ハクリスも礼をとりながら言った。

「メデルにとって、あなたのような師がいてくれることは、何よりの支えになります。感謝致します。」

グラウスは、静かに頷いた。

「私も、彼から学ぶことがあるだろう。癒しとは、理論ではなく、心の在り方だ。

それを、君と一緒に探していきたい」

その夜、神殿の書庫では、グラウスとメデルが並んで古文書を開いていた。

風と土の魔法、癒しの術、精霊との対話――

メデルは目を輝かせながら、グラウスの言葉に耳を傾けていた。

そして、グラウスは心の中で静かに誓った。

「私は、もう一度“理想”を信じる。

この子と共に、癒しの魔法を未来へと繋げるために」

それは、かつて失われた夢が、再び芽吹く瞬間だった。



神殿の庭に、夕暮れの光が差し込む頃――

メデルが、兄たちと手をつないで歩いていると、足元の土がふわりと揺れた。

「…あれ?土しゃんが、くすぐってるでしゅ…?」

メデルがしゃがみ込むと、土の中から、ぽこぽこと小さな影が現れた。

それは、丸い体に葉っぱの帽子をかぶった、土の小人たち。

「メデルぼっちゃま…お久しぶりでございます…」

一番前に出てきた小人が、ちょこんと頭を下げた。

「わぁ!土の小人しゃん!夢じゃぁなくてほんとにいたでしゅか!?」

メデルはぱあっと笑顔になり、両手を広げた。

小人たちは、くすくす笑いながら、メデルの周りをくるくると回り始める。

「坊ちゃまの“スー”が、土を目覚めさせてくれました。時々出て坊ちゃまの”スー”が気持ちよくて

ベットの近くにいたのですがお気付きでしたか!!私たちは、最近までずっと眠っていたのです。人々が、土の声を忘れてしまったから…」


庭師が、遠くからその様子を見て、目を丸くした。

「こ、これは…昔、ひい爺さんから聞いた話に出てきた“土の小人”じゃぁ…!」

神官のひとりも、驚きながら呟いた。

「記録には残っていないが、神殿の古文書には“土の精霊の使い”として記されていた存在…」

メデルは、小人たちと手をつなぎながら、にこにこして言った。

「じゃあ、鬼ごっこするでしゅ!メデルが“おに”でしゅ!」

「ひゃー!坊ちゃまは速いですぞー!」

「逃げろー!葉っぱ帽子が飛んじゃうー!」

神殿の庭には、笑い声と土の香りが満ちていた。

風が優しく吹き抜け、木々が揺れ、精霊石が淡く光る。


土の小人たちの笑い声が響く中――

メデルは、くるくると回りながら叫んだ。

「みんなー!鬼ごっこするでしゅ!メデルが“おに”でしゅ!」

その声に、兄姉たちが顔を見合わせ、ふっと笑みを浮かべた。

「よし、メデルに捕まらないように逃げるぞ!」

ヴェルメールが剣を置き、軽やかに走り出す。

「待って!私も逃げる!」

エリザマールが赤いローブを翻しながら、笑顔で続く。

「メデル、こっちだよー!」

ココリスが木の陰に隠れながら、ひょっこり顔を出す。

「おにが来たぞー!」

ハクリスがミディットレースとブランデットを抱えて走り、三人で転がるように逃げていく。

メデルは、土の小人たちと一緒に、兄姉たちを追いかけながら、きらきらと笑っていた。

「まってー!みんな、はやいでしゅー!」

その時、庭の隅で見守っていた庭師の青年に、メデルが気づいた。

「おじいちゃんも、いっしょにするでしゅ!だっこしてくだしゃい!」

庭師は驚きながらも、優しく微笑んだ。

「坊ちゃま…私は足が悪く、走れません…」

「だいじょぶでしゅ!メデルがだっこされるでしゅ!それで“おに”するでしゅ!」

メデルは庭師の腕に飛び込むように抱きつき、にこにこしながら言った。

「おじいちゃま、いっしょに“スー”ってするでしゅ!」

庭師は、メデルをそっと抱き上げ、ゆっくりと歩きながら鬼ごっこに加わった。

その姿に、兄姉たちも笑いながら手を振った。

「おじちゃまが“おに”だー!逃げろー!」

「私が“おに”か…ふふ、こんなことは何十年ぶり…」

土の小人たちも、葉っぱ帽子を揺らしながら、庭師の足元をくるくると回る。

神殿の庭には、風と土と笑いが満ちていた。

兄姉たちの笑顔、庭師の優しさ、小人たちの遊び心――

それらすべてが、メデルの魔力に呼応して、ひとつの“癒しの輪”を描いていた。

ベルセルは、遠くからその光景を見つめながら、静かに言った。

「これが…命の魔法。誰かを癒す力は、こうして生まれるんだ」

コルベックは頷きながら、眼鏡の奥の瞳を細めた。

「記録には残らない。だが、心には残る。…それが、メデルの魔力だ」

そして、夕暮れの神殿の庭には、風と土と家族の絆が、優しく流れていた。


グラウスは、その光景を見つめながら、静かに言った。

「癒しとは、こういうことかもしれないな。命が笑い、土が応える。

魔力とは、命の遊びなのかもしれない」

ベルセルは、コルベックの隣で微笑みながら言った。

「風と土が、また一緒に笑ってる。…メデルが、世界を繋いでるんだ」

コルベックは頷きながら、眼鏡の奥の瞳を細めた。

「この記憶は、記録には残らないかもしれない。

でも、心には刻まれる。…それが、本当の“魔法”だ」

そして、神殿の庭には、風と土と笑いが満ちていた。

それは、忘れられていた存在たちが、再び世界と繋がる始まりだった。


メデルは、振り返りにこにこしながら言った。

「おじちゃま…みんなでいっしょにごはんたべるでしゅか?」

コルベックは頷きベルセルをみながらコルベックは笑って言った。

「もちろんだ。今日も、再会を祝う日だからな」

庭師の青年――癒しの気づき

その夜、庭師の青年は、いつものように家へと帰った。

彼は、メデルを抱っこして鬼ごっこに参加したことを、夢のように思い返していた。

「坊ちゃまは、ほんとに不思議な子だな…」

そう呟きながら、湯を沸かし、足をほぐそうとしたその瞬間――

「…あれ?」

青年は、ふと自分の足に違和感を覚えた。

違和感といっても、それは“痛みがない”という違和感だった。

彼は、ゆっくりと立ち上がり、何度か足を踏みしめてみた。

「…痛くない…?いや、そんなはずは…」

生まれつき足が曲がっていた彼は、常に違和感と痛みを抱えていた。

それが、今はまるで“普通”の足のように、まっすぐに地面を踏みしめている。

その時、家族が彼の様子に気づいた。

「あなた…!ちょっと待って…足…!」

「えっ…?」

家族が驚きの声を上げる。青年は、慌てて鏡の前に立ち、足を見た。

「…曲がってない…痛みが…消えてる…」

彼は何度も足を動かして確認した。屈伸も、歩行も、違和感がない。

「まさか…坊ちゃまの“スー”…?」

青年は、メデルを抱っこしていた時のことを思い出した。

あの時、彼の足元に柔らかな光が集まり、土の小人たちがくすぐるように足元を回っていた。

「…あれは、癒しの魔力だったのか…」

青年は、家族に静かに言った。

「このことは、明日神殿に伺うまで、誰にも言わないでくれ。」


神殿の朝。

庭師の青年は、まっすぐな足で、ゆっくりと神殿の門をくぐった。

青年は、神殿の庭にいた神官のもとへと歩み寄った。

その姿を見た神官たちは、驚きの声を上げた。

「トム…?君の足…!」

「まっすぐに…なっている…!」

メデルは、土の小人たちと遊んでいたが、青年の姿に気づくとぱあっと笑顔になった。

「おじちゃまー!また“おに”するでしゅか?」

青年は、そっと膝をつき、メデルの手を取った。

「坊ちゃま…昨日、あなたを抱っこしていた時、私の足に光が集まりました。

今朝、痛みが消えていて…足が、まっすぐになっていたんです。

これは、あなたの魔力のおかげです。…本当に、ありがとう」

メデルはにこにこしながら、青年の手をぎゅっと握った。

「“スー”が、がんばったでしゅ!おじちゃま、もう痛くないでしゅね!」

そのやり取りを見ていた神官たちは、静かに集まり、グラウス魔術師団長のもとへ報告した。

「団長…癒しの魔力が、身体の構造まで変えたようです。これは、記録にない現象です」

「メデル様の魔力は、心だけでなく、肉体にも作用している様です…」

グラウスは、深く頷いた。

「これは、魔力の新たな可能性だ。癒しとは、ただの回復ではない。命そのものに触れる力だ」

神官たちは、メデルの魔力に対する認識を改め、

「この子の魔力は、記録に残すべき“奇跡”だ」と口々に語った。

そして、神殿の記録係は、庭師の青年の足の変化を正式に記録し、

“調和者メデルによる癒しの奇跡”として、神殿の書に刻まれることとなった。

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